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時の賢者と夢の終わり  作者: 石構 紅康
8/13

時の代役

 真っ青な長い髪と、深紅の瞳が美しい『時の賢者』マリー・クリスは、トオル、クウヤ、レイン、サラの順に視線を向け、涼やかな声で語り始めた。

「私が生まれた『魔法国家シェラーフ』には、古くから8つの宝珠がありました。そして、それらの宝珠を使い、国を守るために8人の『賢者』と呼ばれる者もおりました。しかし、起源は記録が残っていなかったので、私も分かりません。『時の宝珠』がその時代を見せる事に拒んでいたせいでしょう」

 左手に持つ古びた杖の先に輝く金色の宝珠に深紅の瞳を向け、マリーは短く息を吐き出して、続ける。

「1つ目は黒、大地の宝珠。2つ目は淡青、水の宝珠。3つ目は緋、火の宝珠。4つ目は緑、風の宝珠。5つ目は白青、雷…空の宝珠、6つ目は銀、星…天の宝珠、7つ目は虹、生命の宝珠、そして、最後に私が持つ、全ての時を司り、あらゆる時と次元を渡るの出来る金、時の宝珠―」

 ゆっくりと瞬きをした時、開けっ放しだった扉から巨大なトラ猫が姿を現し、マリーの側にやってきた。

 座っているマリーよりも大分巨大なのだが、そんな事は気にならないくらいふわふわだった。

「か…可愛い…!」

「撫でたい!」

 チャンク・ポンクにふわふわな毛並みを触りたくて興奮しているトオルとサラに、レインは冷たく言い放つ。

「マリーさんの話を聞いてからにしろよ」

「そうだよ。話が進まないだろ?」

 どうやらレインとクウヤはそんなに猫好きではないようだった。

 止める者がいないと収拾が付かないので、丁度いいのかもしれないが。

 マリーは苦笑しつつ、心配そうな顔で足元で丸くなった巨大な猫の頭を撫でる。

「マリーさまぁ…大丈夫にゃぁ?」

「ええ、大丈夫よ」

 そう答えたものの、マリーの心は複雑だった。

 それでも、彼等の力を借りなければならない事は分かっているので、続ける。

「8つの宝珠は魔法国家シェラーフを守るためだけに存在していた訳ではなく、世界を守るためにあったのです。8つの宝珠はある『女性』の命。私達『賢者』と呼ばれていた8人はその事を知りませんでした。ただただ、魔法国家シェラーフを守るためだけにその力を使い続け、宝珠の力を使い果たし、『大崩壊』を起こしました。それにより、世界に満たされていた魔法という力は消え去ったのです」  

「ある女性って、誰? 魔法なんて使えたの?」

 思わず呟いたクウヤの肘を、トオルは突付く。

 クウヤはバツが悪そうに肩を竦め、コーヒーを一口啜った。


「女性とは…原初の子宮、根源大地母神であるマグナ・マテルの事です。宝珠は彼女の生命そのものを凝縮したもの。その力を使い果たした事により、ひとつの世界が崩壊しました。それが、『大崩壊』です。魔法という力は『彼女』が我々人類に贈り給うた奇跡の力でしたが、瀕死の『彼女』には人類に与え続ける事が出来ずに消えたのです。…私がその事を知ったのはここに流れ着いた時でした」


「どうしてここに流れ着いたの?」

 サラの問い掛けに、マリーは悲しげな表情で4人の顔を見回し、そっと吐息を洩らした。


「『大崩壊』の時、『時の宝珠』はその身を砕きながらも私を守ってくれました。見ての通り私が持つ宝珠は半分に割れ、トオルが持つ『時の宝珠』は四分の一。残りは私がお守りしていたお方を守るために、彼の方と共に消えました。…この『時の最果て』は、大地母神マグナ・マテルが傷付いた身体を癒すために眠りに着いた場所に近い場所。私をここに導いたのは『彼女』です。『彼女』の望みは8つの宝珠を再び同じ場所に集め、復活する事。そのためには時と次元を渡る事が出来る私が必要不可欠だったのでしょう。しかし、宝珠はあらゆる時代、別の次元に飛び散り、私独りでは回収する事が出来ませんでした。それに『柱』として『時の最果て』支えている私がここを離れてしまうと『時の最果て』が消滅してしまうので、私は代役を必要としたのです」


