その永遠に終焉をっ! 〜その青年は、永遠の幻想を殺す者〜
エタってしまった全ての作品に捧ぐ。
カチリ、カチリ、とクリック音だけが部屋に木霊する。時間は深夜の23時50分。
明るい部屋に青年は一人パソコンの文字を目で追いながらブツブツと独り言をつぶやく。
「崩れぬはずの絶対の防壁を、黄金の剣が切り裂き亡者は断末魔を上げる……おぉ!」
青年が覗いているのは某小説のサイト。数万人が小説を投稿し、読者がそれを自由に閲覧し感想をつけることも出来るサイトだった。青年の知っている中では非常に文字が読みやすく。ユーザー登録さえしてしまえば、簡単にだれでも小説家のようになれるという謳い文句だった。
実際、そのサイトは非常に見やすく使いやすい。それが執筆者にも読み専と呼ばれる読者にも、両方に受けた結果が、数万点もの投稿作品と言う果実に結びつく。
そのサイトの名前は、「小説家のようになろう!」略して通称「なろう」である。
その、小説サイトなろうの中にあってはファンタジー作品が大人気を博している。
日刊、週刊、月間、年間、累計様々なランキングにより評価される中、過半数がファンタジーと言っても間違いではない。某巨大掲示板「なぜ2なのかCH」でも何百ものスレッドが並び立つ程に知名度があるそのサイトなろう。
青年はそのサイト「なろう」に2年も前からどっぷりと浸かっている。
数年前から社会に出て会社では、奴隷か何かのように働いている青年にとって精神的疲労回復のためのそのサイトは、砂漠の中のオアシスに等しい。無論精神的意味で、だが。
悲しいながらも、幸か不幸か交友関係は狭く仕事の多大なる人脈を除けば、恋人もなく家族とも離れて暮らしている青年には、一人になれる時間は比較的多かった。
その比較的多い時間を、読み専と呼ばれる読者側に立っていた青年は今一つの小説に夢中になっていた。
《ゴブリンの皇国物語》
現代人である一人の男が、今やファンタジーの定番となったゴブリンに憑依してしまい人間族と戦っていくと言うファンタジー小説である。いわゆる転生、人外モノ、成り上がりと呼ばれるような王道から少し外れた色物に近い。
小さなゴブリンの集落から始まり、魔物の森を統一、更にはヒロインを攫われ、人間族との戦いは激しさを増していく。そしてついに最終戦も間近、人間の王との直接対決に至った最新の更新を読み終わったところだった。
「なかなか、良いかな」
恐る恐るといった感じで青年は、お気に入り登録をし、ストーリーと文章の評価ポイントをつける。青年は作者に気を使うタイプの人間だった。画面の向こうには他人がいる、と言う最低限の礼節を忘れてはいけないと、社会に出て染み染みと感じる青年は、更新途中ということもあり作品には、次点の4対4の点数を入れる。
完結したら最高点を入れてようと心に決め、次の更新はいつだろうと作者のあとがきを確認し青年は、思わず疑問の声を上げる。
「あれ、これって……」
次回更新は、☓月○日に実施します。とあとがきに書いてはあるが、既にその日は遠く過ぎている。まさに一年前の今日だった。
「まさか……」
目次を表示し、画面を一番下までスクロールしていくと、そこにはでかでかと……。
《この小説は一年以上更新されていません》との表示がなされている。
「エターかよ……」
エター、無論ネットスラングである。永遠に更新されないから、エターナルという過程を経てエターという略称に落ち着いたこの現象は、このサイトを覗く者にとって切っても切れない落とし穴。まさしく魔の領域である。
様々な理由から作者は、小説の更新を諦める。家庭の事情であり、仕事の事情であり、自分自身の事情であったり。無論作者も無料で小説を書いているのであり、必ず更新せねばならないという理由などはないのだ。結論として、飽きたからやめる、というのでも一向にかまわない。
