第95話 いろいろな面
焼きそばも食べ終わり、みんなそれぞれジュースやビールを飲みながら、話し始めた。
「早く、海潜りたい」
いつの間にか、また麦さんが戻ってきていて、木暮さんにそう言った。
「綺麗だったよ、なあ、聖」
「海?うん。最高だった」
「いいな~~。伊豆で取ってきたんでしょ?ライセンス」
「ああ、うん」
聖君は、無愛想に答えている。
その横で、葉君は菜摘と、なにやらいちゃついていた。いや、いちゃつくっていうか、ただ話してるだけなんだけど、菜摘が葉君に甘えていて、葉君はそれを喜んでるって感じで。
あんまり最近、このツーショットを見ることがなくって知らなかったけど、すっかりいちゃつくようになったんだな。
そういえば、菜摘、葉君より私の方が甘えてるって言ってたっけ。
私、こんなふうに聖君に甘えることってないな。聖君だって、甘えるってことはないかも。無邪気に笑ったり、抱きしめてくることはあるけど。
「夏には、みんなで潜りに行くから、それまでにライセンス、麦ちゃんも取らないとね」
木暮さんが麦さんにそう言うと、麦さんは、
「そうだよね。早くに取らなくっちゃ」
と、意気揚々とした表情を見せた。
その時、
「もう~~!葉君、ちゃんと聞いてた?!」
と、菜摘が大きな声をあげた。
「聞いてた、聞いてた…。えっと、あれ?なんだっけ?」
「やっぱり聞いてない!今日の花火だよ。見ていくって言ってたでしょ?」
「ああ、花火ね」
そんな会話をしながら、菜摘は葉君の腕に手を回し、
「何か考え事してた~~?ちゃんと聞いててよ」
と口を尖らせた。
「ごめんって」
葉君は謝りながらも、にやついていた。菜摘がくっついているのが、嬉しいらしい。
それを麦さんが、顔をしかめて見ていた。
「ねえ、花火見るの?」
麦さんが二人に聞いた。
「あ、はい。八景島で週末は花火やるって聞いてたから」
菜摘が答えると、
「じゃ、その時間までみんなでいるってどう?聖君」
と、麦さんが聖君に聞いた。
「え?どうかな。部長に聞いて。このあと片付けて解散するって言ってたし」
「そうなの?じゃ、何人か花火見たい人で残るってのは?」
「どうかな。みんなに聞いてみたら?」
「聖君は見ていかないの?」
「俺?見ていくよ。葉一の車で来たし、一緒に見て、帰ると思うけど?」
「木暮君はどうするの?」
「何も用事ないし、見ていってもいいけど。そのあと麦ちゃん車で送ってあげるよ」
「じゃあ、私も見ていくことにしよう」
麦さんがそう言った。
「何よ~~!葉君!」
また菜摘は大きな声を出した。葉君があははって笑っている。
「あの二人は、付き合いだしたばかり?」
麦さんが聖君に小声で聞いた。
「いや、もう1年半くらいになるかな」
「そんなに長く付き合ってて、あんなにはしゃいでるの?」
麦さんが呆れた。
「え?そんなもんでしょ?っていってもあの二人は、付き合いだした頃、なんかぎくしゃくしてたし、最近だよ、あんなに仲良くなっちゃったの」
聖君はそう言うと、二人を眺めて、くすって笑った。
「ふうん。なんだか私は信じられないな」
麦さんがぼそってそう言った。
「信じられない?」
木暮さんが聞いた。
「私、今まで男の人と付き合っても、あんなふうに甘えたりすることなかったし。いちゃつく男の人も嫌いなのよね」
「え?そうなんだ。じゃ、どんな男と付き合ってたの?めっちゃクール?」
木暮さんが聞いた。
「そう、みんなクールで、言葉数も少ないし、大人の人」
麦さんがそう言うと、
「へえ。冷たいってことなら、聖みたいなやつってことかな?じゃ、聖なんてタイプじゃないの?」
木暮さんがそんなことを言い出した。
げ、そんなこと聞かないで!私は聖君の隣で顔を引きつらせた。
「俺、クールでも大人でもないよ」
聖君は、すかさずそう答えた。
「そうか~?ま、やろうといる時には、けっこうはしゃいでるけど、女の前じゃ、クールなんてもんじゃないだろう、お前」
木暮さんは、聖君に向かってそう言った。
「ね、桃子ちゃんもそう思わない?こいつクールで、話しにくいやつでしょう?」
木暮さんは聖君の横にいる私を、覗き込むようにして聞いてきた。
「は?」
私は木暮さんからいきなり質問されて、とんでもない声が出てしまった。
「木暮君、桃子ちゃんは隣にいられるだけでいいのよ、きっと」
と今度は麦さんに、そんなことを言われた。
「え?!」
なんでわかったの?っていうか、なんでそんなことを言われたの?私。
「そういう感じを漂わせてるもの」
麦さんの言い方は、何かを含んでいる。
