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時の賢者と夢の終わり  作者: 石構 紅康
7/13

チャンク・ポンク

 キュゥゥゥゥン…


 耳鳴りのような音と光の洪水を通り抜けた3人は、涼やかな声と賑やかな声に迎えられた。

「お帰りなさい、トオル。お2人はお疲れ様」

「おっつぅ~」

「『時の賢者』様、ただいま戻りました。坂上君もありがとう、ただいま」

 初めての仕事にホッとした様子のトオルに、クウヤはニヤニヤしながら背中を叩く。

「トオル、ちゃんと次元転移能力を使えたじゃん!」

「『時の賢者』様が導いて下さったからだよ」

 クウヤの呼び方がいつの間にか『鳴矢』から『トオル』に変わった事に気付き、トオルは照れ笑いを浮かべた。

 しかし、嬉しさを後回しにし、自分が連れて来た2人を振り返って紹介する。

「サラさん、レインさん、こちらの女性が『時の賢者』様のマリー・クリス様で、こっちが僕の友人の坂上空也君です」

「初めまして、ノキア村のサラです。こっちの犬は私の愛犬のベンです」

「同じくノキア村のレインです。…で、ここは?」

 警戒心バリバリでこの不思議な空間を見回すレインに、マリーは微笑んだ。

「ここは時の果ての果てにある『時の最果て』。全ての時と次元が交差する場所です」

「『時の最果て』?」

「はい。私はこの『時の最果て』の管理人マリー・クリスです」

「管理人? さっき迎えに来た…トオルだっけ? 賢者がどうのこうのって言ってたよな」

「どちらも間違いではありませんよ。時を守る『時の賢者』であり、『時の最果て』を守る管理人でもありますから」

 そう言ってから、マリーは未だに強い輝きを放ったままでいる『光の道』の前に立ち、白の様な淡い紫色のローブの裾を翻して、『時の宝珠』が嵌め込まれた杖を『光の道』に向けた。

「我は時を統べる者。道よ、閉じよ」

 その様子に、トオルは何か違和感を覚える。

 ─? 何か引っ掛かるけど…何だろう?

 考え込む内に、今まで強い輝きを放っていた『光の道』は静かに輝きを失い、消えた。

 ─あ! 

 その違和感に気が付いたトオルはマリーを見た。

 マリーは柔らかい笑みをトオルに返し、門の方を指差す。

「さぁ、2人とも疲れたでしょう? つまむ物と暖かい飲み物を用意してありますよ」

「おっやつぅ♪、おっやつぅ♪」

 呑気にスキップをしながら、クウヤは古い木の門を押し開けて木で出来た小さな橋を渡り少し開けた広間へと進んでいく。

 その後をサラ、ベン、そして警戒中のレインが続く。

 そして、たった今消したばかりの『光の道』に視線をやったマリーに、トオルは透かさず声を掛けた。

「『時の賢者』様」

「どうかしましたか?」 

「…僕達が通って来た『光の道』は消さずに置いてあるのに、何故今通って来た道は消したんですか?」 

 マリーは少し考えた素振りを見せたが、小さく息を吐いた。

「やはり気付いていましたか」

「はい、残念ながら。何故、ですか?」

「…彼らがいたのは『中世』。中世には魔王がいます。『彼』の魔力は強く、もしこのまま『光の道』を繋げたままにしておけば私の許可なく足を踏み入れ、宝珠を奪おうとする事でしょう。それは絶対に避けなければなりません」

