第79話 バカップル
聖君は無事に大学を合格した。
発表の前日、聖君はすっかり、開き直っていた。うちまでやってきて、ひまわりや母とわいわいと話して笑い、母に、
「受かっても、受からなくても、また遊びに来てね。我が家でぱ~~っと盛大に、パーティでもしましょうよ」
と言われて、
「受かんなくてもですか?」
と聖君はきょとんとした。
「そうよ~~。いいじゃないの。その時には、よく頑張った!って慰労会ってことで。ね?」
と、母が笑いながらそう言った。
「ありがとうございます」
聖君は頭を掻きながら、ぺこってお辞儀をした。
その日、夕飯は家で食べますと言って、聖君は帰っていった。そして夜、メールをくれて、
>桃子ちゃんのお母さん、最高だね。嬉しかったよ。ありがとうって言っておいてね。
と、そんなことが書いてあった。
>明日は、受かっても受かんなくても、一番に桃子ちゃんにメールするから。
>うん、待ってるよ。
そして、本当に、一番にメールをくれたみたいだ。
>桃子ちゃん!!!!!!!やった~~~~!!!受かった~~~!!!(>▽<)
という喜びのメール。
>おめでとう!!!!!!!
私もすぐに送り返した。
その日の夜は家で、家族でお祝いをしたらしい。私も参加したかったけど、うちでもお祝いしましょうねという、母の言葉に賛成し、聖君の家のお祝いには行かなかった。
聖君を呼んでのうちでのパーティには、父も参加したいと言い、父も休みの日にすることにした。その日の昼間は、聖君は私と二人で会いたいからパーティは夜にしてと言ってきた。
私は今すぐにでも会いたかった。本当は飛んでいって、おめでとう!って思い切りぎゅって抱きしめたいくらい。でも、あと4日も会えないんだ…。
ちょっと、もんもんとする日を送っていると、ものすごく久しぶりに幹男君が夜、我が家にやってきた。
「いらっしゃい。何ヶ月ぶりよ?幹男君」
母が幹男君を玄関で出迎え、そう大きな声で言ってるのが聞こえた。
本当に久しぶりだった。ひまわりの勉強も見に来なくなり、お正月も、友人とスキーやスノーボードに行くからと、おばあちゃんの家の集まりにも、来なかったくらいだ。
「ご無沙汰してます」
幹男君は、そう言いながらリビングに入ってきた。
「幹男ちゃん!久しぶり~~」
ひまわりが元気に挨拶をした。
「やあ、あれ?また背伸びたんじゃない?」
「また~~。ソファーに座ってるんだから、わかんないでしょ?」
と、ひまわりは笑った。
「やあ、桃ちゃんも久しぶり」
幹男君はキッチンで夕飯の用意をしている私の横にやってきて、話しかけてきた。
「久しぶりだね」
確か、元カノが結婚するからと落ち込んでて、聖君と喧嘩みたいになった、あの日以来かもしれない。
「彼、元気?」
「うん」
「大学受かった?」
「うん、受かったよ」
「おめでとうと言うべきか、桃ちゃん、残念だったねと言うべきか」
「え?なんで?」
私は思い切り不思議に思い、聞き返すと、
「だって、…とうとう、沖縄に行っちゃうわけでしょ?」
と、幹男君はちょっと、ためらいながらそう言った。
あ、そっか。沖縄に行くのをやめたこと、幹男君知らないんだっけ。
「桃ちゃん、落ち込んでたり、暗くなってたりしないかなって思ってさ、ちょっと心配で」
「それで来てくれたの?」
「まあ、それもあるし、報告がてらね」
「報告?」
「俺のことはあとでもいいから、桃ちゃんは大丈夫なの?」
「ありがと。でもね、聖君、沖縄行くのやめちゃったから」
「ええ?!」
幹男君がものすごく驚いていた。
「や、やめたって?あ、琉球は落ちた?」
「違う、違う。もともと受けてないから」
「なんで?」
「悩んだ末に沖縄はやめて、家から通える大学にしたよ」
「桃ちゃんのために?」
「私のことも考えてくれたと思うけど、それだけじゃなくって、家族のこととかも考えて」
「家族?」
「うん。聖君ち、お母さんがカフェしてるでしょ?聖君がいなくなると、大変みたい」
