第61話 驚きの告白
聖君は、海の方へと歩き出した。私は聖君に手をひかれ、とぼとぼと歩いていた。桐太は距離を取って、聖君の後ろから歩いてきていた。
浜辺に着いた。人はほとんどいなかった。聖君は、私の前に立ち、桐太の方を向いた。
「お前、何しにきたの?」
いきなり、聖君はかなり低い声でそう聞いた。
「……」
桐太は黙っていた。しばらく聖君を睨みつけ、
「その女、俺の歯を折った」
と、ぼそって言った。
「だから?お前がそれだけのことしたんだろ?なんなら、もう2、3本へし折ってやろうか?」
……。どこかで、聞いた台詞。あ、菜摘だ。
桐太は、少し顔色を変えた。それから、ちょっと私が殴った方のほっぺたを触ると、
「もういいよ。一本で十分だ」
と、そんなことを言い出した。
「じゃ、何しに来たんだよ。俺にぼこぼこにされるのを覚悟して来たんじゃないのかよ」
「その女が、ちゃんと聖と真正面から向き合って話せって言うから、来てやったんだよ」
「はあ?何それ…。え?桃子ちゃん、そんなこと言ったの?」
聖君は、目を丸くして私の方を見た。私は黙って、うなづいた。
「なんで、そんなこと?」
聖君はまだ、びっくりしていた。
「だって、なんだか、いろいろと桐太君は思いを抱えてるみたいだったから、一回、聖君にそれをぶつけた方がいいんじゃないかなって思って」
「……。俺、そんなに何人もの人の思い、受け取ってられないって。まじ、自分のことだけで精一杯だよ」
と、聖君は頭を掻きながらそう言うと、
「しょうがねえな。なんだよ?俺に何が言いたいんだよ?」
と、桐太の方を向いた。
ひゅ~~。少し風が吹いてきた。波が音を立てる。日が落ちてきていて、暗くなってきていた。
さっきから、聖君についてきたクロは、喜んで走り回っている。聖君がまったく、相手にしないのに、そんなことおかまいなしに、一匹で走っている。
しばらく、桐太は黙っていた。
クロは、ようやく聖君の足元に来た。それから、ハッハッと舌を出し、疲れたのか、聖君の足元にごろんと横になった。
「中学の時、お前、いきなり俺のこと見放したよな」
「え?」
桐太の言葉に、聖君は思わず、聞き返した。
「それまで、説教したりしてたのに、いきなり手のひら返したみたいに、俺にかまってこなくなった」
「それは、お前が俺の話を聞かなったからだろ?うるさいの一点張りで、なんか、もう、何を言っても無駄なんだなって、そう思ったんだよ」
「お前、だいたいなんで俺に、説教なんかしてきたんだよ」
桐太は、ちょっと辛そうな顔をして聞いてきた。
「は?お前、自分が何をしたかわかってないの?」
「お前の彼女にちょっかいだした」
「そうだよ。そのうえ、俺と別れたら、その子のこと見向きもしなくなった」
「そりゃそうだ。お前と別れさせるのが目的だったんだから」
「だから、なんでそんなことするんだよ。それがわかんねえ」
「あんなやつ、お前の彼女になんか、認められない」
「は?俺の彼女だよ?お前の許可がなんで必要なんだよ」
「聖は知らないんだよ。あの女、聖のこと、ただ自慢したくて、付き合ってたんだ」
「ああ。そう。でも、それだからって、なんでお前が別れさせなくっちゃならないんだよ?」
聖君の声は完全に呆れていた。
「あんな女、聖にふさわしくない」
「なんだよ?ふさわしいとか、ふさわしくないとか、なんでそれをお前が決めるんだよ?俺が好きになるかどうかだろ?お前には関係ないじゃん」
「関係大ありだよ」
桐太の顔は、泣きそうになっていた。なんだか、必死で自分の思いを言ってるように見える。
「関係ないだろ?!」
