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女神のティア  作者: 詠城カンナ
第三章 盗賊と花嫁
22/25

(4)

どうしよう…前半のアジェたちのところはなかなか筆が進まなかったのに、後半のアヤシイ奴らのお話はすらすら書けた……

こういう、裏でなにやら行われるお話を書くのが好きみたいです。。




「抱いてもいいか?」

「却下」

「……キスくらいは……」

「無理だ」

「……ちぇー。けちー。抱きしめるだけで我慢してやるよ」

「何様だ。断る」

「俺様だから、お願いしますー」

「……気持ち悪い……」

「……じゃ、握手で」

「それくらいなら、いいだろう」


 アジェの手を嬉しそうに握りしめるエヴァージオ。顔はご満悦である。

「――テメェらは朝っぱらから、なんつー会話してんだよ」

 と、ついに声をあげたのはひとりの男。無精髭を生やした、栗色の髪の男である。

 二日酔いのためか、機嫌が悪いのか、眉間のしわが寄りすぎている。煩わしいと愚痴るときのアジェといい勝負かもしれない。

 アジェはふと眉をひそめたあとで、口をひらく。

「具合が悪いのか? このまま出発しても大丈夫なのか?」

「ああ、いい。テメェの心配するこっちゃねぇ」

 ぶっきらぼうに腕を振ってさっさと歩き出すダグラス。アジェもそうかと頷き彼につづく。

「はー。ホント、アンタら不器用だよねぇ」

 ぽつりとため息まじりにつぶやきつつ、エヴァージオは彼らのあとを軽い足取りで追った。



 一行が目指すのは盗賊のアジトと思わしき山場の洞窟。

 なんと、ダグラスがすでに目星をつけていたらしい。頼りになる男だと絶賛したアジェに、妬いたエヴァージオがいつもより激しいスキンシップをして殴られたのは余談であるが。

 向かいながら皆改めて自己紹介したものの、してもしなくても大差ないことに気づいたが、まぁ、気分はノッてきた。エヴァージオは「俺たちってなんか、アヤシイ集団みたいだよなぁ」とぼやいたが、紹介できるほど己を紹介するものがないのである。エヴァージオ本人も。


「えっと、俺、エヴァージオ。通称なし。略称キライだから。好きなモノはアジェ。好きなことはアジェに触ること。以上」

「わたしはアジェ、という。……スワズレットの王都からきた。探し物があるから」

「お、俺はダグラス。ググリ領主に依頼されて勇者になったがガラじゃねぇ。傭兵やってたが、まぁ、いろいろあって旅してた。狩は得意だが料理はそれほどうまくねぇな。酒は好きだ。闘うのもそれなりに好きだな」


 といった感じで、ダグラスがいちばん優秀な自己紹介を収めた。

 エヴァージオの熱烈アタックに無視を決め込んだアジェは、ダグラスに狩の仕方などを質問し、充実した時間を過ごした。エヴァージオはひどく落ち込みジト目で恋敵ダグラスを見ていたが。

 しかし昼を過ぎてもエヴァージオは不機嫌なままで、ダグラスはどうしようもない気まずさを感じた。耐え切れず「話しかけてやれよ」と気をきかせたところ、ようやくアジェは「行くぞ」と不機嫌者エヴァージオに声をかける。すっかり上機嫌になったエヴァージオ。ダグラスはほっと息をつく。苦労性であるようだ。


 アジトはハビヤの村奥にある小高い丘を越えた、山場の陰の洞窟であるらしい。時折、盗賊たちは村に降りてきては略奪行為を繰り返し、戦利品をそのアジトへ持ち帰っているのだとか。獲物に酔いしれた盗賊たちは浮かれて警戒を怠り、結果ダグラスにアジトの場所を易々と教えてしまうことになった。

 丘を越え、村人たちの家々がなくなると、一気に人里離れた辺境の地になる。視界は広く、隠れる場所はなかったが、つまりは相手も出てくればこちらに丸わかりということで、一行は目を走らせ警戒しつつ歩を進めた。

 作戦では、ダグラスが盗賊の仲間になりたい旅人で、アジェが奴隷という名の盗賊への献上品、エヴァージオは後方に隠れて支援する役だ。


「でもさー。盗賊たちと会ったらどうするつもり?」

カシラのもとに案内してもらう」

「じゃあ、もし俺たちが勇者だってバレたらどうすんの?」

「バレるわけがない。おまえが真面目に身を隠せばな」


 そんな会話を繰り返しつつ、一行はようやく山を前にした。入口は草木で覆われ、視界は悪い。

「この先に獣道があって、進むと洞窟が現れるはずだ。そこが盗賊のアジトさ」

 準備はいいか、とダグラスは視線を寄越す。アジェは真剣に頷き、エヴァージオはどうでもよさそうに欠伸をして応えた。

「それじゃあ、行くぞ」

 役柄アジェは後ろ手に縛られ、ダグラスに押されながら進む。エヴァージオはふたりからやや距離を取り、木陰に隠れてゆっくり進む。

 盗賊のアジトが姿を現すころ。すでにエヴァージオの姿はなく、ダグラスとアジェは打ち合わせ通りの格好で、見張りをしていた下っ端に声をかけた。







+ + +


 そこはたいそう豪華絢爛なお屋敷だった。床に敷き詰められた絨毯は一級品だし、天井を飾るシャンデリアはどれもが細やかな演出をしている。置物は村人の三年分の給料でも足りないくらい高価だし、屋敷に住まう人々の纏う衣服はどれもが王宮のそれと比べても劣らない。

