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メガネが隠した世界
見たくないものが見えてしまう
レンズ越しの世界は少し残酷で
ぼやけていた真実さえ明確にしてしまうから
私はいつしかメガネを外した
ぼやけている世界は
見たくないものを見たくて済むから
それが逃避行なのは分かっている
それでもレンズ越しの世界は
もう見たくない
空の青さは見飽きた
鉛色の景色は嫌いだ
降り続けるのは哀しみで
生きている心地はもうしない
まぶたを開ける度に
世界がぼやけていることに
幸せすら感じて
綺麗なものも見たくない
全てが曖昧で霞んだ景色を
汚いものもいらない
境界線は定まらない
そんな世界を見たくて
私はメガネを外す
曖昧なものが増えてきて
ぼやけた景色は虚ろ
いつしか誰かの顔も忘れて
存在さえも希薄になって
それでもこのままならと
手から滑り落ちたメガネが
音を立てて割れた