 そこまで言ったマリーは深紅の瞳をトオルへ向け、少しだけ悲しげな表情を浮かべた。

 それに気付いたトオルは自分を指差し、尋ねる。


「それが…僕?」

「そうです。貴方の何代か前にもお手伝いをして下さった方がいましたが、『星の宝珠』に選ばれた方が見付からず、時間切れで8つの宝珠は飛び散りました。…大地母神マグナ・マテルは限界です。今回を逃せば、全ての世界が消滅してしまうでしょう。トオル、私の代わりに時と次元を渡り、残りの宝珠と宝珠に選ばれた新たな『賢者』を連れて来て欲しいのです」 

 トオルは自分に課せられた重すぎる使命に愕然とした。

 落ち着きなく、不安気に視線を揺らすトオルの肩をクウヤが力一杯叩く。

「お前一人が背負う荷物じゃないんだから落ち着けって!」

「痛いっ! 坂上君、力入れ過ぎだよ!」

「うん、力一杯殴ったし。でも少しは落ち着いただろ?」

 にかっと笑って言うクウヤに、トオルは脱力してから笑ってしまった。

 ─敵わないなぁ…。

 そんな2人の様子に、サラもニッコリと笑って声を掛ける。

「あたし達だって宝珠に選ばれちゃってるみたいだし、手伝える事は手伝うよ」

「サラ、ありがとう」

「危険かも知れないのに、そんなの許せるか!」

「レインは過保護過ぎ! それに、怪我した時はあたしの力が役に立つでしょ!」

 びしっと自分よりも頭二つ分は大きいレインの鼻先に人差し指を向け、怒鳴るサラの言葉に事情が分からない二人は顔を見合わせる。

「ん? 力ってなに?」

「あ、あたしん家巫女家系なの。神通力を使えば傷くらい治せるし、精霊にお願いをすれば簡単な攻撃くらいは…」

「サラッ! 部外者に軽々しく言うな!」

「確かにトオル達は村の人間じゃないけど、これから協力して宝珠を集めるんだから…」

「俺は手伝う気はない! さっさと村へ帰るんだ」

「魔王がいて危険なのに?」

 サラの問い掛けにレインはグッと言葉を詰まらせた。

 そんなレインに、サラは更に言う。

「もしここで断ったら、マリーさんはきっと元の世界に帰してくれると思うよ? だけど、さっき聞いたよね? 私達が持つ宝珠がなきゃ、世界が滅びるんだよ? 滅びるのが分かっていて、帰れる? 帰れないでしょ。それに、あたし達の村はもう魔王軍に滅ぼされてる」

 その言葉に、レインはハッと目を瞠った。

 宝珠が隠されていた洞窟に逃げ込む前に見た光景が脳裏に浮かび、唇を噛み締める。

 そんなレインに対し、サラは勝気に言い放った。

「あんたはあたしの幼馴染で、守役でしょ? だったら、危ないと思ったらあんたがあたしを守れば良いの。分かった?」

 それでも返事をしないレインの左の頬を、力一杯捻り上げる。

「いっっ! いひゃいって!」

「うっさい。守役が巫女長候補に逆らうな」

 腕を組んでツンッとそっぽを向くサラと、捻り上げられて真っ赤になった左頬を擦るレインの様子に他の3人は思わず笑ってしまう。

「…何笑ってんだ」

「え? いや、別に? なぁトオル?」

「え? うん。別になんでもないですよね? 『時の賢者』様」

「ええ、なんでもありませんよ」

 嘯く3人を睨み付けながら、レインはチラリとサラに視線を向けてから、大きな溜息を洩らした。

「…分かった。ただし、勝手な事をするな。危険を察知したら俺の後ろから絶対に出て来るな。もし、トオルと一緒に他の時代に行く事になったら俺の言う事をしっかり聞く事。…分かったな?」

