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第71話 新年の朝

「…こちゃん…」

「ん…」

「起きて…」

「……」

 眠い。目、覚めない。

「朝だよ」

「お母さん、あと5分」


「ブッ!!」

 ぶ?ぶって何?

「桃子ちゃん、お母さんじゃないよ。俺だよ、聖だよ」

「…聖君?」

 なんで聖君?あ、着ボイス?聖君からの電話?出なきゃ!

 私はいきなり、布団から手を出して、まだ目をつむったまま、携帯を探した。だけど、携帯もないし、ベッドの横のサイドボードもない。

 今日は何日?朝から聖君から電話って、また私、約束の時間なのに寝ちゃってた?


「桃子ちゃん、何探してんの?」

「…え?」

 目を開けた。すると目の前に聖君の顔があった。

「あ、あれ?ここ?」

「俺の部屋」

「……」

 あ。思い出した。泊まったんだ、昨日。

「もう5時過ぎたけど。どうする?眠たいなら、初日の出はあきらめて、もう少し寝ちゃう?」


「初日の出?あ!そうだ!」

 やっとこ状況が飲み込めた。

「ごめん、聖君。起こしてくれてた?」

「うん。いいよ。ほんと眠いなら、まだ寝てても」

「大丈夫、起きる」

 そう言って、私は起き上がった。聖君はすでに、洋服に着替えていた。時計を見ると5時15分。

「ごめんね。急いで用意する」

 私は慌ててベッドから出て、服を着ようとして、

「聖君、着替えるから部屋から出ててもらっていい?」

と聞いた。


「ああ、うん。じゃ、リビングで待ってる」

 そう言うと聖君は、ドアノブに手をかけて、

「でも、別に桃子ちゃんが着替えるところなんて、もう前にも見てるし」

とぼそって言った。

「でも、恥ずかしいの!」

 そう私が言うと、聖君はあははって笑いながら部屋を出て行った。


 私は急いで服を着た。それからタオルや歯ブラシを持って洗面所に行き、歯を磨いたり、顔を洗った。

「うわ。髪ぼさぼさだった~~~」

 このぼさぼさの頭、見られちゃったんだ…。う~。ショック。

 髪がまとまらず、ポニーテールにした。それから、一階に下りて行った。


「ごめん、お待たせ」

 リビングに行くと、聖君は携帯をいじっていた。

「葉一たち、江ノ島の海にもう行ってるんだってさ。合流しようってメールが来た。どうする?」

「うん。いいよ」

「じゃ、上着着て、しっかりとあったかい格好をしていこうね」

 聖君はそう言うと、私のマフラーや手袋を渡してくれた。

「ありがとう」


「俺も、しっかりと防寒。桃子ちゃんの編んでくれたセーターに帽子に手袋にマフラー。すげ、あったかい」

 そう言って、聖君はマフラーをぐるっと巻き、にこって笑った。

 支度が整い、私も聖君も家を出た。外はまだ暗かった。良かった。初日の出までに、間に合った。

 それに吐く息が真っ白になるくらい寒かった。でも、聖君が私の肩をぎゅって抱いてくれて、あったかかった。


 浜辺の方へと向かって歩いた。人はまったくいなかった。

「くす」

 聖君がいきなり、笑った。

「何?」

「桃子ちゃん、まじで俺とお母さん間違えてた?」

「え?」

「朝、起こした時」

「う…うん」


「あはは。可愛い。もしかして、朝起きるの苦手?」

「うん。ちょっと低血圧なの」

「そうなんだ。じゃ、よく起こしてもらってるの?」

「たまになかなか起きてこないと、お母さんが起こしにくる」

「ふうん。そっか。あ、去年も確か元旦寝坊してたっけ」

「ごめんね。あの時には聖君の電話で目が覚めたんだよね」

「うん」


「呆れてない?今年も私、なかなか起きなかったし」

「いや、別に」

 本当かな。

