第76話 邪魔者
片瀬江ノ島の駅に5分早くに着いた。改札口に行くと、聖君の姿はなかった。
曇っていて、今にも雨が降り出しそうだ。それに北風が冷たい。私は今日も、しっかりと防寒着。でも、ちゃんとお風呂にも入り、下着も上下お揃いのフリルの可愛い下着だ。
聖君が走ってやってくるのが見えた。私を見つけると、思い切り手を振り、もっとスピードをあげた。私も聖君の方に、早足で駆けていった。
「寒いのに待たせちゃったね、ごめんね」
聖君は、息を切らしてそう言った。吐く息が真っ白だった。
「ううん。大丈夫」
聖君は、両手をポケットにつっこんだ。私はその腕に、しがみついた。
「なんかさ~~。邪魔なやつが店に来てるんだけど、ま、気にしないで。きっとそのうち帰ると思うし」
「邪魔?」
「俺がどうせ家にいると、ふんだらしい」
だ、誰だろう。
れいんどろっぷすに着き、ドアを聖君が開けると、カウンターの席に桐太が座っていて、
「ああ、やっぱり桃子のこと迎えに行ってたんだ。よ!桃子」
と手を振った。
邪魔なやつって、桐太のことか…。
「どうしたの?」
小声で聞くと、
「チョコ持ってきた」
と桐太も小声で言った。
「ええ?!」
驚くと、
「家族にだよ。みんなで食べてもらおうと思ってさ。ほら、俺のバイトしてるところで置いてあるチョコなんだよ」
と、桐太は照れ笑いをした。
び、びっくりした。いや、これは絶対に聖君にあげたくって持ってきたチョコだ。
「聖君、受け取った?」
ものすごく小さな声で聞くと、
「聖のお母さんにあげた」
と、桐太もものすごく小さな声で答えた。
「何?なんで二人で、内緒話してんの?!」
聖君が、怒った口調で聞いてきた。
「ああ。いや、別になんでもないよ、な?桃子」
桐太は、思い切りわざとらしく笑ってそう言った。
「お前ら、なんか仲良くない?時々お茶してるって言うし」
「だって、桃子、聖に会えなくって暇そうだから、誘ってやってるんだよ」
桐太がそう言うと、
「じゃ、受験終わったら、もう誘うな」
と、聖君にばしって言われていた。
「桃子ちゃん、寒かったでしょ?カフェオレ飲む?」
聖君のお母さんが、キッチンから顔を出して聞いてくれた。
「はい、ありがとうございます」
私は上着を脱いで、カウンターの席に座った。その隣に聖君が座ってきた。
「聖、高校行ってる?」
「たま~~にしか行ってない」
「じゃ、チョコももらってないんだ」
「もらってない。くれようとしても受け取らないし」
「あ、そうだったっけね」
桐太は、そう言うと、コーヒーを飲んだ。
「はい。桃子ちゃん、カフェオレ。いつもみたいにお砂糖入っているからね」
「ありがとうございます」
お母さんがカウンターに、ピンクのマグカップを置いていってくれた。
「いらっしゃいませ」
その時、ドアが開き、若い女の子が二人入ってきた。
「あ、あの…。聖先輩は?」
小さな声でそう聞いてるのが聞こえてきた。
「聖ならそこよ」
お母さんが聖君を指差していた。
「俺?俺に用?」
聖君はカウンターの席を立った。
「あ、あの…」
一人の女の子が、紙袋を持っていた。どうやらチョコレートらしい。
「ここで、あげても大丈夫ですか?」
と聞きながら、聖君の方に寄ってきて、
「これ、受け取ってください。チョコ、作ってきたんです」
と、聖君の方に、紙袋を渡そうとした。
「ごめん。受け取れない」
秒殺!あっという間に断るんだ!相手の子も、そのお友達も、えっていう顔をしていた。
「でも、チョコレート、頑張って作ったから」
その子はまだ、食い下がらなかった。
大人しそうな子だ。髪はロングで、サラサラヘアー。可愛いスカートにブーツを履いている。背は私と同じか、ちょっと高いくらい。
「頑張って作ったなら、なおさら受け取れない。俺、食べてあげられないし、結局捨てることになるよ?」
聖君は、ちょっと顔をしかめてそう言った。真実を相手に、言ってあげてるんだな…。でも、相手の子は顔をひきつらせ、今にも泣きそうだ。
「そんなに簡単に断らないでください。聖先輩、桃香のこともわかってないのに、いきなり断るなんて、桃香かわいそうです」
「桃子?」
「桃香!」
聖君は一瞬、その子の名前を聞き間違えたようだ。私もドキッてした。桃子じゃなくって、桃香。でも、似てる。
「ちゃんと、桃香のことを知ってからにしてください。桃香、本当にいい子で」
「俺、付き合ってる子いるから」
「それ、いっつもそう言って、みんな断られてるって聞いてますけど、本当に彼女いるんですか?」
え?
