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第49話 彼に相談

 その日の夜、10時過ぎに菜摘が電話をくれた。

「花ちゃんのお姉さん、とんでもないやつと付き合ってるんだって?」

「え?聖君から聞いたの?」

「うん。ちょこっとね。桃子のこと心配してたよ。葉君も同じ中学だから、さっき電話して聞いてみたの。そしたら、聖君と仲良かったのに、聖君がやたらと女の子にもて始めてから、ライバル意識持って大変だったって」

「そうなんだ。聖君もそんなこと言ってたな~~」

「聖君と付き合ってるっていうだけで、桃子にちょっかい出さないかって、葉君まで心配してたよ。桃子、大丈夫?」


「大丈夫だよ。だってもう会うこともないもの。花ちゃんには悪いけど、花ちゃんの家にも遊びに行かないようにするし、花ちゃんにうちに来てもらったらいいんだよね」

「うん。でも、新百合に住んでるのとか、もう知ってるんでしょ?」

「まさか、待ち伏せとかそんなことまでしないよ、いくらなんでも」

「だよね、それ、ストーカーになっちゃうよね~~」

 菜摘もそれはないよねって、笑っていた。


 菜摘との電話を切り、少し勉強をしようと机に向かうと、今度はメールが来た。花ちゃんだった。

>今日はごめんね。変なことになって。でも聖君のおかげでお姉ちゃん、別れる気になったよ。

>え?聖君のおかげって?

 どういうことかな?

>あんなに誠実な人もいるんだって、驚いてた。私も大事にしてくれる人と付き合うってさ。目が覚めたみたい。


 そうか。良かった。私も早くに別れた方がいいと思ったんだよね。

 聖君にも早速、メールをした。花ちゃんからのメールをそのままコピーして、

>花ちゃんからこんなメールが来たよ。良かったよね。

と、書いて送った。でも、聖君はなかなかメールを返してくれなかった。

 どうしたのかな。お風呂かな。それとも勉強頑張っているのかな。気になったが、私も勉強をすることにした。


 12時近くに、ようやく聖君がメールをくれた。

>もう寝た?メール遅くなってごめんね。おやすみ。いい夢みてね(^^)

とそれだけだった。すぐに私も、

>今寝るところだった。もうベッドに入ってるよ。おやすみなさい。聖君の夢が見られますように。

と送り返した。

>ごめん。寝るところだった?イルカのこと俺だと思って、抱きついて寝ていいよ。俺も桃子ちゃんだと思って、抱きついて寝るから。


 え~~~!!なんか、恥ずかしいよ、それ。なんて返したらいいんだろう。でも、

>わかった。そうするね。

と送ってみた。すると、

>抱きつくのは桃子ちゃん、大丈夫なんだもんね?今度、落ち込んでる時、抱きしめてね。

と返ってきた。え?ええ~~?これまた恥ずかしい…。あれ?待てよ?もしかしてまた、何か落ちこんでるの?


>何か落ち込んでることあるの?

と、気になり聞いてみた。

>う。ちょっとね。

 あ、やっぱり?

>どうして落ち込んでるの?

>俺って、冷たいかな。

 え?!


>全然!すんごい優しいけど、いつも。

>うん。桃子ちゃんにはね。でも他の人に冷たすぎるかな?

>誰かに言われたの?

>菜摘が、確かにクール過ぎるってさ。

>そうかな?菜摘にも杏樹ちゃんにも優しいし、全然そんなことないと思うけど。

>他の子のこと。プレゼントとか、チョコとかまったく受け取らないのもどうかなってさ。受け取らないにしても、ありがとうとか、ごめんねくらい言ったら?ってさ。


 ああ、そっか~~。そういえば、文化祭の時見てたけど、女の子に無愛想だったっけ。

>俺さ、やっぱり変?

>え?どこが?