「……」
聖君は黙って、どこかを見ていた。それから、ぼりって頭を掻いた。
「聖君は、どんな子がタイプなの?」
麦さんが聞いた。
「え?俺?」
「女の人苦手って言ってたけど、タイプはあるでしょう?もしかして古風な人が好きだったりするの?」
「古風?」
「俺についてこいってタイプだったり?」
「いや、そんなことないけど」
相変わらず聖君は、口数も少ないし、ぶっきらぼうだ。
「じゃ、どんな人がいいの?」
麦さんはそれでも質問を繰り返す。相当、聖君に興味があるんだな。
「麦ちゃんはツンデレが好きか」
木暮さんが聞いた。
「ツンデレ?何それ」
聖君が聞いた。
「お前みたいな、冷たいやつ。わざとお前、冷たくしてるの?もしかして」
「俺?いや、そんなことないけど」
聖君がびっくりしていた。
「そうね~~。でも、ナルシストの人は嫌い」
と麦さんは言った。
「ねえ、桃子ちゃんはどんな人がタイプ?」
木暮さんがまた、私の方を覗き込んで聞いてきた。私が会話に入らないから、気を使ってくれるんだろうか。ほっといてくれても、かまわないんだけどな~。
「私は…」
聖君なんです。タイプ。とは言えず、口ごもってしまった。
「やっぱりクールなやつ?」
木暮さんが聞いた。麦さんも私のことを、じっと見ていた。聖君はすぐ横で、下を向いていた。う。きっと聖君も、今、耳を澄ましてるんだろうな。
「クールな人は、あまり…」
と私が言うと、
「あら、そうなんだ」
と麦さんが言った。意外~~って顔をしている。
「優しくて、一緒にいるとあったかい人が好きです」
「へえ、なんだ、そうなの?けっこう一般的な答えだね」
木暮さんが言った。
「ほんと、女の子ってみんなそう答えるわよね~~。でも、他にもあるでしょ?背の高さとか、具体的に」
麦さんがつっこんできた。
「え?背は、私小さいから、私より高ければ、別に」
と言うと、麦さんは、
「え?」
と聞き返した。あ、そっか。声小さいか。
「背は特に気にしてないです」
私は大きな声で答えてから、
「他には、えっと」
と考え込んだ。そうだな~~。
「笑い上戸で…、子どもっぽくて、可愛いところもいっぱいあって、でも、頼りになって…」
これ、聖君のことなんだけど。
「笑顔が素敵な人がいいです。それから、家族思いで、夢を持ってて、それを話す時には目がきらきらして、あとは…、あ。綺麗な人が…」
「綺麗?!」
木暮さんが驚いた。
「綺麗って言うか、色気があるって言うか」
言ってから、あ、変なことを言ってしまったと思った。
「そんな男の人がいるわけないじゃない」
と麦さんが笑った。
聖君は私の方に顔を向けて、真っ赤になっていた。あ、自分のことを言われてたの、わかったんだ。それから、口だけで、
「俺?」
と聞いてきた。私は小さく目でうなづいた。そうしたら、頭をぼりぼり掻いて、照れていた。
「漫画の主人公?」
木暮さんが聞いた。
「え?いいえ」
「夢見る夢子ちゃん、それで爽やかで、スポーツ万能で、なんでもできて、なんて言うんじゃないでしょうね」
麦さんが、ちょっと馬鹿にしたように言った。
「あ、そうです。すごく爽やかなんです。それに、スポーツ万能で、歌もプロでもやっていけるくらいうまくって、お料理も上手で…」
聖君は頭を下げてしまった。相当聞いてて、恥ずかしいらしい。
「そんなに完璧な人いるの?っていうか、やたら具体的だけど、周りにいるわけ?」
「はい」
あ、いけない。はいって答えてしまった。
「憧れの人なんだ。もしかして」
「え?」
「だけど、それ絶対に、勝手にあなたが思い込んでるだけじゃない?片思いしてると、相手のこと勝手に想像しちゃうのよね。マイナスの面って誰でも持ってるから、幻滅することになるわよ、気をつけないと」
麦さんにそう言われてしまった。
「幻滅?」
聖君がその言葉に反応した。さっきまで顔を赤くさせていたのに、素の顔に戻っていた。
「あの!」
困った。幻滅なんてしないから、大丈夫なのに。
「私、別にいいところばかりを見て、好きなわけじゃ…」
私は慌てて、麦さんにそう言った。
「じゃ、マイナスの面も見てるってこと?どういうところ?」
麦さんがまた聞いてきた。この人、なんでもつっこんで聞くのが、好きなんだろうか。
聖君は私を見た。
「えっと、それは」
私は考えながら、話し出した。
「その人も、悩むこともあるし、情けないところも、あ、情けないって自分で言うけど、私は情けないとか、思ったことないんですけど」
聖君は、目を丸くした。
