第50話 友達のお姉さん
果林さんは、ハンカチを出して涙を拭いた。聖君はまだ、黙っていた。私と花ちゃんは顔を見合わせ、どうしたらいいのか困ってしまった。
一組いたお客さんが席を立ち、レジに向かった。聖君のお母さんが気がつき、ホールに出てきて、会計をした。
「ありがとうございました」
お母さんはお客さんを見送り、それからテーブルの上を片付け、ちらりと聖君のテーブルを見て、そこで果林さんが泣いているのに気がついたようだ。
「ど、どうしたの?」
お母さんは、片付けた食器をトレイごと、またテーブルに置き、果林さんの横に来た。
「聖が泣かせたの?」
「い、いえ…」
果林さんは、そう答えたが、言葉が続かないようだった。
「聖、あなた、何を言ったのよ?」
お母さんは聖君に聞いた。ちょっときつい口調だった。聖君が泣かせたと、勝手に思い込んでいるみたいだ。
私も花ちゃんも黙って見守っていた。
「えっと、やっぱ俺?なんか傷つくようなこと、言っちゃったかな」
聖君がそう言うと、
「はあ?聖、何とんちんかんなこと言ってるの!泣かせるほど傷つけちゃったんでしょ?」
「え?俺、そんなにひどいこと言った?」
聖君の言葉に、聖君のお母さんは一瞬言葉を失っていた。
「ひどいって、何を言っちゃったの?あなた」
お母さんがもう一回聞いた。
「……。母さん、もうキッチンに行ってて。何をしゃべってたかなんて、花ちゃんのお姉さんだって聞かれたくないと思うよ」
「また、のけもの?」
お母さんは寂しそうにそう言うと、
「じゃなくて、邪魔者」
と、また聖君にそう言われていた。
聖君のお母さんは、トレイを持ってキッチンに行った。最後にちらりと聖君を見たが、そのまま奥へと入っていった。
私と花ちゃんも、後ろを向いた。なんだか見ていてはいけないような、そんな気になったからだ。
すると聖君が、ぽつりぽつりと話し出した。でも、小声だから、内容がわからなかった。
「聖君って、そんなに冷たいとは思わなかった」
いきなり、果林さんが大きな声でそう言った。私と花ちゃんは驚いて、振り返った。
果林さんは、もう泣いていなかった。聖君は、冷静な表情で果林さんを見ていた。
「お姉ちゃん、どうしたっていうの?」
さすがに花ちゃんはしびれを切らしたのか、果林さんに話しかけた。
「だって、聖君、ひどいんだもん」
そう言うとまた、果林さんは泣きそうになった。
「お姉ちゃんになんて言ったの?」
と花ちゃんが、聖君に聞いた。
聖君は頭をボリって掻くと、
「俺には、どうすることもできないし、自分でどうにかしたらって言っただけ」
と、クールに言った。
「え?」
花ちゃんが聞き返した。ああ、なんとなくわかった。きっと果林さんは聖君に助けを求めたんだ。でも、俺には何も出来ないよって、突き放しちゃったんだ。だけど、それも聖君の優しさだったりするんだけどな。本当に聖君には何もしてあげられないから、それをそのまま伝えたんだと思う。
「だったらなんで相談引き受けたの?」
花ちゃんが聞いた。
「桃子ちゃんに頼まれたから」
聖君が答えた。
「ええ~~?」
花ちゃんが、呆れた声を出した。
「じゃなきゃ、悪いけど引き受けない」
聖君がきっぱりと言った。
「聖君がこんなに冷たいとは思わなかった」
果林さんがそう言った。
「……。俺、今日会うのが2度目だよね。それも、この前もそんなに話してないよね?それでなんで俺のことがわかるの?」
「え?」
聖君の質問に果林さんは戸惑っていた。
「俺、確かに中学2年の頃、桐太と親しかったけど、引っ越してからは会ったこともない。それに俺があいつに何か言ったって、聞きゃしないよ。俺より、自分の友達に相談するなり、頼るなりしたほうがいいと思うけど?」