なんだか、桃香さんのお友達は、積極的というか、はきはきしてるというか。それにしても、今の質問はどういう意味?
「本当は彼女なんていないけど、いちいち受け取るのが面倒で、断る口実にそう言ってるだけじゃないんですか?」
「……まさか」
聖君は目が点になっていた。かなり、驚いているようだ。横で、桐太はにやついていた。どうやら、この展開を楽しんでいるようだ。きっと、聖君がどうでるか、楽しみなんだろうな。
私はというと、やっぱり目が点になっていた。そんなことをなんで、この子は言ってくるんだろう。
「夏樹ちゃん、いいよ、もう」
桃香さんが、お友達の腕をひっぱってそう言った。
「だけど、桃香、すんごい勇気出して、チョコ作って店までやってきたのに、こんなにあっさりと話もしないで、断られて帰っていいの?後悔しない?」
「なつきちゃんっていうの?どんな字?」
聖君はいきなり、そう聞いた。
「え?私ですか?夏に、樹木の樹」
夏樹さんはぶっきらぼうにそう答えた。それから、
「私の名前なんていいんです。桃香は、果物の桃に、香りで桃香!そっちは覚えてください」
と強く聖君に言っていた。
「桃香に、夏樹、どっかで聞いたことある名前だね、聖」
カウンターの席で悠々と足を組みながら、桐太はそう言った。
「うっさい。お前は黙ってて」
小声で桐太の方を向き、聖君がそう言った。
「友達?うちの高校ですか?」
桐太に、夏樹さんが聞いた。
「いんや、聖とは、中学が同じだった」
「え?そうなんですか」
夏樹さんがまた、桐太の言うことに答えた。桃香さんは、夏樹さんの影に隠れて、黙っていた。
なんだか、性格まで、菜摘と私みたいだ。似てる…。
「は~~~。チョコ、作ってくれたのも、ここまで来てくれたのも、悪いなとは思うけど、やっぱり受け取れないし、俺、本当に彼女いるしさ」
聖君はうつむき加減でそう言うと、
「寒いし、もし良かったら、ここで、コーヒーでも飲んで、あったまってって」
と言い、それからお母さんをキッチンから呼んだ。
「この子達にあったかいもん、出してあげてくれる?あ、俺のおごりでいいよ」
え?そうなの?そんなのめずらしくない?