「それから、弱いところも見せてくれることがあって。でも、そういうところも、含めて好きっていうか」
あれ?もしかして、本人目の前にして、思い切り私、告白してる?今…。
私の顔が一気に、熱くなった。きっと真っ赤だ。目の前の聖君も赤くなってる。
「弱いところも好きなの?」
麦さんが聞いた。
「はい」
私はうなづいた。
「じゃ、嫌いなところは?」
「ないです」
「え?!」
麦さんが驚いた。
「ないんです」
私はもう一回、そう言うと、隣で聖君はまた、頭を掻いて照れていた。
「お付き合いしたら、見えてくるのよ。嫌なところ」
麦さんに言われた。さて、どうしようか。実は彼氏なんです。付き合ってるんですと言った方がいいのだろうか。
「何~~?さっきから聞いてたら、その思いっきりののろけ!」
菜摘が後ろから、私の背中をつついた。
「え?聞いてた?」
私が振り返りながらそう言うと、
「あ!真っ赤だ!桃子!」
と菜摘に言われてしまった。
そのあと、聖君の方も見ると、
「兄貴まで、真っ赤だ!こんな真っ赤なの見たことない!」
と茶化していた。
「うっせ~~よ、お前は!あっち行ってろよ」
聖君は菜摘の頭をこついた。
「もう~~、ラブラブ~~」
菜摘が聖君の腕をぐりぐりすると、
「お前らの方がラブラブなんだろ?さっきからいちゃつきやがって」
と、その手を振り払って聖君が言い返した。
「兄貴のどこが可愛いんだかわからないけど、桃子から見たら可愛いわけね。情けないところなら、私も知ってるけど、家の中で捻挫したりとかね」
と、菜摘はまだ、しつこく聖君にからんでいた。
「だ~~~!!うっせ~~っていうの、お前は!」
聖君は菜摘の髪をぐしゃぐしゃにした。
「やめてよ、兄貴。髪、せっかくセットしてきたのに」
「そんな短いのに、どこをどうやってセットするんだよ?」
「うるさい~~」
菜摘はまた、髪をショートにしていた。夏が来るとばっさりと切るんだよね。
「仲いい兄妹だな」
木暮さんが驚いていた。
「そんな一面もあるんだ」
木暮さんは目を丸くして、まだそんなことを言っている。
「それより、ラブラブって何?」
麦さんが聞いた。
聖君は黙って、無視していたけど、木暮さんが、
「ああ、そうだ、そうだ。桃子ちゃんとラブラブみたいなこと言ってたけど、あれ?お前らって?」
と木暮さんも、聖君に聞いてきた。
「……」
聖君は黙っていたけど、
「まさか、桃子ちゃんと付き合ってるのか?お前」
と木暮さんが、聖君の顔を覗き込んで聞き、それから私を見た。麦さんも、目を丸くして私を見た。
「言わなかったっけ?俺」
木暮さんに聖君がぼそって言った。
「言わなかったっけ?じゃないよ、知らなかったよ。お前に彼女がいるってことも知らなかった」
木暮さんはそう言うと、
「はじめに、ちゃんと彼女だって紹介しろよ!ちょっと桃子ちゃん、タイプだなって思っちゃったろ?」
え?!!!
「うそ、そうなの?木暮って、きゃしゃで、折れちゃいそうなモデルみたいな子が好みじゃん」
と、聖君が驚いて聞き返すと、木暮さんは、
「だから、桃子ちゃんって、絶対に守ってあげないとならないような、かよわい感じじゃん」
とそう言った。
か、かよわい?私が?
「そう、そう見える。男の人が、守ってあげたくなるような。それも計算してるの?」
わ!麦さんがにらみながら聞いてきた。
「桃子ちゃん、かよわくないよ」
聖君がいきなり言った。
「え?」
麦さんと木暮さんが同時に聞き返した。
「俺より、男らしいところあるし、内面、すげえ強いから」
聖君が真面目な顔でそう答えた。
「桃子、強いんだよ!男の人もばきって、グーで殴るくらい。木暮さん、ちょっかいだしてたら、殴られてたかも」
菜摘が、後ろからそう言って、割り込んできた。
「グーで殴った?!」
木暮さんが驚いた。
「あ、あれは、あれは頭に血が上って、っていうか、ブチって切れちゃって」
ああ、フォローになってない、今の…。私はしどろもどろになってしまった。
「あはは!そうなんだよね。桃子ちゃん、たまに強くなるの。俺もびっくりする。だけど、強くなる時って、人のこと守ろうとする時なんだよね」
聖君が笑いながらそう言った。
「え?」
麦さんが真顔で、聖君に聞き返した。
「麦ちゃんが桃子ちゃんのこと、どう勝手に思ってるか知らないけど、多分、本当の桃子ちゃんは、麦ちゃんが想像できないと思うよ」
「本当の?」
「そ!あ、言ってなかったけど、俺のタイプの子は、桃子ちゃんそのものだから」
わ~~。聖君、そんなことあっさりと言ってるし!聞いてて、こっちが赤くなる!
