第64話 クリスマスパーティ
翌日、3時、れいんどろっぷすに着き、ドアを開けた。
「ワン!」
出迎えてくれたのは、クロだった。
「あら、桃子ちゃん、早いわね」
キッチンから聖君のお母さんが、顔を出した。
「はい。何か手伝えることがあったら、言ってください」
私はそう言いながら、エプロンをした。
「エプロン持参?お手伝いするために、早くに来てくれたの?」
「はい」
「わあ、嬉しいわ。聖は塾だし、杏樹と爽太は買出しに行ってるし、一人だったのよ」
「そうなんですか」
聖君、今日も塾なんだ。受験生にクリスマスも何もないんだな~。
キッチンに入り、私はケーキつくりを任された。
クリスマス会は6時スタート。それまでに、焼かなくっちゃならない。
他にもいろんなメニューを、聖君のお母さんは考えてて、これ全部一人で作るつもりだったのかなって、私は仰天した。
聖君のお母さんって、頑張り屋だ。私とひまわりのパジャマも、徹夜とかして作ったんじゃないだろうか。
きっと、頑張れちゃうんだな。だから、逆に聖君は心配なんだ。いろいろと頑張っちゃうお母さんのことが。
30分して、聖君のお父さんと杏樹ちゃんが戻ってきた。
「あれ?桃子ちゃん、手伝ってくれてるの?」
聖君のお父さんは、キッチンにエプロンをつけながら来て、私に聞いてきた。
「はい。今、ケーキつくりの方をしています」
「くるみ、助かったね。猫の手も借りたかったけど、桃子ちゃんなら100人力だ」
「本当に、助かるわ。桃子ちゃん」
聖君のお父さんとお母さんからそう言われて、私は照れてしまった。
「私は何を手伝う?」
杏樹ちゃんが聞いてきた。
「杏樹は店の、テーブルを配置換えして」
お父さんに言われて、杏樹ちゃんは、ホールにすっとんでいった。
聖君のお父さんは、お母さんの横にいき、野菜を切り出した。
さすがだ。すごく手馴れている。聖君が前に、お父さんも料理うまいよって言っていたけど、本当だ。
「そういえば、聖のやつ、今、大学のことで悩んでいるみたいだけど、桃子ちゃん、何か聞いてる?」
と、聖君のお父さんが言ってきた。
「え?なんとなくは…」
そう曖昧な返事をすると、今度はお母さんが、
「あの子ってば、自分のしたいことを優先すればいいのに、私の心配してくれちゃって。心配いらないし、犠牲になってほしくないわよね」
と、ため息交じりで言った。
「聖君、家族思いだし、お母さんのこと大事なんですね」
私がそう言うと、
「嬉しいけど、お荷物にはなりたくないわ」
お母さんはそんなことを言った。あれ?そうなの?もっと喜ぶことなんじゃないの?
「家族の犠牲になってほしくないのに…」
また、お母さんは独り言のようにそう言った。
ちょうど、その時、れいんどろっぷすのドアが開き、
「ただいま」
と、聖君が息を切らして帰ってきた。
「おかえり~~。桃子ちゃん、来てるよ!」
ホールにいた杏樹ちゃんがそう言うと、聖君はキッチンに来て、
「桃子ちゃん、手伝いサンキュー」
と、最高の笑顔を向けてくれた。
「俺も手伝うよ」
「そう?じゃ、じゃがいもと人参の皮をむいてくれる?」
「うん」
聖君は手を洗い、キッチンの壁にかけてあったエプロンをすると、じゃがいもの皮をするするとむき出した。
すごい、早業だ。
聖君も、聖君のお父さんも手際がよく、お母さんの指示通りに、なんでもさっさとやってのけた。そして、どんどん料理が完成されていく。
「桃子ちゃん、それ、泡立てるやつ、俺やるよ」
聖君はそう言うと、ホイップクリームを泡立てだした。これまた、すごく手際がいい。何度もやったことがあるんだろうな。
すごいな~。この家族の団結力。みんな、自分がすることをわきまえてて、支え合って、助け合っている。
聖君は、自分で気が利かないとか言っていたけど、とんでもない。あの夏の海の家のバイトで、ものすごくいい笑顔で、汗かきながらも一生懸命働いていたのは、やっぱり日ごろ、お店で手伝っているから出来たことなんだな。
聖君のお父さんは、ホールに行き、
「おお、杏樹。すごいじゃん。パーティ仕様にすっかり、様変わりしたね」
と、杏樹ちゃんを褒めていた。
