第47話 友達の家
クリスマスの日が近づいてきた。聖君とはイブに会う予定だ。25日はまた、れいんどろっぷすでクリスマス会を開く。私は菜摘とひまわりと行く予定だ。
聖君にあげるセーターは仕上がった。帽子はもう少しで完成する。
聖君は、去年は可愛いネックレスをくれた。私の誕生日には、イルカのでかいぬいぐるみ。聖君の部屋にあるのと同じ、抱き枕にもできそうなあのイルカだ。私がどうやら、欲しそうにしているように見えたらしい。
嬉しかった。それ以来、抱きついて寝ているけど、でも、私はイルカを抱きしめていた聖君のことを見て、喜んでいたんだよね。そのへんは、気がつかなかったみたいだ。
どっちにしても、聖君が私のことを思いながら、プレゼントを選んでくれているのが嬉しい。聖君と出会ってから、1年以上が過ぎても、まだまだ私は片思いをしているかのように、聖君が好きだな~~。不思議だな。
花ちゃんが部活がないというので、一緒に帰ることにした。美術部は、週に3回しか部活がないらしい。ゆっくりと話しながら、駅に向かった。
「クリスマスに○○君のライブがあるんだ」
花ちゃんが好きなアイドルのライブか~。
「前から5番目の席が取れたんだ。今から超楽しみ!」
「良かったね~~。それがもう最高のクリスマスプレゼントだね」
「うん!」
「聖君とクリスマス過ごすの?」
「うん。24日は聖君の誕生日なんだ」
「イブが誕生日なの?」
「うん。聖なる夜に生まれたから、聖って名前なんだって」
「へ~~。素敵だよね」
「うん」
「桃ちゃんって、いつも思うんだけど、聖君の話をする時、目がきらきらするよね」
「え?そう?」
「本当に大好きなんだね」
「うん!」
なんだか嬉しくて、思い切りうなづいた。
駅に着き、まだ話し足りないような感じだった。
「公園は寒いし、もし桃ちゃん時間が大丈夫なら、うちに来ない?」
「いいの?」
「うん。来たことないよね」
「うん」
花ちゃんに誘われて、花ちゃんの家に行くことにした。寄り道といっても、その辺のお店に入るわけじゃないから大丈夫だろうし。
花ちゃんの家は、隣の駅の近くのマンションなんだそうだ。だから、そんなに時間がかかるわけではない。
確か、高校3年のお姉さんがいるって言ってたな。電車に乗ってから聞いてみると、
「そう、高3だよ。専門学校行くし、受験もないからって遊んでる」
「専門学校?」
「うん。洋裁の専門学校だって」
「へえ~。お名前は確か、果林さん」
「うん」
なんて話をしていたら、あっという間に隣の駅に着き、そこから本当にすぐに花ちゃんの住んでいるマンションについた。
鍵を開けて、花ちゃんは入った。お母さんはパートに出ていて、お姉さんは公立の高校に行ってて、バイトでいつも遅くに帰って来るそうだ。
「なんで花ちゃんは、私立なの?」
「お姉ちゃんも中学はうちの学校だったよ。でも、高校まで女子高は嫌だって言って、公立に行っちゃったの」
「ふうん」
「そこに座っててね。紅茶入れるね」
「うん、ありがとう」
ダイニングの椅子に腰掛けた。花ちゃんは紅茶と、お菓子を持ってきてくれた。部屋には、いくつかの家族写真が飾られていた。
「お姉さん、あまり、似てないね」
「そうでしょ?背も高いし、痩せてるし、ちょっとエキゾチックな顔もしてるでしょ?お父さん似なの」
「花ちゃんは、お母さんに似ているね」
「うん、よく言われる」
「お姉さん、彼氏いるの?」
「うん。同じ高校に彼氏いるよ」
「会ったことある?」
「何度かね。バイトないとうちに来たりしてる」
「どんな感じ?」
「あまり私は好きじゃないな」
「そうなの?」
紅茶を飲み、お菓子をつまんで、花ちゃんはちょっと嫌そうな顔をして、話し出した。
「けっこうかっこいいんだけど、性格悪そうなの」
「わかるの?」
「うん。話し方とかでわかるよ。お姉ちゃんも、何回か泣かされてるし、なんで別れないかがわからない」
「泣かされてるって?」
「浮気だよ。モテルらしくて、他の子とデート行ったりして、それがお姉ちゃんにばれて。一回、ふたまたかけてたこともあるし」
「そんな人もいるんだね」
「そういう人見てるから、聖君もね、初めはちょっとそんな感じかなって思ったんだ。かっこよすぎるし。だけど、桃ちゃん一筋なんだもんね~~」
「え?」
「っていっても、私も2度しか会ったことないけど、でも、それでも、桃ちゃんのこと大事にしてるのわかったし、こんな人もいるんだなって思ったもん」
「そうなんだ」
紅茶がなくなり、花ちゃんがおかわりを持ってきてくれた。
「聖君、ほんと、すんごいもてるんじゃない?」
「うん。みたいだよ」
「どうしてんの?もうすぐ誕生日もあるでしょ?プレゼントとかもらったら」
「もらわないよ。みんなその場で断っちゃうみたい」
「え~~!そうなんだ。さすが!」
「さすが?」
「うん、かっこいいよね、そういうのも」