「この作者……あぁ、マジかぁ」
作者の活動報告を覗いて、再び青年は絶望の声を漏らす。
新作を書いているわけでもなく、一年以上活動報告を更新しているわけでもない。突然の行方不明と言う言葉がピッタリと当てはまる。念の為に作者のお気に入り登録も調べてみるがこれも一切更新はなし。完全なる失踪という言葉が頭をよぎり、最後の頼みとして感想欄を覗く。
「……」
もはやここまで来ると言葉すらも焦燥と絶望で奪われる。感想欄には失踪を嘆き、作者の体調を気遣う感想で満ち溢れていた。その作品がどれだけ読者に愛されていたのかがよくわかるというものだ。
中には罵声に近い叱咤もあるようだが、総じて作者を心配する内容のものだった。
300位までが表示される累計ランキングでも、100位には入らないものの、その下辺りを彷徨っているのを青年が見つけたのだ。振り込まれたポイントは3万を超える人気作。それが突然の失踪を迎えたのだから嘆く声が多くて当たり前だ。
「どう、するかなァ」
青年の嘆きは、お気に入りに登録した表示に視線を移していた。
「エター作者か……」
ある日突然帰ってきて更新をしてくれる、という可能性もあるいはあるかもしれない。それほどに更新が待ち望まれる作品だった。だが、それを希望として1年を経過しているのだ。実質終わっているとしか思えない。
「やっぱ、無理だよなぁ」
ため息とともにお気に入り登録を外そうとした瞬間、青年の体が揺れた。
「あ、ン?」
見上げる電球が激しく左右に揺れ、窓は不気味な音を発てている。
「ッち、地震かよ。震度5ぐらいか?」
だが青年は動じなかった。数年前の大地震ですっかりと体は地震に慣れ、既に震度5程度の揺れでは全く動じることがなくなっていたためだ。それどころか心配するのは電源の方という有り様。頼むから停電だけは止めてくれと、背中の棚に寄りかかり一息入れた青年の頭に、突如強烈な痺れが走る。
「──くっ、あァ……」
痛みで声にならないと言うのはこういう状況かと思った青年の意識は、頭を抱えてうつ伏した姿勢のまま遠ざかっていく。手に残るぬめぬめとした感触に、ちくしょうパソコンが汚れる、とそんなことを気にしながら青年は意識を手放した。
○○●
青年が意識を取り戻した時、耳に聞こえるのは最近不快感しか産まない時計の針の音だった。今どきアナログもないだろうと、思いはしても近所のリサイクルショップで購入した目覚まし時計は、青年の不快感を一切無視して残酷なまでに時を刻む。頭を振りながら視線を時計の針に、合わせれば0時34分。
「30分も、気絶……っ痛ぅ」
何があったのか思い出した青年は、突如思い出したかのように襲ってきた痛みに耐えかね再び頭を押さえる。黒く変色した血の色に、俺のヘモグロビンはどれだけ仕事してんだと、罵声を浴びせ手を洗うために立ち上がる。
僅かに揺れる頭を振って台所に言って手を洗う。仕事柄寮生活を営む青年の部屋は、今流行りのオール電化とは全く無関係に、ガス式である。ボタン一つで簡単に湯が湧くその状態を、青年は全く後悔などしていない。
なんとか血の汚れを落とし、痛みの残る頭にそっと振れてみると既にかさぶたができ始めていた。まぁ、明日にはなんとかなるだろうと楽観的に考え、そういえば何をしようとしていたんだっけ、と思い直す。
「ああ、小説だった」
この頭で寝るのも考えものだと少年は、小説のお気に入り登録を外そうとし──。
『──待て、青年』
『──そうだ、早まるでない』
2種類のどっしりと重みのある声にクリックをする手を止めた。
「はぁ、え!?」
慌てて辺りを振り向く。当然誰もいない。当たり前だ。少年がこの部屋に入居から訪ねてくるのは郵便配達か、よく頼むデリバリーサービスのお店の人だけだ。