そして、キッチンから、どんどんお料理を運び、お皿を並べたり、スプーンやフォークの用意をし始めた。杏樹ちゃんは、コップを並べた。
もう、いつでもすぐにパーティが出来るくらいの、準備が整った。
その時、菜摘と葉君、そして、ひまわりが入ってきた。ひまわりは、菜摘に頼んでおいた。私と一緒に早くに来ても、足手まといになるだけだろうって思ったからだ。
それは正解だったかも。なにしろ、この家族のチームワークに、ついていけなかっただろうから。
私だって、もたもたしてしまい、だいぶ、ケーキを焼きあげるのに、手間取ってしまった。
それから、杏樹ちゃんのお友達、そして、基樹君が来た。
「メリークリスマス~~!」
基樹君のテンションは、やけに高かった。
「さあ、それぞれ、好きなところに腰掛けて。グラスにジュースを入れて、乾杯しよう」
聖君のお父さんがそう言うと、基樹君が張り切って、グラスにジュースを入れて回った。
そして、聖君のお母さんもキッチンから出てきて、みんなで、
「メリークリスマス!誕生日、おめでとう!聖!」
という聖君のお父さんの声とともに、乾杯をした。
「おめでとう~~~!」
聖君は、
「サンキュー!」
って目を細めて笑うと、ぐびぐびっとジュースを飲み干した。
そうか。自分の誕生日なのに、自分でケーキとか作るの手伝っちゃってたんだ。なんか悪いことしたかな。
それから、みんなで、お料理を食べだした。そして、30分もした頃、ドアが開き、桐太が入ってきた。
葉君は、驚いていた。菜摘は桐太の顔を知らなかったから、
「兄貴の友達?」
とにこにこしながら聞いた。
「あ、桐太、こっちあいてるよ」
聖君がそう言うと、菜摘はそこで初めて桐太だということを知り、顔をひきつらせ、
「え?なんで桐太が来てるの?兄貴!」
と聖君に聞いていた。
「誕生日のお祝いに、だろ?」
聖君が桐太に聞くと、桐太は菜摘の方を睨みつけながら、
「来ちゃ悪いのかよ」
と、低い声で言った。それから、
「お前こそ誰だよ?兄貴とかって呼んでたけど、聖の妹は杏樹ちゃん一人だろ?」
と、杏樹ちゃんの方をちらりと見て、そう聞いた。
「妹だよ」
聖君が答えた。
「それに、桃子ちゃんの親友」
と、聖君は付け加えた。
「え?妹二人もいた?」
「まあな。ま、いいじゃん、そのへんはさ」
聖君はそう言うと、あいてるグラスにジュースを注ぎ、桐太に渡した。
聖君は、まったく桐太のことを、友達として扱っていた。それは、葉君にだったり、基樹君に接するのと同じだった。
菜摘は、私のそばにくると、
「桐太が変なことしてこようとしたら、言ってね」
と耳打ちした。
きっと、もうそんなことはしないと思う。桐太は、聖君に話しかけられたり、笑いかけられて、すごく嬉しそうだった。
菜摘には、桐太は実は、聖君に恋してるんだよ、とは言えなかった。いや、菜摘だけじゃなくって、誰にも言えなかった。それは聖君も同じみたいで、誰にも言っていないようだ。
みんなで、お料理を食べ、わいわいと話し、プレゼントを聖君に渡したりして、あっという間に時間は過ぎていった。
「そろそろ帰ろうか」
葉君は時計を見て、菜摘に言った。
「あ、もうこんな時間だ」
8時を過ぎていた。杏樹ちゃんのお友達のお母さんが次々に、迎えに来ていた。
「じゃ、私とひまわりも帰ります」
私が言うと、ひまわりは、
「え~~~、まだいたい」
と駄々をこねたが、
「遅くなると、ご両親心配しちゃうものね。また、遊びに来て、ひまわりちゃん」
と、聖君のお母さんからそう言われて、しぶしぶ「はい」と返事をしていた。
「駅まで送るよ」
聖君がそう言った。基樹君も上着を着て、
「俺も帰るよ」
と、聖君の肩を抱いた。
「おお。来てくれてサンキューな」
そんな二人を後ろから、桐太が羨ましそうに見ていた。
外に出て、みんなで歩き出した。
「聖、すげえあったかそう」
「え?」
「手編みのセーターに、帽子に、手袋。それ、全部桃子ちゃんの編んだのだろ?」
基樹君が聞いた。
「ピンポ~~ン。すっげえあったかいよ」
聖君はにっこりと笑って、そう答えた。
「あ、そう。相変わらずだね、お前らは。だけど、お前らにはずっと、その熱々カップルでいて欲しいよ」
基樹君はちょっと寂しそうにそう言った。
