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夕暮れに傘が塗れて
ぽつりぽつりと降ってきた
茜色が傘を染める
透明な視界の先に見えた
雲の切れ間に差し込む明日
帰る道 転がっていく今日が
足跡に溜まっていく
下を見ることもないから
気付かないまま残っていく
知らないまま いつもが流れて
夕暮れは朝焼けに変わっていた
零れた雫の音も聞けないまま
開いた傘がまた澄んでいく
ぽつりぽつりと降っていた
紅色が傘を染めていく
被さった色で傘は塗れて
雲の切れ間の明日が見えなくなった
行く道 着いてくる昨日が
足跡を静かに消していく
振り向くこともないから
気が付かないまま忘れていく
分からないまま 当たり前が流れ
薄明が夜明けを告げて月は昇る
水溜まりの音も聞こえないまま
閉じた傘の色を振り落とした
水滴のように飛び散った行く
その数だけ何かを忘れていく
気が付かないまま 知らぬまま
開いた傘はいつも透明で
その視界の先に広がる雨模様
晴れたまま小雨が降った
流れていく 滴る雫のように
塗れていた傘から今日が零れて
足跡に溜まって昨日を踏んだ
消えていく 気にも止めないから
空はいつまでも同じだと思った
夕暮れはいつの間にか止んでいた




