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アイデンティティを咥える怪物
下らないといい
面白くないといい
いつまでも述べる自己保身
ただ自分を守りたいだけの
それだけのアイデンティティ
語られるのも
思われるのも
怖いという
妄想の怪物に追われて
吐き捨てた嘘に後悔する
積み重ねた心象
圧し潰れていく気性
誰もが認めてくれるものになれるなら
泥だって頭からかぶってみせる
出来上がったものは中途半端な悪魔
今さら自分の顔を見るのも怖いから
鏡に写るものを壊す
傷付きたくないの裏返し
けれでも手からこぼれた
赤い涙には気が付かない
踏みつけてねじ伏せて
後悔するのもおかしいから
塗り潰した嘘を記憶だと思い込む
そうやって記録が出来ていけば
きっとまともになれるから
その未来になれたのは
何者にもなれないただの影
堕ちていくだけの人生を
デカダンスだと語る
物知顔して噛みきる舌
滲み出た詐りは
狂うことさえ出来なかった
逃げた者のため息
明くる日にきっと目を潰す
声にならない声を
足元にこべりついた懺悔は
きっと離してはくれない
もう戻れない今で
気付くのが遅すぎた
自分が産み出した怪物に
いつしか頭を咥えられて
死ぬ勇気もないなら
それは生きていない証拠ではないか