「……。同じ高校だと相談しにくい」
「なんで?なんでも話せる友達いるでしょ?」
「……」
果林さんは黙り込んだ。
「お姉ちゃん、ほら、一回うちに遊びに来た人いたよね」
花ちゃんが聞くと、
「もうクラス変わったから」
と、ぼそって言った。
「いないの?友達」
聖君が聞いた。果林さんは、キッと聖君を睨むと、
「そういうのを、平気で聞く神経がわからない」
と聖君に言った。
「……」
聖君は黙り込んだ。それから、また頭を掻くと、
「じゃ、どうすりゃいいんだよ。相談に乗ってって言われて、こうやって話聞いているのに、そんなふうに言われるんなら、やっぱり俺じゃ無理なんじゃないの?」
と、下を向いたままそう言った。
「聖君、もっと言い方に気をつけてくれたらいいのに」
花ちゃんが聖君の後ろからそう言って、今度は小声で私に、
「桃ちゃんにも、いつもああなの?」
と聞いてきた。私は、
「ううん」
と思い切り、首を横に振ったけど、
「あ、でも、友達にはああかな~~」
と葉君にはっきりと、聖君が自分の思ったことを言っていたことを思い出した。
「俺、いつもこうだよ。女の子はたいてい引いちゃう。かなりたくましい子じゃないと。菜摘や杏樹にも、あ、妹だけど、こんなだよ。でも、二人ともたくましいから、俺の言うことちゃんと、真正面から聞いてる」
「……。桃子ちゃんには?」
果林さんが聞いた。
「どうかな?けっこう知らないうちに傷つけるようなこと言ってるかも。ね?」
聖君はくるりと、私の方を向いてそう言った。
「……」
私は黙っていた。
「あ。あれ?なんで無言?」
聖君が聞いてきた。
「え?うん。今、思い出してたけど…。聖君、やっぱりいつも優しいかな~~って思って」
「……」
聖君の方が、黙り込んでしまった。それから、
「わかった。そういえば、初めの頃は桃子ちゃんのこと泣かせてたかも。でも、最近泣かなくなったのは、桃子ちゃんの方が強くなったからかも」
と、そんなことを言った。
私はまた、思い返してみた。泣いていたのは、自分に自信がなかったからだ。聖君の言う言葉を信じられなかったり、変なふうに受け取ったりしていただけで、やっぱり、聖君は、私を傷つけるようなことは言ってなかったと思う。
「あの…」
私は聖君ではなく、果林さんの方を向いた。
「え?」
果林さんは私を見た。
「聖君は、かなりストレートにものを言うので、きつく感じるかもしれないけど、でも、そうすることで、自分の気持ちに気づかせてくれたり、本音で話をさせてもらえたり、感情を出すことが出来るから、果林さんも、話してみるといいと思います」
「へ?」
びっくりしていたのは、聖君だった。果林さんは黙って、下を向き、考え込んでいた。
「自分と向き合うのはけっこう、きつかったりするけど、だけど…」
私は話を続けた。
「……」
果林さんは私の方を見た。
「だけど、そうしないと前に進めないこともあるから。私、聖君がいつも、私の心をまっすぐに受け止めてくれるから、だから、自分と向き合えて、最近はちゃんと前を向けるようになったのかなって思う」
「そうだよね!桃ちゃん、強いもんね!そうか。聖君がいてくれるからか~~」
花ちゃんがそう言った。
果林さんは、聖君の方を向き、話しにくそうにしていたけど、意を決したのか、話し出した。
「友達、いないの」
「……」
聖君は黙っていた。花ちゃんが横で、少し動揺していた。
「中学でも3年になって、仲のいい子達からいきなり、ハブにされた。グループの一人の子の彼から、私告られて、内緒で付き合ってたら、それがばれて。それでいづらくなって、公立の高校受験したの」
