ルース・ベネディクトと名乗る者。
前書き
「自分の感情で、暴力を振るう人間っていうのは人間性よりも動物性がまさった脳味噌を持ってんだよ。解るだろ? K。 お前はそういう人間にたくさん会ってんだろ」
自分のことをルース・ベネディクトと言う友人がそんなことを言った。
動物性の脳味噌を持った人間というのは僕の通っている県立高校に居る生徒たちのことだ、とルースは言いたいのだろう。全員がそうであるわけではないのだが、僕に何かと言いがかりを付けては暴力を振るう人間が多数、いる。まったく詮無いことである。
「まったくお前も悲惨だよな。俺が言っただろ? 高校は良く考えて選べって。目を瞑って掲示板に列挙されてた校名を当てずっぽうで指差して決めただろ、お前。碌に調べもせずに劣悪な環境だって気づかないなんて、悲惨の骨頂じゃんか」
なぜルースが他人事みたいに僕のことを言うかというとこのルース氏は僕と違う高校で、それも県内トップの進学校に通う御身分だからだ。
「自分でも解ってるんだよ。悲惨の骨頂というより愚の骨頂・・・。ほんと、僕は愚かで先見力など皆無。ひねくれてた当時の僕が悪いんだよ。ほんと安易な決め方をしてしまった」
僕が言うとルースは溜息をついた。
「なんであの時俺と同じ所にしなかったんだよ。お前なら受かってただろ」
「・・・指がそこを指していればそうだったかもね」
ほんとひねくれてんな、とルースは言った。現在形である。
「そいでさ、僕の学校のやつらの脳味噌のことばかり言うけどルースの学校のやつらはどうなのさ? 同じようなものでしょ?」
「まあ、おんなじだな。学力以外は。
言い寄ってくるやつらは居たがもう二度と来られないように両方の犬歯を折ってやった」
はははっとルースは笑う。
よくそんなことをして在学できているなと思う。
しかしそこはルースのこと、巧く隠蔽しているのだろう。
・・・っと、ちょっと待ってほしい。
こいつ自分で言った動物性の脳味噌を持っている人間は自分であるということに気づいていない。感情で人の犬歯を折るなんて人を殴るよりも悪い。 僕がそう指摘すると、 「感情じゃない。俺がやつらの犬歯を折ったときなんか至極冷静だったぜ。つまり一つの作業としてやったんだよ。ほら、土とか服に付いたらはたいて落とすだろ? あれとおんなじだ」
と言った。 歯を折られた人に同情する。
「デレデレした態度がムカつくんだよ。だから躾をしないとな。まあお前は俺のことをそーゆーふうに見ないから俺はお前のことが好きなんだけどな」
ルースが微笑みながら言った。
「もうちょっと女の子らしくしようよ。せっかく可愛い顔してるんだから」
「おや、おやおや。君はもしかしてこの顔がお気に入りかな? むぅー、じゃあキスしてあげようかっ」
口をすぼめて迫ってきたので僕はルースを避けた。
「いらんわ。そういうところがダメなんだよ」
「どれにしようかな、で高校を決めるヤツに言われたくねぇ。・・・なあ大学は一緒のところに行こうぜ。お前は何処受けるつもり?」
「私立×××大学の文学部」
あまり間を空けずに僕は言った。
「ふーん。名門だね。俺もそこにするかな。興味はあるしね」
「・・・そう。でもあまり人に合わせないほうが良いよ。自分の行きたい大学に行ったほうが・・・」
僕は言ったがルースは聞いていないみたいだった。
ルースは立ち上がり言った。
「絶対、一緒に行こうな」
そう言うと自分の家のほうに行ってしまった。僕はルースと話して気が楽になった。ルースには何でも話すことが出来る。だからと言って恋人になるわけではないけれど。




