表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/123

第53話 仕返し

 しばらくして、花ちゃんが朝、学校に来るなり、

「お姉ちゃん、強引に桐太と別れたよ」

と言ってきた。

「強引にって大丈夫なの?」

「うん。なんかね、私は自分を大事にするし、桐太みたいに誰とでも平気で付き合うような男とは、もう付き合わないって、バシって言ったみたい。それも教室でみんながいるところで」

「へ~~」

「そうしたら、周りの女子が、そうだ、別れちゃいなってなって、味方についてくれたんだってさ」


「なんかその展開すごくない?」

「でしょ~~?お姉ちゃんもびっくりしてた。クラスの女子でも桐太に泣かされた子がいるみたいで、あんなのともう付き合っちゃ駄目だよって言って来たんだってさ。その子やその子の友達と、今、一緒にいるって言ってた。桐太が話しかけてくると、その子達がガードしてくれるんだって言ってたよ」

「周りから、大事にされるようになったんだね」


「うん。お母さんからも昨日、突然ミシンをプレゼントされてたし」

「ミシン?なんで?」

「洋裁の学校に行きたいって言ってたから。お母さん、お金ためて、すごくいいミシンを買ってくれたんだよ」

「そうなんだ~~。果林さん、喜んでた?」

「泣いてた」

「え?本当に?」

「うん」

 そっか。すごいな。本当に周りが変わりだすんだね…。


 その日の帰りは、花ちゃんは部活があり、あの元気な菜摘は風邪で休んでいて、私は一人で学校から帰ることにした。

 学校を出て、駅の方へ向かおうと歩き出すと、突然誰かに腕を掴まれた。

「え?!」

 ものすごく驚くと、

「ちょっと、話があるんだけど、いい?」

と、桐太君が立っていた。


「ど、どうしてここに?」

「桃子ちゃんと話がしたくて、待ってたんだ」

 うそ!駅どころか、学校にまで来ちゃったの?ど、どうしよう。腕を振り払って逃げようか。ああ、ここにせめて、花ちゃんか、菜摘がいたら。

「ちょっと話があるだけだよ。すぐにすむ。でも、来てくれないって言うんだったら俺、毎日ここで待ち伏せしようかな」


 それ、ストーカー…。

「それでもいいなら、いいけど」

「わかった。本当にちょっと話するだけだよね」

 毎日来られるなんて冗談じゃない。そのくらいなら、今日話をして終わらせたい。


 それにしても、なんで私の方に?ああ、えっと、菜摘が言ってたっけ。聖君の彼女だから、ちょっかいだしたくなって、やってくるかもしれないとかなんとか。

 友達の彼女を取る癖があるとか、そんなことも聖君言ってた。それで?


 そんなことを考えながら、手を引かれてついていくと、学校からちょっと離れたところにある、大きな公園に桐太君は入っていった。

 夕方で、段々と暗くなりつつある公園の中には、ジョギングをしているおじいさんや、犬の散歩をしているおばさんがいた。少しだけ遊具もあり、そこではまだ小学生が遊んでいた。


 人がいるので、ちょっと安心していたが、桐太君はまだ止まらず、奥へと歩いていった。そして、少し木々がうっそうとしているところにいくと、いきなり大きな木に私を押し付けて、

「あんたと聖のせいで、俺は果林と別れることになった。どうしてくれる?」

とすごんできた。

「私と聖君のせい?」


「そうだよ。あんた達が果林になんて言ったかは知らないけど、あんたらのせいだろ?」

「違うよ。果林さんが自分で決めたこと」

「うぜえんだよ!」

 そう言うと桐太君は、私の方に体を押し付けてきて、

「そういうの大嫌いだね。聖も中学の頃、あれこれ俺に説教してきた。親友面してさ」

と、ものすごく憎らしいって顔をして言った。


 怖い。一気に血の気が引いた。私、こんなところまで、ついてきちゃいけなかったんじゃなかろうか。ジョギングをしている人も、犬の散歩をしている人もここにはいない。木々がうっそうとしていて、辺りは暗い。

「聖、まだあんたに手出してないんだろ?どうするかな。俺の方が先にあんたをものにしたら」

「え?」

 何それ?


