表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/123

第90話 旅行の朝

 どうしてこうも、聖君は素敵なんだろうか。目も、鼻も、眉毛も、口も。うっとりとその色っぽい聖君の顔を見ていた。

 浴衣姿、本当に素敵だったな。浴衣の胸元から見える聖君の胸も、鎖骨も、これまた色っぽい。

 こんな話を菜摘にしたら、また変人扱いされちゃうかな。でも、本当にそう思うんだからしかたがない。色っぽい聖君に、くびったけなんだから、しょうがないよね。


 聖君はだんだんと、眠くなっているのか、口数も少なくなり、そのうち寝息をたてた。

 ああ、朝まで聖君といられるんだ。幸せだな…。

 聖君の寝顔を見ていた。この寝顔は、きっと他の人見たことないんだよね。


 静かだった。この世界に二人きりなんじゃないかっていうくらい、とても静かな夜だった。

 すう…。聖君の寝息だけが聞こえる。そっと聖君のおでこにかかっている前髪を、あげてみる。形のいい眉毛と、おでこが見えた。

 あ、おでこに一つにきびができてる。そっか。聖君でもにきび、できるんだ。

 それから、眉毛と目の間に、小さなほくろがある。それすら愛しくなる。


 聖君は、深い眠りに入っているのか、まったく起きなかった。私はそっと、聖君にキスをしてみた。

「ん?」

 わ!起きちゃう?

 でもやっぱり、聖君はまた、寝息をたてて、すやすや寝てしまった。か、可愛い~~。

 聖君の胸に顔をうずめた。聖君の鼓動を聞き、聖君の匂いに包まれ、聖君のぬくもりを感じた。

 そして私は、安心しきって眠りについた。


 ふわ…。誰かが優しく私の髪をなでてる。それから頬…。この手、知ってる。聖君だ。

 パチ。目が覚めた。聖君が優しい瞳で私を見ていた。

「おはよう」

 聖君がにっこりと微笑んだ。

「お、おはよう」

 なんだか、その笑顔にものすごく照れくさくなった。


「あ、また私、寝坊?」

「大丈夫。まだ、朝の7時だから。朝ごはん8時にって昨日言ってあるし」

「でももう、起きなくっちゃね」

 私はそう言って布団から出ようとした。

「あ…」

 思わず、自分が裸でいたことに気がつき、また布団にもぐりこんだ。


 えっと、着替え。じゃなきゃ、浴衣は?

「そのまま布団から出てもいいよ?」

 聖君に言われた。

「じゃ、向こう向いてて」

 そう言うと、聖君は、

「はいはい」

と言って、背中を向けた。そのすきに、布団から出て、浴衣を探した。

「浴衣、ないよ?」

「ああ、布団の中かも」

「下着も…、ない」

「それも布団の中のどっかにあるかも」


 そうは言われても、布団の中には素っ裸の聖君がまだいる。まさか、聖君から布団をはいで、探すわけにもいかない。

 私はもう一回、布団の中に入り込み、ごそごそと足元を手で探した。

「一緒に探そうか?」

「大丈夫。浴衣見つかった」

「それ、俺のじゃない?」

「え?でも、一緒でしょ?」

「サイズが違うよ。それ、でかいよ?」

 そうなんだ。


「じゃ、どこ?」

「あれ~?俺、昨日脱がしてから、どこにやったかな」

 聖君は考え込んだ。脱がしてからって言葉が、やけに恥ずかしかった。

「いい。服着る」

 そう言って、今度は下着を探し出した。あ、ブラはあった。でも、パンツがない。どこ?