「はい、わかったわ。あ、聖の高校の後輩なの?」
「はい」
「そう。寒いのに来てくれたの。ありがとう。じゃ、そっちのテーブル席に座って。カフェオレか、紅茶か、コーヒーか、ココアか、何がいいかしら」
「じゃ、私はコーヒー」
夏樹さんがそう言うと、
「私、カフェオレで」
と、桃香さんがそう言った。
「はい。わかったわ。すぐに持ってくるわね。あ、カフェオレは甘くしてもいいのかしら?」
「え?」
桃香さんは、緊張してるのか、今の質問を聞いていないようだった。
「桃香、甘いの好きだし、お砂糖入れてもらってもいいよね?」
夏樹さんが代わりに答えた。
「え?桃子さん?」
「いいえ、桃香です。桃香!」
また、夏樹さんがそうはっきりとした口調で言った。
「ああ、桃香さん。ごめんなさい。じゃ、今持ってくるわね」
聖君のお母さんは、すぐにキッチンの方に行った。
変な気分だ。同じ飲み物が好きで、甘党で、同じような名前。
「ねえ。二人とも今、何年生なの?」
桐太が聞いた。
「2年です」
夏樹さんが答えた。
「ふうん。年齢も…」
と言いかけ、桐太は黙った。年齢も同じなんだと言いたかったんだろうな。
聖君はカウンターの席に座ったまま、どこを見るわけでもなく、しばらく黙り込んでいた。
コーヒーとカフェオレが運ばれ、お母さんは、
「じゃ、ごゆっくり」
と言い、キッチンに戻りかけ、またカウンターにやってきて、
「そういえば、さっきもらったチョコ、3人で食べる?」
と聞いてきた。
「何?チョコって」
聖君が聞いた。
「桐太君がくれたのよ。バイト先のチョコ、持ってきてくれたのよね」
と、聖君のお母さんは答えた。
「え?何それ。いつの間に母さんにあげてんの、お前」
「あはは。ま、いいじゃん。みんなで食べて欲しくって持ってきたんだよ」
桐太君はそう言って笑った。
「でも、俺らが食べたら、杏樹ちゃんのとか、お母さんの分がなくなるし、あとで、家族で食べてください」
と、桐太がそう言うと、
「そう?悪いわね。ありがとうね。杏樹も喜ぶわ。チョコ好きだし」
とお母さんはにっこりと笑った。
「それよか、そのでかい紙袋にも、チョコ入ってるんじゃね~の?」
と、桐太は私の持っている紙袋を指差した。
「え?うん」
なんだか、言いにくいな。すぐそこで、桃香さん聞いてるし、チョコ、断られたばっかりなのに。
「やっぱり?でかい袋だし、いっぱい入ってるんじゃね~~の?」
桐太は開けようとした。
「何、勝手に開けようとしてるんだよ」
聖君がにらむと、
「え?いいじゃん。それ、ここで食べようよ」
と桐太は、にっこり笑いながらそう言った。
「ええ?!!!」
聖君の顔は呆れ顔だったけど、
「あ、大きいから切り分けたら、桐太君の分もあるよ。でも、杏樹ちゃんや、お母さん、お父さんの分も取っておいて」
と、言いながら袋から箱を出すと、
「俺のは?!!!」
と、聖君が慌てて言った。
「ある。5個に切り分けたら全然大丈夫」
と言うと、お母さんがやってきて、
「じゃ、切ってきちゃうわね。桐太君、待ってて」
と言って、箱を持っていった。
その様子を見ていた、夏樹さんは、こそこそと何か桃香さんに話していた。
「あの」
桃香さんは、お母さんがお皿にケーキを乗せたのを持って、カウンターに来ると、
「これも、みんなで食べてください」
と、紙の袋を渡していた。
「え?」
お母さんはびっくりして、一瞬聖君を見た。
「あ、そういうのも、困る」
と、聖君は慌てて席を立ち、
「母さんも受け取らないでね」
と、お母さんにそう言った。
「でも」
と、お母さんはまだ、受け取らなくていいのか、躊躇していた。
「でも、じゃなくって」
聖君がそう言うと、
「その人のチョコレートケーキは受け取って、桃香のは駄目なんですか?」
と、いきなり夏樹さんは言ってきた。
「は?」
聖君のお母さんはびっくりして、ケーキをひっくり返そうになり、慌てて、
「あ、ごめんね、桐太君、はい、これ」
と、カウンターに置いた。それから、
「聖は食べるの?切ってくる?」
といきなり、そんなことを聞いた。いや、今、それどころじゃ…。