「そ、そんなことしたら、聖君、怒ってただじゃすまさない…」

「ただじゃすまさないって、どうなるの?思い切り怒ることは怒るよね?それに悔しがる。あはは!見ものじゃん!」

 怖い…。この人、何を考えてるの?


「どうしてそんなに、聖君に対抗意識を持つの?」

「対抗意識?そんなの持ってないよ。ただ、面白いだけだよ」

 桐太君は薄笑いを浮かべた。

「あいつだって、俺から彼女を取ったんだ。これは自業自得ってやつだ」

「彼女を取ったりしてないよ」

「したさ。果林のやつ、聖のこと思い切り褒めてた。目があいつを好きだって言ってた」

 う…。それは本当かもしれない。


「俺から奪ったんだから、俺も奪ってやるよ」

「奪えないよ。私が好きなのは聖君だもん」

「体は?」

「え?」

「心なんてどうでもいいんだよ、俺にはさ」


 ゾク…。今、気がついた。この人の手冷たい。掴まれた腕に、鳥肌が一気に立つ。

「聖のやつ後悔するだろうね、あんたにまだ手を出してなかったことを」

 グラ…。目が回りそうだ。どうしよう。聖君!誰か!誰でもいい。誰か、ここを通って!助けて!

 でもそんな私の願いとは裏腹に、どんどん辺りは暗くなり、桐太君は私の腕をぎゅって思い切り掴み、身動きが出来ないくらいに、体を押し付けてきた。


 桐太君が、片手で私のあごを持とうとして、私は思い切り顔を横に向け、抵抗した。でも、力づくで自分の方に顔を向けさせ、キスをしてきた。

「!!!!」

 嫌だ!思い切り抵抗しようと力を入れて、顔を動かそうとしても、腕で跳ねのけようとしても、全然動かない。


 聖君!!!

 体が震えた。怖い!どうにか、顔を少しだけ横にずらし、

「誰か!」

と声を出そうとすると、口を手で押さえられた。

「呼んでも、無駄」

 にやりと笑って、桐太君が言う。

「観念したら?」

 観念?じょ、冗談じゃない!なんでこんなやつにキスされたり、触られたりしてんの?私。


 私に触っていいのも、キスしていいのも、聖君だけだもん!

 ガリッ!!

「いてっ!!!」

 私は思い切り爪で、桐太の顔をひっかいた。あ~、もうこんなやつ、やっぱり呼び捨てで十分だ。目の辺りをひっかいたので、目を押さえて桐太は痛がった。そのすきに、私は思い切りダッシュした。


 とはいえ、私は走るのが遅い。持っているカバンも重い。だけど、必死に逃げた。

「てめ~~!待てよ!」

 後ろから桐太の声がした。追いかけてくる!必死に走ると、いきなり、

「ワン!!!ウ~~ワン!」

と、犬が吠えて飛びついてきた。

「きゃ!」


「こら、ケン!駄目でしょ~~!」

 雑種だろうか。中型の犬が私の足元で、ワンワン吠えていた。

「すみません」

 飼い主は、犬の首輪を引っ張って、謝った。40代くらいの女の人だ。助かった。人がいてくれて。

「い、いえ」


 私は一気に力が抜けて、ガタガタと震えが来た。

「大丈夫ですか?犬、怖いんですか?」

 その人が、犬に吠えられて私が震えていると、勘違いをした。

「桃子ちゃん、大丈夫?犬に噛み付かれなかった?」

 後ろから、顔の爪あとを手で隠しながら、桐太がわざとらしい演技をしながらやってきた。


 私はその場を離れようとしたが、桐太に腕を掴まれた。

「離して!」

 私が必死にそう言うと、その女の人が驚いていた。

「ああ、気にしないでください。ちょっと喧嘩しちゃって」

 桐太はその人にそう言うと、私の腕を掴み歩こうとしたが、私は腕を思い切り振って、その場に踏ん張った。


「もう!やめてよ!」

 犬を連れた女の人は、ちょっとこっちを心配そうに見ながら、その場を立ち去った。そのあとに、ジョギングをしている人、それに中学生の女の子たちがやってきて、私たちのことを見ながら通り過ぎて行った。