「寝ぼけた顔、すげえ可愛かったし」

「え?」

 ど、どんな顔をしていたのかな、私…。恥ずかしいよ~。

 ああ、本当は私の方が先に目を覚まして、聖君の寝顔を見ていたかったのに。それに、

「聖君、起きて」

っていうのも、してみたかった。


「あ、海岸に人いるね」

 海岸に着くと、人がまばらにいた。

「葉一と菜摘、どこかな」

 その時ちょうど、聖君の携帯が鳴った。

「ああ、葉一?うん。もう来てるけどどこにいる?」

 聖君はうんうんって、うなづくと、

「わかった、今行く」

と言って、電話を切った。


 そして私の手を取って歩き出した。

「あ!あれ、葉一と菜摘だ」

 聖君はそう言うと、手を振った。すると、向こうの二人も気がついたようで手を振りかえしてきた。もうすでに、辺りは明るくなりだしていた。

「遅いじゃん、兄貴。もうとっくに来てるかと思って、さっき探しちゃってたんだよ」

 菜摘は聖君にそう言ってきた。

「いなかったから、メールしたけどさ。間に合って良かったね」

 葉君はにっこりと微笑んだ。


「うん。どうにか間に合った。あ…」

 聖君は昇ってくる太陽を見た。私や他の二人も太陽を見て、

「わあ、綺麗」

と、しばらくはみんな黙っていた。

 去年は神社にいたっけ。人ばっかりで朝日が昇ってくるところは見れなかったんだよね。でも、今年は浜辺だし、しっかりと見れた。


「なんか、神々しいよね。初日の出って」

 聖君がぼそってそう言った。

「見れて良かったね」

 菜摘が聖君にそう言った。

「うん、良かった。来るのやめようかとも思ったんだけど」

「え?そうなの?なんで?」

 菜摘が聖君に聞いた。


「ごめん。また私が寝坊したの」

と言うと、菜摘と葉君が同時に私の方を見た。

「桃子が?そういえば、去年も」

「うん」

「桃子、朝弱かったっけね」

「うん」

 なんだか、申し訳ない。聖君に元旦から迷惑かけてる。


「聖君に起こされなかったら、まだ寝てたかも」

「ブッ!桃子ちゃん傑作なんだ。俺のことお母さんだと思っててさ」

「兄貴が桃子のこと起こしたの?」

「うん。だって桃子ちゃん、目覚ましがなってても全然起きなかったし」

「え~~。じゃ、寝てる部屋に入っていって、起こしたの?」

「……え?」

 菜摘の言葉に一瞬、聖君はきょとんとした。でも、

「ああ、そうそう。目覚ましがずっとなっていたから、それを消しにね」

と、そんな嘘をついた。


「目覚まし消すのもしなかったの?昨日遅くまで起きてたんじゃないの?」

 菜摘がそう言ってきたから、

「うん。紅白最後まで観ちゃったし」

と、聖君はぼりって頭を掻いた。

「でも、ちゃんと寝たんだ。そっか~~」

 そう言うと菜摘は、すごく眠たそうな顔をした。


「あれ?お前寝てないの?」

「うん」

「え?そうなの?」

 聖君は菜摘がうなづいてるのを見てから、葉君の方を見た。

「あ、俺は寝た。けっこう熟睡できたから、全然眠くないけど」

と、葉君は言った。

「え?なんで、菜摘だけ?」

 聖君がはてなって顔をして聞いた。


「だって、葉君のお母さんの隣に寝てたから、緊張しちゃって、結局4時まで寝れなくって、そのまま起きて顔洗ったりして」

「葉君のお母さんの隣?」

 私が驚いて聞くと、

「うち、2DKだから、泊まるって言ったら、母さんの部屋しかなくって。さすがに母さんいるのに、俺の部屋で寝るわけにもいかないじゃん」

と、葉君が説明してくれた。


 そりゃ、緊張しちゃうかも。それも確か、初対面だったよね。菜摘と、葉君のお母さん。私はもう何度も聖君のお母さんに会ってるから、もしかしたら、大丈夫かもしれないけど。