「あ、そうか。聖君にじゃなくって、その桐太って人にあげるケーキだったんですね」
夏樹さんは勝手に解釈して、納得した。
「は?」
また、お母さんは目が点になっていた。なんのことやら、さっぱりって感じだ。
「いいから、母さん。俺はあとで食べる。冷蔵庫に入れといて」
と、お母さんの背中を押した。お母さんはキッチンに向かい、聖君はため息をついた。やれやれ、困ったぞ…ってそんな顔だ。
「そうそう。これは聖に渡さないとね」
聖君のお母さんは小さな封筒を持って、キッチンから来た。
「はい。可愛いカードよね」
と言って、私の方を見てにこって笑った。
「み、見た?」
聖君の顔が引きつった。
「ごめんごめん。家族向けへのカードかと思って」
お母さんはそう言うと、聖君に両手を合わせて謝った。
え~~~?!!!カード、見られた?!は、恥ずかしい!!私が真っ赤になっていると、聖君は慌てて、後ろを向いて封筒を開けた。そして、
「げ!母さん、見たの?!これ!」
と真っ赤になって叫んだ。
「だから、ごめんって謝ってるじゃない」
そう言うと、私の方にも向き、
「ごめんね」
と、目配せをしてきた。
が~~~ん。私、「大好き」って書いちゃったよ。ハートのマークまで、書いてあるよ。
聖君も微動だに動かず、固まっていた。相当恥ずかしかったみたいだ。ああ、大好きなんて書かなければ良かったかな。
「ただいま~~」
れいんどろっぷすのドアが開き、杏樹ちゃんが帰ってきた。
「ああ!桃子ちゃんだ~~~!」
と杏樹ちゃんが叫ぶと、
「え?」
と、桃香さんと夏樹さんが同時に、振り返っていた。
「久しぶり~~。会いたかったよ~~」
杏樹ちゃんは私に抱きついてきた。
「え?」
また、二人は、私と杏樹ちゃんを驚いてみた。
「杏樹、お帰り!手を洗ってらっしゃい。チョコレートケーキ、桃子ちゃん、持ってきてくれてるから」
「ほんと?わ~~い。嬉しい!」
杏樹ちゃんは、キッチンに行き、手を洗い、すぐに戻ってカウンターに座り、
「もしかして、桐太君が食べてるのがそう?」
と聞いていた。
「ああ、そう、けっこういけるよ」
桐太がそう言うと、
「なんで、桐太君が食べてるの?余ったの?」
と杏樹ちゃんは聞いた。
「違うよ。杏樹ちゃん。桃子が俺のために焼いてきたから、こうやって今食って」
「違うだろ?!誰が桐太のために、チョコ焼いてくるかよ!お前、勝手にずうずうしく食ってるだけだろ?」
と、聖君は叫んだ。その言葉に、夏樹さんと桃香さんが反応して、
「え?桐太って人の彼女じゃないの?」
と夏樹さんが言っているのが聞こえた。でも、聖君も桐太も、何も答えず、無視していた。
杏樹ちゃんは、お母さんが持ってきたチョコケーキを一口口に入れ、
「おいしい~~~~。お兄ちゃんはもう、食べたの?」
と、聞いた。
「まだ」
「うそ!こんなに美味しいのに?」
「……。じゃ、今、食べる」
聖君の言葉を聞き、お母さんはすぐにチョコレートケーキを聖君にも持ってきていた。
「あれ?俺のと大きさが明らかに違うんですけど、聖のお母さん、なんかこれって、えこひいきですか?自分の息子にだけ」
と、桐太は、聖君の前にあるチョコレートケーキを見ながらそう言った。
「息子だからってえこひいきしたんじゃなくって、桃子ちゃんの気持ちを考えて、大きく切ったのよ。それに、聖だって、たくさん食べたいわよね?桃子ちゃんの作ったケーキ」
聖君のお母さんは、そう言うと、聖君に軽くウインクをしていた。
聖君は、そんなのを無視して、食べだした。
「うま!」
と、一口食べると目を細めた。
その光景をさっきから、桃香さんと、夏樹さんが見ていて、また、何かこそこそと話していた。
なんだろう。今度は何て言ってくるのかな。ドキドキして待っていたけど、二人は何も話しかけてこなかった。
「美味しいよね。本当に桃子ちゃんの作るの、いっつも美味しい。春香おばさんのケーキも美味しいけど、桃子ちゃんのは、手作りって感じがして、私好きだな~~」
うわ。なんて嬉しいことを杏樹ちゃんは言ってくれるんだ。思わず嬉しくて、杏樹ちゃんを抱きしめ、