>別に女の子にどう思われてもいいんだよね。冷たいとか思われてても。変に優しくしたり、ありがとうとかごめんとか言って、いい人や優しい人って思われなくてもさ。

>冷たいって思われてないと思うよ。同性に好かれてる男の人って、本当に優しい人なんじゃないかって思うし。


>じゃ、桃子ちゃんは俺のこと、冷たいやつとか、薄情なやつとか思ってない?

>全然!

>このまんまでいい?俺。

>もちろん!

>サンキュー。これでなんか、眠れそう。

 え?そんなに悩んでいたの?どんな俺でもOKって、そんなふうになったって言ってたけど、聖君も落ち込んだり、自分に自信がもてなくなったり、嫌いになったりすることあるんだ…。


>桃子ちゃんにそう言ってもらえると、元気になれる。ありがとう。おやすみ!

 そうなんだ。私、聖君にパワーをあげられているんだ。嬉しいな。

>うん。おやすみなさい。

 聖君からメールが来なくなった。私は本当に、イルカのぬいぐるみを抱いて寝た。そして夢を見た。夢の中では、海のど真ん中で、本物のイルカを抱きしめていた。あ、あれ?聖君じゃないのか~~。なんて思いながら。


 翌日、学校でも花ちゃんと桐太君の話をしていた。私は聖君が言っていた、女の子にもてることで自分の価値を見出しているということを話した。

「そうか。なるほどね。さすが聖君は、そういうこと見抜いてるんだね」

「花ちゃんは、自分に自信ある?」

「私?ないよ。全然ない。でも、絵とかイラストは描くのも好きだし、ちょっと自信あるかな」

「好きなものって、そうだよね」

「うん。桃ちゃんはお料理でしょ?」

「うん」


「聖君ってさ、すごくかっこいいし、もてるし、それを鼻にかけたり、自信家になったり、桐太みたいに女たらしになっても良さそうなものなのに、なんでああなの?」

 花ちゃんがいきなり、お昼ご飯を食べてて、そう聞いてきた。

「ああって?」

 一緒に食べていたヒガちゃんが聞いた。ヒガちゃんには桐太君のことは話していた。漫画にしたら面白そうなキャラだなんて笑っていた。


「天狗にもならないし、女の子をもてあそぶようなこともしないし、真面目に純粋に桃ちゃんのこと好きだし」

 聞いてて思わず、私は赤くなった。

「女の子にもてようが、もてなかろうが関係ないんじゃないの?」

と、ヒガちゃんが言った。

「きっとそんなの関係なく、自分の価値を認めてるんだよ」


「ご両親が、すごく聖君のことを認めてるし、愛してるんだよね」

 私がそう言うと、二人ともびっくりしてた。

「愛してる~~?」

「そう、まるごとそのまんまの聖君を、愛してるみたいで、だから聖君は、自分がどんなだろうと、受け入れられるって。あ、たまに受け入れられなくなって、悩むこともあるみたいだけど」