「……マジかぁ? やばいな、病院って今やってるか?」
『目を凝らせ、お主は正気を失ったわけでも、夢を見ているのでもない』
『応とも、これは紛うことなき真実。夢などという願望ではなく、手を伸ばせば触れることが出来る現実と言う現象だ』
妙にはっきりと聞こえる幻想だと青年は内心で訝しむ。打ちどころが悪かったのか、それとも未知なる人間の進化の可能性の一端にたどり着いてしまったのか。はたまた中二病全開と罵られようとも、己の内に眠る力が目覚めたのか。
青年は瞬時の間に苦悩し、即座に第一案だと割り切る。
「寝るか……やべーし」
時計を見れば既に午前1時を回っている。ハードな仕事の内容を考えれば、今すぐにでも寝るべき時刻になっていた。
声もパソコンも一旦無視して倒れこむように眠る。
寝て目覚めれば全てが解決する。そんな楽観的な明日という未来を思い描き、青年は目を閉じた。
『まぁ時間は、ある』
『そう、だが出来るなら早めに我らが望みを叶えてほしいものだ』
『然り、我らは1年待ったのだ、一日など微々たる時間に過ぎぬ』
重々しい2種類の声もすでに遠く、眠る青年の耳には何も入っていなかった。
●○○
結局血に濡れた頭を翌日洗い、青年は遅刻ギリギリで出社する。ハードな一日を終えて帰宅したのが、夜の21時。体力をつけるために毎日走っている身には、些か辛い。
日常のそんな疲れを癒してくれるべく、長時間触っていないためにスリープ状態になっているパソコンを立ち上がると、昨日のことが思い出される。
「そういえば、なんか声が聞こえたような」
やっぱり夢だったかと思いいたり、改めて画面を見るとお気に入り登録を外すか、外さないかの選択画面だった。
「エター作品だしな」
言い訳がましく外すをクリックしようとした所で、青年の耳にまたしても声が響く。
『待てィ!』
『そうだ。待たれよ』
再び聞こえる2種類の声に、青年は本気で自分の頭を疑い、幽霊などという非現実がまさか自分の身に降り掛かってくるとは思わなかったと、左右を恐怖に満ちた視線で見渡す。
『後ろを振り向け。ただしゆっくりとな』
まるで剣か銃を突き付けられて脅されているような物言いに、不安になりながらもゆっくりと後ろを振り向き、青年は悲鳴を挙げ損なった。
全身の毛が総毛立つとは、まさしくこの時のためにある言葉なのだろう。半透明の厳しい顔つきをした大男と、黒色の形容しようの無い化け物が揃って青年を睨んでいたのだ。しかも化け物の背には大剣。大男の手には、ハルバードらしきポールウェポン。
『ふむ、我らを見て悲鳴を挙げぬとは中々肝が座っているな』
口元に並んだ鋭い牙を見せて笑う化け物の言葉を、大男が肯定する。
『うむ、問題は貴様の顔だと思うが』
内心だけで悲鳴すらも出ませんでしたと言い訳する青年を見下ろし、化け物と大男の眼光は鋭い。まるではるか昔の武人のような見たこともない鎧をつけ、漂う雰囲気は王のようですらある。
『貴様に頼みがある』
大男は開口一番手に持った、斧槍を青年の眼前に突き付けた。
『その能力を振り絞って、我らが永遠に終焉をもたらしてはくれぬか』
俺は除霊師でもなんでもないと、言おうとした青年の眼前の斧槍が妙に生々しく光る。思わず酷く乾く喉をに唾を飲み込むと、その動作を勘違いしたのか。大男は破顔して嬉しげに声を上げる。
『その意気や良し! 長い停滞の時に、救いが訪れたわけだな』
『そうとも、これはめでたい』
化け物と大男が頷き合うのを確認して、青年は命の危機を感じていた。除霊師の電話番号はネットで調べられるのだろうかと見当違いなことに頭を使い、一人と一匹の注意を引かないように、斧槍の槍先から逃れようと体の位置をずらす。
物音に反応したのか、はたまた霊的な何かなのか、一人と一匹のモノノ怪は、青年の動作に反応し、鋭い視線を飛ばしてくる。