「ありがと!」
と、私はお礼を言った。
「うめ!」
聖君はまだ、目を細めながら食べていた。そこに、お母さんがコーヒーを持ってきた。
「ケーキとだから、お砂糖入れてないわよ、聖」
「ああ、サンキュー」
「桃子ちゃん、ありがとうね。あとのは、爽太と私とでいただくわね。きっと爽太も喜ぶわ」
「はい」
聖君のお母さんが、そう言ってキッチンに戻ろうとすると、
「その爽太さんが、彼氏さんですか?」
と、誰にともなく夏樹さんが、聞いてきた。
「え?爽太?私の旦那。聖のお父さんだけど、なんで?」
聖君のお母さんが聞いた。
「いえ、あの」
夏樹さんは、黙り込んだ。
「桃子、カードになんて書いたの?」
桐太が聞いてきた。
「お、教えるわけないじゃん」
と私が言うと、
「聖のお母さん、桃子のカードなんて書いてあったんすか?」
と桐太が聞いた。
「桐太!そういうこと聞いてくるな!」
聖君はそう言うと、
「母さんも教えなくていいから」
と言って、お母さんに早くキッチンに戻ってと、背中を押していた。
「ったく。なんなんだよ。せっかく久々に、会えたってのに。ほんとに」
聖君は小声でそうぶつくさ言うと、またチョコケーキを食べだした。
「俺、邪魔?」
桐太が聞いた。
「思いっきり!今頃わかった?」
聖君がそう言うと、
「いや、初めから、邪魔するつもりできてるし」
と、桐太はにやつきながらそう言った。
「てめ!なんでだよ?」
「いいじゃん」
「よくねえよ!」
聖君は、かなり頭に来ているようだった。その後ろから、
「私、もう帰ります」
と、桃香さんが声をかけた。その横には、夏樹さんが大人しくしていた。
「え?」
聖君が振り返ると、
「その…。さっきから、私の名前を桃子って間違えてたのは、その人の名前が、桃子さんだからなんですよね?」
と、桃香さんが言った。
「あ。ああ、うん。だから、ちょっと俺、びっくりして。ついでに言うと、桃子ちゃんの親友で、俺の妹、菜摘っていうんだ。だから、夏樹って名前を聞いても、びっくりして」
と、聖君は正直に答えた。
「菜摘と桃子?」
と、夏樹さんも驚いていた。
「なんてういか、性格も似てそうっていうか」
「え?」
聖君がそう言うと、二人ともびっくりして、
「いや、二人のことあまり知らないから、わかんないけどね」
と、聖君は苦笑いをした。
「桃子さんが、彼女さんなんですね?」
桃香さんがそう言うと、聖君は黙ってうなづいた。
「さっきは、すみません。彼女なんていないんじゃないかなんて疑って」
夏樹さんが謝った。
「ああ。いいけどさ」
聖君は頭を掻いた。
「桃香さんと夏樹さんっていうんだ。へ~~」
と、杏樹ちゃんも、目を丸くした。
「桃子さんは、聖君の家族や、お友達と仲がいいんですね」
桃香さんがそう言うと、杏樹ちゃんはにっこりとして、
「だって、お姉さんになるんだも~~ん」
と言って、抱きついてきた。
「お姉さん?」
夏樹さんが聞き返した。
「そう。お兄ちゃんと結婚したら、お姉さんになるでしょ?」
杏樹ちゃんがにっこにこの顔でそう答えた。
「あ~。コホン…」
聖君は咳払いをすると、
「杏樹、食べたんなら、お皿片付けといで」
と、杏樹ちゃんに言った。
「うん。桃子ちゃん、ごちそうさま」
杏樹ちゃんはそう言うと、お皿を持ってキッチンに行きながら、
「桃子ちゃん、今日も夕飯食べてくよね?」
と私に聞いてきた。
「え?」
返事に困ってると、聖君が、
「父さんが車で送れるから、食べてって」
と私に言った。
「わ~~~い!」
杏樹ちゃんは喜んで、キッチンに向かっていった。
「俺も食ってこうかな」
桐太がぽつりと言うと、
「お前はさっさと帰りなね。父さんだって送ったりしないから」
と、聖君に言われていた。
それを聞いていた、桃香さんと夏樹さんは、
「私たち、失礼します。ごちそうさまでした」
と言って、聖君にお辞儀をした。
「え?ああ。気をつけて」
聖君がそう言うと、二人はれいんどろっぷすのドアを開けた。
最後に、桃香さんは、聖君の方を振り向き、ちょっと泣きそうになりながらも、ぺこってお辞儀をしていた。