「下着探してる?」

「うん」

「ない?」

「うん」

「あれ~?俺、どこにやったかな。脱がしてから」

「いい。それ、いちいち言葉にしなくても」

「え?」

「聞いてて恥ずかしいよ」

 真っ赤になると、聖君はそんな私を見て、

「赤くなってる。おもしれ~~、桃子ちゃんって」

と笑っていた。


「はい。俺の足の下にあった」

 聖君が、パンツを渡してくれた。

「わ~~~」

 真っ赤になって、慌てて受け取った。バクバク!心臓がバクバクしてるよ、もう~~。

「面白い。もっと赤くなった」

「私で遊ばないで」

「あははは!」

 思い切り、笑われた…。


 布団の中でもそもそと下着をつけた。

「手伝う?」

「え?」

「俺が脱がせたんだから、今度は着せようか?」

「いい!!」


 時々、とんでもないことを聖君は言ってくる。本気で言ってるわけはないと思うけど、たまに本気の時もあるみたいだ。

 やっとこ下着をつけられて、聖君にまた後ろを向いててもらって、服を着るために布団から出ようとすると、後ろから聖君が抱きしめてきた。


「聖君?着替えるから離して。それに後ろ向いてて」

と言っても、離してこない。

「聖君?」

 あ、あれ?なんで、ブラのホックを外してるの?!

「聖君!」

「え?」


「それ、今、やっとこつけたところ!」

「ああ。また脱がしちゃった。ごめん」

 ごめんじゃない~~~!!何を考えてるんだ!

