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鬼の死
言葉は存在を担っていた
目に見えずとも人々の前に
それは荒御魂の如く
それは和御魂の如く
目に見えない存在はいつも
人々の歩幅に寄り添っていた
いつか姿を描きたものがいた
目に見えない存在を見たいと願った
それは言葉を形に変えたもの
人に有らぬその異形は
それでも人々の側に寄り添った
異形になろうとその存在は
変わらずに在り続けた
言葉を言わぬ存在は
ただ形で示し続けた
冬を越えたとき
誰かが絵が描いた
絵画の上で動く異形たち
彼らは言葉を知った
そして彼らは言葉を忘れた
歩みはなくなり人間だけが
足跡を残して進んでいった
異形はやがて消えていく
絵画の中で嘆きながら
ただ暗闇の中で闇を見続ける
誰がしたことだろうか
誰が成し得たことだろう
やがて異形は形を失った
意味さえ無くした存在は
静かに眠りについていく
もう彼らはここにいない
書物の暗闇の中で
かつてを語るだけ