聖君は、怒り出した。その声で、一瞬クロがびっくりして、頭をあげた。
桐太は黙り込んだ。そしてうつむいてから、
「聖に何がわかるんだよ」
と、低い声でそう言った。
「何もわかんないね!なんでお前がふさわしいとか、ふさわしくないとか決めるのか、まったく理解できないよ」
聖君は、まゆをひそめてそう言った。
クロが、ぐるぐると聖君の足元を回り、
「ク~~ン」
と鳴いた。
「ああ、クロ。お前に怒ってるわけじゃないから、安心して」
聖君は優しくクロをなでながら、そう言った。
「聖って、心を許したり、自分が受け入れたやつには、すげえ優しいんだ。昔からそうだ」
「え?」
桐太の言う言葉に、聖君はまたまゆをひそめた。
「そのクロとかいう、犬みたいに」
「……」
聖君は、何が言いたいんだろうと言う顔で、桐太を見ていた。
私も、桐太が何を言いたいのか、わからなかった。でも、もしかすると、クロが羨ましくなったのかもしれないなって、そんなことを感じていた。
「聖の周りにいるやつは、お前が気を許したやつだ。一回そうなると、お前はとことん、仲良くなるし、心を開く」
「そう見える?」
「ああ。羨ましかったよ。だから、同じクラスになって俺も、聖と仲良くなれて、すげえ嬉しかった」
聖君は黙っていた。
「聖の周りのやつって、けっこう気のいいやつが多かったし、やっぱり、聖の友達してるんだから、それだけのやつなんだなって思ってた」
「ふうん」
聖君のお得意の「ふうん」が出た。
「だけど、あの女は違う」
「何が?」
「聖のことが本気で好きなんじゃなくて、他の女に自慢したかっただけだ」
「なんでそんなのわかるんだよ?」
「聞いたんだよ。放課後教室で、そんな話をしてたのを」
「じゃ、それをそのまま、俺に伝えたら良かったじゃん」
「……、そんなこと言って、聖のこと傷つけたくないってのもあったから」
「はあ?何だよ、それ…」
聖君はしばらく、腕を組んで考え込み、
「あ!まさか、自分がわざと悪者になって、俺から彼女を引き離そうとしたのかよ?」
と、いきなり大きな声でそう言った。
「……」
桐太は、黙って下を向いた。クロが聖君の大きな声でまた、耳をピクンとさせたが、聖君がすぐにクロの背中をなでて、クロは落ち着いていた。
「なんだよ、それ」
聖君はクロの背中をなでながら、ぼそって言った。
「なんで、俺に言わないんだよ」
また、小さな声でつぶやいた。
「いんだよ、別に、俺はどう思われても。だけど、そんなことをしたとしても、聖にだけは、嫌われないですむだろうって、たかをくくってた」
「え?」
「俺のこと、そのまま受け止めててくれる、理解してくれるってそう思い込んでたから」
「…そうじゃなかったから、頭にきてるのか?」
「……」
桐太はまた、黙り込んだ。
「お前のこと理解するどころか、俺は、責めたり、怒ったりしてた。だから、傷ついてトラウマになったのか?」
聖君はそう聞いた。
「トラウマって、なんでそれ?」
「桃子ちゃんから聞いた」
「…よけいなこと、しゃべるなよ」
桐太は、すごく嫌だって顔をした。
「お前のこと桃子ちゃんも、心配してたんだよ」
「うざい!そういうことする女、大嫌いだ」
「桐太!お前ひねくれ過ぎだよ!」
聖君がそう言うと、
「うっせ~よ。俺はな、その女みたいに、さも私はわかっているのみたいな顔をするやつが、大っ嫌いなんだよ!そういうやつに限って、何もわかっちゃいねえんだ」
と、そう言って、桐太は私のことを睨んだ。
聖君はすっと私の前に立ち、桐太から、私を隠した。
「そんなにその女は大事?」
今度は桐太は、聖君を睨んだ。
「大事だよ。だから、手出すなって言ってただろ?」
