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rain bell
窓の向こう側で鳴る合図
暖かな白煙に鏡を曇らせて
今日は一人でベルを鳴らそう
雨音に紛れて
コップのフチからこぼれた雫
指でなぞってやがては消えて
漏らしたため息はすっと白煙になった
今日のディナーはステーキでも
ナイフとフォークを持って
切れば間から滴る匂い
風に乗って去っていく
銀の先に色が反射する
口に入れば簡単にとろけて
ただ感触だけが残るだけ
あっという間の一時の時間
雨音は弾けて消えていく
暗闇と遮られた明かりの内側
景色は見えなくただ自分が映る
今日のディナーはお一人ですか?
頭を下げた影の自分
ベルをもう一度鳴らしませんか?
デザートに甘いスイーツを
白く染まったクリームの
溶けていくさまは緩やかな
雨音もやがて溶けていく
静まり返った場所の隅
ほろ苦いコーヒーをなめながら
眺める先また雨音がベルを鳴らす
今日のディナーはお一人で
ごちそうさまでした。