 私はその間にも、

「離してよ!」

と抵抗をしていたが、誰も助けてくれようとしなかった。


「周りのやつなんて、俺らが喧嘩してるくらいにしか思ってないさ。誰かに助けてもらおうとしたって無駄だ。それに聖のやつだって、江ノ島だよ。この前みたいに助けに来たりしない」

 ブンブン!腕を引き離そうとした。でも、すごい力で腕を掴んでいる。その時、

「嫌がってるじゃん、やめてあげたら?」

と言ってきた女の子がいた。あ、同じ高校だ。それも、蘭の友達だ!


「あれ?あんた蘭の友達?」

 その子も気づいてくれた。

「邪魔はしないでくれない?俺ら恋人どおしで、ちょっと喧嘩になっただけ。少し二人っきりで話せば仲直りできるって。なあ?」

「違う!彼氏でもなんでもない!」

 そう言って、私はまたもがいた。


「桃子?!」

 蘭の声がした。

「蘭?!」

 蘭が向こうから走ってくるのが見えた。

「蘭!!」

「何してるの?あんた誰よ?」

 蘭が私たちのところにやってきて、桐太に聞いた。


「俺?桃子ちゃんの彼氏。邪魔しないでくれない?これ、ただの痴話喧嘩」

 桐太が話し終わらないうちに、蘭が桐太の腕を思い切りたたいて、私の腕からひっぺがした。それから私を引っ張り、蘭の後ろに隠した。

「あんた誰?桃子にはね、聖君って彼氏がいるの」


 蘭がそう言うと、桐太は、

「な~~んだ。聖のこと知ってるんだ。でも、付き合うのは本当のことだよ。俺が聖から、桃子ちゃんを奪うんだから」

と、ちょっと笑いながらそう言った。

「何言ってるの?こいつ頭変なんじゃないの?」

 蘭は私の方を向きながら、聞いてきた。私は体が震えていて、蘭の後ろで小さくなっていた。

「桃子?大丈夫?」

 蘭は私が真っ青になり、震えていることに気がついた。


「あんた桃子に何をしたのよ?」

 私に気遣いながら、蘭はそう桐太に聞いた。

「俺のものにしようとしただけ」

 桐太がにやりと笑ってそう答えた。

「何考えてるのよ?桃子のこと傷つけるようなことしたら、私も聖君もただじゃおかないからね!」

 蘭がそうすごんだが、桐太は、

「ただじゃおかないって、何をするの?それに聖に何ができるんだよ。今、江ノ島だろ?」

と言って、笑い出した。


 それを見て、蘭は携帯を出して、誰かに電話をし始めた。

「あんたが、聖君のこと知ってるってことは、聖君もあんたのこと知ってるんでしょ?」

 蘭が聞くと、

「まあね」

と、桐太はまた薄笑いをうかべてうなづいた。

「名前は?」

「俺?桐太。あれ?もしかして聖に電話してんの?」

 桐太は、にやつきながらそう言った。


 え?聖君に?私は蘭の後ろで、どうしていいかわからなくなっていた。聖君に助けて欲しい。でも、やっぱりこんな状況になってることを、知られたくない。それもキスされたこととか、絶対に知られたくない。