「お前も、受験終わったら、彼女作れよ」
聖君が、基樹君の肩を抱いて言うと、
「く~~。その前に受かるかな、俺」
と、基樹君は、不安げにそんなことを言った。
それを後ろから見ていた桐太は、
「俺のあげたのも、着ろよな」
と突然言い出した。
「え?ああ。シャツ、サンキュー。でもあれ、高そうだったけど、いいの?もらっちゃって」
聖君がそう聞くと、
「いいんだよ。それにあれ、聖にすごく似合うと思うし」
と、桐太はぶっきらぼうにそう答えた。
そういえば、桐太があげたシャツ、確かに聖君に似合いそうだった。ブランド物のシャツだと思う。
聖君は、友達として接してるけど、もしかすると桐太は、違うのかな。
桐太がたまに見せる、切なそうな表情や、嬉しそうな表情は、まさに恋する乙女みたいで、私の方が焦ってしまう。だけど、それ、聖君は気がついていないのかな。
駅に着いた。私たちはみんな、聖君と改札で別れて、電車に乗った。菜摘は私の横にぴったりとはりつき、桐太から私を守るんだオーラが、にじみ出ていた。
桐太は、みんなと少し離れたところに座り、そのまま目をつむっていた。寝たふりをしているのか、本当に疲れているのか。
菜摘とは反対の隣には、ひまわりがいて、私の肩にもたれかかり、すでに寝ていた。
菜摘の横には葉君。その隣には基樹君がいて、二人でべらべらと話をしていた。
「兄貴、もう18歳か」
菜摘がぼそってそう言った。
「そうだね…」
「ね、その指輪、兄貴からでしょ?」
「え?うん」
「なんだか、エンゲージリングみたい。それ、誕生石だよね?」
「うん」
「可愛いよね。どんな顔してこういうの買ってるんだろうね」
「だよね…」
私も想像つかないや。
「もうすぐ受験か~~。兄貴、ちゃんと勉強してるのかな」
「いろいろとあったもんね。勉強の邪魔をしちゃったかな、私」
「桃子のせいじゃないじゃない。桐太とか、わけわかんないやつが出てきたからだよ」
菜摘はちらりと桐太の方を見ながら、小声で言った。
「それもまた、あれかな」
「え?」
「聖君のお父さんに言わせたら、必然だったのかな」
「必然?」
「うん。偶然ってないんだって。全部が必要で起きてること」
「へ~。そんなこと言ってたの?」
「うん」
「桐太がいったい、桃子や兄貴のどんなことに必要で現れたの?邪魔なだけだった気もするけどね」
「……」
そういえば、桐太の出現で、私と聖君、結ばれちゃったのかも…。なんて思ったら、いきなり顔が熱くなった。
「あ、ごめん。なんか嫌なこと思い出させた?」
私が顔を赤いのをばれないように、思い切り下を向いたから、菜摘は誤解して、そんなことを聞いてきた。
「だ、大丈夫」
私はまだ、下を向いたまま、そう答えた。
「だけど、なんで兄貴、今日あんなに平然と桐太と接してたのかな」
「言ってなかったっけ?この前、れいんどろっぷすに桐太が来て」
「え?」
「私もお店にいた時で、それで、3人で話をして」
「うん」
「桐太が、また聖君と友達としてやっていきたいって言って、聖君もそれを受け入れて」
「え~~?桃子にあんなひどいことしたのに?兄貴、怒ってないの?」
「怒ってたけど…。でも、もう、怒ってないみたい」
「何それ!そんなに簡単に許しちゃうの?」
「もう私が殴って、歯、折っちゃってたし」
「それだけじゃ、私だったらおさまらないよ」
「え?」
「私が桃子の彼氏だったら、許せないよ。だって…」
菜摘は、ちょっと声が大きくなっていたことに自分で気がつき、また小声で、
「だって、桃子にキスしたんでしょ?」
と、聞いてきた。
「う、うん」
「そんなの、絶対に許せないよ」
そうだよね。私もずっと感触が残って、すんごく嫌だった。それはもう、消えることがないんじゃないかって思ってた。でも、消えちゃった。
聖君に何回もキスされて、抱きしめられて、今は聖君のキスしか思い出せないし、それを思い出しただけでも、胸は高鳴るし…。きっと、聖君も桐太のことなんて、忘れちゃったんじゃないかな。
基樹君が、
「お先に!」
と言って、電車を降りた。
「あれ?そういえば、葉君…」
葉君の家は、江ノ島にある。なんで電車に乗ってるのかな?
