第86話 相談
次の日、学校に菜摘と一緒に行った。
「昨日は、兄貴、大変だったね」
「うん」
「もてちゃうっていうのも、大変なんだな~。でも、そんなもてちゃう人が彼氏でも、桃子は何も心配がなくっていいよね」
菜摘の言うことが、よくわからなかった。
「心配がないって?」
「だって、兄貴、桃子一筋だから」
「え?!」
思わず、顔がほてった。
「大学いっても、兄貴は硬派だろうな。女の子なんて関係ないって感じじゃない?」
「う~~ん、どうだろう。わかんないけど」
菜摘に旅行のことを、相談したかったけど、なかなか言い出せないでいた。
「菜摘、今日の帰り、暇?」
「今日?うん。何もないよ」
「ちょっと話があって」
「うん、いいよ。学食でも寄っていく?」
「え?うん。できたら、蘭もいてくれたら嬉しいんだけど」
「蘭も?じゃ、私から言っておくよ。階が一緒だし」
「うん、ありがとう」
帰りに直接、学食で会おうってことになり、下駄箱で別れた。
旅行。聖君と…。前だったら、そんなの夢のまた夢、ううん。思いもしなかったことだ。でも、実際、叶うかもしれないことなんだよね。それも、遠い未来じゃなくて、近いうちに。
私が行きたいと聖君に言えば、実現できることかもしれないんだ。
ドキドキしながら、帰りの時間を待った。そして、放課後になり、私はヒガちゃんと花ちゃんに、
「今日、約束あるから、もう帰るね」
と言って、さっさと教室を出た。
学食に行くと、もう蘭が来ていた。蘭のクラスの担任は、ホームルームがめっちゃ短いらしい。
「桃子!」
蘭が席から手を振った。
「ごめんね、今日、大丈夫だった?」
「うん。暇してたから、平気」
私はジュースを買って、蘭の隣に座った。
「昨日卒業式だったんだよね?」
蘭が聞いてきた。
「うん、それで帰りに聖君の家に寄ってね…。それで、ちょっと蘭に聞きたいことがあって」
「え?何々?相談事?」
「うん」
菜摘がまだだったけど、蘭に先に聞いてみたかったから、思い切って、話をしだした。
「聖君が、今度の私の誕生日、旅行に行こうかって言ってきたんだ」
「え~~!よかったじゃん、桃子」
「まだ、決まってない。私、断っちゃったし」
「なんで~~?行ったらいいじゃない!」
「そうなんだけど。親になんて言ったらいいのかとか、いろいろと考えちゃって。蘭はどうしたのかなって思って」
「ああ、そっか。この前の旅行のことか。あれは、もちろん、友達と行くって言ったよ」
「友達?」
「クラスの子。実際にクラスの子も旅行に行ってたし、だから、私もその中に入れてもらってることにしたんだ」
「クラスの子も彼と?」
「ううん。友達は女友達とスノボーしに行ってたよ」
「そうなんだ」
そうか。それで、その子たちと一緒に行くってことにしたんだ…。
「私と旅行に行ってることにしたら?」
「え?蘭と?」
「春にね、旅行じゃないけど、彼とディズニーランドに行って、その帰り、泊ってきちゃおうかって言ってるんだ。なんなら、同じ日にして、私とディズニーランド行ってることにしちゃうのはどう?」
「…。嘘つくんだよね」
「大晦日も、嘘ついて聖君の家に泊ったんじゃないの?」
「うん。あ、でも、みんなで聖君の家に行くってことにしただけで、二人っきりっていうのは、言わないでいたんだけど…」
「そうか。まあ、聖君ちに行くってのは、本当のことだもんねえ」
「うん」
「嘘つくのが嫌なの?」
「嫌って言うか、気が引ける」
「じゃ、本当にディズニーランドに行く?帰りにどっかのホテル泊まっちゃえば?あ、うちらとは別行動にしてさ」
「え?」
「だったら、嘘にはならないでしょ?ディズニーランドに行くのは、嘘じゃないわけだし」
そうか。そうだよね。そういうのもありなんだよね。
でも、聖君の浴衣姿、見たいな~。
「ごめん!お待たせ」
その時、菜摘がやってきた。
「あ、私もジュース買ってくる」
そう言って、自販機に行き、ジュースを買って、戻ってきた。
「何の話していたの?なんか、桃子、真剣な顔で悩んでるけど」
「え?私?」
「うん」
「桃子ね、今度の誕生日に聖君から、旅行行かないかって誘われたんだって」
「え?旅行~~?!!」
「し~~。菜摘、声大きい」
「ごめん、びっくりして。そっか。桃子もなんだ」
「え?」
「実は、私も」
「え?菜摘も?」
「まさか、葉君から誘われたの?」
蘭もびっくりして、身を乗り出して聞いた。
「そうなんだ。仕事が来月から始まったら、なかなか平日は動けなくなるだろうし、その前に行かないかって」
「どこへ?」
私が聞くと、
