表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/123

第42話 新たな悩み

 9月はあっという間に過ぎていった。

 花ちゃんは、コーチが移動して、スクールに行くのがつらいと言い、スイミングスクールをやめた。行くと、コーチを思い出してしまうのだそうだ。

「花ちゃん、ごめんね、私」

と、謝ろうとしたら、桃ちゃんのせいじゃないから、謝らないでと言われてしまった。私も、クロールや平泳ぎが泳げるようになり、スクールをやめることにした。


 10月になると、文化祭の準備が始まった。聖君にまた、文化祭ではステージで歌うのかを聞いたら、今年は練習も出来ないし、歌わないよと言われた。

 残念だ。あのかっこよくて、色っぽい聖君を見れないのは。

 聖君がステージに立たないので、私も菜摘も、聖君の高校の文化祭に行くのはやめにした。


 菜摘は、葉君と、仲がよかった。葉君も、バイトを多く入れているので、デートはそんなに出来ないようだったが、それでも、時々菜摘に会って話を聞くと、葉君とのラブラブな話をのろけてくれた。

 聖君も、追い込みで、前みたいに会えなくなった。だけど、メールは相変わらずくれるし、時々私がお店に行って、聖君の家族も交えて、ご飯をごちそうになったり、聖君のお父さんが車で送ってくれるので、寂しさを感じることもなかった。


 一回、れいんどろっぷすに基樹君が遊びに来ていて、聖君の高校での話をこっそりと教えてくれた。

「聖、硬派ぶりが、さらに増したよ」

「え?」

「最近、柳田さんとも話をしない」

「そうなの?なんでかな」

「柳田さんがどうやら、彼氏と別れたらしくて、聖に付き合って欲しいって言ってきたみたい」

「ええ?!」

 初耳だ。


「彼女がいるし、付き合えないと、はっきりと断ったらしいけど、それっきり、あまり話もしなくなったよ」

「知らなかった」

「やっぱり?そういうの、聖、話さない?」

「うん」

 なんて会話をカウンターでしていたら、飲み物やスコーンを取りに行っていた、聖君が戻ってきて、

「そういうの、お前がばらすなよ」

と、基樹君の話が聞こえてたらしく、聖君が不機嫌そうにそう言った。


「だって、一応さ、桃子ちゃんも気になるかなと思ってさ」

「気にするようなことは何もないから」

 聖君はクールにそう言ったあとに、

「学校では男とつるんでるのが、1番楽でいいや」

と、そんなことを言った。


「聖。一部のお前のファンが、お前は男にしか興味がないんじゃないかって言ってるの、知ってる?」

「何?それ」

 聖君は、私の横に座り、私を間に基樹君と話し出した。

「彼女がいるのは、あれは、きっと、カモフラージュで、本当は男にしか興味がなくて、だから、女の子にはあんなにクールなんだっていううわさが流れてるらしいよ」

「俺が~~?」


「仲いい俺まで、疑われちゃうじゃんか、なあ?」

 基樹君はそう言ってから、ゲラゲラ笑った。

「なんだよ、そりゃ。まあ、いいけどさ」

「え?いいの?」

 私がびっくりして、そう聞くと、

「うん、めんどくせ~じゃん。そういううわさが流れてるからって、否定して回るのも。勝手に言わせとけって感じだよ」

と、聖君はけろっとした顔でそう言った。


「当の本人は、めちゃくちゃ、女好きなのにね」

 基樹君がそう言うと、

「その言い方、すごく誤解されるからやめろよな、基樹」

と聖君が、少し睨みつけながら、基樹君に言った。

「あ、訂正、悪い悪い。女好きじゃなくて、桃子ちゃん好き」

 え?!!!

 基樹君の言うことに驚いて、聖君の方を見ると、聖君は何事もなかったかのように、コーラを飲み、

「ま、そういうことだ」

と、うなづいた。


 そ、そういうこと…?