「そうなの?」
「硬派だね」
「うん」
「そっか。じゃ、安心だね、桃ちゃん」
「うん。でも、あげた子はショックだよね」
「だけど、それって気を持たせないようにっていう配慮じゃないの?」
「うん、そうみたい」
「もらってあげることが、優しさじゃないよ。そうやって、断るのも優しさだよ」
「そう思う?」
花ちゃんに聞いてみた。私が片思いしてあげる立場だったら、どうなのかなって、そんなことを思ったからだ。
「お姉ちゃんの彼、ほいほいもらっちゃうんだって。デートだって、女の子にどうしてもって言われて、断れなかったんだってさ。優柔不断だし、なんか、もてることを鼻にかけてるんだよね。お姉ちゃんのことだって、自分に惚れてるから、振られたりしないだろうっていう安心感があるみたい。そういうのが私は、嫌いなんだよね」
「ふうん」
「今までにも何人もの彼女がいたらしいよ」
「え?そうなの?」
「お姉ちゃんは長く続いてる方なんだって。めんどくさくなると、振っちゃうみたいで、お姉ちゃんもなんか必死なの」
「必死?」
「振られたくないみたい」
「そんなに好きなんだね」
「私はあんなののどこがいいのって聞くんだけど、彼のかっこいいところがいいらしい。じゃ、顔だけ?って感じだよね。桃ちゃんや聖君みたいに、全部が好きってわけじゃないんだよね」
全部って言われて、いきなり照れくさくなった。
「でも、桃ちゃんたちの方がすごいのかも。なかなかいないよね」
「そうかな」
ああ。顔がほてる。
ガチャ…。いきなり玄関が開いた。
「あれ?帰ってるの?花~~?」
「お姉ちゃん?バイトは?」
「桐太がバイト休みだから、シフト変わってもらったの。あ、友達?」
「こんにちは」
「桐太、入っていいよ。花とその友達が来てるけど」
「え?彼氏、また来たの?」
花ちゃんはすごく嫌な顔をした。
「お邪魔します」
リビングのドアから顔を出したのは、180センチはあるんじゃないかと思うくらい背が高く、髪は茶色で、ピアスまで開けてる男の人だった。確かにイケメンだけど、見るからに軟派っぽい。
「花ちゃん、こんちは。花ちゃんの友達?初めまして」
「は、初めまして」
なんかこういう人は苦手だ~~。どう接したらいいんだろう。
「お友達、名前は?」
果林さんが聞いてきた。
「椎野桃子です」
「桃子ちゃん?可愛い名前ね」
「ほんと、可愛いよね。花恵ちゃんといい、ちっちゃくって」
桐太って人がそう言った。花ちゃんはむっとした顔をした。
「桐太、部屋に行こう」
「うん」
桐太って人は果林さんの腰に手を回し、リビングをあとにした。
「やだな。同じ家にいるってだけで、背筋がぞっとするよ」
「花ちゃん、そこまで毛嫌いしなくても」
「だってさ~」
私は花ちゃんと、ずっとリビングにいて、DVDを観ながら話をしていた。花ちゃんの好きなアイドルのDVDだ。本当に好きなんだな。もう、コーチのことはすっかり、忘れちゃったのかな。
「聖君ってさ」
いきなり花ちゃんが聞いてきた。
「え?」
「浮気したことある?」
「え?な、ないよ」
「本当?もう1年以上付き合ってるよね」
「うん。でもないよ」
「それが普通なのかな。あの桐太ってのがおかしいんだよね」
「なんで?」
「まだ、お姉ちゃんと付き合って、半年くらいなの。なのに浮気したりするからさ」
「半年?まだ?」
「うん」
そうなんだ。すごく仲よさそうにしていたから、もっと長く付き合ってるのかと思った。
DVDが終わり、
「そろそろ帰ろうかな」
と私は立ち上がった。そこに、果林さんと桐太って人が来た。
「あれ?帰るの?」
果林さんが聞いてきた。
「はい、もう遅くなっちゃうから」
「送ってこうか?俺」
桐太って人がそう言った。
「いえ!大丈夫です。すぐですから」
冗談でしょ。果林さんに悪いじゃん。
「桃子ちゃん、彼氏いないでしょ?」
桐太が聞いてきた。えい、もう呼び捨てだ。
「なんでですか?」
「男が思い切り苦手だったりしない?花恵ちゃんみたいに、アイドル追いかけたりして、女子高ってそういう子多いんでしょ?」
ムカッ。なんだかわからないけど、ムカってきちゃった。
「桃ちゃんには彼氏いるよ。すんごいかっこいい」
「へ~~~。会ってみたいね、ね?果林。俺とどっちがかっこいいかな」
げ。自分でそんなこと言う?なんだか、花ちゃんの毛嫌いする気持ちもわかる気がする。
「写真ないの?私も見てみたい」
果林さんまで、そんなことを言い出した。
「見せてあげたら?ほんと、かっこいいんだから!」
花ちゃんまでが言う。
困った。でも、見せるしかないのかな。私は携帯を取り出し、待ち受けにしている聖君の笑顔を見せた。
果林さんがまずそれを見た。そして、
「うそ。ほんとかっこいいじゃん」
と驚いていた。
「どれ?」
桐太がそれを見た。
「聖じゃん」
え?…ええ?!知り合い?!!!