「じゃ、うちに来れば良かった?部屋ならあいてたよ。家族みんないないし」

「ええ?!」

 聖君の言葉に菜摘は驚いていたが、葉君は、

「あ~~。そういうことも考えられたのか。それ、昨日のうちに言ってよ」

と聖君に、ぼそって言っていた。


「ももも、桃子。じゃ、昨日は兄貴と二人きり?!」

 菜摘がものすごい慌てぶりで、私に聞いてきた。

「え?」

 私はなんて答えていいかわからず、聖君の方を見た。

「だから、二人で夕飯食べて、紅白観てたんだってば。それに桃子ちゃんは…、杏樹の部屋で寝てたし」

 ものすごい嘘を聖君は言った。でも、私もついつい、横でうんうんとうなづいてしまった。


「そっか~~。それならそう言ってくれたら、葉君と行ったよ~~。4人でご飯食べて、紅白を観て、桃子と同じ部屋でだったら、私も寝れたし…。あ、意外とべちゃくちゃしゃべって、寝れなかったかな。でも、それ楽しそうだったのにな~~」

 菜摘は残念がった。その横で葉君は、少し苦笑いをしていた。きっと、心の中は、菜摘とは違ったことで残念がっているのかもしれない。


「初日の出も見れたし、朝ごはんでも食って、初詣に行く?」

 聖君が提案した。

「お腹空いてる~。ご飯食べたい~~」

と、菜摘が言った。

「腹そんなに減ってるの?」

「うん。昨日早くにおそば食べて、それっきり食べてないし」

「そっか。じゃ、うち来いよ。トーストとハムエッグくらいなら、作ってやるよ」

 聖君がそう言うと、

「さすが、兄貴」

と、菜摘は喜んでいた。


「いいの?」

 葉君が聖君にぼそって小声で聞いた。

「いいよ。桃子ちゃんと食べようと思って、材料は買ってある」

 聖君はそう言うと、葉君と並んで歩き出した。

 二人とも私や菜摘のことを忘れてるんじゃないかって思うくらい、大またで歩いている。私と菜摘はちょっと二人よりも、遅れてしまった。


 葉君は、聖君に何か、小声で話をしている。小声だから、まったく聞こえてこなかった。

「桃子、本当に兄貴と何もなかったの?」

 いきなり、菜摘にそう言われて、ドキッて心臓が飛び出るかと思った。

「うん」

 私は、うなづくことしかできなかった。

「蘭に今度会ったら絶対に、聞かれるよね。で、何もなかったって言ったら絶対に、呆れられるね」

「そうだね」


「実は私、お母さんがいるのも緊張したんだけど、もしお母さんがいなくっても、もっと緊張したと思うんだ」

 菜摘は小声で、葉君に聞こえないようにそう言った。

「そうなの?」

「うん。もし二人っきりになるんだったら、絶対に葉君の家には行ってないよ」

「そっか…」


「桃子は?兄貴と二人で緊張しないの?」

「え?」

 うわ。なんて返事をしたらいいんだろうか。

「緊張はする…よ、やっぱり」

 下を向いたままそう言うと、

「そうだよね~~。でも、そういうのってきっと、兄貴には伝わるのかな」

と、菜摘はうなづきながら言った。

「え?」


「だから、兄貴も手を出してこないんでしょう?」

「そ、そうなのかな」

 ああ。ものすごい罪悪感だ。嘘を嘘で塗り固めてるみたいだ。

 こんなに嘘ばかり言ってて、いいの?だけど、本当のことも言いづらいし、言うのも恥ずかしい。

 でも、私の言うことをそのまま信じてる菜摘に、なんだか悪いことをしてるなっていう気がしてきて、私は黙り込んでしまった。


 菜摘は、素直に本当のことを話してくれてるんだよね?

 なのに、私、いいの?

 う、でも、なんて言ったら?