 はっきりきっぱり言い切ったマリーの言葉に嘘偽りは感じられなかった。

 しかし、微かな違和感がまだ残っていて気持ちが悪い。

 それが何なのか分からないまま、トオルは頷く事しか出来なかった。

「そうですね。…魔王は何故、宝珠を狙っているんですか?」

「宝珠が8つあるという事を知っていますか?」

「8つ? いいえ、今初めて聞きました」

「そこまでは伝わっていなかったのですね。続きは皆さんの前で言いましょう」

 ふわりと微笑んだマリーに頷き、2人は古びた門を押し開け3人の元へと歩いて行った。



「マリーさん、椅子が足りないけどどうしよっか?」

 先に広間に行き、サラとレインに席を勧めていたクウヤが古びた橋を渡って来たマリーにそう尋ねて来た。

 そう、人数が増えたため、椅子が1脚足りないのだ。 

 マリーは少し考えた後、一番左にある宙に浮いた不思議な扉を指差した。

「あちらの部屋にまだテーブルと椅子が入っているはずです。取って来て頂いても良いかしら?」 

「はーい」

 軽い足取りでその扉の前に立ったクウヤの背に、マリーはハッとして慌てた様子で声を掛けた。

「クウヤ、ちゃんとノックをしてからに…!」

「え?」

 時既に遅し。

 クウヤは普通に扉を開けてしまっていた。

「にゃぁぁーーーー! 人の部屋を勝手に開けちゃダメなのです!」

 舌足らずの子供の声と共に、子供が投げたにしては鋭い速さで椅子が1脚、クウヤの横を

通り過ぎ、見事にガス灯の下にあるテーブルの側に着地した。

 その様子に、マリー以外の全員が唖然としている。

「な…なんだぁーーー?!」

「坂上君、大丈夫? 誰かまだいるんですか?」

「他に誰かいたのか!」

「うわっうわっ何々?」

 ざわざわする少年達に、マリーは苦笑しつつ開けっ放しになった部屋へ近付いていった。

「みなさん…特にクウヤ、驚かせてごめんなさいね。この子、人見知りなものだから出たくないと言って聞かなかったのです。チャンク・ポンク、出て来てご挨拶なさいな」

「いやにゃ!」

「チャンク、いつまでも隠れていられる訳はないのだから、観念してお客様にはちゃんとご挨拶しましょうね」

「うにゅぅ…」

 渋々といった体で、部屋の中の主が少し顔を出す。

「チャンク・ポンクにゃ」

 そしてさっとまた部屋の中に隠れてしまったが…4人は目を丸くして顔を見合わせる。

「猫?」

「超巨大なトラ猫?」

「人の言葉を話してたよね?」

「…あの猫は何者なんだ?」

 ざわざわ、ざわざわ。

 マリーは苦笑しつつ部屋の中に手を入れ、撫でているような動きをする。

 その途端聞こえて来たのは、大きな猫の喉を鳴らす音だった。

 ゴロゴロゴロ

「やっぱり猫だ」

「猫だね」

「あたしも撫でたい!」

「何あるか分からないから駄目だ!」

「チャンク、出て来ないと仲良くなれませんよ」

「怖いから嫌にゃ」

 どうやら部屋の中で後ろを向いたらしく、長~いしましまシッポがふりふりふにゃふにゃ動いているのが見えた。

 まるで動物園で見た虎のような太さに、トオルはちょっとわくわくしてくる。

「『時の賢者』様、そっちに行って…」

「絶対にお断りにゃ!」

 みなまで言わせずのチャンク・ポンクの拒否の言葉。

「こら、好い加減にしなさい」

「だって…」

 ちらちらと一部分しか見えないが、ふわふわな毛並みに触ってみたかった。

 ふと隣を見ると、サラもわくわくしているようだった。

 そんな彼女に声を掛ける。

「猫、好きなの?」

「え? あ、うん。動物全般大好き」

「サラ!」

「…とりあえず、部屋の中の猫が落ち着くまでお茶しようぜ。…あ、椅子ありがとうな」

 最後の言葉は部屋の中のチャンク・ポンクに向けての言葉だった。

 しましまシッポがぶわっと太くなる。

「ど、どうって事ないにゃ」

 ─あれ? ちょっと照れてる…?

