第73話 ずっとよろしく
菜摘とそろそろ下に下りようかって言って、一階に下りた。聖君も葉君もすっかり行く支度を整えていた。
私も菜摘も上着を着たり、マフラーをして、4人そろって家を出た。
そして、鎌倉に行った。
「初詣にはやっぱり、兄貴は合格祈願するんでしょ?」
「うん、そりゃそうだな」
菜摘が聞くと、聖君はうなづいていた。菜摘の質問に答えながらも、聖君はしっかりと私の手を掴んでいた。神社にはすでに、ものすごい人がいた。
「それにしても、いつになったら、番が来るかな~~。すんごい人が並んでるけど」
「ま、いいんじゃない?そのうち来るよ」
葉君の言葉に、聖君はそんなことをのんきに言い返していた。
たまに思うことがある。聖君って、いつも余裕。心が広いというか、なんというか。
「試験すぐでしょ?」
菜摘が聖君に聞いた。
「どう?受かる自信ある?聖」
葉君が聖君に聞いた。
「うん。多分ね。琉球よりは確実かな」
「え?どういうこと?聖」
「ああ。俺さ、琉球大学はやめたんだ」
聖君の言葉に、葉君も菜摘も、ものすごい驚いていた。
「それって、桃子のため?」
菜摘が聞いた。
「う~~ん。それもあるけど、家族のためでもあるかな~~」
聖君は、頭を掻きながらそう言った。
「家族?」
葉君が聞いた。
「もしかして、お店のこと?お母さんのこと心配してたけど、それで?」
ああ。葉君もそのこと、聞いてたんだ。
「うん。迷ってたけど、結論出たよ」
「ど、どういうこと?兄貴」
菜摘はまだ、驚いていた。
「俺が沖縄行ったら、店が大変でも、手伝えないしさ。母さん、なんか無理してるみたいだから、ほっといて沖縄に行けなくなっちゃった」
「ええ?お店のために残るの?」
「う~~~ん。それもあるし、まあ、沖縄の大学に行かないと俺の夢が叶わないわけでもないしね」
「夢?」
「海を潜る夢」
「ああ…。そっか」
菜摘は納得した。
「じゃ、ずっと江ノ島にいられるの?」
菜摘は嬉しそうだった。ああ、そっか。菜摘も、聖君が遠くに行くのは、寂しかったんだな。
「大学行ってる4年はね」
聖君がそう言うと、菜摘は、ちょっとまゆをしかめて、
「大学卒業したら、どっか行くってこと?」
と聞いた。
「まだそんな先のことはわかんないよ。俺、もしかしたら大学残って、研究とかをしてるかもしれないし、沖縄とか、伊豆とか、そのへんに就職してるかもしれないし、もっと綺麗な海求めて、海外行ってるかもしれないし」
「え?そんなに遠くに行ったら、桃子どうするの?」
「へ?」
菜摘の質問に、聖君は一瞬、目が点になった。それから、私の方を見て、
「えっと…。そりゃ、桃子ちゃんと一緒に行くってのが、前提だけど」
とぼそって言った。
「ええ?」
菜摘が驚くと、
「まあ、桃子ちゃんが来てくれるならだけどね」
と、聖君は頭を掻きながらそう言った。
「兄貴の未来には、桃子がいるってこと?先なんてわからないとか言いながら」
「うん、まあ…」
聖君は、下を向いた。あ、多分照れてる。っていう私も、顔がさっきからずっと、熱い。
「そうなんだ」
菜摘は、ちょっとぼんやりとしながらそう言った。もしかすると、自分のことを考えてるのかもしれない。
「葉一はもう、就職だし、葉一のほうがよっぽど、結婚とか、身近に感じるんじゃないの?」
聖君がそう言うと、葉君はかなり焦って、
「まだだろ?まだまだだよ」
と、言っていた。隣で菜摘もうんうんとうなづいた。
「だいたい、兄貴だって、大学卒業してもまだ、22歳だよ?」
「うん。父さんも、じいちゃんもそのくらいの年で結婚してる」
「え?」
「ついでに、そのくらいの年でもう、父親になってるよ」
「そうか。そう考えるとすげえな」
葉君は、ぼそってつぶやいた。
「そう?なんかすごい?俺、そういう環境にいるから、あまり感じないけど」
聖君は、すごくあっさりとそう言うと、
「菜摘も、桃子ちゃんも何をお参りするの?」
と聞いてきた。
「私は、う~~~ん。なんだろう。1年よろしくっていうくらいかな」
菜摘がそう言った。
「私は…」
そう言いかけて、聖君をちらりと見て、
「内緒」
と言うと、聖君が、
「何それ!内緒は無しって言ったじゃん」
と、握った手に力を入れた。
「じゃ、お参りしてから、話す」
そう言うと、今度は菜摘が、
「あ、私や葉君に聞かれたくないからじゃないの~~?もう~」
と、私をつついてきた。
「ち、違うよ」
私は真っ赤になってしまった。
実はあまり、お参りする内容は決めていない。ただただ、この幸せがずっとずっと続きますようにって、それだけだ。でも、なんだかそれを言うのが、恥ずかしかった。
4人でいろいろと話をしている間に、順番が来た。お賽銭を投げて、私たちはお参りをした。
聖君との幸せが、ずっと続きますように。
それから、おみくじを引いた。聖君は吉。私は末吉だった。
「確か、去年、凶出てたよね、桃子ちゃん」
「うん」
そうだった。それを引いてから、聖君が沖縄に行くなんて言い出して、真っ暗になってたんだっけ。
「だけど、そんなに悪い年じゃなかったでしょ?何せ、俺とず~~っと一緒にいたんだし、むしろすげえいい年だったじゃん」
聖君のいう言葉に、思わずくすって笑ってしまった。
「え?何?」
「ううん。そのとおりだなって思って」
「でしょ?」
「聖君が大吉を引いてくれたからかな」
「ああ、やっぱり二人で合わせて2で割ったんだ。きっと」
なんて聖君は言うと、聖君もくすって笑った。
「さて、帰るか」
聖君がそう言うと、菜摘は、
「このまま藤沢に出て家に帰るね」
と、言い出した。
「そうだね、あまり遅くなっても大変だしね」
葉君はそう言うと、
「藤沢まで送るよ」
と言った。私も菜摘と一緒に帰ることにした。
聖君と葉君が藤沢まで送ってくれた。聖君たちは片瀬江ノ島へ、私たちは新宿行きに乗り込んだ。
菜摘と二人きりになると、菜摘は、
「桃子~~。いろいろと話聞かせてよね」
と、いきなり声色を変えて、言って来た。
「え?」
「蘭にも報告しないとだね」
う~~~わ~~~~~。今すぐ逃げ出したい気持ちになってきた。
「だけど、良かったね」
「え?」
聖君と、そういうふうになってってこと?
