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椛に眠る
あの日の足跡を追い続けていた
山道に残った軌跡を辿って
あの日の私を探していた
耳に響く山の声 尻尾が風に揺れている
懐かしい景色の前に私は立っている
それは変わることなくいつも目の前に
山が茜色に染まっていく
目をつむれば浮かぶあの日の笑顔
散る紅葉の中 走っていったあの道を
今は歩いて通る 散る紅葉の中を
茜色の木漏れ日に手をかざし
ただいまとそっと呟いた
吐息が白く空へ行く 落暉に染まり溶けて行く
残照の中を歩く度 あの日に近づいているようで
やがて行き着いた石段の上 いつかの私が笑っていた
ふと手を空にあげて 暗紅に染まる雲を掴む
指の隙間からこぼれる余光に目がくらむ
私は笑みをこぼしていた
残照に映える紅葉の道を 私は歩いて行く
茜に散る景色にあの日を重ねて私は探す
懐かしい道を 今に続くこの茜を歩いて
私はあの日の足跡に歩幅を合わせた