「知らなかったよ。そんなの!」
花ちゃんは驚いていた。果林さんは、しばらく黙った。
「高校変わってからも、友達できなかったの?」
聖君が聞いた。
「高校1年の時、すごく仲良くなった子がいる。親友って言ってもいいくらい。その子が先輩で、すごくかっこいい人を好きになって、私、応援してた。でも、その先輩が私に告白してきて、付き合うことにしたら、その友達が、もう親友でもなんでもないって去って行っちゃったの」
「ふうん」
聖君はそう言うと、下を向いた。花ちゃんは黙って、果林さんを見ていた。私は聖君を見ていた。
「2年の時は、クラスで1番もてる男子と、付き合うようになって、それで、クラスの女子からハブにされた」
「……」
「3年になっても、桐太と付き合うようになって、女子には、ハブにされてる」
「……。友達、欲しくはないの?」
聖君が聞いた。
「いらない。女って面倒くさい。男が絡んでくると、友情もなくなるし。そんな薄っぺらいものなら、初めからいらないよ」
果林さんがそう言った。
「でも、彼氏は欲しいの?」
「そりゃ、彼氏はいて欲しいよ。みんなそうでしょ?」
「花ちゃんは違うみたいだけど」
聖君が、花ちゃんを見てそう言った。
「あの子は、アイドル追っかけてるから」
「……。えっと。今、疑問に思ってること、いくつか聞いてもいい?」
聖君は、ちょっと控え気味に果林さんにそう言った。どうやら、少し気遣って、話をしているようだ。
「何?」
果林さんは、何を聞かれるのかと身構えた。
「中3の時とか、高校1年の時とか、告白されたって言ってたけど、その相手のこと好きだったの?」
「え?」
「好きだから、付き合うことにしたの?」
「もちろん」
「で、別れちゃったの?」
「半年、続いたよ。でも、その人以上の人が現れて、別れちゃった」
「で、その人以上の人とは、どうなったの?」
「続いた人もいれば、別れた人もいる」
「ふうん」
「なんで?悪いことなの?それ」
「いや、別に」
「……」
聖君の「いや、別に」が、声のトーンが下がってて、ちょっと無表情で、果林さんはその言葉で、黙り込んでしまった。
「確かにね。女の子って面倒だよなって俺も思うけど」
聖君がそう言うと、果林さんの目が喜び、
「やっぱり?」
と聖君の顔を見ながら、そう言った。
「うん。だから、男とつるんでることが多いけどさ」
「そうでしょ?男子といる方が気が楽なの」
「うん、それもなんかわかるけど」
「でしょ?」
果林さんは、聖君に理解してもらえたからか、嬉しそうだった。
「う~~ん、でもさ、なんかひっかかるな~~」
「え?」
「あのね、桃子ちゃんと俺も、出会ってから、いろんなことがあって」
「え?」
「絡み合っちゃってて、大変だったんだ」
「絡み合う?」
「うん。ちょっとややこしいから、説明はしないけど、たださ、桃子ちゃんは、自分のことよりも俺や、友達のこと、考えて行動してたよ」
「え?」
果林さんの顔が一気に曇った。
「ああ、それがいいって言ってるわけじゃないんだ。結局は、自分の気持ちに素直になろうよって、そうなったんだけど。だからこうやって、今、付き合ってるんだけど」
「そうでしょ?自分の気持ちに素直になることが1番だよね」
「うん。それで、傷ついて泣いた子もいる。だけど、その子のそばにいてあげた友達がいて、その子は癒されて、立ち直った。今でも、桃子ちゃんの親友してる」
「……」
果林さんは、まゆをひそめた。
「その子も、桃子ちゃんも、お互いがお互いのことをちゃんと思ってて、その辺が通じ合ってて、なんて言ったらいいのかな…」
聖君が言葉に詰まっていた。思わず私は、
