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あの日を覗くレンズ
空を見上げていた
古びた双眼鏡を覗き込んで
あの日微笑みかけた雲を探す
青く濁るような視界の中
降り注ぐ日差しの揺らぎの隙間に
白く抜け落ちた孔を探していた
見つからないと知っていながら
立ち尽くした真昼の影の中
静かに満ちていく感情
一つ一つに揺れ動いて
ぼやけていく思い 瞬きをする度
空は青く滲んでいく
雲のように簡単に見えなくなるもの
その幸せに気付く前に見失った
色付いた光雨が過ぎ去った後
空洞の温もりを手繰り寄せて
ただ抱き抱えて空を見上げる
何一つ遮るものがない
眩しい程に青く瞳を焦がす
照りつけるコンクリート 跳ね返る
光を帯びた鉄が視界を塞ぐ
眩しくて見えなくなっていく地平線
遥かな白が目の内に焼き付いた