 昨日の聖君の落ち込んでるメールを思い出し、そんなことを私は言った。


「聖君のキャラクターは、ご両親の愛の賜物なんだね」

 ヒガちゃんは、聖君に会ったことはないけど、私や花ちゃんの話から、聖君のことが伝わっているようだ。

「愛の賜物か~~」

 花ちゃんがぼそってそう言った。

「愛か~~」

 私もつられて、そう言った。

 私も、聖君のまるのままが好きだな。あのままの聖君が、好きだな~~。


 その日は、菜摘と帰ったが、昨日ちょっと聖君が落ち込んでたって話をしたら、

「え~~?兄貴が、そのくらいで落ち込むの?私はただ、プレゼントを受け取らないにしても、もうちょっと優しく断れないのかなって思って、そう言っただけなのに」

と、菜摘は言った。

「そう言われたの、なんか気にしてたみたい。そんなに俺冷たいかなって」

「冷たくはないよ。芯は優しくて頼もしくて、器もでかいって思ってるもん」

「ああ、うん、そうだよね」

 なんだ。菜摘も同じこと、感じてるんだ。


 菜摘とは、そんな話をして別れた。家に帰り、帽子を編んでいると、携帯の電話が鳴った。

「もしもし」

「桃ちゃん?私」

「花ちゃん。どうしたの?」

 時計を見たら6時だった。わ!私、時間も忘れて編んでたんだ。

「お姉ちゃん、今日、桐太に学校で別れようって言ってきたんだけど、桐太が絶対に別れないって言い出したんだって」

「え?」

 そうなの?あっさり別れるのかと思ってたのに。


「桐太って、振るのはいいけど、振られるのは嫌みたいだよ。ほんと、勝手だよね。それにお姉ちゃんが聖君を好きになっちゃったんじゃないかって、疑ってるらしい」

「え?聖君を?」

 嘘~~!

「そんなことあるわけないのに。だって、桃ちゃんの彼氏だよ?ねえ」

「え?ああ、うん」

 なんだ。桐太君の勝手な思い込みか。ああ、驚いた。


「お姉ちゃん、すごく悩んでて、桐太のこと詳しく聖君なら知ってるし、同じ高校の男子に相談すると、返ってややこしくなりそうだから、聖君に相談がしたいって言ってるの。それで私、つい、れいんどろっぷすの話をしちゃったら、お店に行って、聖君に会いたいって」