「はは!でも、手出しちゃったよ、俺」
聖君は一瞬、拳を振り上げそうになった。
「聖君」
後ろから聖君の腕を掴むと、聖君は拳を下げた。
「殴りたければ、殴れば」
桐太は、なんだか、悲しそうな顔でそう言うと、
「それで気がすむなら、殴ればいいだろ」
と、まるで捨て台詞のようにそう言った。
「気、すまねえよ」
聖君が、低い声でそう言った。そう言ってから、くそって、小さい声で、吐き出すように言った。
そんな様子を見ていた桐太は、切なそうな目をした。
なんでかな。聖君のことを苦しませて、喜ぶんじゃなかったのかな。何で今、あんなに苦しそうな、悲しそうな表情を桐太はしてるんだろうか。
本当は、苦しませたくなんかないのかな。苦しんでる姿なんて、見たくはないんじゃないのかな。だって、きっと本当は聖君のことが好きで。
「桐太君、ちゃんと言えばいいのに」
思わず私がそう言うと、桐太は、
「何を!」
と、私を睨みながらそう言ってきた。
ビクン。思わず、聖君の影にまた隠れたが、でも、また桐太の顔を見て、
「聖君のことが好きだってこと」
と、私は桐太に言った。
「うっせ~よ」
桐太は私にそう言ってから、ぷいっと横を向いた。
「……。俺のこと兄貴と重ねてるのか?」
聖君が、冷静な声で桐太に聞いた。
「え?」
「そうなのか?」
「違え~よ」
桐太は、また下を向いて、頭を少し抱え込み、
「わかった。言うよ」
と、何かを決意したように、聖君を見た。
「聖には、こんなこと言うつもりはなかった。こんなこと言ってもしょうがないし、それどころか、お前、絶対に引くからさ」
桐太はそう言うと、また下を向いた。
なんだろう?聖君が引くこと?でも、聖君はまっすぐに桐太を見ていた。
桐太はまた、顔をあげて、聖君を見ると、
「そ。俺はお前のことが好きだったよ」
と、すごく冷静にそう言った。なんだ。やっぱりそうじゃない…。と思った次の瞬間、桐太は、
「多分、小学生の頃から、好きだったよ。中学入って、あの女が聖と付き合いだして、それで自分でも確信した。あんな女に取られたくないってさ。それは、友情じゃなくって、恋愛感情だってこと、気がついた」
と、ほとんど、聖君を睨みつけるような視線でそう言った。
え?
え?え~~~~?!!!!!
れ、恋愛感情???????
それを聞いて、私の方が驚いて、腰を抜かしそうになった。慌てて聖君の方を見ると、聖君はまったく動じていなかった。それどころか、ふうってため息をついて、
「別に、引いたりしないけど、俺」
とぼそってそう言った。
ええ?なんでそんなに、冷静なの???
「驚かなねえの?聖」
桐太の方が、拍子抜けしていた。
「ああ…。うん、まあ…」
聖君はそう言ってから、頭をぼりって掻くと、
「お前で3人目。俺、男から告られるの」
と、ぼそってそう言った。
え~~~~~~~~っ!!!!!
駄目だ。その場にふらふらと倒れるかと思った。でも、ここで私が倒れては!と、気合でその場に立っていた。
「そっか。他にも聖に告ったやついるんだ」
「…。付き合ってる子いるからって、断ったけど」
「そっか」
え?私のことだよね。そういう断り方なの?
「そいつらって、同じ高校?」
「ああ、うん。後輩だけど」
「今も顔合わせる?」
「え?うん。挨拶程度はする」
「…。嫌がったり、気持ち悪がったりしないの?お前」
「しねえよ、別に」
「すげえな、お前」
「そうか?だけど、付き合ったりはできないよ。俺、女の子が好きだし」
「……」
「あ、違った。女の子がじゃなくって、俺の場合どうやら、桃子ちゃんが好きだしって言った方がいいかも」
え?ドキ~~~~ッ!