「うっそ~~~!聖の彼女?嘘でしょ?」
「知ってるの?桐太」
果林さんが聞いた。
「同中だよ。俺、中3の春に引っ越して、こっちに来たけど」
「そうなの?へ~~。奇遇だね。ね、中学の時もかっこよかった?」
「ああ。すげえもててたけど。高校入ってからは、ずっと硬派で彼女もいないって聞いたよ。彼女ってのは嘘でしょ?これも隠し撮りかなんかじゃないの?」
「違うよ!桃ちゃん、一緒に写ってるの見せたら?」
「いいよ、いいよ。どうせ、一緒に写真撮って下さいとか言って、撮ってもらったんじゃないの?」
「桐太!失礼なこと言わないでよね」
あ、花ちゃんもとうとう、呼び捨てに…。
「電話だよ!早く出て」
「わ!びくった~~。携帯の着ボイス?」
桐太がびっくりしていた。
「聖君だ」
私は慌てて電話に出た。すると、横で、
「え?マジで聖から電話?変わって!」
と、いきなり携帯を桐太に取られてしまった。
「もしもし!聖?」
「誰?!」
ものすごく大きな声で、聖君が聞いた。携帯からその声がもれて、周りのみんなにも聞こえた。
「俺!桐太。覚えてない?」
「桐太~~~?!!!」
ほとんど叫んでるようだ。桐太は携帯を耳から離した。
「聖、すげえ久しぶり!元気かよ!偶然だな。え?何?どうして俺がここにいるかって?あはは!桃子ちゃんのことナンパしてたの」
「ふざけんな!!!桃子ちゃんに代われ!!!」
また、聖君の怒鳴り声が聞こえた。
「はい。ほんとに聖だった。マジで付き合ってるんだ」
と言いながら、桐太は電話を渡してくれた。
「もしもし」
「桃子ちゃん?なんで桐太がいるの?そこどこ?!!」
「花ちゃんの家にいるの。花ちゃんのお姉さんの彼氏で、花ちゃんの家に遊びに来てるの」
「聖~~!今度会おうぜ!」
私の携帯に顔を近づけて、桐太がそう言った。
「桃子ちゃん、そいつにあまり関わるなよ。前から女癖が悪いから」
「え?」
「中学から、手が早いの。絶対に、関わるなよ」
「うん」
「聞こえてるって!」
また桐太に携帯を取られた。
「桃子ちゃん、本当にお前の彼女なんだ。なんか信じられね~~。硬派で通ってたんじゃないの?なんで、こんな可愛いこちゃんが彼女なんだよ」
今度は、聖君は小声で話しているのか、聞こえてこなかった。
「え?ああ。そうなんだ。近いよ。すぐ隣の駅。え?駅からも近いけど」
桐太が、このマンションの場所を教えだした。あれ?どうして?それから、
「あ、そう?わかった」
と言って、勝手に電話を切ってしまった。
「あ!」
私が慌てると、
「聖、これからここに来るってさ」
と、桐太がにこにこしながら、そう言った。
「聖君が?」
私と花ちゃんが同時にそう聞いた。
「うん。今、新百合にいるらしい。桃子ちゃんちに行く予定だったみたいだけど、こっちに来るみたいだよ」
ええ?!今日来るってのも聞いてなかった。塾は?もしかしてさぼっちゃったとか?
「聖に会うの久々~~!」
桐太は喜んでいた。
「どんななのかな、私も楽しみ」
と、果林さんが言うと、
「俺とは正反対だから、お前の好みじゃないよ」
と、桐太は言った。確かに、正反対かも。
それにしても、この桐太と聖君が知り合いとは、世間ってほんと、狭いんだな。