「決まってないけど、温泉とかかな。それか、ペンションとかもいいねって」
「……」
葉君たら、すごい。もしかして、行動に出てみたのかな。
「あ!!!じゃ、桃子たちと4人で行けばいいんだよね」
菜摘の顔が輝いた。
「だったら、私も安心。親にも桃子と行くって言えるし」
「葉君とは行くって言わないの?」
私が聞くと、
「うん。きっと言ったら、駄目って言われると思うんだ。大晦日は、葉君のお母さんがぜひうちに、泊りにきてって、うちのお母さんにじかに言ってきたから、泊れたんだけどさ」
と、菜摘は答えた。
「そうか。じゃ、私も桃子と菜摘と、旅行に行くってことにしちゃえばいいんだ」
「え?蘭も?」
「彼氏とディズニーランドに行って、そのまま泊ってこようって話をしてるところなの」
「春休みに?」
「うん」
「じゃあ、3人で旅行に行くってことにしようよ。それで、桃子と兄貴と一緒に、私も葉君と旅行に行く」
「…でも、菜摘、葉君とのツインとか、一緒の部屋になるよ。いいの?」
「なんで?なんでそうなるの?」
「当たり前じゃない。なにせ、桃子はもう、聖君とできちゃってるんだから」
うわ。できてるって表現は、受け入れづらい。なんだか、めちゃくちゃ、恥ずかしい。
「え?じゃ、私と葉君」
「っていうかさ、葉君が旅行に誘ってきた時点でもう、そういうこと思い切り葉君が、意識してるってことでしょ?」
「え?」
「何もないわけないじゃない」
「……」
菜摘は黙っていた。
「それなのに、桃子とも一緒に旅行に行くってことになって、桃子と二人で同じ部屋になるなんて言ってごらん?葉君、果てしなく落ち込むか、呆れるか、ドン引きするか…」
「…ど、どうしよう、私」
菜摘が青ざめた。
「覚悟決めたら?」
「え?」
「社会人なんだよ?もう、葉君はさ。会社には、大人の女性もいるし、今までとはまったく別の世界に、葉君はいくわけだから」
「……」
菜摘はもっと、青ざめた。ああ、蘭のその言葉、私も去年聞いて、くらくらしてたっけ。大学には女の人がいっぱいいて、向こうから手招きしたら、ほいほいいっちゃうって…。みたいなこと言われたんだっけ。それで思い切り、不安になったっけ。
「も、桃子、私、どうしよう」
「…。もし、嫌だったら無理しないで、旅行、また今度にしたら?葉君には、それをそのまま伝えて…」
「……」
菜摘は、ものすごく考え込んでしまった。
「大人の女性に、取られていいの?」
蘭が、菜摘に言い寄る。
「それにね、葉君、絶対にずっと待ってて、もう待ちぼうけくらってると思うよ」
「え?」
「限界来てたら、知らないよ~~」
蘭が、そう言って、ジュースをごくんと飲んだ。
菜摘も、ジュースを一口飲むと、
「やっぱり、葉君、そういうの期待して、旅行行こうって言ってきたのかな」
と、真面目な顔で聞いてきた。
「そりゃそうでしょ」
蘭がそう言った。
「じゃ、兄貴は?」
「え?」
「兄貴はどうして、旅行に行こうって言い出したの?」
「それは、聖君が誕生日のプレゼント何がいいかって聞いてきたから、私は聖君と丸々一日一緒にいたいって言って、それで、じゃあ旅行に行こうって」
「桃子が、丸々一日一緒にいたいって言ったの?」
菜摘は驚いていた。
「うん。だって、本当に一緒にいたいって思って」
「わかる。桃子、わかるよ、それ。だから、私もお泊りしたいなって思ったんだもん」
「え?そうなの?蘭も?」
「だって、ずっと一緒にいたいってならない?菜摘」
蘭が聞くと、菜摘は、
「う、う~~ん。そんな時もあるような、ないような」
と、首をかしげた。
「本当に葉君のこと、好き?」
蘭が聞くと、
「もちろん」
と、菜摘は答えた。
「ああ、もうじれったい。だったら、いっちゃいなよ、旅行」
蘭がそう言うと、菜摘はまた、下を向いて考え出し、
「他の人に取られるのは嫌。それに、離れていったら嫌だ」
と、ちょっと泣きそうになりながら、話し出した。
「葉君、変わらないかな。そういうことあったら、そのあと」
と、菜摘はそんなことを聞いてきた。
「横柄になる男もいるかもしれないけど、葉君はならなさそうだよ」
蘭がそう答えた。
「蘭の彼氏は?」
「優しくなったし、甘えるようになったし、私も甘えてるし、なんか二人でいちゃつくようになったよ」
蘭の答えに、菜摘は、ちょっと驚いて、
「兄貴は?」
と私にも聞いてきた。
「聖君は…」
どうかな。
「あまり、変わらないかな。あ、でも」
「え?」
「一緒にいると、癒されるとか、元気になるとか、言ってくれる」
「桃子といるとってこと?」