「……。この女だけってこと?」
「その、女って言い方やめてくれる?なんかすげえ嫌だ」
「じゃ、こいつ」
「……。こいつ呼ばわりも、嫌だけど、ま、いっか」
聖君はしょうがねえなって顔をしてから、
「多分、桃子ちゃんの場合は、女の子だからとか関係なく、好きかも」
と、またつぶやくようにそう言った。
「なんだよ、それ?じゃ、もし男だったとしても、好きになってるかもってこと?」
「もしなんてないけど、でも、そうかもな」
「……」
桐太は、しばらくうつむいてから、いきなり笑い出した。
「あははは。すげえな、それ。こいつは本当に聖にとって、特別なんじゃん」
「そうだよ」
「……わかったよ。俺もこいつだけは、認める。こんな弱々しくって、男がついていないと駄目なんですってのを絵に描いたような女、絶対に聖の彼女なんかつとまらねえって思ったけど、こいつ、すげえ強いもんな」
桐太は、そう言って笑ってから、
「こいつは本気で聖に惚れてるってわかったし、その想いはもしかすると、俺、太刀打ちできないかもってそう思ったからさ」
と、かなり真剣な顔でそう言った。
「太刀打ちできない?」
聖君が聞き返すと、
「すげえ、聖のこと大事にしてるだろ?」
と、桐太は私の方を見てそう聞いた。
「うん」
私が、うなづくと、
「それがわかったから、俺も認める。それに、こいつの親友ってやつも、こいつのこと本気で大事に思ってるし、そんなふうにダチに思われてるってことは、それだけの人間ってことだろうしさ」
桐太は、ちょっと口元に笑みをうかべ、そう言った。
「お前、あの果林さんって人のことは、まったく本気じゃなかったのかよ」
聖君がそう聞くと、
「あいつは、俺と同じだよ。俺のこと本気だったわけじゃない。それに、俺も」
桐太はそう答えた。
「もしかして、女の子は好きになれない…とか?」
聖君が聞くと、
「いや、そういうわけじゃない。それに俺、男が好きなわけでもないよ。聖だけが多分、特別。他のやろう見ても、なんとも思わないからさ」
と、桐太は笑った。
「そっか」
聖君は、きっと納得したわけでもないんだろうけど、そんな曖昧な相槌をうった。
「聖は、こんな俺でも、友達としてそばにおいておく余裕ある?」
桐太は、少し言いにくそうに、うつむきながら聖君に聞いた。
「……。どうかな。けっこう自分のことで、俺もいっぱいいっぱいだから、わかんねえけど、でもま、普通にふざけたりするダチだったら、いいかもな」
と、聖君は少し、笑いながらそう言った。
桐太の顔が、ぱあっと明るくなった。
「そっか。それじゃ、その程度の友達でもいいからさ、さわぎたくなったら呼んで」
桐太は、嬉しそうにそう言った。
「桃子ちゃんには、絶対にもう、手出さないよな」
「もちろん。これ以上、殴られたくないし。こいつ、強えんだもん」
桐太は、そう言うと、
「あ、でも他のやつがいつ手を出すかわかんないし、お前、いい加減大事にするのもやめて、さっさとものにしとけば?」
と、そんなことを言い出した。
聖君は、少しだけ赤くなった。でも、どうやらそれを悟られないようにわざと、クールを装って、
「お前には関係ないだろ?」
と、そう低い声で言った。
それから、後ろを向いた。聖君の真後ろには私がいて、聖君はちょっと私を見て、
「コホ…」
と小さく、咳払いをした。その顔は、やべ~~って顔で、みるみるうちに真っ赤になっていった。その顔を見て、私まで顔がほてり、思いきり下を向き、桐太に見えないようにした。
「なんで~~。そのくらいで、二人で照れあってるようじゃ、いつまでも駄目だな」
桐太は、私たちを見ながらそんなことを言った。
「帰ろう、桃子ちゃん。桐太、お前ももう、帰るだろ?俺らも家に戻るから。じゃあな」
