青と白のある日の会話:下
後編となります。
ふと、先日出向いた先で面白そうな人物と出会ったことを思い出す。
彼はなかなかにとぼけた性格をしていたが、優秀な人物だと思った。こと金に関しての話になら乗ってくるかもしれない。
「この間、下町に来ていた奴がもしかしたら使えるかも知れん」
「へぇ、どんなの?」
興味をひかれたように、少年が振り返る。そして面白そうな顔をして俺の行動について聞いてくる。
「というか、珍しいね。君が自分で下町に?出不精でめったに日の下に出たがらない君が、わざわざ?」
からかいを含んだ口調だ。
「俺だって出たくなかった。俺が出向かないと片付かない用件だったからな。ちなみに夜だから問題ない」
俺の言葉を聞いて、なるほどと言った後にあははっと笑い声を漏らした。
「ほんと君って不健康だねぇ」
「病気療養のために引きこもっているふりをしているお前に言われたくはない」
俺は先日起こった事と、わざわざ自分で下町まで出向いた用件。そして彼に関してを余すところ無く述べていった。少年は口を挟まず、大人しく聞いていたが途中から何か考えるそぶりをして口元に手を当てていた。
「なるほどねぇ……うん、確かに使えるかもしれない。でも、そいつの正体は詳しくまではわかってないんでしょ?じゃ、ちゃんと調査してから報告書にまとめて提出してね」
「ああ、この後に手配しておく」
あの男について調べるために必要な算段を頭のなかで組み立てていく。
同士が増えるのならば喜ばしい事だ。
もっとも、本当の意味での同士と呼べるのは、目の前の少年の他に数人しかいないだろう。
そういえば、と少年が思いついたように言う。
「ちょっと離れてもらってたけど、あの侍従呼び戻せる?」
「どの侍従だ―――……ああ、あの銀髪のあいつか?確かアレは今、他の貴族の娘のところへ送り込んでいたんじゃなかったか?」
「そろそろいい頃合いだと思うんだよね。うまく誑し込まれてると思うよ。それに、彼女が寂しがってるからさ。まったく、僕の目の前でソレを言うんだから罪な人だよね」
少年は愛らしく首を傾げて、穏やかに微笑んでいるようにも見えるが、その目は笑っていなかった。
その瞳には、言い表せない熱が伺えた―――……きっと自分も彼女を見詰めるときは同じような目をしているだろう。奥底に何かが渦巻くような、そんな目だった。
現在、自分たちが行おうとしていることは正気の沙汰ではないのだろう。
少なくとも、たった一人のためにすることではないはずだ。
それも、その当人は水面下で行われていることを全く知りもしない。
彼女には無垢のまま居て欲しい。拠り所となるように。
俺達がそう、望んでいるから。
少年がふっとその狂気を引っ込めて、何も言わずに再び窓の方を向いてから窓を隠していたカーテンを少し持ち上げる。
自分も窓の近くへと移動し、外の景色を伺う。
外の庭園には、ピンク色のシンプルなドレスをきてのんびりと草花の間を歩く、彼女の姿。
窓の外からは角度的にはこちらが顔を出して覗かない限りは、自分たちの様子など見えない筈ではあるのだが、彼女の後ろにつき従うように歩いていた金色の髪をした男が視線を向けて、軽く礼をとった。
「ありゃ、気付かれちゃったね。……こないだの暗殺者といい、問題は付きないよねぇ。いっそ、それも取り込めないかなぁ。そしたら戦力面ではだいぶとましになるんだけど」
「それは難しいだろうな……。あの黒狼を雇った貴族の割り出しは急いではいるが」
「だよね~。あーあ。お仕事めんどくさいなぁ……。ねぇ、僕今からちょっと病が悪化するから今日の会議欠席してもいいかな?僕もあそこへ遊びに行きたいよ」
「病に伏している方は庭で遊ぶことなど出来ないと存じますが?―――ふざけてないでそろそろ行くぞ、“白百合“殿下?」
悪意を込めてそう呼ぶと、あからさまに目の前の少年―――この国での第二王子が顔を顰めて文句を言う。
「……その呼び方嫌い。もう少しセンスどうにかならないのかなぁ?民衆って本当に見た目でしか判断できない馬鹿だよね」
悪態をついた後、諦めたようにカーテンから手を離して、俺を軽く睨んだ。
「はぁ。わかったよ……」
ドアを出て、会議の場所へ歩く道で、少年はさっきの意趣返しとばかりに、俺とすれ違いざまに軽く呟いた。
「ね、そういえばさ……おしりに出来てたおっきな青痣……とれてよかったねぇ?」
呆然とその場で立ち尽くす俺の様子に満足そうにくすりと笑ってから、ひらひらと手を振って「先に行ってるよ」と言い残して少年は立ち去った。
知られているはずは無かったのに……どこから漏れたのか。
自分が彼女の前でこけてしまい、尻に青あざができてしまったことなど!
俺は、ふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。
その時目撃したであろう人物とその後に知り得る立場にいた人物を頭のなかで素早くリストアップしながらどう料理してやろうかと、見るものが思わず回れ右して逃げたくなるような気配を漂わせながら通路を往く。
後でその様子も「城の中で悪鬼が出た!」と言われるようになってしまうのだが、それはまた別の話。
今の俺は、殿下に告げ口したであろう人物と、口封じをすべき相手を頭のなかで忙しなく模索していた。
その人物こそが、当時現場にいた彼女であることも知らずに……。
あんまり物語を深く掘り下げて行く気もないので、青と白が共謀して裏であれこれやってるんだなーという認識だけでオッケーです。
ここまでやるようになった各自のキッカケは……書くことあるかなぁ?
かるーく書いてますが、各色出ました。名前(?)だけ。
ちなみに、おしりの痣に関しては彼女と話している時にカッコイイ所を見せようとしてヘマした時にできたものです。
彼女に大変心配されたことを嬉しく感じながらも情けない思いを味わったとか。