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03:犬の騎士・下

詰め込んだら長くなってしまいました。

これってヤンデレなのか……?わからなくなってきた。

(あぁ……)


たまらず、わたしは彼と視線を合わせていられず、顔をそむけた。


「あの騎士に、何か特別に思うところでもあったのでしょうか?」


どういうことなのだろう。特別に、とは?

傷ついたものがいるのなら、心配して当たり前であるはずなのに。何故かそれを怒られ――いや、咎められている気さえする。彼にそんな風に言われる覚えなど、無いというのに。


「どうし……て?彼は、あなたを慕っていたし。そばにいてわたしを守ってくれたのだから、大事なわたしの騎士だわ」


雰囲気に気圧されたて、どこか苛立っていたのかもしれない。わたしの守護騎士であるはずのこの金色の騎士に対して当てこすりのように「わたしの騎士」だと言ってしまった。

目の前の騎士には、言ったことすらないというのに。


「………ッ」


彼は悲痛な、声にならない声を上げて黙りこんでしまった。

けれどわたしを謂われのない事で怒っていたようだったから、いい気味だとおもった。

わたしは自分がこんなにいじわるだったのかとびっくりしたが、なんとなく目の前の存在を傷つけてしまいたくなっていた……のだろうと思う。


いつも笑顔でわたしの言葉を聞きながらも、どこか距離があるように感じていた。

今思えば、心を開いてくれないのだと、不満に感じていたのかもしれない。

彼のガラス球みたいな瞳にはわたしの存在など、映っていないのではないかと。


ほんの数分だかの時間しか経っていなかっただろうけど、沈黙と重い空気とで段々と後悔が募っていく。

言ってしまった言葉は元には戻らない。


わたしは彼を傷つけてしまっただろうか?


そろりそろりと視線を戻して何故と足元の騎士を窺い見て――――――後悔した。


それはそれは美しく、楽しそうに微笑んでいたから。

彼のいつもの貼り付けたような笑顔ではなく、どこか狂気さえ伺わせるような暗い満面の笑み。


「そうですか……。あなたの……騎士、ですか」


クククッと楽しそうに喉を鳴らし、


「あなたの騎士は、二人も必要、ないですよねぇ……?」


今までみたこともないような笑顔でわたしをうっとりと、呆けたような顔でみつめる金色の騎士。


ぞくっとした。

今の彼は、とても危険だと本能が訴えた。


「あぁ……あなたが知りたがっておりますアレは既に処分致しました。当然ですよね……?私はちゃんと、あなたを守れと言ったというのに……あなたを守りきれず顔に傷を負わせたのですから……使えない駄犬などあなたには似合わないでしょう?」