聖君は桐太に軽く手を振って、さっさと歩き出そうとしたけど、
「え?このまま俺、家に帰るのかよ」
と、桐太は聖君の腕を掴んだ。
「俺、桃子ちゃんとデートしてたんだよ。受験でそうそう会えないんだし、気、きかせろよ」
聖君はそう言うと、また、
「じゃ、ここで。クロ!帰るぞ」
と、クロに言い、私の手を取って、どんどん歩き出した。
クロは尻尾を振りながら、聖君の横を歩いた。
ちょっと後ろを振り向くと、桐太はまだ、その場にいて、私たちを見ていた。
いいのかな。なんか、その姿がものすごく、寂しそうに見える。
「桃子ちゃん、いいの。桐太のことは気にしなくっても」
聖君が私の心を察したのか、そんなことを言ってきた。
「俺、友達としては接していけるけど、それ以上は無理だから。変に優しくしたり、同情したり、そんなのもしたくないから」
「え?」
「やっぱりね、俺には桃子ちゃんが1番なんだよ」
聖君は握った手に力を入れた。
「初めて、男から告られた時には、さすがに俺、びびっちゃって、俺には、付き合ってる子がいるし、期待しても無理だからって、かなり、顔をこわばらせて断ったと思うんだよね」
「うん」
「そいつ、1年生で、思いを告げたかっただけですからとか言ってたけど、それからも、学校で会うと、にっこりと微笑んできたりするんだよね。でも、俺にはどうすることも出来ないから、ほんと、挨拶する程度。それ以上もそれ以下もないって感じなんだけどさ」
「うん」
「その次に、告られたのは、夏休み中。同じ塾に通ってる、2年生から」
「え?そうだったの」
まったく聖君、言ってくれないから、知らなかった。
「即、断ったよ。でも、高校で会っても、無視しないで、話をしてくださいって言われて、挨拶くらいしかしないよって言ったんだ。それでもいいって言われたけどさ」
どんな子なんだろう。可愛い子だったりして。
「ちょうど、それ、桃子ちゃんがうちに来て、俺が胸触っちゃって、桃子ちゃんが嫌がった日あったじゃん。あのあとすぐだったんだ」
え?あ…。聖君の家族が伊豆にみんなで、行っちゃってたあの日だ。
「俺、夢見たんだよね。告られた日にさ」
「どんな?」
「桃子ちゃんが、実は私男なんですって、俺に、言ってるの」
「ええ?」
何!その夢~~!
「で、俺、驚くんだけど、だから、桃子ちゃん、胸触って、嫌がったんだなって、変に納得してて」
「え?」
「男だってばれたら困るから、嫌がったんだなって俺、夢の中で思ってるんだ」
「な、何それ?」
「でさ、夢の中でさ、俺、男でも桃子ちゃんのことやっぱり好きだって、桃子ちゃんに抱きついてんの」
「……」
な、なんちゅう夢?…私は何も言えなくなっていた。
「起きてから、その夢思い出して、俺、なんつう夢見てるんだよって思ったんだけど、だけど、まじで、桃子ちゃんが男だったとしても、やっぱり惚れちゃってるだろうなって、そう思ったんだよね」
「……」
ふ、複雑。何が一番、複雑って、…胸。
「それ、私の胸があまりにもぺったんこで、それでそんな夢見たんじゃないよね?」
思わず、私はそう聞いていた。
「ええっ?違うって!」
聖君は慌てたけど、そのあと、頭を掻きながら、
「桃子ちゃん、胸あるじゃん。すげ、やわらかいじゃん」
と、ぼそってそう言った。
ドン!!!
「わ!」
恥ずかしくって、思わず、私は聖君のことを横から押した。聖君は、こけそうになり、
「桃子ちゃん、びっくりした。いきなり押さないで。すっころぶかと思ったよ、俺」
と、慌てていた。
その横で、クロも驚いたのか、しばらくワンワンと吠えていた。
多分、
「驚かせるなよ。びっくりしたじゃんか」
ってクロは、自分の方に倒れそうになった聖君に、言っていたに違いない。