「基樹、どう?勉強は」

「うん、まあまあってとこ」

「頑張ってるんだ?」

「まあね。彼女も作らないで、勉強に集中してるさ。お前みたいに器用じゃないしね」

「俺?器用って?」

 聖君が、基樹君の言うことに聞き返すと、

「お前、彼女がいても、勉強にさしさわりないじゃん」

と、基樹君が言った。


「ああ。そういうことか。さしさわりがないどころか、俺の場合は、桃子ちゃんがいた方が、頑張れるかな」

「何?それ、どういうこと?」

「たとえば、今日みたいに、桃子ちゃんに週末会えると思うと、それまでの間、勉強頑張っちゃおうって、頑張れちゃうから」

「子供が何かお楽しみがあって、それで、頑張れちゃうみたいな?」

「ああ、そうそう。そんな感じ」

 聖君が笑ってそう言った。


「桃子ちゃんが偉いんだよね?あまり会えなくても、文句言ったりしないんでしょ?」

 基樹君に聞かれた。

「え?うん。文句なんて…。聖君、本当に勉強頑張っているんだもん。邪魔しちゃ悪いし」

 私がそう答えると、

「は~~、ほんと、できた彼女を持ったもんだな。そりゃ、桃子ちゃん一筋になるってもんだ」

と、基樹君は感心しながらそう言った。


「でしょ?」

 聖君は、口元にだけ笑みを浮かべて、そう答えた。

 出来た…彼女?私が~~?

 私は聖君と、基樹君を交互に見て、それから、顔がほてってきて、下を向いた。

「あはは、真ん中で照れてるし!」

 聖君が笑って言った。


 それから、江ノ島の駅まで3人で歩き、聖君に見送られ、私は基樹君と電車に乗った。

「聖、本当に桃子ちゃんとは長く続いてるよね」

 基樹君がそういきなり、言ってきた。

「菜摘と、葉君もね」

「ああ、そっか」

 基樹君は、外を見ながらそう言うと、

「ちょっと羨ましいね。長く続く秘訣ってなんだろう」

と、そんなことを聞いてきた。


「わかんないけど…。何かな?」

 私は本当に、わからなくて、首をかしげた。

「まあ、聖の方からふったりはしないだろうから、桃子ちゃんが寂しくても、我慢してるってところで、長く続いてるのかな」

「聖君の方からふらない?」

「うん。あいつ、まじで、桃子ちゃんのこと好きじゃん。他の子、本当に目に入らないみたいだしね」

「え?そう?」


「さっきは、聖いたし、話せなかったけど、最近ね、柳田さん以外にも、聖に告ってきた女の子がいるんだ。高校1年で、めっちゃ可愛い子だよ。男子にモテモテでさ。聖に気があるだろうなっていうのは、まるわかりだったけど、とうとう告白してきてって感じでさ」

 それもまた、初耳!

「あっさりと、聖はふってた。実は俺、そこに居合わせちゃって、向こうも友達と来てて、俺がいるのに、告白始めちゃってさ」

「うん」


「聖ね、俺、付き合ってる子いるよ。って、それだけ言って、じゃあってその場をあとにしちゃったの。え?それだけ?ってこっちが拍子抜けした。その子をみたら、その子も呆然としてた」

「……」

「その子の友達も、え?それだけ?って感じで、みんなで呆然としてた」

「そのあと、聖君は?」

 また落ち込んだりしなかったのかな。

「あんな可愛い子、あんな簡単にふるなんて、俺じゃ考えられないって言ったら、聖のやついけしゃあしゃあと、え?今の子可愛かったっけ?って言った」


「え?」

「ああ、お前にとっては、桃子ちゃんだけが可愛いんだっけって皮肉を言ったのに、うん、そうだよってあっさりと言われた」

「え…」

 聞いてて、私は真っ赤になった。

「あいつは、どんだけ桃子ちゃんが好きなんだって、あの時も思ったよ。でさ、そんなこともあったから、聖は男にしか興味がないんじゃないかってうわさが広まったの。だって、学校一かもしれない可愛い子、ふっちゃったんだからさ」

「そ、そうだったんだ」


「これまた、聖から聞いてなかったこと?」

「うん、まったく」

「あいつにとっちゃ、なんでもない出来事なんだな。ほんと、モテルやつってのは告白されるのなんて、日常茶飯事かもな~」

「……」


 基樹君が降りる駅に着き、基樹君は、

「じゃあね」

って、電車を降りて行った。

 そうか。そんなことがあったのか。聖君にとってはいちいち、私に報告するようなことでもないんだろうな。

 ちょっと複雑な心境だ。でも、聖君が他の子には本当に、興味を示さないのがわかって、どこかでほっともしている。


 11月、文化祭が近づき、聖君からメールで、

>今年は去年みたいな格好、桃子ちゃん、しないよね?