「…まぁ、努力はするよ」

「しっかり約束しろ!」

 そのまま言い争いに発展した2人を放って置き、トオルはさきほど戻って来た時に感じた違和感を思い出した。

 そして、それを確認するために口を開く。

「『時の賢者』様」

「どうかしましたか?」

「『光の道』は、貴女に呼ばれ、導かれなくても通れるんですか?」 

「ここは『時の迷子』が流れ着く場所でもありますが、私の力で作った『光の道』は、私の許可がなければ通る事は出来ません。『時の迷子』が通って来るのは大地母神マグナ・マテルが見た夢の欠片で出来た『次元の穴』で、私はその『次元の穴』の情報を読み取り彼等を自分の場所に戻しています」

 聞けばしっかりと答えてくれるマリーに対し、トオルは微笑んだ。

「では、僕達が通って来た祠の『光の道』はそのままなんですか?」

「ええ、そのままです。ですが、私が許可した者以外には通る事も、目視する事も出来ません。…それがどうかしたのですか?」

 訝しげなマリーに、トオルは3人の意識がこちらにない事を確認してから小声でそっと尋ねる。

「では、何故魔王が『光の道』を『時の賢者』様の許可無く通れるんですか? 宝珠を狙う理由も、まだ聞いていません」

 その問い掛けに、マリーは一瞬視線を彷徨わせた。

 しかし、すぐにトオルに視線を合わせて淡い微笑みを浮かべる。

「『魔王』が、残りの『時の宝珠』の持ち主だからです。しかし、その気になれば私の許可なく『光の道』を創り、自由自在に時と次元を渡る事が出来る貴方とは違いますよ」

「…どういう事ですか?」

「さきほどサラとレインを迎えに行ってもらう前に時に言いましたよね? 『貴方は私の子孫だ』、と。…正確には私の子供ではなく兄の子孫ですが、同じ血筋である事には変わらないでしょう?」

「じゃあ、マリーさんはトオルの遠い遠い遠い…叔母さんって事?」

「そういう事になりますね」

 いつの間にか話を聞いていたクウヤの言葉に、マリーは頷いた。

「…マリーさんって、幾つなの?」

「…」

 微妙に凍りついた空気と、凍りついたマリー・クリスの微笑み。

 口げんかをしていたサラが慌ててクウヤの後頭部をどついた。


 ベシンッ!


「いてえっ! サラ、何すんだよ!」

「女性の年を聞いちゃいけません!」

 その言葉に、マリーは困惑気な表情を浮かべつつ答える。

「私がいた時代ででしたら、19歳ですが…時代も世界も違いますし、そもそも『時の最果て』には時間は存在しないのです」

「え? でも『時の最果て』って全ての時が交差する場所って…」

「ええ、そうです。全ての時が集まるので時間が存在しないのです」

 その言葉に、4人はますます首を傾げる。

 そしてマリーもどう説明すれば良いかと首を傾げる。

「えっと…色々な時代と繋がっているので、『時の最果て』自体に時の流れがあったら繋がったその時代の時間の流れを乱す事になり、混乱が生じる事になります」

 分かったような、分からないような…。

 マリーはそんな4人の様子にそっと溜息を洩らし、『時の宝珠』が嵌った古びた杖の石突で石畳を突いた。


 カツン


 そこに現れたのは、宙に浮く幾つもの不思議な球体だった。 

「これは?」

「中心にあるのが『擬似時の最果て』で、周りにある大小様々な球体が他の世界です。今、『擬似時の最果て』にはここと同じように時間の流れはない状態です。周りの球体から時を流してみましょう」

