青と白のある日の会話:上
タイトル通り青と白の会話です。主人公と犬不在。
この作品では名前などは出てきません。基本的に色と役職だけです(今更
俺の報告を受けながら、彼は満足そうに頷く。
にこやかに報告を聞いていたが、最後まで聞き終わると表面上だけでなく機嫌良さげに笑っていた。
「そっか。概ね順調って所かな?」
「ああ。あっちのほうの問題も時期に片付くんじゃねぇか」
「能なしのクズどもでも、彼女の役に立って死ねるなら本望だよねぇ」
見た目は愛くるしい少年で、いかにも儚げで、小さく大人しい印象を受けるが。
しかし見た目に騙されてはいけない。その中身は俺たちの中で尤も計算高くて腹黒い。
「あー。早くこんなゴミ溜めから抜けだして彼女とだけ話して彼女を愛でて彼女に可愛がられたいよ。なんでこう、面倒事ばっかりなの、ほんと。今は我慢してるけど彼女と居る時に視界に色々入っちゃってホント目障りだよね。お前もそうは思わない?」
「俺に聞かないでくれますか。まぁ、俺もあいつを閉じ込めて誰の視界にも触れさせずに手元に置きたいとは常々思ってはいるがな……」
俺のものとして誰にも見せずに、俺だけをみるあいつ。
思わず顔が暗い妄想ににやけそうになる。
「ちょっと。その自分の趣味丸出しのようなだらしない顔して気持ち悪い妄想を僕の前でしないでくれる?すんごく目障りなんですけど?」
可愛らしい顔をしかめて文句を言ってくるが知ったことか。
お前から話を振ってきたんだろうとは思いはしたが、思うだけで言いはしない。
言えば、また文句が帰って来るだけなのはわかっていた。
「にしても、あの騎士団長まで彼女に入れ込むようになるとは想像してなかったぞ。あの空っぽな騎士が犬みたいにころころと走り回るさまは少々笑いを誘うな」
「そう?僕ははじめから彼女の下僕になると思って引きあわせたんだもん」
「あぁ?中身の無ぇ、ただ命令に忠実に従うだけだった、自分の考えを持たないような奴がか。そりゃ腕だけは確かだが、おつむの中も空っぽだぞ……?」
「だからいいんじゃない。分かってないなぁ、認めたくないけど、あの騎士もおんなじなんだよ。僕達とね」
目の前の少年は座った足をぶらぶらとさせながら、可愛らしく小首を傾げた。
「彼女は、僕達みたいな欠陥品のツボをよく心得てるよねぇ。本人は自覚ないだろうけど、ね。それに僕はあの騎士なら彼女の近くにいても許せるんだもん。じゃなきゃ最初から近づけやしないよ」
わがままで、傲慢で、プライドが高くて、計算高い。
これがこの少年の本性ではあるが、そのことを知っている人間はほぼいない。
知った時には消されているだろう。
周囲からは温厚で優しく、民衆のために尽くす穏やかな人物だと思われている。ただ、病弱なために滅多に外には出てこない――――そのように、設定した。
表向きは本人もそう振舞っている。それを気取らせないほどの演技力もあれば、長年培ってきた経験や話術もある。
こうして素で話せる相手は自分の他には数人だけだろう。けれどそれは自分も同じこと。
「あぁ……そう言えばそうかもなぁ。俺もアイツが彼女に纏わりついていても、そう不愉快にはならないな。珍しいことに……犬みたいだと思うくらいで」
「でしょ~?あははっ!ほんと、今の騎士団長って犬だよね犬!僕もまさか、犬畜生に成り果てるとは思わなかったけど。これで彼女の敵に周る心配もなくなったし、戦力アップだし!いい事ずくめだよね!」
普段はこんな思っていることをそのままポンポン発言など出来るはずもない。
腹の中と言っていることなど違うのが当たり前。そんな場所で生きているのだ。自分も、こいつも。
「しかし、あいつは自分と言うものこそ無いが、命令は絶対のはずだ。上からの命令となれば、尚更な―――……。そんなやつを近づけるのは危険だと思わなかったのか?」
「最初は、父上の目として、監視の役もやっていたんじゃないかな?他にも二・三違う命令を受けていたと思うよ?ま、次第に彼女を見る目がただの観察対象じゃなくなってきたから、そんな心配はしなくなったけどね」
「おい!何をさらっと言いやがる!!それで彼女に何かあったら―――!」
ふふっと笑い声を漏らして、少年がこちらを見詰める。
「なにも、なかったでしょ?」
「それもお前の計算のうちか……」
小さく肩をすくめて、心外だなぁとでも言うように首をふる。
「やだなぁ、そんな言われ方しちゃ僕が計算高いみたいじゃないか」
「けっ、言ってろ」
こいつと話しているといつも調子が狂う。無邪気さと毒を同時に持っている。
だが、俺もこいつも会話を楽しんでいる。それはお互いに思っていることだろう。
少年にしてみれば、普段自分にこのような口を利くものなどおらず、自分にしてみれば常に腹の探り合いをしているために、表面上には笑顔を貼り付けている。本心を出そうものなら、即取り込まれて食われてしまう。
つい、と少年がカーテンが掛かった窓を見詰める。
その行動を何となく見てから、ああそう言えば、と思い至る。
もう少ししたら窓の外から眺められる庭園を、彼女とこの話の種の騎士が通る事だろう。
いつもの彼女の散歩の時間だ。
「あとは……そうだなぁ。とりあえず内部から手を回すにしても、まだ父上の目が光っているせいでおおっぴらにはできないんだよねぇ……もうちょっとこっちにも手駒が欲しいかな」
「そうだろうな。有能な味方は大いに超したことが無いな」
味方、か。
自分も今はカーテンがかかっていない窓の方に目をやりながら考えた。
一時的にでも利用できそうなのはいるが、長い目でみると使えない奴が多い。
権力の犬や、金と欲に塗れている。
金か……とおもったところで、そういえばと思い当たる人物が居た。彼ならば、もしかして。
「……それなりに使える奴なら、いるかもしれんぞ」
続いて本日もう一話、下も投稿致します。
基本的に腹黒コンビです。性格の方はだいぶ違いますが。
そういう雰囲気が出せなくて悲しい……。