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それは桑楡のように
それは桑楡のように
眩しくて暖かい
太陽が傾きかけた頃
その色の中で
いつかの夢を見る
それは懐かしむ夢
止めどなくあふれる記憶
それは心惹かれた夢
物語の中で憧れた情景
芽生えては落ちていく
その度に光は強くなる
郷愁が心を焦がすよう
それは優しく寂しくて
つかの間の現実から
少し昔に戻れた
眩く焦げていく
色褪せていく写真のように
風に凪がされて
暗闇は君を呑み込むか
残照さえ瞬きの内
木漏れ日は晴れていく
現実に戻るとき
吹き抜ける風は少し冷たくて
暖かな暮れの中に物悲しさ
夢から覚めた証を握る
その手を内ポケットに
握り締めた拳は何を掴んだか
ただ暮れの方に歩みを向ける
それは桑楡のように
かすかな光の中を行く