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感動に満ちた悪意
世界には感動が満ちている
心の動かない瞬間などない
画面の向こう側にも
目の前の景色にも
至るところに幸福があり
どこにも奇跡がやって来る
ああ
なんて
くだらない
作られた感動に酔いしれて
明日を頑張って生きようなんて
浅ましいにも程がある
そこには理性はなく
ただ本能で受け取った
幸せの形骸化のみ
裏側を伏せて表側ばかり見ている
その裏にある物語も知らないで
ただ涙を流すだけの猿たち
拍手ですらない雑音で
誰もが見ていない
所詮はただのお遊戯会
フィルターに通された映像に
真実などと偽りを括り付けて
出来上がった虚像に皆が群がる
沈んでいく犠牲者には目もくれず
「ほら、感動したでしょう?」
意味も価値もない三流芝居の
芸術性もない群像劇
哀れだねと誰かが呟く
本当の意味も知らずに誰もが
感動したねと薄ら笑いを浮かべた
そこに心を動かされるものはない
そこにあるのはただの贋作
自己満足にすらならない
そんな世界に満ちた感動は
きっと悪意に満ちた惨劇だろう