と、聞かれた。

>しないよ。今年はうちのクラス、カフェもしないし、展示物を飾っておしまいだもん。

と、返信を送ると、

>良かった~~。もし、あんな格好するんだったら、俺、塾さぼって行こうかって思ったよ。

 なんだ。それも嬉しかったな~。最近会えてないし…。 


 聖君の高校も3年生はほとんど、文化祭に参加しないようだ。実行委員も2年生がまとめているらしい。だから、文化祭当日も、聖君は塾の方へ行ってしまうと言っていた。

 聖君を好きな女の子にとっては、残念なことじゃないのかな…、なんて他人事ながら、思ったりして…。


 私は相変わらず、クラスでは花ちゃんとヒガちゃんといた。花ちゃんはまた、すっかりアイドルを追いかけるミーハーに戻り、ヒガちゃんは相変わらず、アニメ好きで、まったく3次元の男の子には、興味を持たないようだった。

 だから、私は聖君との話をするのは、もっぱら、菜摘で、菜摘とは時々、家に遊びに行ったり、来てもらって話をしていた。


 聖君は、塾に行くようになり、菜摘の家にも、なかなか行けなくなってしまったようで、菜摘のお父さんはがっかりしているようだった。

 でも、葉君が時々、菜摘の家に遊びに行くらしく、その時にお父さんやお母さんと話をするらしい。葉君もまじめだし、菜摘のお父さんに気に入られていると、菜摘が言っていた。


 葉君とは、その後何も進展がないらしい。キスはするらしいが、葉君は、あまり菜摘に近づかず、ちょっと距離を置いて接してるみたいだって、菜摘が言った。でも、それは菜摘を大事に思い、怖がらせないようにしているからだっていうことも、菜摘はわかっていて、そんな葉君の優しさが好きなんだって、のろけてくれた。


 兄貴はどう?と聞かれて、胸を触られたことが一回あると、思わず言ってしまった。菜摘は驚くこともなく、それだけ長く付き合ってたら、そういうのもあるよねって、冷静にそう言ってきた。

 だけど、一回きりで、それ以来ないよって言うと、やっぱり、兄貴は桃子を大事に思ってるんだねってそう菜摘は言った。


 前だったら、私が幼いからとか、幼児体型だからとか、そんなことを気にして勝手に落ち込んでいたけど、最近はそういうことも思わなくなった。何しろ、聖君はちゃんと、自分の気持ちを言ってくれるから。

 二人きりになり、聖君の部屋にいても、

「あ。やばい。二人きりは、俺、今日やばいみたい」

と、そんなことを言って、リビングに降りたり、お店に行ったり、時々、クロの散歩に二人で海に行ったりしていた。


 クロの散歩中に、

「桃子ちゃんって最近、女っぽくなったよね」

と、いきなり言われたこともある。

「え?どこが?」

 びっくりして聞き返すと、

「あれ?自分じゃ気づいてない?背も伸びたでしょ?」

と聖君に言われた。

 実は夏を過ぎて身長を測ったら、去年よりも6センチも伸びていたんだよね。それに、なんと胸までが膨らんできて、もうAカップ卒業かも!って感じになってきていたし。


 そういうの、聖君は見ていたんだな~~。

 前から、胸がぺたんこなのを隠してくれる、少しブカッてしているブラウスばかりを着ていたんだけど、それでも、わかっちゃってたのかな~~。

 う、それはそれで、恥ずかしいかも。


「成長段階だったのかな。もう止まっちゃってたと思ってたけど」

 そんなことを言うと、聖君は、

「そっか~~。桃子ちゃんはまだ、大人への階段を上ってる最中なんだね~~」

と、そんなことをしみじみと言ってきた。

 大人への階段。それ、深い意味はないと思うけど、私は勝手にあれこれ考えてしまい、真っ赤になりうつむいた。


 それに気がついた聖君は、

「桃子ちゃん、すけべ」

って、声色を変えて言ってきた。

「す、すけべって、私、別に!」

 慌ててそう言うと、

「あはは!うそうそ!すけべなのは俺の方でした~」

と、聖君は、ものすごく明るく笑って言う。


 明るすぎるでしょ。そんなに明るく俺がスケベなんて言うと、どっからどうみても、スケベには見えないよ。

 どうしてこんなことを言っても、こうも爽やかになるんだろうなって思うと、不思議でたまらない。これも、私が聖君が好きだから、そう見えるのか。それとも、他の子が見たとしても、そう見えるのか。