まるでその視線は、刃のように鋭い。物理的な圧力すら伴って青年の心臓を圧迫するその視線は、上司に睨まれるなどとは比べ物にならない重圧を青年に与えていた。
『では、早速頼もうか』
『それが良い』
頷き合うと化け物と大男は、どっしりとその場に腰を下ろす。左側に化け物、右側に大男と逃げ場を失った青年は視線を左右に飛ばすが、どちらも同じぐらい恐ろしい。
『さ、早う』
『善は急げというからな』
大男と化け物に迫られた青年は、悲鳴に近い怯えた声を出した。
「あ、あの俺は、その、何をしたら?」
ぎろり、と音がするほどに鋭い視線が青年を襲う。小便だけはちびるまいと決意する青年に、青年をたっぷり5秒ほども凝視したあと、化け物と大男が言い争う。
『言ってないのか?』
『化け物よりも人間である俺の方が説明役に向いていると貴様が言い出したはずだぞ』
『細かいことを言うな。俺が断じたのだ。貴様が悪い』
『相変わらずのその傲慢、今ここで素っ首叩き落としてやろうか』
『化け物が傲慢などと、片腹痛いぞ。我が斧槍は、断罪の剣よ』
立ち上がって睨み合う化け物と大男。化け物は大剣の柄に手をかけ、大男は斧槍を握る手に力を込めて、筋肉が盛り上がっている。
「……ゴブリンの皇国物語?」
怯えていた青年は、化け物と大男の言葉のやりとりを聞いて耳を疑い、次で思いつく単語を口に出した。彼らが吐いた言葉はまさしく、青年が昨日まで夢中で読んでいた物語の一節に相違ないのだ。
『おう、確かにそれよ』
『なんだ分かっておるではないか』
先ほどまでの一触即発の雰囲気を取り払い、化け物と大男は腕を組んで青年の左右に座る。彼らは視線を合わせると、互いに頷く。青年には理解し難い視線での意思疎通。そしてその上で、化け物は耐えられないものを耐えるかのように、口を開いて頭を下げる。
『我らは亡霊。救いを求める亡霊よ。だから貴様に縋ったのだ。行き場を失い、生きるも死ぬも出来ぬ我らを哀れと思うなら、どうか我らを解き放ってほしい』
一方の大男は両拳を握って床に叩きつけ、頭を下げる。
『わしが人の王として、人に頭を下げるのはこれ一度きりだ。良く見ておくが良い……貴様を男と見込んで頼む。我らに終焉をもたらしてくれぬか』
先ほどまでの威圧的な雰囲気をかき消して、一匹と一人の視線は真剣そのものだった。
「あ、いや……でも俺、何をすれば良いのか」
青年の胸には困惑ばかりが広がる。目の前の大の大人が頭を下げて頼み込んでいるのだ。会社で軽い調子で謝られるのとは違う、誠心誠意頭を下げて頼むという気迫に、青年は追い詰められていた。
『我らが物語に終焉をもたらしてくれ』
化け物がそれだけを口にする。
「でも、どうやって」
『貴様にはその力がある。故に我らはここにいる。数多の願望と、絶望の昇華したその力。我らのために一度振るってほしい』
「あ、でも……」
なおも渋る青年に、人の王が怒りに満ちた目を向け、斧槍を握って立ち上がろうとするのを化け物が止める。
『なぜ止める! コヤツは見込み違いだった。王の頭を下げさせた挙句、素気無く断るとは、万死に値する重罪ぞ!』
『やらぬとは言っておらんだろう! 落ち着け!』
悲鳴を上げそうになった青年は、近づいてきた化け物の顔に再度引きつる。
『青年よ、何が不安だ?』
思わず聞こえた優しい声に、相手が化け物だということを忘れて思わず瞬きする。
「えっと、その俺何をしたらいいのか」
腕を組んで考えこむ化け物が、ある推論に至って目を見開く。
『お前には、2つの力がある。我らを見ることが出来る力と、電子の海を書き換える力だ』
「え?」
『おい、何を今更』
憤慨する人の王を無視して、化け物はなおも言葉を紡ぐ。