 蘭は電話の相手が出ると、

「私!蘭。聖君?桐太って知ってる?」

といきなり聞いた。聖君がなんて答えたか知らないけど、蘭は興奮しながら、

「そいつが、今、高校のそばまで来てる。桃子を聖君から奪うとか、わけわからないこと言って…」


 蘭がそう話し出すと、

「代わって」

と、桐太は携帯を蘭から奪った。

「よう。聖。そう、俺」

 携帯から、聖君の怒鳴っている声が漏れた。何を言ってるのかまでは聞こえないけど、相当怒っているようだ。


「そんなに怒鳴るなよ。まあ、そうやってお前が怒ってるの、けっこう楽しいけどさ」

 また、桐太は薄ら笑いをうかべた。

「だから、これから説明してやるよ。桃子ちゃんを俺のものにしようと思って、こうやって来たの。いいだろ?お前も俺の女、奪ったんだから」

「何それ?」

 隣で、蘭が驚いていた。


「違うの。奪ってなんかいない。聖君はそんなことしない」

 私が蘭に言ったのを桐太は聞いていて、

「同じことだよ。あいつは聖に惚れたんだから」

と、私を睨みながらそう言った。

「なるほど、逆恨みってやつ?」

と、蘭が言うと、

「知ったような口をきくな!」

と、今度は蘭を睨みつけた。


「何?聖。怒ってんの?もっと怒れば?でも、今江ノ島だろ?俺を殴りに来ることも、この前みたいに桃子ちゃんを助けに来ることも、できないよな?ははは。江ノ島で指くわえてるしかないじゃん。ま、悔しがれば?早くに自分のものにしておかなかったことを、後悔したらいいさ」

 桐太がそう言うと、また携帯からものすごい聖君の怒鳴り声が聞こえた。それに、私の前で立ちふさがっている蘭の肩が震えた。拳を握り締め、思い切り怒っているようだった。


「ただじゃすまないって、さっきからみんな言うけど、何が出来るんだよ?なあ、教えてくれよ?それに、もうそんなにすごまれても遅いよ?俺、桃子ちゃんにキスもしたし」

「やめて!聖君には言わないで!」

 私は思わず、そう叫んでいた。

「聞こえただろ?嘘じゃないよ。ほんとのこと」

 桐太はにやつきながら、そう聖君に言った。


「そんなに怒鳴るなよ。耳がおかしくなるから」

 桐太はそう言って、笑ってから、

「そんなに大事?そりゃあ良かった。大事なものを奪われたり、壊されるの、どう?お前の悔しがってる顔が見てみたいよ。なんなら今からこっちに来る?」

と、にやついたまま話していた。


 何?それ…。私の心の奥底で、何かが沸騰してきている。

 聖君の大事なものを壊して、喜ぶの?

 …。冗談じゃない。ブクブク…。奥底から湧き上がってくる。

 聖君の悔しがる顔を見て、喜ぶの?

 そんなことして何が楽しいの?


 …。冗談じゃない!湧き上がるのは、怒りだ。

 聖君を苦しめて、何が楽しいの?

 そんなの、許せない!!!!