「あのね」

 私が菜摘に打ち明けようとした時、聖君が、

「あ、ごめん。俺ら早すぎたね」

と歩くのをやめて、こっちを向き、私たちが行くのを待ってくれていた。

 菜摘は、葉君の隣に並び、私の横に聖君は来た。ああ。菜摘に言えなかったな。


 聖君の家に着き、聖君は玄関の鍵を開けた。

「どうぞ」

「わ、玄関から入るの初めて」

と、菜摘は少し面白がっていた。

 聖君はさっさとリビングに行き、暖房をつけた。


「じゃ、ここでテレビでも観てて。俺、朝ごはん作ってくるから」

 聖君がそう言って、お店の方に行ってしまった。

「私も手伝う」

と、私も聖君を追いかけた。そして二人で、キッチンで朝食を作り始めた。


「なんかね」

「え?」

「菜摘に嘘ついてるの、気が引けて」

 私は野菜を切りながら、そう言うと、聖君は、

「ばらしちゃったの?」

と、ちょっと慌てた。

「ううん」

 首を横に振ると、聖君はほっとしていた。


「いいんじゃないかな。そんなに悪いことしてるって思わなくても。葉一は昨日、菜摘と二人になれなかったこと、けっこうがっかりしてるみたいだけど、でも、二人きりになれても、何もなかったかもなって、さっきつぶやいてたよ」

「え?」

「菜摘、そういうことかなり、避けてるみたいでさ、もし俺らのことがばれちゃったとしても、ショック受けるだけかもしれないし」


「ショック?」

「う~~ん。なんていうのかな…。葉一のやつはなんか、どうやら、俺らのこと嘘ついてるなって、わかってるみたいなんだけど、菜摘は受け入れらないというか、信じないだろうなっていう気もして」

「……」

「わざわざ、ばらさないでも、菜摘が大人になったらでいいんじゃないの?」

「お、大人?」

 って、葉君とそうなってからってことかな。


「桃子ちゃんもそうだったでしょ?」

「え?私?」

「桃子ちゃんの周りの友達が、彼氏と結ばれちゃいましたなんて言ったとしても、信じられなかったんじゃないの?」

「あ、うん。蘭が彼氏と旅行に行くって言っても、信じられなかった。そういえば」


「え?蘭ちゃん、彼氏と旅行に行ったの?」

「うん」

「わ、それ、基樹には内緒ね」

「え?」

「あいつ絶対にへこむや。まだ、蘭ちゃんに未練たらたらだし」

 そうなんだ。知らなかった。


 でも、そうか。自分のこととしても、友達のこととしても受け入れられないってことなんだ。うん。それ、わかる気がするな。じゃ、嘘ついてるままでもいいってこと?