『お前には2つの呪いがある。数多の死した物語の怨念を吸い上げる呪縛と、道半ばで志を貫けなかった者の嘆きを引き継ぐ呪縛だ』
段々と事態が脳裏で像を結ぶ青年は震えを気にする余裕もなく、化け物に確認せざるを得なかった。
「まさか、俺に、エタった小説を完結させろって言うんじゃ」
大きく頷く化け物に、青年は必死に言い訳を考える。
「でも、それ作者さんが」
『物語を産んだ者はもう居ない』
「え、なんで?」
『理由は知らぬ。だが、居ないのだ』
「で、でも……作品は作者じゃないとパスとIDが」
『お主の力はそれを凌駕する。電子の海は、その扉をお主ためにほんの少しだけ緩めるだろう』
「そ、そんなこと」
『無いと思うか? 我らを前にして』
ぐうの音も出ないとはこのことだろう。青年は非現実の存在から、非現実の存在はいないと思うかと質問をされていた。非現実そのものを目の前にして、である。
近くで見るとその化け物の赤い目は酷く優しい。まるで出来ない子を見守る父親のような、暖かさに満ちている気がして、青年は思わず問いかけた。
「どうやって……?」
『己を信じよ。まずは、そこからだな』
化け物はどっかりと座ると、視線でパソコンに向かえと言う。騙されたつもりになって、青年はパソコンの画面に向き合う。ブラウザバックをクリックして、お気に入り登録はそのままにしておいた。
『己が力を王に示してみせよ』
傲慢に人の王も右側にどっかりと座る。
青年の小さな物語が、今始まろうとしていた。
○●○
一ヶ月後、「なんで2なのかCH」のスレッドの一つはとある話題で持ちきりだった。
【ゴブリンの皇国物語】小説家のようになろうPart891【まさかの完結!】
交わされる“会話”は、エターになっていた作品の完結についてだった。
ゴブリンはもう死んだんだ。もう戻ってこない。君たちも前を向いて……あれ?
一年待った甲斐があった!
でも、不自然すぎる終わりじゃね?
完結したのか、読み直さねーとな。
納得いかねえーマジ駄作だわ。
完結しない物語より、何倍もマシ! 作者よくやった!
ネットスラングを交えて好き勝手なことを書き込んでいる内容を青年は読み終わって、深くため息を付いた。
物語の完結とともに化け物と大男は消え去り、青年は部屋に一人になった。騒々しい彼らがいないのが少しさみしいと感じながらも、化け物と大男の最後の言葉が甦る。
『感謝するぞ、青年。お前は我らに安息をもたらした。いかなる神であろうと英雄であろうと成し得なかった偉業だ。胸を張って誇るが良い』
化け物の言葉に青年はだが、胸につかえがとれなかった。
「でもさ、これって作者さんの物語だよね。俺が書き加えちゃったら……」
『物語を産みし者は、出来得るならばその手で物語を導きたかったに相違ない。だが、それ以上に無念であったと思うのだ。その無念を晴らしたのだ。誉れでこそあれ、恥じ入ることがあろうか』
大男の言葉に、青年は頷く。
『ならば我らからこれから道を歩まねばならぬお前に、餞を贈ろう』
化け物はそう言うと大剣を引き抜き、大男は手にした斧槍を構える。
『物語の終焉に祝福を!』
大男が吠える。
『まつろわぬ者達の魂に安息を!』
化け物が後を引き継ぐ。
打ち鳴らされる大剣と斧槍の音は青年の鼓膜を震わせ、一瞬だけ目を瞑ってしまう。
『我らが誉れを背負いし青年の前途に幸運を!』
その声だけを残し、化け物と大男は消え去っていた。
これは大きな物語の小さな奇跡。
永遠を殺す奇跡を身につけた青年の、小説家に行き着く物語。
という訳で、少し疲れ気味の作者が現実逃避のために作成してみた短編です。
神よ、我が前に奇跡をっ!!!
作中に登場するゴブリンの皇国物語は、作者の長編小説を元にしております。そっちは更新続いているので大丈夫。だが敢えてネタにしてみただけです。