 そう言ってマリーは宙に浮く球体を指差し、スッと『擬似時の最果てに』向かってその指を走らせた。

 その途端、指を差された球体から金色の筋が走り、『擬似時の最果て』に重なった。

 マリーは何度かそれを繰り返し、全ての球体を『擬似時の最果て』と繋げる。

「今の『時の最果て』はこの状態です。では、『擬似時の最果て』に時間を持たせてみましょう」

 そう言って、マリーは杖の石突で石畳を突いた。


 カツン


 その瞬間、『擬似時の最果て』は様々な方向へ金色の筋を走らせ、その筋は沈黙したまま繋がっていた全ての球体に突き刺さる。

 球体は突き刺さった衝撃で回転を始めたり、衝撃に耐え切れず半分に割れたり、地面に落ちてきたり、初めに繋がっていた筋が消えたり、と様々な反応を示してした。

「これ以上は危険なので、消しますね」

 そう言ってマリーは三度杖の石突を突いた。


 カツン


 声もなく見守っていた4人の目の前で、それは影も形も音もなく消え去る。

「『時の最果て』が時の流れを持つと、現実の世界ではこうなります。それに、私も志半ばでこの生を終えていた事でしょう」

 なんとなく分かったような分からないような4人に、マリーは苦笑する。

「もっと詳しく説明しますか?」

「多分理解出来ないと思うから良いよ。簡単に言えば、ここが時の流れを持ってたら、他の世界の時間が他の世界に流れて、その世界が滅びるぞーって事でしょ?」

「ニュアンス的にはそうです」

 その言葉にも、サラは少し考えているようだった。

「え~と?」

「つまり、『時の最果て』に時間があったとしたら、繋がった世界が滅びるって事だ」

 レインの簡潔すぎる言葉に、サラはようやく納得したように頷いた。

「あぁ…なるほどね。だけど…」

「『だけど、何でそうなるの?』は無しだ。話がまたややこしくなるし、話が進まん」

 きっぱりばっさり切り捨てられたサラは、それでも何かを言いたそうにしたがレインによって黙殺される。

「さぁ、とにかく話の続きだ。何故魔王は宝珠を狙っている? それから、何故残りの『時の宝珠』を持っているんだ? 魔法国家シェ…何とかって国が滅びる時に、ある方を守って一緒に消えたって言ってたよな?」

 的確に疑問を投げ掛けて来るレインに、マリーはそっと息を吐き出した。

 それでも、答えない訳にはいかないのでゆっくりと口を開く。

「宝珠はひとつでも強い力を持っています。世界征服を目論んでいるであろう『魔王』にとって必要なものなのでしょう。『時の宝珠』に関しては、何故『あの方』ではなく『魔王』が所持しているのか私にも分かりません。しかし…」

 マリーは一度言葉を区切り、愛しげに…それでいて少し悲しげに古びた杖の先ある金色の宝珠を撫でた。

「私の半身は『魔王が持っている』と伝えています。何度尋ねても、フィルの事を教えてくれません…」 

「『フィル』?」

「…私が守っていた方です。一体今はどこにいらっしゃるの…?」

「マリーさまぁ…」

 マリーの足元にいたチャンク・ポンクが、どこからともなく白いハンカチを取り出してそっとマリーの頬を伝った涙を拭った。

「ありがとう…」

「『フィル』ってどんな人だったの?」

「…魔法国家シェラーフの第一王子です。銀の髪と紫色の瞳が可愛らしい男の子でした」

「その言い方だと…フィルって子供?」

 クウヤの問い掛けに、チャンク・ポンクが頷いた。

「そうにゃ。当時10歳になったばかりで、お姉さまのサーシャさまと3人でよく遊んでいたにゃ」

 胸を張って言うチャンク・ポンクに、クウヤはいたずらっ子のような笑みを向けた。

「やっとオレ達に慣れたのか?」

 大きな縞々の肩がビクッと揺れ、ビクビクしつつもジッとクウヤを見詰める。

 その目に敵意もからかいもない事を見て取ったチャンク・ポンクは、ゆっくりと身体から力を抜いた。

 そんなチャンク・ポンクの頭をマリーは優しく撫でる。

「いいこね」

「…マリーさん」

「なんでしょうか?」

 ほんのり目元を赤くしたマリーが、レインの方を見た。

 それを見たレインは、気が付いた事を言おうとしたがその言葉を飲み込む。

 そんな彼をサラは不思議そうに見上げた。

「レイン?」

「…いや、やっぱり良い。なんでもない」

「レイン?」

「気にしないでくれ。…それよりも、他の宝珠の持ち主の居所は分かるのか?」

 無理矢理話題を変えてみたが的は外れておらず、トオルとクウヤはマリーの方へ意識を向けた。

 内心ホッとしたレインに対し、サラは訝しげな視線を投げ掛けただけに留めておく。

 ─まぁ、考えが纏まったら近い内に言うでしょ。

 幼馴染の意味不明に見えて、意味のある行動には慣れているサラである。

 今は問い詰める時期ではないと見て放置する事に決めたのだった。

 


 




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