ボーリング
「糖尿の気がありますね」
何となくだるさが抜けず体が常に重い。気のせいだと思い続けてきたが、さすがに不安になって一度きちんと診てもらうことにした。その結果がこの一言だった。
「まだ数値は高くないので、いわゆる予備軍ですね。生活習慣病ですから食事と、あとは適度な運動を心がけてください」
適度な運動。
言うのは簡単だ。
相本浩紀、四十八歳。
結婚を考えた相手がいなかったわけではない。だが気づけば独身のままここまで来てしまった。会社では中間管理職のような立場だが、下の世代はほとんどおらず自分の下は入社三年目の若者。一方で年上の面々は妙に元気で飲みだゴルフだと引っ張り回される。
「若いのは話が合わないんだよなぁ。気を遣うし」
「相本くらいがちょうどいいんだよ」
そう言う社長はもう七十歳近い。
元気ではあるが見た目はどう見てもおじいちゃんだ。
――適度な運動、か。
ふと思い出したのがボーリングだった。若い頃は流行っていたこともありスコアが二百を超えたこともある。だが一人でやるのは正直つまらない。
試しにネットで地元のサークルを探してみると意外と見つかる。
「へぇ……初心者歓迎、みんなで楽しく、か」
もう五十近いおっさんだが、こういう場所で若い連中と交流するのも悪くないかもしれない。思い切って問い合わせのメールを送った。
翌日さっそく返信が届く。
〈二週間後の日曜日、ナガサワボーリング場に集まります。ぜひ気軽にいらしてください。小川美智子〉
主催者が女性だと分かり、浩紀のやる気は急上昇した。
「よし……それまで自主練だな」
それからの二週間、仕事帰りにボーリング場へ通い詰めた。おじいちゃんの相手は仕事だけで十分だ。サークルでは若い人たちと楽しく交流し健康も取り戻す。そんな未来を思い描きながら黙々とボールを投げ続けた。
迎えた当日。
ボーリング場には人はいるが、いかにもサークルという若者の集団が見当たらない。
「あれ……時間、合ってるよな?」
きょろきょろしていると、後ろから声をかけられた。
「もしかして、相本さん?」
振り返ると、そこには自分の母親くらいの年齢のおばあちゃんが立っていた。
「あ、え……はい、相本ですけど……」
「みなさーん! 相本さん、いらっしゃいましたよー!」
その声に導かれて視線を向けると、奥のレーンには十人弱のおじいちゃんとおばあちゃんの集団。
「わぁ、こんな若い人が来てくれるなんて!」
「嬉しいわぁ、なかなか若い人と話す機会がなくてねぇ」
「これからよろしくお願いしますね!」
拍手まで起きている。
浩紀は、静かに天を仰いだ。
終