「そんなことがあったから、返って絆が深まったの」
と言ってしまった。
「ああ、そう。それ。まさに、それ」
聖君が私を見て、うなづいてそう言った。
「絆?」
「うん。俺と親友の間にもいろいろとあったけど、今でも仲いいよ。今の方が逆に、言いたいこと言い合えてるかな。それから、俺と両親や、菜摘と両親も。あ、俺の妹のことね」
「……」
「一緒に、みんなで一つの試練って言ったらいいのかな、乗り越えたんだ。そりゃ、菜摘は傷ついて、しばらくふさぎこんでたけど、今じゃ、俺ともまじ、仲いいし」
「妹さんと?」
「う~~ん。妹といっても、去年までは、知らなかったことなんだけど」
「え?」
果林さんがまったくわけがわからないって顔をした。
「どういうこと?」
花ちゃんも私に聞いてきた。
「俺と菜摘、父親が一緒なんだ。あ。俺の母さんが浮気したわけじゃないよ。恋人と別れてから、俺を妊娠してるってわかって、俺がおなかにいても、今の父さんが、母さんと結婚をした。それで俺、そういう事情も何も知らずに去年まで、のほほんと育っちゃって、で、偶然にも俺は、実の妹と出会い、その妹に恋しちゃったんだよね」
「ええ?!!」
一番驚いていたのは、花ちゃんだった。
「ま、待って。菜摘ちゃんは、桃ちゃんの親友でしょ?桃ちゃんの親友のことを初めは、好きだったの?」
「うん」
「もしかして、菜摘ちゃんとお付き合いもしてたの?そのあと、兄妹だってわかったの?」
「ああ、違うよ。付き合ってはいなかったよ」
「そ、そっか~~。ああ、驚いた」
「菜摘は、私が聖君のことを好きだって知ってて、応援してくれてたの」
私がそう言うと、
「じゃ、私と一緒?」
と、果林さんがそう言った。
「でも、菜摘って子のことを好きだったわけだから、桃子ちゃんの思いには答えられなかったんじゃないの?」
そう果林さんが言うと、
「う~~ん。ややこしいから、うまく説明できないけど…」
と、聖君は頭を掻いた。
「実は、菜摘も俺のことが好きだったんだ。それを隠してて、桃子ちゃんのことを応援してた。でも限界に来てた。だけど、その頃には俺はもう、菜摘は妹だって知っていたから、両思いになっても、しょうがないことだったんだ。いや、それは避けないとならないことだし。だから、桃子ちゃんに俺の彼女の振りを頼んだ。そうやって、菜摘にはあきらめてもらおうと思って」
「ふり~~~?」
花ちゃんが驚いてそう言った。
「そんなの、ひどい」
と、花ちゃんが少し怒った口調で言うと、
「だよね?」
と、聖君は弱々しい声で言った。
「そんなことない。私、聖君の役に立てられるだけで嬉しかったし!全然ひどくない」
と思わずそう言うと、聖君がちょっと下を向き、ふって笑ってから、
「ね?俺、こういう桃子ちゃんのことを知っていくうちに、すっかり桃子ちゃんに惚れちゃったの」
と頭を掻きながらそう言った。
うわ。そんなことを言われて、私の顔がほてってしまった。
「あ、ほら、今も真っ赤になってるし。はは!可愛いでしょ?」
と、聖君は私に向かっていつものあの笑顔を向けた。
「桃子ちゃんにはそんな笑顔を見せちゃうんだ」
と、果林さんが言った。
「え?」
聖君が果林さんの言葉に驚いて、聞き返すと、
「すごくクールで、そんなふうに笑わないと思ってた」
と、果林さんが言った。
「ああ。うん。あまり女の子の前では笑わないけど」
と、聖君がまた頭を掻いた。
「桃子ちゃんにだけは、最高の笑顔を見せるんだよな~~。何せ、桃子ちゃんの王子様だから」
と、いきなり、リビングから聖君のお父さんが出てきて、そう言った。
「父さん!だから、いつも言ってるよね?そうやって盗み聞きするのやめてって」
