510/660
さざ波の夜夢
かすかに聞こえてくる
その音は優しくて
嫌なことも忘れられるほど
夢中になれる音だった
子どもの頃
夜更かしに憧れていた
夜の世界には何があるのだろうか
不思議に満たされた心は
いつしか眠りについて
まどろみの中で夢を追う
朗らかな明かりで照らされていた景色は
気が付けば薄暗い光になって
夜更かしさえ当たり前に
子どもは大人に足跡も残らず
夢を見ることも忘れていて
あの音さえ聞こえなくなった
暗闇の中に積もる蜃気楼
消えない焦りと後悔は
頭の中でずっと溢れ続け
夢も見えなくなった
目を閉じてみる暗闇は寂しく
ただ大人になってしまったことを
独り言のように呟いて
薄れていく好奇心
消えていくあの日の心
さざ波を追いかけた夢はもう
どこか水平線の彼方へ消えた