「え?」

 それ、本当に相談したいだけ?って、私も疑っちゃってるの?果林さんが、聖君を好きになっちゃったんじゃないかって…。


「桃ちゃん、ごめん。私じゃ場所わからないし、桃ちゃんも一緒に行ってくれない?お姉ちゃんも桃ちゃんと一緒に行きたいって」

「え?」

 そ、そっか~~。なんだ。じゃ、やっぱり本当に相談したいだけってことだよね。う、私ってば…。

「わかったよ。聖君がいつ空いてるか聞いてみるね」

「うん、ごめんね、お願い」


 聖君、受験で勉強も大変なのに大丈夫かな、そんなことに巻き込んで。ああ。馬鹿だ、私。今、断ればよかった。聖君、忙しいからって。

 でも、こういう時、本音で言えなかったりする。聖君なら、ばしって言うかな?私は人に冷たいとか、やっぱり思われたくないのかな。特に仲のいい子には。


 聖君にメールしてみた。忙しかったら断るから、はっきりと言ってね。きっと、花ちゃんも果林さんもわかってくれると思う。なんてそんなことも、最後に書き加えた。

 聖君は塾なのかもしれない。なかなか返信が来なかった。

 お風呂に入り、部屋に行くと、携帯にメールが来ていた。聖君からだった。返事は、

>いいよ。土曜なら3時くらいから空いてる。

というメール。引き受けてくれるんだ。ちょっとびっくり。もしかして、自分が冷たいということ、まだ気にしてたりするのかな。


>じゃ、花ちゃんにメールしておくね。

>うん。じゃあね。土曜日ね。

 あっさりとしたメールだった。勉強が忙しかったかな。

 はあ。会えるのは嬉しい。でも、どうせなら二人っきりが良かった。なんて、わがままかな。


 そして土曜がやってきた。花ちゃんと果林さんが、新百合まで来てくれて、そこから江ノ島に行った。

「ごめんね、桃子ちゃんにまで迷惑かけて」

と、果林さんが謝ってきた。

「いえ、私も聖君に会えるから嬉しいです」

「え?よくデートとかしてるんじゃないの?」

 果林さんに聞かれた。

「聖君、受験生だから」

と答えると、

「あ、そっか。その辺でも桐太とは違うわけね。遊んでいられないんだ。じゃ、勉強で忙しい時に悪かったかな」


「でも、何時間も拘束するわけじゃなければ、大丈夫だと思います」

 そう言うと、果林さんは、

「あまり会えないのは、寂しくないの?」

と聞いてきた。

「寂しいけど、でも、勉強の邪魔、したくないし」

「桃子ちゃん、健気なんだね」

 果林さんの言う言葉に、隣で花ちゃんは大きくうなづいていた。


 れいんどろっぷすに着くと、花ちゃんも果林さんも、

「素敵なお店ね」

と喜んでいた。

 ドアを開けると、テーブル席にもう聖君はいて、その隣には、桜さんがいた。

「あ!いらっしゃい」

 聖君が私たちに、笑顔を向けて出迎えた。するとキッチンにいた聖君のお母さんもやってきて、

「いらっしゃい、どうぞ、入って!」

と、私たちを聖君のいるテーブル席に案内した。


「桃子ちゃん、久しぶりね」

 桜さんがそう言った。

「お友達?」

「はい。クラスメイトと、そのお姉さんです」

「そうなんだ~~。私はここで前に働いてた香坂桜です。久しぶりに、れいんどろっぷすに遊びに来たの」

と、にっこりと微笑んだ。


「あ、働いてた人なんだ~~。すごく綺麗でびっくりした~~」

 花ちゃんがそう言った。きっと聖君の横にいて、誰だろうって思ってたんだろうな。

「さて、聖君とも会えたし、くるみさんとも話せたから満足。もう行くね」

「うん。また遊びに来てよ」

と聖君が桜さんに言うと、

「そうよ、桜さん。今度は彼氏も一緒にね」

とお母さんもにっこりと微笑み、そう言った。


「ありがとうございます。じゃ、また」

 桜さんは長い髪をひるがえし、綺麗なロングのスカートまでひるがえし、颯爽と出て行った。

「綺麗な人ですね」

 果林さんもそう言った。

「え?ああ、うん」

 聖君はなんだか、返事に困っていた。


「何か食べる?」

 聖君のお母さんが私たちに聞いてきた。

「え?じゃあ、私はスコーン」

と私が言うと、二人も、

「私たちも」

と同時に言った。


 聖君のお母さんはキッチンに入っていき、ホールには窓際のお客様が一組と、私たちだけになった。

「今日は、いきなり来てごめんなさい」

 果林さんが、聖君に謝った。

「え?いや、別に」

 また、聖君は、返事に困ったのか、そんな感じで答えた。

「どうしても聖君に、相談に乗ってもらいたかったの」

 果林さんがそう言って、私や花ちゃんのことを見た。


「ごめんね、桃子ちゃんと花には、席を外して欲しいな」

 果林さんがそう言うので、花ちゃんは、

「わかった。向こうのカウンターに行くね」

と席を立ち、カウンターの椅子に腰掛けた。私も花ちゃんについていき、カウンターの椅子に座った。


 紅茶とスコーンを持ってきた聖君のお母さんが、

「あら?」

と、私と花ちゃんがカウンターにいるので、びっくりしていた。

「こっちに置いていっていいの?」

「はい」

 お母さんは、私と花ちゃんの紅茶とスコーンをカウンターに置き、テーブル席に、果林さんの分を持っていった。


「お姉ちゃん、やっぱり私にはあまり、聞かれたくないのかな」

 花ちゃんが小声で、ぼそってそう言った。

「え?」

「私に口出しして欲しくはないみたい」

「そうなんだ。でも、花ちゃんは本当に果林さんのことを思って言ってるのにね」

「うん。でも、姉妹だとそういうの、うざいのかもしれない」

「そういうものかな…」


 私とひまわりは、年ももう少し離れているし、そんな恋の話なんてしない。だけど、聖君のこと、ひまわりは応援してくれてて、すごく嬉しいけどな。たまに聖君に失礼だよ…とか、仲良くしすぎだよ…とか思うことはあっても。


 果林さんはすごく小声で話をしているのか、会話は聞こえてこなかった。時々、聖君の、

「え?そうなの?」

とか、

「ああ、そうだよね」

とか、そんな相槌が聞こえてくるだけで。

 そしてしばらくすると、しんと静まり返った。


 私も花ちゃんも気になり、後ろを見た。すると、果林さんが、なんと泣いていた。

 え?え?どうして~~?

 どんな話の展開になり、そんなことになったのか、私にはまったく見当もつかないが、聖君は泣いている果林さんを、ただ黙って見ているだけだった。 


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