「あれ?外すのは簡単だけど、つけるのけっこう大変」

 どうやら、ホックをつけようとしてるらしい。


「いい、自分でする」

 そう言って、自分でつけると、

「すげえ。手を背中に回してつけてるんだもんな。考えてみたら、よくできるよね、そんなこと」

と感心していた。

「……」

 まったく、何を言ってるんだか。これも、遊ばれてるの?もしかして。


「聖君も起きて、顔洗わないと、間に合わなくなるよ」

「大丈夫だよ。10分もあればできるから」

 聖君はそう言うと、布団の中にもぐりこみ、

「は~。布団、気持ちいいね」

とにこにこしていた。

「じゃ、そっちを向いててね。着替えるから」

 聖君はもそもそと後ろを向いた。そのすきに、さっと出て、セーターを着て、ジーンズを履いた。


「それも、もしかして、脱がせやすいような格好にしたとか?」

 聖君が後ろから聞いてきた。ぐるっと振り返ると、完全にこっちを向いていた。

「そっち、向いてたんじゃないの?」

「うん」

「見てた…とか?」

「うん」

 聖君はそう言うと、にっこりと微笑んだ。


「も~~~!!!」

「なんで?いいじゃん。着替えるところ見ても。なんで恥ずかしいの?」

「恥ずかしいものは、恥ずかしいの!」

 ほんとに、聖君は…。菜摘じゃないけど、無邪気すぎるよ。


 でも、その笑顔も爽やかで、無邪気だから、まったくいやらしいと感じるところがない。そこがまた、聖君のすごいところだ。

「顔、洗ってくるね」

 そう言って、洗面所に入った。鏡を見ると、髪がぼさぼさだった。ああ、やっぱり。

 聖君は後ろがはねてるものの、ここまでぼさぼさじゃない。私は癖毛だからかな。


 顔を洗い、歯を磨き、髪をとかして、部屋に戻った。聖君は洋服を着ているものの、まだ、ねころがっていて、布団を抱きしめていた。

「?」

 何をしてるのかと思うと、

「布団、桃子ちゃんの匂いがする」

と言って、ごろんごろんと抱きついている。それを聞いて、また、私は真っ赤になった。


 カーテンを開けて、外を見た。ちょっと曇ってはいたけど、雨は降っていなかった。

「帰り、どっかに寄ってく?」

 聖君がまだ、ねっころがりながら聞いてきた。

「どこか、あるの?」

「う~~ん。駅の辺りには何かあるかな」

「それより、菜摘と葉君…」

「え?ああ、一緒に来てたんだっけね。忘れてた」


 え~~~。まじで?聖君。ちょっと呆れて聖君を見ていると、

「もう、別行動にしちゃう?」

と聖君は、無邪気な顔のまま聞いてくる。

「……。どうかな~。菜摘、葉君と二人で大丈夫かな~~」

「大丈夫だろ?桃子ちゃんは菜摘の保護者じゃないんだから、そこまで心配しなくっても」


「だよね。保護者っていったら、聖君がそうだもんね」

「え?!」

 聖君は一回、きょとんとして、

「あ、そっか。俺、菜摘の父兄ってやつか」

と、ぼそって言った。ほんと、兄だってことも忘れてるよね。


 聖君も、大きな伸びをすると、ようやく起き上がり洗面所に行った。それからしばらくして、戻ってくると、かっこいい聖君になっていた。

 でも、寝ぼけた顔をしてる聖君も、寝癖のある聖君も、可愛かったよな~~。


 鍵を持って部屋を出て、食堂に向かった。まだ、菜摘と葉君は来ていなかった。

 もうテーブルには、朝食の準備は整っていた。しばらくそのまま待っていたが、10分たっても来ないから、先に食べることにした。

 食べ終わる頃、ようやく二人がやってきた。あれ?手なんてつないでるよ?それも、まだ、浴衣だし。


「おはよう」

 葉君がそう言って、席に着いた。

「おはよう。もしかして、寝坊?」

 聖君が聞いた。葉君は、髪がぼさぼさで、菜摘も眠そうな顔をしていた。

「ああ、起きたら8時だった」

 葉君は、ちょっと恥ずかしそうにそう言った。


「まじ?じゃ、電話でもして起こせばよかったかな」

「聖、早起きしたの?」

「俺?うん。7時前には起きてたよ」

「え?そんなに早く?」

 私がそう聞くと、

「うん。目は覚めてた。で、ずっと桃子ちゃんの顔を眺めてて…」

と言いかけて、聖君は葉君と菜摘を見て、途中で話をやめてしまった。


「ああ、コホン。俺ら先に部屋戻ってるよ。あ、俺、朝風呂でも入ってこようかな~~」

 聖君は頭を掻きながらそう言った。

「ああ、俺も食べたら風呂に行く。お前、露天風呂に入る?」

「うん。露天風呂の方が、気持ちよさそう。じゃ、部屋で待ってるから、行く時呼びにきて」

「うん」

 葉君がうなずくと、聖君は席を立ち、私も席を立った。菜摘を見ると、何も話さず、ぼ~~ってしている感じだった。まだ、眠いのかな。また、葉君が隣にいて、緊張で寝れなかったとか?