「菜摘のこと、家まで送っていくから」
葉君がそう言った。
あれれ?呼び捨て?いつの間に…。
新百合ヶ丘に着いた。ひまわりも眠そうな顔をしながら、ホームに降りた。桐太は、私たちが降りる時、携帯をいじっていて、こっちをまったく見ることもしなかった。
「聖、なんでまた、桐太がクリスマス会に来るのを許したのかな」
葉君はぽつりと言った。
「普通に友達みたいに話してたけど、あいつ、何考えてるんだろ」
う~~ん。実は、かくかくしかじかで、なんて、桐太の聖君に対する気持ちを話せるわけもなく、私は黙っていた。
聖君は、気持ちを知ったうえで、ああやって、友達として認めたんだよね。一回、認めちゃうと、本当にちゃんと、受け入れ態勢万全になって、接しちゃうんだね。すごいな~。
私はまだ、桐太と話すのは、駄目だな。なんか抵抗がある。だけど、聖君が友達として受け入れたんだし、その辺は、とやかく言うことじゃないと思うし。なんとなく、嬉しそうな桐太を見てるのも、ちょっと嬉しかったりするし…。
駅で菜摘と葉君と別れた。それからひまわりと歩き出した。すると、後ろから、
「おい」
と、桐太の声がした。
「え?!」
なんでいるの?と思い切りびっくりして振り向くと、
「送ってくよ」
と言い出した。
「な、なんで?え?電車乗って行ったんじゃないの?」
「ドア閉まる寸前で降りた」
「え?」
「暗いし、駅から家までけっこうあるし、女の子二人だけで帰すのは危ないし、送っていけってさ」
「ええ?」
「聖が、メールよこした」
え~~っ?!!!聖君が?!!!
「しょうがねえよな。聖の頼みじゃさ」
「……」
「ほら、行くぞ」
「……」
驚きのあまり、私は言葉を失った。
ひまわりは、まだ眠そうで、よろよろと歩いていた。
「大丈夫かよ?しっかり歩けよ。酔っ払いと間違えられるぞ」
桐太に言われ、
「え~~。だって、眠いんだもん」
とひまわりは、目をこすりながらそう言った。
「図体でかいけど、まだ小学生なみだな、こいつ」
桐太がそう言うと、ひまわりは、
「あはは。図体でかいって余計なお世話だよ~~」
と、笑いながら桐太に言い返していた。
「なんか、無邪気なやつだな。そういえば、聖の妹もそうだっけ。なんか似てるな」
「でしょ?聖君にも言われた。杏樹とひまわりちゃんは絶対に、気が合うって。会って、本当に仲良くなっちゃったの」
「へえ」
「お姉ちゃんと聖君は結婚するから、ずっと杏樹ちゃんとは仲良しでいられるよ~~」
「え?」
ひまわりがそんなことを言うから、桐太は驚いていた。
「け、結婚するの?約束してるとか?」
「ううん」
私は慌てて、首を横に振った。
「なんか、周りがみんなで、そう言ってるだけで」
「嘘だ~~。聖君だってその気だよ~~。見て!お姉ちゃんにこんな指輪もプレゼントしたし」
ひまわりは私の手を持って、指輪を桐太に見せた。
「ひまわり、やめてってば」
私はひまわりの手を振り払った。
「そっか~。なんか、聖、本当に本気なんだな」
桐太はぼそってそう言った。
「聖君、桐太のこと本当に許しちゃったんだね」
私がそう言うと、桐太はちょっと驚いて、
「なんでそう思うの?」
と聞いてきた。
「だって、私とひまわりのこと送っていけなんて言うんだもん。気を許してなかったら、そんなことお願いしたりしないよ、きっと」
「だよな。それは俺もそう思った。だから、送ることにしたけど」
なんだ。桐太もその辺はわかってたんだ。
「その気持ちにはちゃんと、答えないとって思ったしさ」
「そっか」
「やっぱ、聖すげえよな」
「え?」
「器でかいよ」
桐太はぽつりとそう言うと、ちょっと嬉しそうに笑った。
「そうだね。私もそう思う。だから、いつも安心できるんだ」
「え?」
「聖君といると、安心できる。でも、甘えてるってことだよね?私ももっとしっかりとして、聖君のこと支えられるようになりたいなって、思うんだ」
「支え?」
「うん。聖君が悩んだり、辛い時に何かしてあげたいって思うんだけど、何が出来るのかがわからなくってもどかしい」
「それは大丈夫じゃないの?」
「え?」
「あんたさ、もうとっくに聖の支えになってるよ」
「私が?」
「あんたがいるってことがもうすでに、相当な聖の力になってるんじゃね?」
「そ、そうかな」