「それで?だって、彼の将来…」
「沖縄に行かなくても、自分の夢は叶うからって言ってたよ」
「…ずいぶんと思い切った判断したね。後悔しないのかな」
「え~~?幹男君、あんなに遠距離は大変だから、沖縄やめろって言ってたくせに、なんでそんなこと言うの?」
「…そうだけどさ。でも、自分の夢や未来のことを考えて、彼女とも別れて自分の道を取るやつもいるから」
「……」
なんか、変な感じだ。あんなに離れたら駄目だとか、いろいろと言ってたのに。いざ、沖縄行くのをやめたって言ったら、後悔しないかなんて…。
「幹男君の報告は何?」
「え?ああ。たいしたことじゃないよ。ただ、彼女ができたってだけのことだし」
「え?幹男君に?でも、元カノ…」
「結婚するって聞いて、落ち込んだけど、それでふっきれたみたいだ」
「それで、彼女ができたの?」
「うん、同じ大学の子」
「へえ…」
「サークル入ってさ、そこで意気投合して、一緒にスキーにも行ったりしてさ」
「だから、うちにも全然来なくなっちゃったんだ」
「まあね。あと、ちょっと来づらかったってのもあるけどね」
「なんで?」
「聖君とおかしなことになったから」
「え?ああ…」
あの時のことか。だったら、もう私も聖君も気にしてないのにな。
「それに、桃ちゃんが初恋の子だったなんて、ばらしちゃったから、会いづらくなっちゃって」
「私に?」
「うん」
それも、すっかり忘れてたのにな。あ、それはそれで、幹男君に申し訳ないことか。だけど、あのあと桐太のことがあったり、いろんなことがあったから、すっかり忘れちゃってたよ。
「幹男君もご飯食べてくでしょ?」
「うん。あ、俺の分がないならいいよ。どっかで適当に食ってくから」
「大丈夫、おでんなんだ。たくさん作るつもりでいたから」
「おでん?いいね!今日寒いし、あったまるね」
幹男君も、一緒に夕飯を食べていくことになった。
夕飯の時、母に幹男君は、なんで来なくなったかを問い詰められ、彼女ができたことを話すはめになった。
一緒にいて、楽しくて、明るい子らしい。幹男君は嬉しそうに話していた。
「それにしても、よかったですね、聖君、沖縄行きをやめて」
幹男君がそう言うと、
「そうなのよ~~。お父さんなんて、ものすごく喜んじゃって。桃子が沖縄に行かなくてすんだことも喜んでいたし、聖君とまた、一緒に釣りに行けるって、そんなことまで喜んでたわね」
と、母は楽しそうに話していた。
「へえ。おじさん、本当に聖君のこと気に入ってるんですね」
「まあね。でもわかるでしょ?聖君て、人を魅了する力あるものね」
母がそう言うと、幹男君はうんうんってうなづいて、
「悔しいけど、それ、認めます」
と笑って言った。
「幹男君も、今度彼女連れてきて」
「あはは、遠慮します。おばさん、品定め、厳しそうだから」
「あら?そんなことないわよ~~」
「でもお母さん、べらべらしゃべるし、幹男ちゃんの彼女困っちゃうよ。やっぱり、来ないほうがいいと思うよ。私の彼氏だって、一回来て、こりてたもん」
ひまわりがそう言うと、
「やっぱり?あはは」
と幹男君が笑った。
「聖君くらいだよ。お母さんと一緒にゲラゲラ笑ってるの…。ほんと、聖君はえらいよね」
「何よ?ひまわり!幹男君だって、ちゃんと話聞いてるじゃない、ねえ?」
「そんなことないよ。何気に幹男君、お姉ちゃんの方へ逃げてくもん」
「あれ?ばれてた?さすがひまわりちゃん、よく見てるね」
「まあ、そうだったの?桃子のことが気に入ってて、桃子のところにいってるのかと思ってたわよ」
3人でそんな話をして、げらげら笑ってる。なんか、3人とも似たもの同士だと思うけどね、私は。
幹男君はしばらくして、帰っていった。帰り際、玄関に私が見送りに行くと、
「よかったね、桃ちゃん。聖君がこっちにいてくれて。ほっとしてるんじゃない?」
と聞いてきた。
「うん。嬉しいよ、すごく」