 何かが私の中で、ブチブチって切れた。沸点はとっくのとうに到達していた。


「あんた、いい加減にしたら?!聖君がここにいなくったって、私があんたを許せない。桃子を傷つけるようなことをして!」

 蘭がそう怒鳴ると、桐太は、

「何それ?綺麗な友情ごっこ?俺、そういうの大嫌い」

と、また笑いながら言った。

「こいつっ!」

 蘭は相当頭に来ているようだ。今にも握り締めた拳で、桐太に殴りかかりそうな勢いで、ブルブルと腕を震わせていた。だけど、そんな蘭を私は、手で押しのけて前に出た。


「桃子?」

 桐太はまだ聖君に電話で、薄ら笑いをうかべ、勝ち誇ったように話をしていた。

「お前には何も出来ないだろう?笑えるよな。今、どんな顔して怒ってるの?俺のことでも殴りたい?でも、出来ないよな?」

と言っては、大笑いをする。

 私はそんな桐太の前につかつかと歩いていき、そして、思い切りグーで、桐太のほっぺたを、

「バキッ!」

と殴っていた。


「桃子?!」

 蘭の驚く声がした。蘭の友達の、

「やった~~!」

と喜ぶ声も。それから、

「ああ!私の携帯!」

と、桐太の手から離れて落ちていく携帯を、慌てて拾いに行こうとする蘭の姿。そして、その横を、口から血を出しながら、倒れこんでいく桐太。


 すべてが、スローモーションのように、ゆっくりと見えた。

 一瞬、時間が止まったかとも思ったが、また、みんなの動きが、いつもと同じように動き出した。

「携帯!」

 地面に落ちる瞬間を、蘭がキャッチした。

「いって~~!」

 ほっぺたを手で押さえ、痛がる桐太は、何かを口からぺッて吐き出した。

「歯!歯が折れた!俺の歯!」


 グーで殴った時、歯が折れたようだ。そういえば、バキって、変な音がしたっけ。

 蘭が無事に携帯を手にして、それから、私に向かって、

「桃子!すごい!」

と叫んだ。隣では、蘭のあの派手な友達が手をたたいていた。

「え?何が起きたかって?」

 蘭が携帯の受話器を耳に当て、

「桃子が、グーで桐太のこと殴った!聖君が殴りにこなくても、私が代わりに殴ってやろうかと思ってたのに、桃子が殴っちゃった。それで、桐太の歯まで折れて…」


 蘭が解説をし始めた。私は慌てて携帯を蘭の手から取り、

「聖君!私だったら大丈夫だから、心配しないで、じゃあね」

と言って、勝手に切ってしまった。

「……」

 一瞬、蘭と友達は黙って私を見た。それから、まだほっぺを押さえている桐太を見た。


「な、なんだよ?なんでいきなり…」

 歯が折れたからか、桐太は話しにくそうだった。

「聖君を苦しめるなんて、私が許さないもん」

「え?」

 桐太は私を見て、顔色を変えた。私は相当怖い顔をしていたようだ。

「聖君を苦しめたり、困らせたり、そんなこと絶対に私がさせない。それに、大事な友達を侮辱するのも、私が許さない」


 何かを思い出していた。こういうの前にもあった。デジャブ?ううん、違う。前はそうだ。ひまわりのことをいじめてた子達に、同じような台詞を言っていたんだ。

「大事な妹をいじめて泣かせるような子、私が許さない!」

 ものすごい睨みをきかせ、言ったようで、いじめてた子達は私よりも背の高い子や、図体のでかい男の子もいたのに、泣いて帰ってしまったんだ。


 桐太も、そして私の横で私を見ていた蘭も、すごく驚いていた。

「怖え~~。この女」

と、桐太が言った。

「ぶち切れるとこんなに怖くなるのかよ?聖のやつ知ってるの?」

 かなり青ざめながら、桐太は言った。

「知らないよ」

とそう答えると、

「猫かぶってるのか?本性はこれか?」

と、桐太が聞いてきた。


「違うよ。だけど、私、大事な人を傷つけられるのは、どうしても許せないの。だから、聖君の前では、こんなふうにはならない。だって、聖君は大事な人を、傷つけるようなことしないもん」

 私がそう言うと、桐太は鼻で笑った。

「怖い女だって、みんなに思われてもいいんだ。それで周りがドン引きしても?もしかするとあんたが大事に思ってる聖だって、嫌になるかもよ?」

「ならないよ。それに、他の誰かにどう思われたって私、平気だから」


 桐太は、そう言うと、いきなり顔色を変えた。そして、

「聖に似てる。すげえ頭に来る」

と、はき捨てるように私に言った。

「似てる?」

 私が聞き返すと、

「そうだよ。あいつも俺にうるさく言ってきて、喧嘩になったことがある。そん時、俺はお前の悪口を言いふらし、みんなに嫌われるようにしむけてやるって言ったら、あいつも同じこと言った。誰になんて思われたって、関係ないってさ」


「最低な男だね」

 ぼそって蘭がつぶやいた。

「ああ、そうだよ。最低だよ、俺は!」

 それを聞いて、桐太は、まるで開き直ったかのようにそう言うと、

「聖みたいになりたくたって、なれないよ。俺がどんなにあいつの悪口言っても、みんなあいつを信頼してて、いつまでも人気があって、いつまでもみんなに好かれてて!」

と、声を荒げた。


「結局は、嫉妬なの?」

 蘭が呆れたように聞くと、

「……んだよ。悪いかよ」

と、桐太はいきなり、泣きそうな顔になった。

 私は殴った手が、じんじんとしてきていた。

 そして泣きそうになった桐太の顔は、いきなり中学生の男の子のように見え、いったい、どうしてこの人がこんなにすれちゃっているのか、気になりだした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