 トオルは隣にいるサラに肘で合図を送り、小声で囁いた。

「あの猫、照れてない?」

「みたいだね。もう少し煽てたら出てくるかな?」

「おい、お前」

「レインも気付いた?」

 他意もなくレインにも声を掛けたトオルに、レインは一瞬毒気を抜かれ、頷いた。

「あ、ああ。でも、俺はしばらくおいて置いた方が効果があると思うぞ。猫は放っておいた方が構って欲しくて来るし」

「そっか。じゃあ、お互いの事を話しながら待とうか」

 にっこりと微笑んで、トオルはお茶セットが置かれているテーブルに近付いて行った。

「あぁ、トオル、私が用意しますよ」

「ありがとうございます」

「オレコーヒーが良いなぁ」

「はい」

 ささっと支度を始めたマリーの背を、チャンク・ポンクが顔をしっかり出してじーっと見ている。

 その様子にクスクス笑いつつ、サラはマリーに近付いて行った。

「マリーさん、あたしはレモネードが良いなぁ」

「はい、ちょっと待って下さいね」

 ニコニコと微笑みながら手際良く動くマリーに、サラはそっと耳打ちする。

「さっきから猫ちゃんがじっと見てますけど」

「普段2人っきりなものだから、どうやって他人と接して良いのか分からないのだと思います」

「そっかぁ。トオル達も最近ここに?」

「ええ、そうです。トオル、レイン、貴方方は何を飲みますか?」

「俺はサラと同じもので良い」

「僕は紅茶を頂こうかな」

 ささっと用意された物を、サラは進んでテーブルに運ぶ。

 更にマリーはクッキーやらスコーンやらも用意し、大きなカップにミルクも用意した。

「それは?」

「チャンク・ポンクのですよ」

 そして椅子に腰を下ろし、やっと話が出来る体制が整ったのだった。


「さて、それでは改めて『時の最果て』にようこそ。私の名はマリー・クリスです」 

「僕は鳴矢透留、17歳です」

「俺は坂上空也。17歳だ」

「ノキア村のレイン、18になったばっかりだ」

「あたしはノキア村のサラです。16歳で、こっちがあたしの愛犬のベンです」

「ボクはチャンク・ポンクにゃ」

 部屋の扉を開けたまま、チャンク・ポンクも自己紹介をした。

 マリーはチャンク・ポンクに微笑を向け、それから4人の顔を見回す。

「さて、それでは今の現状をお話しましょう。まずは宝珠についてで宜しいですか?」

「宝珠って…この石の事でしょう?」

 サラの右手に握られた淡青の宝珠にマリーは視線を向け、ふんわりと微笑む。

「はい。その宝珠は『水の宝珠』です。レインが持つ漆黒の宝珠は『大地の宝珠』になります」

 レインは無言のまま漆黒の宝珠を見詰めていた。

「そして、私の杖に嵌っているのが『時の宝珠』になります。トオルも『時の宝珠』を持っています」

 その言葉に、トオルは左手に握っていた四分の一に欠けた金色の宝珠を見せた。

「欠けてるけど…なんで?」

「僕には原因は分からないんだ。さっき聞きそびれちゃって…だけど、『時の賢者』様はご存知みたいだよ?」

「その事も踏まえて、お話しますね」

 ゆっくりと、大きく深呼吸をし、マリーは4人の顔を見回して口を開いた。

「私が生まれた時代は、紀元前1215年の魔法国家シェラーフという場所です」

「紀元前って…キリストが産まれる前の時代の事だったっけ?」

「授業ではそう習ってるね。紀元前13世紀頃になるのかな? エジプトだとラムセス2世が活躍していた頃だったような…?」

「えっと…紀元前って、なに?」

「俺達は聞いた事がない」

 サラとレインの言葉に、トオルとクウヤは目を丸くする。

「え? こういうのって学校で習わないの?」

「私達学校なんて行ってないよ。そもそも村にそんなのないし」

「てか、それよりも気になったのは『魔法国家』ってマリーさんは言わなかった?」

 その言葉に、3人は、あ、とマリーに注目した。

 マリーは苦笑しつつ頷く。

「そもそも、私が生まれた世界と、貴方方が生まれた世界は違いますよ」

「え?!」

「そして、トオル達とサラ達が生まれた世界も違います」

 あっさりと言われた4人は顔を見合わせ、お互いの姿を見るが…姿形は服装は違えど、見慣れた『人間』だ。

「どういう事? もしそれが本当の事なら、どうして他の世界の人と会えたんだ?」

「それはここが時の果ての果てにある『時の最果て』だからです。ここは全ての時と次元が交わる場所。空間も例外ではありませんよ」

「…ここを通ればどんなパラレルワールドにでも行ける、と言う事ですか?」 

 その問いに、マリーは少し考える素振りを見せ、頷いた。

「そこが『現実』であれば可能でしょう。ですが、それを許可する訳には行きませんよ?」

「どうして?」

「徒に関係のない世界に干渉をしては、その世界に悪影響を与えるからです」

「じゃあ、何故俺達はここに呼ばれたんだ?」

 レインの問い掛けに、3人共頷く。

「確かに」

「その話が本当なら、やっちゃいけない事を今やっているって事でしょう?」

「『宝珠』が、関係している…?」

 トオルの言葉に、宝珠を持つ二人がハッとして掌の宝珠を見た。

 しかし、クウヤは首を傾げる。

「じゃあ、何で宝珠を持っていないオレがここにいるんだ?」

「それはキミが僕の次元転移能力に巻き込まれたからじゃ…?」

「次元転移能力?」

「あ、僕は時代と次元を越える事が出来るんだ。ただ…自分の意思では出来ないから、あんまり役に立たないんだけど…」

「トオル、それは『時の宝珠』をきちんと操れるようになったらとても役に立つ力ですよ」

 ふんわりと微笑みながら言うマリーに、トオルは微かな笑みを返した。

 それを受けつつ、マリーはなんとなくムクレ顔のクウヤに声を掛ける。

「それから、クウヤ」

「ん? なに?」

「話が終わって、協力しても良いと思えたら貴方はトオルと共に、貴方の宝珠を取りに行ってもらっても良いですか? もし嫌であれば、宝珠を持って来て頂ければその後は私が何とかしますので、自分の時代と世界に戻っても構いませんよ」

「え? オレも宝珠に選ばれてるの? てか、普通に帰れるんだ?」

「ええ、普通に帰れますよ。私は貴方方を拘束している訳ではありませんもの。ただ…協力をお願いしたいだけです」

 そう言って、マリーはひとりひとりの顔をゆっくりと見詰め、それからチャンク・ポンクの方を見た。

「協力?」

「一体何をさせる気だ」

「とりあえず、マリーさんの話を最後まで聞こうよ。話している最中に色々と聞くから話が全く進まないんだよ」

「それは同感。疑問に感じた事は後でまとめて聞くって事で」

「ありがとう。では…」

 そうして、マリーは語りだす。

 ゆっくりと、静かに。

 







 

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