「……。あんたが聖の彼女でいるのは、俺、大賛成」
「え?!」
「この前も言ったけど、あんたのことは認める。何かあったら応援するよ」
「……」
私はびっくりして、目を丸くして桐太のことを見ていた。
「味方にもなってやるよ」
桐太がそう言うと、ひまわりが、
「また味方が増えたね、お姉ちゃん」
と、にっこにこの笑顔でそう言った。
「ひまわりちゃんだっけ?君も二人の味方なの?」
「うん。たとえお父さんが二人の仲を、裂こうとしても、味方するの」
と、ひまわりは言った。
「え?お父さん反対してるの?」
「ううん。大賛成してるよ。今はね。ね?お姉ちゃん」
「うん」
「前は反対してたとか?」
「うん、ちょっとね、いろいろあって」
「今は賛成してるの?」
「聖君のよさを認めてくれたの。今じゃ、聖君みたいな息子がいたらいいな~~~って、そればっかり言ってる」
「へ~。すげえな。じゃ、やっぱり結婚までしちゃうんじゃないの?あんたら」
「……」
思わず、私は真っ赤になった。
「ま、なんか悩みでもあったら聞いてやるよ。同じ恋するものどおし、俺もなんかのアドバイスできるかもしれないし」
「え?」
「できないかもしれないけど」
「ありがと」
お礼を言うと、桐太はちょっと照れているのか、下を向いて歩き出した。
私の家に着いた。
「じゃあな」
と、桐太は言うと、さっさと来た道を走って戻っていった。
なんだか、すごい展開だ。警戒しろ、近づくなと言ってた桐太に、送らせちゃうなんて、聖君、本当に桐太のこと、信頼しちゃってるんだな。
それに、桐太が応援するだの、味方するだの言ってくれるなんて…。
そういえば、聖君って敵がいないんじゃないかと思うくらい、みんなのことを許したり、受け入れてるんだな。それに受け入れられている。
私の両親もだし、菜摘のご両親もだ。やっぱり聖君はすごいと思う。
部屋に行き、指輪を見ながら桐太の言葉を思い出した。
「もうとっくに、聖の支えになってるよ」
嬉しかったな、その言葉。
聖君にメールをした。桐太はちゃんと送ってくれたよ。それに、私と聖君のこと応援してるって言ってくれたよって。するとすぐに返信が来た。
>あいつもこれで、罪悪感ふっきれたかな。
>罪悪感?
>桃子ちゃんに手を出したこと、すごく後悔してたから。
そうなんだ。そんなやり取りを二人の間でしていたのかな。
>お前のおかげで、桃子ちゃんと絆が深まったから、もう怒ってないよって前にメールしたんだ。でも、あいつの気がすまなかったみたい。だけど、もう大丈夫かな。あ、でも、桃子ちゃんの方が気がすまないって感じだったら、俺、勝手なことしたよね?
>私も、もうなんとも思ってないよ。それにあんなことがなかったら、聖君にまだ、おあずけさせてたかもしれないし。
>だよね!その辺では、感謝してるって言うか、桃子ちゃんをその気にさせてくれて、ありがとうって感じだよ、俺(><)
なんなんだ、その「その気にさせる」って。う~~、まあ、そうなんだけど。
>今日はいろいろとありがとうって、母さんも桃子ちゃんにお礼言っておいてってさ。ほんと、助かったよ。ありがとう。
>ううん。返って足手まといになってなかったかな?私。
>全然!母さん本当に喜んでた。まじで、サンキュー。
>聖君、もう18歳だね。おめでとうね。
>うん、サンキュー。もう免許も取れる。
>そうだね、欲しいって言ってたもんね。
>それに結婚も出来る。
ドキ~~~!!!!け、け、結婚?
わ~。…どう返事をしたらいいのかな。私は、しばらく返信が出来なかった。
>あれ?返信なんでないの?聖君、私と結婚したがってたもんねって来るかと思ってた。
え~~~!!!そんなこと書いて、送るわけないじゃないっ!!!
>なんてね!まあ、結婚も出来る年になっちゃったってことで。これからもよろしくね(^^)
……。もう、本当にびっくりした。
>うん、よろしくね。
>おやすみ!
>おやすみなさい。
今年もまた聖君の誕生日を祝えた。嬉しいな。それが何よりも幸せだなって、そんなことを思う。
窓を開けて空を見た。星は見えなかったけど、今ある幸せに感謝した。
「聖君に会わせてくれて、ありがとう」
お星様になのか、お月様になのかわからないけれど、私はそうつぶやいていた。