無音
風だけ吹き抜ける。揺れていた水面は鏡のように輝き。
浮かんでいた船は岩のように動かなくなった。
空は色を変えず橙色と紅色が混ざったような狭間を描く。
雲はどこにも行かない。私を見下ろしているように浮かぶだけ。
その後ろ側に流星群。幾つもの色彩の線が虹を描き出している。
私は思わずため息をついた。
凍った。ここが。
動かなくなった。ここが。
手ですくった水は氷のようで冷たくもない。
表面に映り込んだ私の顔。笑いもぜず、泣きもせず。
無言のまま水を壊した。
破片が落ちる。音はない。無音が響く。
それは体にも伝わらない無だった。
歩いても何もない。
跳ね返る光。暗闇は消えない。薄暗い明りが世界に散らばる。水
面に映る空の景色。
通り過ぎていく。ここから
去っていく。ここにない。
何も動かず。私が離れていく。
果てもなく。あてもなく。
風が背中を押してくれる。その度に私は反対を向く。
行く先はない。
道標はない。
陸もない。海もない。どこまでも続く水平線。
遮るものがない。隔てるものはない。同じ景色が続いていくだけ。その繰り返し。
歩く。走る。止まる。
見る。回る。ここに一人。
無音が響く。無言のままにいる。
口を開いても言葉ない。
風が全部持っていく。
やがて私は目を閉じる。そして音が響く。
形のない音。風の音。耳に染み渡る。
目を開けたらまた。無音が響く。
歩く。歩く。あてもなく。果てもなく。
暗闇のないここ。光もないここ。
矛盾して動かないここを彷徨う。
風がまた吹く。無音が響く。