「そう、じゃ、安心だ」
「え?」
「はは…。実は俺にも彼女できたし、もう、桃ちゃんと聖君の間に何かあっても、桃ちゃんのこと受けとめてあげられないなって思ってたんだよね」
「そうなの?でも、何かあるなんてことないから、大丈夫だよ」
「へえ…。なんか思い切り桃ちゃん、変わったね」
「え?なんで?」
「自信に満ち溢れてるっていうか、やっぱり、聖君が沖縄やめたからかな?」
「それもあるかも。でも…」
「でも?」
「聖君のことを、今は思い切り信じられるんだ」
「すごいね。ちょっと会わない間に何があったっての?」
「……。まあ、いろいろと」
「ふうん。そうなんだ」
幹男君は意味深に笑った。それから、
「また、そのうちに気が向いたら寄るよ。それじゃ、聖君にもよろしく言っといて」
と、にっこりと笑い、帰っていった。
聖君にその日、寝る前に、
>幹男君がうちに来たよ、すごく久しぶりに。彼女ができて、デートで忙しかったみたい。
と、メールした。するとすぐに返事が来た。
>へえ。彼女できたんだ。良かった。じゃ、もう桃子ちゃんにちょっかいだしたりしないよね。
なんだ~~、それ。
>聖君によろしくって。
>え~~。別にいいよ、よろしくなんて言われても、嬉しくないや(-“-)
え~?くす。可愛いな~~。
>沖縄行くの、やめたのを知って、驚いてたよ。
>そう。
あ、本当に興味ないんだな、こりゃ。話題でも変えようかな。
>お父さんも、聖君が沖縄行くのやめて喜んでいて、釣りに行けるかもって楽しみにしてるみたい。
>まじで?
あ、こっちは興味示してきた。面白いな~~。
>いつか、また、行こうって誘ってくるかも。
>いいよ。今度はちゃんと川にいって、本格的にやってみたいな、釣り。
>そうなの?そんなに聖君気に入ったの?
>うん!
そうだったんだ。こりゃ、こっちが驚いたわ。お父さんがめちゃ、喜んじゃうな。
>桃子ちゃん、桃子ちゃん、桃子ちゃん!
?それだけのメールが来た。何かな?
>なあに?
>すげ、会いたいんだけど!(><)
うわ!それは私もだ~~~~~。会いたいよ~~~~!
どうしよう。私もそれをそのまま、送ってみる?
>私も、今すぐに飛んで行きたいよ!
そうメールを送ると、聖君が、
>わかった。今すぐには無理だけど、明日会いに行く!
と返してくれた。え?でも、うちでのお祝いは4日後。
>私、学校だよ。
>夕方会いに行くよ。水曜だし、店休みだから。
そうか!定休日。あれ?じゃ、もう夜はお手伝いに入ってるってことかな?
>土曜のうちでのお祝い、大丈夫なの?お店のお手伝い。
>その日は、父さんが暇してるみたいだから、大丈夫だよ。
やった!会えるんだ。嬉しい~~~!
>わかった。じゃ、夕方4時過ぎなら駅に行ける。
>いいよ。私服に着替えるために一回家に帰るんでしょ?そのあとわざわざ、駅に来なくても、俺が桃子ちゃんの家に行くから。4時ならいる?
>うん。いる!
う、嬉しい~~。会える~~!!
>聖君、聖君、聖君!
>なあに?
>会えるの、すんごく嬉しい~~~!
そうメールを送ると、聖君は5分くらいしてから、
>俺ら、バカップル(>▽<)
と、そんなメールを送ってきた。う、確かに、そうかも…。
でも嬉しいものは嬉しい。本当に、聖君に「おめでとう」を言って、抱きつきたかったんだもん。
頑張った聖君に。
聖君も、私に会いたいって思っててくれてたんだ。嬉しいな。窓を開けて、夜空を見た。まだまだ冷える。
空を見たら星が見えた。冷えて、空気が澄んでて、とても綺麗な星空だった。
その星を眺めながら思った。4月から、聖君の新しい生活が始まる。そこには、私の居場所もあるんだ。
どんな新しい生活になるんだろうか。でも、いつでも私は、聖君の支えになっていたいな~。
キラッと一つの星が光った。まるで、大丈夫だよ、ずっとそばで支えになることができるから。そんなことをその星が言ってくれたような、そんな気がした。