と、聖君は真っ赤になりながらそう言うと、
「違うよ。リビングにいても話し声が聞こえてきちゃったんだよ。こっそり聞いてたわけじゃないよ」
と、聖君のお父さんは笑いながらそう言った。
「初めて見る顔だね。桃子ちゃんの友達?」
「はい。クラスメイトと、そのお姉さん」
と、私が紹介しようとすると、聖君が、
「父さん、今、話の途中だから、リビング戻って」
と、お父さんの腕をひっぱり、家の方に連れて行ってしまった。
「若いお父さんなんだね」
花ちゃんがそう言った。
「でも、血がつながってないんだよね?」
と、果林さんが言った。
「ああ、そうだけど、あまり俺、血がつながってるとかつながってないのとか、そういうの気にしてないし。いや、去年、血がつながってないって知った時には、すごいショックで落ち込んでたけど、桃子ちゃんや、親友がいてくれたから、立ち直れた」
「……」
それを果林さんは黙って聞いていて、鼻を真っ赤にさせた。
「お姉ちゃん?」
果林さんは、泣くのを我慢しているようだった。
「それに、父さんや母さんもいてくれた。父さんが俺のこと大事に思ってくれてるのはわかったし、だから、血のつながりなんて、関係ないって思えた。あ、でもさ、血のつながってる父さんとも今、仲いいけど。はは…」
聖君はそう言うと、笑った。
「仲いいの?」
花ちゃんは驚いていた。
「うん。たまに家に遊びに行く。それに今じゃ、菜摘とも仲のいい兄妹だよ」
「…でも、お互い好きだったんでしょ?」
「うん。まあね。だけど、俺には今、桃子ちゃんがいるし、あいつには俺の親友がそばにいる」
「え?」
花ちゃんと、果林さんは少し、不思議そうな顔をしていた。
「まあさ、いろいろとあったわけさ。だけど、みんな、絆は深まっていったよ」
聖君はそう言うと、少し真面目な顔つきになって、
「だけど、花ちゃんのお姉さんは違ってるね。なんだか、どんどん孤独になってるみたいだけど、なんで?」
とそんなことを言った。
「なんでって…。私だってわからない。みんなが去っていくから」
「ほんと?」
「そうだよ。いつの間にか、ハブになってるんだもの、いつも」
聖君はしばらく黙ると、
「もう一つ聞きたかったんだ」
と話し出した。果林さんは黙って、下を向いた。
「あのさ、桐太のことも好きかどうかわからなかったって言ったよね?でも、やっと付き合えるようになったって、だから、別れたくなかったって。好きだから付き合いだして、途中からは執着だったの?それとも、最初から好きじゃなかったとか?」
聖君の言葉を聞き、しばらく黙っていた果林さんは、聖君のことをしっかりと見て、
「好きじゃなかった。でも、クラスの女子が桐太と付き合ってて、自慢してて、それを聞いて、付き合いたくなったの」
と正直に言った。
「自慢したかったの?」
聖君が聞いた。
「ううん。自慢する友達もいないもの」
果林さんは答えた。
「じゃ、なんで?」
「きっと、桐太のことを奪って、見せつけたかった」
その言葉に、花ちゃんが顔色を変えた。
「お姉ちゃんって、そんなだったの?」
かなりショックを受けたらしい。きっと、花ちゃんの中での果林さんとは、まったく違う果林さんが目の前にいるんだろう。果林さんは、花ちゃんに、
「花、あなたは何も知らないと思うけど、私ってこんな女なの。驚いた?」
果林さんはすごく覚めた表情で淡々とそう言うと、
「花のことだって、憎んでるしね」
と、そうとげとげしく言った。花ちゃんは、真っ青になり、カウンターの椅子から落ちそうになった。慌てて私が支えたが、花ちゃんは目が泳いでしまっていて、かなり動揺しているようだった。