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ブラッディ・メアリーに指輪を。

 

相も変わらず僕らは鏡越し

手と手がふれ合ってもただ冷たい

でもそこには温もりがある

緋色のドレスを身にまとい

私にほほ笑みかける君は美しい


寂れた洋館の奥の間で

今日も僕と君は見つめ合う

甘い言葉を並べて

優しい声をかけて

ただ幸せな時間を過ごしている


恋が冷めても愛は覚めぬまま

相も変わらず君が愛おしい

鏡越しに映る緋色の君よ

願わくばこの手で君を抱きたい

あの日に送った花束はまだ

枯れずに美しく咲き誇る


壊れたピアノでささやかな音を弾く

陽気に舞う君を私は好む

簡単なものしか弾けないけれど

君のためにまた新しいメロディーを

苦手なものを覚えてみよう


甘美な時間に酔いしれる

美しいのだ何もかも

恋という言葉すら敵わない

この思いは何と表現できようか

例え鏡越しの仲であっても

そこには通じるものがある

だからこそ私はこの時間を終わらせよう


今日がその日だ

甘美な時間は夜を次げる鐘と共に

朽ちたのだ暗闇の中に

しかしそれは始まりに過ぎない

限りある選択の中に

私は一つの答えを見つけ出す


壊れたベルを鳴らす

迎えに来るものはいない

寂れた扉を開く

物悲しい音を聞く

屋敷にこだまする足音と

鏡の向こうで揺れ動く緋色

またあの場所で

今宵も夢を見よう


割れた等身大の鏡に

君は手を当てる

胸の高まりが聞こえてくる

告白をしたときのように

花束を差し向けたときのように

でも恋は冷めているのだ


私は小箱を君に向ける

怪訝な顔をして見つめる君に

私は小箱を開いて見せた

小さな指輪が一つ

君は驚いた表情を浮かべていた


気の利いたプロポーズは出来ないと

私は笑い肩をすくめていった

その通りね

君は笑う

君に指輪を

私は指輪を鏡に当てた

ありがとう

君は鏡越しに指輪を手に当てた


その日から何か変わった訳じゃない

それでも甘美な時間は終わりを告げた

あの日の青年はもういない

ここにいるのは私と君の

鏡越しの二人だけだった

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