「うん」
「じゃ、桃子は?何か変わった?」
「私?えっと…。あ、甘えてるかな。もしかすると思い切り」
「ええ?どんなふうに?」
「ど、どんなって。えっと…。ぎゅって抱きしめてもらったり、抱きついたり、二人でいると、デートしてても手をつなぐか、どっか触れてるかな」
「……。抱きつく?」
「うん」
「桃子、兄貴に抱きついちゃうの?」
「え?うん」
「普通に?」
「うん」
「兄貴も抱きしめてくるの?」
「うん」
「なんか、想像つかない」
「そう?でも、そんなもんだよ」
蘭が、あっさりとそう言うと、
「じゃ、桃子と兄貴もいちゃついてたり?」
と聞いてきた。
「え?え?ど、どうかな」
いちゃついてるのかな。
「わかった。一歩踏み出す勇気だよね」
いきなり、菜摘はそう言った。
「そうそう。ちょっとだけ勇気。あとは、葉君がリードしてくれるって」
蘭がそう言うと、菜摘は、顔をひきつらせ、
「旅行行くって、言ってみる」
と、断言した。
それから、みんなで駅まで帰った。結局、3人で旅行に行くと両親に言うことにした。
あ、それよりも先に、聖君に報告しないとな。
私の相談事のはずが、なんだか、菜摘の悩みを聞いて、背中を押す形になっちゃったな。
家に帰り、夜、聖君にメールした。
>私の誕生日のプレゼント、旅行に行くっていうリクエスト、もう、受け付けてくれないかな?
聖君から、何分も返事がなかった。
ああ、もしや、困ってるのかな。
すると、30分も過ぎた頃、聖君が電話をくれた。
「もしもし!受け付ける。ぜんっぜんOKだよ!」
電話に出るといきなり、そう言ってきてびっくりしてしまった。
「あの、菜摘と、葉君と一緒でもいいのかな」
と聞いてみると、
「知ってる。今まで葉一と電話してた。葉一のやつ、すげえ感動しまくってて、尋常じゃないテンションだった」
「え?どうして?」
「菜摘が、旅行に行くのをOKしてくれたって。でも、俺と桃子ちゃんも一緒でいいかって聞いてきたって」
なんだ。じゃ、聖君、私がメールする前から、知ってたんだ。
「俺たちと一緒じゃ、どうせ、菜摘が桃子ちゃんと部屋を一緒にとって、俺と葉一が同じ部屋になるなんてつまらないし、っていうか、俺は桃子ちゃんと朝まで一緒にいたいから、お前らとは行かないって断ったんだけどさ」
「え?」
「でも、菜摘が、兄貴は桃子と一緒の部屋がいいってきっと言うだろうから、自分は葉君と同じ部屋にするって言ったらしくって」
「ええ?」
そうか。菜摘、そんなこと!
「で、葉一はテンションあがりまくりで、初めてだね、あんな葉一は。いつもけっこう落ち着いてるのに」
「どんななの?テンションあがりまくりって」
「信じられない!とか、夢じゃないよな!とか、こんなに浮かれててあとで、へこむことにならないかな?とか、もう、いろいろと言ってきて、俺の話なんて聞きゃしない」
「そうなんだ」
「桃子ちゃんも、大丈夫なの?ご両親に…」
「桃子と、蘭と行くってことにしようかって」
「え?」
「3人で、旅行」
「ああ、なるほど。菜摘もそう言うのか、なるほどね」
聖君はしばらく黙ると、
「温泉か、ペンションか…。ちょっとどこか空いてるか、調べるからまた、メールするね」
と、そう言って電話を切った。
ドキドキ。実現しちゃうんだ。
二人きりではなく、4人になったけど、旅行。そうだ。沖縄に4人で夏に行こうか、なんて言ってたけど、こんなに早くに4人で旅行に行けるなんて。
菜摘も、ものすごい勇気を出したんだろうな。
ああ、私はうきうきのドキドキのワクワクだ。でも、菜摘は、いろんな想いが交差しているのかもしれないな。
聖君がまた、それから30分くらいして、メールをくれた。
>葉一とも相談して、泊る場所決めるね。あまり遠くないほうがいいよね。また、明日にでもメールする。おやすみ、桃子ちゃん。
>うん、おやすみなさい。
いきなりやってきた、聖君との旅行。今から興奮して、寝れそうにない。頭の中は、聖君の浴衣姿。ああ、また朝まで一緒にいられるんだ。そんなことを思うと、ドキドキして眠れない。
すると、菜摘からメールが来た。
>葉君に旅行行こうってメールしたんだ。今、兄貴とどこに行くか決めてる最中みたい。ああ!緊張!今から、緊張で、眠れそうにないよ~~~~!!!
菜摘は、菜摘で違った意味で、眠れそうにないみたいだな~。
どんな旅行になるのかな。葉君は学生最後の旅行だし、聖君にとっても、卒業記念旅行になるんだね。
そうして、ドキドキしながら、夜は更けていき、私は朝方になってようやく、眠りに着くことができた。