この男はなんて言ったの……?処分……!?つまり、あの若い騎士は――――………。


「ひ……っ!」


目の前の男に対する得も知らぬ恐怖心がわたしを襲う。

少しでも遠ざかろうとわたしは椅子から立ち上がり、逃げようとして―――失敗した。

正確には、立ち上がろうとした所で足を捕まれ引っ張られた――――のだけれど。


「痛っ!!」


不安定な姿勢のまま引っ張られたので、足がもつれて椅子に頭をぶつけて派手な音をたてながら転ぶ。

掴まれた足が痛い。転ぶ際にすりむいた肘が痛い。ぶつけた頭が痛い。

足をつかむその手に、彼に恐怖して無意識に這いずってでも遠ざかろうとしてしまう。


「や、やめて……!」

「あぁ……お可哀想に。赤くなっています……」


いくらわたしが遠ざかろうとしても、その足をがっちり掴まれているために叶わない。

自分が力いっぱい握ったせいで赤くなったわたしの足首に、ちゅ、と音を立ててキスをする。

その際に履いていた履物は必要ないとばかりに脱がされ、そこに転がっている。


素足にちゅっちゅ、と場所を変えつつキスをしていく。


「あ……う」

「ふふ、あなたの足は小さいなぁ……」


嬉しそうにわたしの足の甲を撫でる。愛おしむようにわたしの足の指をいじる。

そしてまた口づけを落とすかとおもいきや―――彼は、わたしの足の指をその口に含んだ。


「やっ!!やだぁ……!!!」

「……んむ」


なんとも言えない感触に嫌悪感が襲い、嫌がり抵抗するが、ものともせずに彼はひたすらにわたしの指を舐め続ける。


「んん……はぁ…ちゅっ、あむ……」


背筋を襲うぞくぞくとした感覚にひたすら耐え続けながら、彼がわたしの足をむさぼるさまを眺める。

痛みと、羞恥心とよくわからない感情で涙が出てきた。


「やだ……やだ……」

「はぁ……ちゅ」


なぜ、どうして。


「やめて……」


けれどその言葉は聞き届けられない。


わたしは哀れに震えているだろう。

そして今こうして行われている行為がとても悲しくて―――……とても、腹立たしかった。


「こ、この…………ッ!!」


涙がにじむ目でキッと騎士を睨みつける。

彼は恍惚とした表情のまま、幸せそうにわたしの足を未だ舐め続けている。


もう片方の足の拘束は舐めることに夢中になってか解けていた。

わたしはあらん限りの力で、目の前のこの金色の頭を蹴りつけた。


ぶちっと、何かが切れたような音がしたのを聞いた気がする。


「いい加減にっ!!しなさいこのバカ犬――――――――――ッ!!!」


油断していたのか、はたまたわざとなのかは分からないが、わたしの懇親の蹴りは見事に決まり。

大したダメージでもなかったのか、蹴られた本人はさっきまでの恍惚とした表情はなく、ただ驚きに目を見開いていたのだった。




――



その件があって以来。

わたしの忠実な騎士は、少しおかしな行動をしはじめるようなった。

あの黒い男などのことについて訪ねても「私がお守りします」と言うだけで語ろうとしない。踏んでも蹴っても白状しないのできっと言う気はないのだろう。


以前は多少そばを離れて他のものに警護を任せることもあったのに。今では自分以外の騎士を近づけようとはしない。城の中を歩くときでさえ、他の騎士と出会うことはない。

恐らく、この守護騎士が手を回しているに違いない。


あの事件があった後に知ったことだが、この男は騎士団内部でとても手厳しく容赦がないので「鬼の団長」と呼ばれていたらしい。

今じゃ、見る影もないけれど。


あれこれと世話をやくようになり、どこへいくにもついてくる。

多少は言ってもきかないこともあり、諦めている。湯殿の中にすら入ってこようとするが、さすがにやめさせた。

「一人でいるのは危険なのでお守りします!」とあまりにもキャンキャン吠えるので、ならばと女性の警護を連れてはいるようにしたのだが、それはそれで不満そうだった。


以前ならわたしの言葉にあまり考えもせず従っていた。それに対して昔は不満を感じていたのだけど、今では自分の意思をぶつけてきすぎて面倒くさくて叶わない。相手するのが嫌で適当に言葉を聞いていたらいつの間にか要求がエスカレートしていった。正直うっとうしい。


もっとも、わたしのほうもあの一件があって以来随分と変わったように思える。

まず、あの時何故か「バカ犬!」と呼んでしまったので(あまりにペロペロしてくるので犬を連想させたのだろう)この騎士のことを「犬」と呼ぶようになった。嫌味のつもりで、反省を促そうとしたのだけれど。


逆に喜ばれてしまった。何故?


表立って呼びはしないが、ふたりのときは遠慮なく犬扱いしている。

あの件も、ペットに過剰な愛情表現の後、足をなめられた、そう自分に言い聞かせて。


前は少なくとも、こんなふうに私の足元に常にいるなんてことはなかった。


「あなたの犬なので、足元にいるのは当然です」


と主張までしてくる始末。

そうしてじっとわたしの足元でなにをしているかと思いきや


「ハァハァ……」


荒い息を吐いている犬がいた。見るんじゃなかったかな。

跪いた姿勢を更に低くし、顔を下げて唇をわたしの足の甲につけようとしたところで


わたしは座ったまま足を持ち上げて、遠慮なく頭を踏みつけてやった。


ゴチンッと鈍くて痛そうな音がするが、別に構わないだろう。騎士団長様は頑丈なので。

そして踏みつけられた足の下からは「あ…ああっ……」となにやら声がするが聞こえない。


「誰も口づけていいとか言ってないわよね?」


つま先でひょいっと犬の顎をすくいあげて上向かせる。


あら、鼻血でてる。興奮なのかぶつけたのかどっちかしら?


たぶん、どっちもだろう。こいつは変態だ。

現に表情は苦しげではなく嬉しさいっぱいだ。


「も、もうしわけございませ」


言い切る前に、また踏みつける。ああ、腹立たしい。


ちなみにわたしは素足だ。

彼が足元にいる際は不要とばかりいつも脱がされて、彼の膝の上に足を置かれるからである。


今ではすっかり慣れてしまったやりとり。

最初は戸惑い、狼狽えて拒絶していたのに。わたしが拒絶した彼の姿はとても哀れで……それこそ捨てられる犬を連想させた。無いはずの耳やしっぽが、へろんと垂れている様を想像してしまった。


可愛そうだと思ってしまった時点で、多分この騎士のこと見捨てることができなかったのだろう。


わたしは随分逞しくなったと思う。純粋な頃のわたしはもういない。


存分にかかとで頭をぐりぐりとしてやる。「ハァハァもっと……」とか言っているけれど、聞いてやる義理はないので、両足を地面へとおろして立ち上がる。


物欲しそうに、わたしを見上げるその顔がまた腹立たしい。


が、これ以上は相手をする気も起きずにその場に「待て」をさせて放置する。

大人しく言うことを聞き、その場で待機していたが、さすがに部屋を出ようとしたのであわててついてくる。


まったく、言うことを聞かない犬ですこと。


あぁ、お馬鹿な犬を相手していたら疲れちゃった。こういう時は小動物に癒やされよう……。


あと犬。ついてくるのはいいけどその鼻血どうにかしてからにしなさいよ……。


ついてくる犬にハンカチを丸めて投げつけてから、わたしはいつも決まった時間にここへやって来るはずの彼を出迎えるために部屋をでるのだった。

わんこ編おわり。次回の更新は来週くらいになればいいなー(遠い目

時系列は結構バラバラかもしれない。

ヤンデレである自信がない……。感想お聞かせ下さると嬉しいです!


あと、お気づきかもしれませんが主人公が最初の「色々」とはだいぶ違います。

悲観的じゃなく逞しくなってます。

最初は、まぁ全員そろってたら逃げたくもなるよね、ということで……。

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