「さ、出来た!リビングで食べようか。店、寒いし」

「うん」

 聖君と、トレイにお皿を乗せて、リビングに運んだ。そして、みんなでいただきますと言って、食べだした。

「あ~~。生き返る。なんだか兄貴の家って、ほっとする」

 菜摘はそう言って、美味しそうにトーストを食べた。


「そんなに緊張しちゃってた?」

 葉君は、心配そうに聞いた。

「あ、ごめん。葉君。私、いっつも誰とでも平気で話してるようで、実はかなり緊張しちゃうんだ」

「無理して明るくふるまっちゃうところあるもんね。菜摘」

と、葉君は優しく言っていた。そうだったんだ。私、長年友達やってたけど、知らなかった。

「ごめんね。やっぱり朝会うようにしたら良かったね」

 葉君の言葉に、菜摘は首を横に振った。

「でも、緊張したけど、楽しかったよ。お母さんも優しかったし」

 菜摘は必死でそう言っていた。

「そう?」

 葉君は、ちょっと嬉しそうにしていた。


 朝ごはんが終わると、菜摘は、目をとろんとさせ、今にも寝そうになっていた。

「初詣なら、午後からでもいいし、菜摘、少し休んでいけよ。徹夜はつらいよ?」

 聖君がそう言うと、葉君も、そうさせてもらったら?と菜摘に言っていた。

「いいの?じゃ、少しこのソファーで」

「杏樹の部屋で寝たらいいよ。本格的に寝ちゃいな」

と、聖君はそう言うと、葉君に、

「2階の洗面所の隣の部屋。連れて行ってあげたら?」

とそう言った。


「いい。一人で行ける」

 菜摘はそう言うと、よろよろと立ち上がった。思わず私は、

「一緒に行くよ」

と、菜摘の背中を支えた。

「ありがとう~~」

 菜摘は、眠そうな声でそう言うと、階段を上り出した。


 杏樹ちゃんの部屋を開けると、ベッドに枕も、掛け布団もなかった。

「これじゃ、寒いよね。クローゼットに布団があるのかな?」

 でも、勝手に開けるのもな…。

「聖君!掛け布団がないけど」

と、一階に向かって声をかけると、聖君はタタって勢いよく上がってきて、

「あれ?ほんとだ。あいつ、掛け布団どこへしまったんだよ。あ、まさか、持っていったかな。枕も持っていったみたいだな」

と、ぶつくさ言った。


「布団ごと持っていくの?」

「うん。伊豆の布団重いらしくって、あいつ、うちのじゃないと、寝付けないらしくってさ。へんなとこ、神経質なんだよね。待ってて。俺の布団持ってくる」

「兄貴の~?」

 菜摘はちょっと嫌そうな顔をした。

「なんだよ、不満?」

「汗臭そう」

「なんだよ、それ!悪かったな。じゃ、和室からお客用のを持ってきてやるよ」

と、聖君はそう言うと、部屋を出て行った。


「良かった~。兄貴のなんて絶対に男くさいよね」

 そんなことないのに。聖君全然、臭くないもん。

「ほら、持ってきてやったぞ。本来なら和室に客用のを敷いてやるところだけど、悪かったな。今、また荷物がたくさん、入っちゃっててさ」

「ありがとう。いいよ、杏樹ちゃんのベッドなら、臭くないだろうし」


「…。なんかむかつく。そんなに俺の布団じゃ嫌かよ…」

 聖君は、ちょっと口をとがらせ、すねていた。

「兄貴の部屋って一回も入ったことないけど、ちょっと入るの勇気いりそう」

「なんで?!」

「なんか、男臭そうで」

「葉一だってそうじゃんか」


 その言葉に葉君が反応して、2階に上がってきた。

「葉君の部屋にも入ったことないもん」

「え?そうなの?」

「うん」

 聖君は葉君を見た。葉君はうんってうなづいていた。

「葉一の部屋なんてさ、あまり置いてあるものもないし、殺風景で、生活の匂いもしないよ」

と、聖君が言うと、

「そうなの?男臭くないの?」

と、菜摘は聞いた。

「どうかな?でも、聖の部屋も、海の写真とか貼ってあって、まあ、男の部屋って感じだけど、いつも整頓されてるよな」

と、葉君は言った。


 そのうえ、葉君は、

「桃子ちゃんは聖の部屋に入って、男臭くて嫌になったことあんの?」

と、私に聞いてきた。

「ないよ」

と、とっさに首を横に振った。


「そうなの?無理してない?桃子」

と、菜摘が私に聞いてきた。

「うん。無理してない。全然臭くない。聖君の匂い、嫌いじゃないし」

「え?!」

 あ。これは、言わないほうが良かった?菜摘が目を丸くしたから、私はやばかったかなってちょっと思った。でも、聖君が、

「ほれ、みろ。菜摘みたいに桃子ちゃんは俺のこと、ばい菌扱いしないんだよ」

と、菜摘の頭をこついていた。


「桃子は特別なんだ。だって、兄貴にべた惚れだし…。って、あれ?じゃ、どこで寝たの?」

「え?」

 聖君と私とで、思わず、目を見合わせてから、

「どこでって?」

と、聖君が聞いた。


「だって桃子、杏樹ちゃんの部屋で寝たって。でも、布団もないのに」

「いや、そんなこと言った?俺。客間だよ、客間」

「客間って和室?さっき、荷物がたくさんあるからって」

「……」

 聖君は、頭を掻くと、

「あ~~。じゃあ、母さんの部屋かな」

と、そっぽを向いた。


「聖の部屋だろ?」

 葉君は、ものすごく冷静にそう言った。

「え?兄貴の部屋?じゃ、兄貴はどこで?」

 菜摘の質問に、聖君は黙ったまま、下を向いてしまった。私もどうしていいかわからず、聖君と同じように、黙り込んだ。

「どこで、兄貴は寝てたの?一階?」

 また、菜摘は聖君に聞いてきた。もうこれ以上、嘘はつけないかな。ああ、困った。

 それは聖君も思っていたようで、思い切り困ったって顔をしていた。




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