「兄貴、沖縄に行くのやめたんだね」
ああ、そっち。
「うん。菜摘も、聖君が沖縄に行くの、寂しかった?」
「うん。そうだね。桃子は1年したら、沖縄に行くって決めてたんでしょ?そしたら、ずっと兄貴といられるけど、私はそうそう会えないんだなって、寂しかったよ」
「…」
菜摘って、そんなに聖君のこと好きなのかな。何か特別な思い入れでもあるんだろうか。
「兄弟いないし、兄貴だけだしさ…。なんか、思い切り私、甘えてるって言うか、頼ってるよね」
「え?」
「それを本当はね、葉君にしたらいいんだってわかってるの。兄貴も言ってた。なんで遠慮するのかって。嫌われたりするのが怖いのかな。だって、兄貴は血がつながってるし、何があっても兄貴だもん」
「そうだよね。私も、嫌われたり、離れていったらどうしようとか、別れようなんて言われたらどうしようとか、思ってたよ。菜摘は、そんなこと絶対になくって、聖君とは縁が切れることがないんだって羨ましかったし」
「そうなんだ」
「うん」
しばらく二人とも沈黙して、電車に揺られた。
「だけど、兄貴は、桃子のこと、離さないと思うな」
菜摘が沈黙を破って、そんなことを言い出した。
「え?」
私が驚くと、菜摘はもっと驚くことを言った。
「桃子は、自分の方が想いが強いって思ってるかもしれないけど、兄貴の方が真剣だと思う」
「真剣?」
「まじで、結婚とかまで考えてて、ずっと桃子と一緒にいることを考えてるんじゃないかな」
私が真っ赤になると、
「桃子はまだ、そうだったらいいなって、空想の世界でしょ?」
「うん」
「今日、兄貴と話してて思ったよ。兄貴は、空想や妄想でなく、しっかりとした現実として、桃子との将来を考えてるんじゃないかって」
「……」
聖君が?
「桃子が隣にいるのは当たり前って、そんな感じだったもん」
菜摘の言葉に、泣きそうになった。もし、本当にそんなふうに聖君が思ってくれてるなら、どんなに嬉しいか。
そういえば、聖君が沖縄に行くってまだ、決めてた頃、私が1年して沖縄に行ったら、絶対に一緒に暮らすんだって、そんなことを聖君は思ってたんだよね。
私と一緒に、暮らす。私と共に生きていくこと。聖君の方が私よりも、より確かに、より現実的に思っているのかもしれない。
夜、聖君からメールが来た。
>桃子ちゃんに明けましておめでとうも、今年もよろしくも言ってなかった!!!(@◇@)
あ。ほんとだ。
>今年もよろしくね。桃子ちゃん!(>▽<)
>うん。よろしくね。
聖君はしばらくメールをよこさなかった。私は、携帯を握り締めて、ベッドに寝転がりぼけってしていた。
>それだけ?なんか寂しくない?
10分位して、聖君から、そんなメールが来た。寂しい?私のメールがってこと?
>これからも、ずっとずっとよろしくね。聖君。
そう書いて、ハートマークまでつけて送信した。するとすぐに、
>こちらこそ、ずっとよろしくね、桃子おばあちゃん。
という返事が返ってきた。な、なんで桃子おばあちゃん~~?
>もう!なんでおばあちゃんなの?
と送り返すと、
>あはは。おばあちゃんに桃子ちゃんがなっても、ずっとよろしくって意味だよ。
と聖君はまた、すぐにメールをくれた。
それを読んで、嬉しくって、なかなか返せなくなった。
それって、本当にずっとずっと、隣にいてくれるってこと?
>じゃあ、聖おじいちゃんだね。よろしくね。
嬉しくて、ドキドキしながらそう送ると、
>あ、今日なんてお参りしたの?聞きそびれてた。
と、そんなメールが来た。
>聖君との幸せが、ずっと続きますようにって。
そう送ると、
>なんだ。そんなのお参りしなくっても叶うから、大丈夫♪(^▽^)
と、聖君は可愛いメールをくれた。
嬉しいな。聖君。本当にずっと、聖君の隣にいられるんだよね。
幸せを噛みしめながら、私はその日、眠りについた。そして夢の中でも、聖君は隣にいて、優しく微笑んでくれていた。