 部屋に戻ると、聖君がいきなり、

「なんか、あの二人見てるだけで、恥ずかしくなったや」

とそんなことを言ってきた。

「え?」

「手とかつないでくるし、寝起きで、ぼけらっとしてるし、菜摘なんて、心ここにあらずって感じだったしさ」

「え?寝ぼけてたんじゃないの?」

「違うよ。あれはどっかにいってる。桃子ちゃんもよくあるじゃん」

 …。意識がどっかに飛んでいってた?もしかして。


「あ、俺、葉一とじゃなくて、桃子ちゃんと露天風呂入りたかったんだ。あ~~あ。葉一に呼びにきてなんて言わなきゃ良かった」

「入らないよ、一緒になんて」

「え?そうなの?」

「当たり前じゃない」

 真っ赤になってそう言うと、

「もう、桃子ちゃんってば、いつまでたっても、恥ずかしがり屋さん」

と聖君は声色を変えて、言ってきた。もう、またからかって遊んでる。


 それから、しばらくすると、葉君が呼びにきて、聖君たちはお風呂に入りに行った。その間に私は菜摘を呼びに行き、女風呂に入りに行った。

 菜摘は、お風呂に行く間にも、ずっとだんまりで、湯船につかり、ようやく言葉を発した。

「昨日ね、葉君と結ばれちゃった」

 そう言うと、菜摘は真っ赤になった。


「あ。そ、そうだったんだ」

 こっちまで、恥ずかしくなり、真っ赤になった。

「なんだか、自分が自分じゃなくなったみたいで。でも、変わらないんだよね?」

「うん」

「葉君と一緒にいるのが、恥ずかしいような、でも、くっついていたいような、変な感じなんだ」

「うん」


 なんだか、わかるな、それ。照れくさいんだけど、嬉しいんだよね。

「今頃、葉君、兄貴にも報告してるのかな」

「かもね」

「…。庭に行けば、話が聞けたかな」

「え?」

「でも、変なこと言ってたら、聞きたくないし、いいや」

「え?」

「聞くの、恥ずかしいもんね」

 確かに。私も聖君が、あの無邪気さでとんでもないこと言ってたら困るし。あ、でも、とんでもないことを言ってるかどうなのかを、確認してみたいって気もするけど。


 菜摘は、また黙り込み、ぼ~~ってしていた。それから、

「ああ、やばい。また回想してた。私」

とぼそって言った。

「回想?」

 ああ、そういえば、私も何度も聖君のぬくもりや声や、熱い目を思い返していたっけ。


「葉君ね、本当に優しかったんだ」

「う、うん」

 わあ。こういうのは、聞いてても恥ずかしいものなんだ。

「なんで私、怖がったりしてたのかな。葉君、あんなに優しいのに」

 それもわかる。

「兄貴も優しい?」

「え?う、うん」

 思いっきり優しいよ。


 二人で、は~ってため息をついた。それから、しばらく二人とも黙っていた。私は聖君の優しいぬくもりを思い出し、きっと菜摘は、葉君を思い出していたに違いない。


 お風呂から出て、部屋に戻ると、もう聖君と葉君が部屋の前にいた。

「ごめん、鍵、私たちが持っていたから、入れなかったよね」

 慌てて私がそう言うと、

「ああ、大丈夫。ほんと今きたばっかりだし」

と、聖君は湯気が体から、出てるんじゃないかってほど、ほかほかになりながらそう言った。


「11時だっけ?チェックアウト」

「うん。11時になったらフロントに行こう」

「わかった」

 聖君と葉君はそう言うと、鍵を開けて、部屋に入った。私と菜摘もそれぞれの部屋に入っていった。


「は~~。気持ちよかった」

 聖君はそう言って、椅子に座った。

 私は、タオルをかたづけたり、荷物の整頓を始めた。

「菜摘、何か言ってた?」

「え?」

 ドキ!聖君に言っちゃってもいいんだろうか。


「えっと…。葉君と結ばれたって、言ってた」

「そっか。桃子ちゃんに話したんだ」

「葉君は?」

「うん。ちゃんと話してくれたよ。もうでれでれになって、顔がずっと締まりなくって、大変だったけどさ」


「葉君が?」

「ああ、にやけっぱなし」

「そうなの?でも朝食の時はそうでもなかったよね」

「にやけるのをおさえてたんじゃないの?」

「そうなんだ…」


「まあ、詳しくは言わなかったけどさ。ただただ、でれでれになってたね」

「菜摘もぼ~~ってしてた。葉君、優しかったとしか言わなかったけど」

「え?そんなこと言ってた?」

「うん」

「そうか~~」

 聖君はしばらく黙り込み、

「えっと、桃子ちゃん、俺は?」

と頭を掻きながら聞いてきた。


「俺?」

「うん、その…、優しいとか、なんとか、その…、俺ってどうなのかな~~って思って」

「聖君?」

「うん」

「……。や、優しいよ」

「今、一瞬間があったよね?まじで、そう思ってるの?」


「うん。いつも優しい。でも」

「でも?」

 聖君が何を言うんだろうって顔で、聞いてきた。

「優しいけど、色っぽい」

「は?」

「あ!こんなこと言ってたら、私変態かな?」

「はあ?」


「昨日も、菜摘に言われて。桃子、変だよって」

「え?何を言ったら?」

「聖君が入った露天風呂に入って、真っ赤になってたら」

「……」

 聖君はちょこっと腕を組んで考えて、

「なんだか、男の発想だね」

とつぶやいた。


「え?そうなの?」

「俺って、色っぽいの?たまにそういうこと桃子ちゃん、言うけど。あ、浴衣姿も見たいとかなんとか」

「うん、浴衣姿もかっこよかった」

「そうなんだ」

「私、やっぱり変?」

「うん。俺に惚れ過ぎ」

「う…」


 真っ赤だ、きっと今も。惚れ過ぎって言われても、しょうがないじゃない。好きなものは止められないよ。

「でも、俺も惚れすぎてるから、おあいこ!」

 聖君はそう言うと、私に抱きついてきた。それから、キスをしてきて、また抱きついてくる。

「桃子ちゃんの浴衣姿も、すげえ色っぽかったし、可愛かった!」

 聖君がまた、めちゃくちゃ可愛い笑顔で、無邪気にそう言った。



 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