 ああ、もういいか。どっちでも。とにかく私にとっては、爽やかなアイドル青年なんだから。


 菜摘がまた、うちに遊びに来た。週末葉君はバイトで、聖君が塾で、二人して暇をしている日だった。

 そして、その時の話を菜摘にした。聖君は何を言っても、爽やかなんだよって。すると、

「兄貴は、きっと、桃子の前では、爽やか青年気取ってるんだよ」

なんて、菜摘は言ったけど、そうなのかな?素のままの聖君を見せてくれてるって気もするけどな。


「でも、ほんと桃子、背も伸びたし、どんどん綺麗になっていくし、兄貴は気が気じゃないよね」

 菜摘が、その時にそんなことを言った。

「え?私が?」

 どこも変わってないと思うけどな。あ、背は伸びたけど。でもまだ、6センチ伸びたって、小さいことには変わりないんだから。


「兄貴もおちおちしてられないよね~~」

「え?」

「そりゃ、悩むわけだ」

「え?聖君が悩み?そんなの、聞いたことないよ」

「うん、そりゃ、言えないと思う。私にも言ってない」

「じゃ、なんで知ってるの?」

「葉君が、この前ばらしてくれたから」

「え?」


「葉一は菜摘に手、出したりしてないかって聞いてきたらしいの」

「聖君が?」

「うん、それで葉君、うん、手を出したりしそうになっても、我慢してるって言ったらしくって」

「へ~~」

「葉君、可愛いでしょ?」

「う。うん…」


「その時にね、兄貴が、俺も我慢してるけど、そろそろ我慢の限界かもって」

「へ?!!!」

 な、何それ?

「桃子ちゃん、他のやつに取られたりしないよな。俺がこうやって、指くわえてる間に、とんびに油揚げ、さらわれないよねって、そんなこと言ってたらしいよ。葉君は思い切りそれ聞いて、大笑いしたらしいけど」

「とんびに油揚げ?」


「他のやつに、桃子、取られないよねってこと」

「そ、そんなわけないじゃない!聖君一筋なのに!」

「ねえ?私もそう思う。だいたい、兄貴にだって、怖がってなかなか、近づけない桃子が、他の人に近づけるわけがないし」

「怖がって近づけない?」

「桃子もでしょ?まだ、そういうのって、受け入れられないのは怖いからだよね?」

「……」


 私が黙っていると、菜摘は違うの?って聞いてきた。

「うん、ちょっと違う」

「怖いからじゃないの?じゃ、なんで?」

「なんでって」

 えっと。胸を触られた時は、胸が小さくて貧相で、それを知られたくなかったから、なんだけど…。

 なんとなくそれは、菜摘には言えなかった。


「き、緊張して、心臓壊れそうで、それで…かな?」

 これも本当のことだった。なにしろ、心臓が持たないんじゃないかと思うくらい、ドキドキしていたし。

「そうなんだ~~~」

 菜摘は、ちょっと驚いていた。

「私と一緒で、怖くなったのかと思ったよ」

「聖君は、怖くないよ。いつでも、優しいもん」

「…あっつ~。それ、のろけ~~?」

 菜摘はそう言うと、笑っていた。


 そうだ。きっと今でも、そんなことになったら、心臓は持たない。でも…。

 前よりも膨らんできた胸。もう、幼児体型だって、がっかりされないですむかな。あ、そうだった。もともと、そんなこと気にしてないって言われてたんだっけ。私が勝手に、気にしていただけで。

 そうだ。聖君はもともと気にしてないんだ。でも、そうなるのを避けてる。二人きりになるのも、二人の仲が進展するのも、我慢してる。


 それって、やっぱり、大事に思ってくれてるからかな。

 それとも、私がまた、嫌がったりするかと思ってるからかな。それとも、なんでかな。

 なんて、そんなことが気になりだしたけど、とても聞けない。


 だけど、菜摘が言うように、聖君は悩んでいるんだろうか。

 私には、あんなに明るく、心のうちを素直に話してくれてるように見えてたのにな。菜摘の言うように、爽やか青年を気取ってるんだろうか…。


 そんな爽やかな聖君も好きだけど、でも、やっぱり悩んでいるなら、悩みを打ち明けて欲しいとも思う。だけど、それが、私に解決できることなのかどうかは、わからないし。っていうより、思い切り、私まで、悩むことになりそうな予感もする。

 聖君が悩んでいるのを知りながらも、どうにも出来ないのかなって思ったら、ものすごく複雑な気持ちになって、その夜、私は、朝方まで、眠ることが出来なかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