132/660
最後に咲いたスターチス
ねえ、覚えてるって語りかけた
夕焼けの湖畔でティーパーティー
2人だけの静かな時間
甘いケーキにアールグレイを
味も分からないのに知ってるふり
すぐにばれて笑われた
懐かしいなあと振り返る
今はもう向こうの話
零時を告げる鐘が鳴り響く
壊れて止まったオルゴール
音はもう鳴り止まない
それは不協和音のハーモニー
人形は糸に吊るされて夢を見る
途切れ途切れの記憶の断片
もう思い出すことさえできない
廃墟にさしこむ月明かり
宵は彼女を客に踊りましょう
星の舞踏会が始まった
虚ろのガラスに写るのは
単なる現実の生き写し
もう人形は動かない
手から落ちた花ひとつ
最後に咲いたスターチス
散って去って消えてった
もう何も始まらない
物語に幕引きを
そして迎えるエピローグ
拍手で笑う悪魔がひとり
そんな悲しそうな顔をしないでよ
やっとまた会えたのに
人形の手を握る悪魔が言った
ただいま、ひさしぶり
誰もいない廃墟に響く
ざらざら崩れた最後の形
悪魔の手に残ったのはひとつの花
それは季節外れのスターチス