 屋敷の主である彼女は、黄色と黒の細やかに混じった瞳をうっすらと細め、部下の報告に苦言を呈した。

「デキソコナイも見抜けぬというのか、この愚か者め! こんなに時間を食って……いくら払っていると思っておる?」

 腕を振ると裾の長いレースでできた服がシュッと音を立てる。ジャラリ、と装飾されている宝石がぶつかり音を奏でた。

「で、ですが……! どうやら供給者パートナーがいるようで……」

「ほぅ、《エサ持ち》とな」

 機嫌の悪かった表情がその言葉です、と平常に戻る。

 しかし部下がほっと安堵の息をつく暇はなかった。

「もちろん《餌》は捕えたのであろうな? すぐさまここへ用意せい」

「おっ、恐れながら……! 逃げ足がはやく……そ、その……」

「逃したというのか!」

 ひくり、と女の紅で彩られた口元が歪む。

 手にした扇で二、三度部下の頭部を殴りつけ、荒い息のまま声高に叫んだ。

「今すぐ捕えよ! 懸賞金をかけても構わん!」

 はっ、と控えていた他の部下がすぐさま動き出す。

「ふふ、逃しはしない……めったにない宝だからねぇ」

 部下を殴りへこんだ扇を床に捨て去り、怪我をした部下ともども「捨て置け」と命じ、女は優雅な所作で部屋を後にする。

 《餌》を捕えるには少々時間がかかるだろう。なればその前に、《餌持ち》のデキソコナイとやらの顔を見てみようと思ったのだ。



 今、彼女の思惑通りに事は運んでいる。予想外のことは起きたが、それはすべてこちらに好都合なことばかりだ。


「主さま、どちらへ?」


 足を進めるさなか、声をかけられた。気配もなく背後に立つのはやめろと何度言ってもやめない、しかし優秀な右腕である男だ。

 女は顔をしかめ、しかし口元を笑みに変えて答える。

「デキソコナイの小兎を捕まえたらしくてねぇ。今から顔を見てやろうと思って」

 影から現れたのは、小柄な細身の男だ。黄褐色の瞳はツリ目気味で、横に流して一つに縛った髪は枯れ色だ。口元は常に引きあがり、そのまま張り付いているようだ。

 着ている衣服はこの屋敷の従僕のもの。白のシャツに緑のベストでいたってシンプル。彼の首元と左目から頬にかけて、黒い蔓状のタトゥーが印象的だ。なにより、ふわりとした頭からのぞく、狐色の耳。

 彼は細いつり目をさらに細め、ニヤリとして口をひらく。

「見学ですか。それはそれは結構なことです。しかし主さま、小兎とやらはいまだ抵抗を示しているとか。野生のままでは凶暴です」

 途端、女は目を細め、満足げに頷く。青年の意図することを悟ったのだ。

「なるほど。それではおまえが調教するか?」

「それが主さまの命であるなら」

 受け身な返答であるが、青年はぺろりと唇を舐め、枯れ色の瞳に狂喜の色を浮かべる。

 女はこの右腕の青年が、かわいくてかわいくて仕方がなかった。特に、隙あらば主である己を殺そうと目論みながらも、自身の欲望のために付き従う彼の抜け目なさが、たいそうかわいくて愛おしかった。


 きっと己の最期は彼に殺されるのだろう。そして彼の最期も、きっと己が用意してやるのだろう。


 声をたてて笑い、女は青年へ腕を回して抱きついた。

「ああ、本当にカワイイ、わたしの下僕」

 彼の首筋へ走るタトゥーに長い舌を這わせ、吸い付く。

 びくり、と身を引く彼を逃さぬよう後頭部をしっかり押さえつけ、縦長の楕円形の瞳を見開き、思う存分食事を堪能した。

「おまえはいつまでも、わたしの傍にいておくれ。カワイイ声で啼くんだよ」

 ちゅ、とリップ音をたてて離れる。力を失いその場に尻餅をつく青年を見下ろし、女は再度口をひらいた。

「昔は、まるで蛇ににらまれた蛙――いや、狐、だったのに」

 屈み、くい、と青年の顎に手をかけこちらを向かせる。うっすらと上気した彼の頬を撫で、ゆるく笑った。

「今では褒美のように悦んでいる。なんてはしたない」

「でも、主さまは、好きでしょう?」

「……ああ、そうだね。カワイイわ」

 青年は浅い息を整えるために呼吸を繰り返す。身体はだるく、今すぐ動けはしないだろう。お預けをくらった気分だ、という表情を隠すことなくさらしている。

「そんな表情カオをするな、ルーペス。本当のご褒美も許可してやるから」

「よかった」

 満悦に微笑し、青年――ルーペスは己の首筋のタトゥーに指を這わせる。

「コレも、刻んでいいですか?」

「……仕方ないな」

 女は肩をすくめて許可を出した。どうせ褒美なれば、とことん好きにさせてやろうと思っていた。



 青年をその場に残し、女はひとり足を地下牢へ向ける。デキソコナイを見るために。

 褒美としてルーペスに『調教』と『烙印』を許可した。なれば野生のデキソコナイを見るのもこれが最初で最後であろう。

 くすくすと、声を立てて笑う。

「これで手中に何匹かそろったか……黒羽もいずれ始末してやろう」

 二股の長い舌で舌なめずりし、女はつぶやく。

「いや、もしくは調教し直してやるか……いずれにしても、愉快なことだわ」

 シャラン、と衣擦れの音が不気味に響いた。


「ともすれば……《餌》も従わせ、喰ってしまうか」



というわけで、筆がノッたので近いうちまた更新します。


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