「あ、桃子ちゃん、真っ赤だ」
それを見て、聖君におでこをつつかれた。
「聖君だってさっき、赤くなってた」
私がそう言い返すと、
「だって、俺のこと話し出すんだもん。隣で聞いてて、めちゃくちゃ恥ずかしかったよ!」
聖君はそう言うと、またあははって笑った。
あ、いつもの聖君だ。
「もう~~、二人して、のろけまくり」
菜摘は私の肩にわざとぶつかってきた。
「本当に、付き合ってるの?」
麦さんがそう聞いたあと、
「じゃ、さっきの桃子ちゃんの好きなタイプって全部、聖君?」
と目を丸くしたまま、聞いてきた。
「はい」
私は、真っ赤になりながらうなづいた。
「可愛い?優しい?あったかい?まったく聖君と正反対じゃないの?」
麦さんは、怖い顔をして私に聞いてきた。え?なんで怒ってるの?
「麦ちゃん、俺、桃子ちゃんの前だけ、態度変えるの。好きな子の前では、でれでれになるし、クールのクの字もなくなる、そんなずるくて、せこいやつなんだよ」
聖君はそう言ってから、私を見ると、
「ね?」
とにっこりと笑った。ね?って言われても、だって、私の前での聖君が本当じゃないのかなって思ってしまい、何も答えられなかった。
麦さんは黙り込んだ。木暮さんと聖君は先輩のみんなに呼ばれ、バーベキューの片づけを始めた。
「俺も手伝ってくるよ」
葉君もそう言って、手伝いをしに行った。麦さんはまだ、黙って聖君の方を見ていた。
聖君は、さっさと手際よく片づけをしながら、葉君とたまにふざけて、大笑いをしていた。
「あんなふうに大笑いするんだ」
どうやら、麦さんはサークルに入ってから、聖君の一面しか見てないようだ。もしかすると、すごくクールな人ってイメージで見ていたのかな。
私は聖君を見ながら、あ、今、ふざけて笑っているのも、真剣に片づけをするのも、女の人に冷たいのも、どれも聖君なんだって思っていた。
どんな聖君が本物で、ってわけじゃない。いろんな面の聖君がいるんだ。私といたって、頼りになる時もあれば、弱い時もある。静かな時もあれば、はしゃいでる時もある、でも、全部が聖君だ。
麦さんはしばらく黙っていたけど、菊ちゃんに呼ばれ、手伝いに参加しに行った。私と菜摘も、ゴミを集めたり、荷物を運んだりして、お手伝いをした。そして、あっという間に片付いて、みんなで輪になり、大木戸さんが挨拶をした。
「ここで解散にします。これから八景島でまだ遊びたいやつは残ってもいいし、帰りたいやつは帰ってもいいし。ただ、酒飲んだやつには、絶対に運転させないように!じゃ、解散!」
「お疲れ様でした~~」
みんなそれぞれわらわらと、荷物を持って移動を始めた。
「4人で八景島シーパラダイス行って、遊ぶか?」
聖君がそう提案した。
「賛成~~~」
菜摘が嬉しそうに両手を挙げた。そして二人で、
「ジェットコースター乗ろう!」
とはしゃいでいた。
さすが、兄妹、同じ血が流れているな~~。後ろから私と葉君は、歩き出した。その後ろから、
「俺らも混ぜて」
と、木暮さんと麦さんが走ってきた。
「兄貴!競争!」
菜摘が走り出した。
「負けるか!」
と聖君も走り出した。うわ~~~!って声をあげながら二人で走っていく。
「あんな聖君、見たことない」
麦さんはまた目を丸くした。
「あ、いつも俺らといるとあんなですよ」
と葉君はクールにそう言った。
麦さんはまだ、目を丸くしていた。
「もしかして、聖のこと嫌になりました?てんでクールじゃないから」
葉君は、ちょっと口元をゆるませ、そう言うと、麦さんは、
「え?そんなことない。意外だったけど、ああいうところが可愛いっていうところなのね」
と、ちょっと笑ってそう言った。
あ、あれれ?あれれれ?麦さんの目が優しくなっていて、聖君のことを目で追いかけてるのを見て、私は一抹の不安を感じていた。