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第36話 告白のゆくえ

 夜、聖君から電話があった。

「桃子ちゃん、大丈夫?ほっぺた」

「うん、もう腫れもひいたよ」

「そっか。お父さんとは話した?」

「うん。話した」

「どうだった?」

 聖君の声は優しかった。

 

 私は父との会話を全部、聖君に話した。聖君は、

「良かったね。お父さんにハグできたんだ。お父さん、喜んでたでしょ?」

と聞いてきた。

「わかんない。でも、なんかうるうるしてた」

「あはは。きっと、喜んでいたんだよ」

「そうかな…」

「うん、そうだよ」


「聖君、ありがとうね」

「え?」

 私がいきなり、お礼を言ったから、聖君は驚いていた。でも、私はそのまま話を続けた。

「聖君があんなふうに言ってくれなかったら、まだきっと、お父さんのこと嫌いでいたかも」

「そう?」

「うん」

「俺さ、去年父さんといろいろとあったじゃん」

「うん」

「父さんから手紙って言うのかな、あ、パソコンで書いたものだけど、もらったんだよね、そんとき」

「手紙?」

「う~~ん、自叙伝だって、父さんは言ってたけど」

「自叙伝?」


「母さんとの出会いから俺が生まれるまでのことが、書いてあった」

「え?」

「俺が、大きくなって、何か悩んだり、壁にぶち当たったりした時のために、書いておいたみたい」

「じゃ、もうだいぶ前に書いたものなの?」

「うん。俺が1歳半くらいかな」

「へ~~~!」

「それ読んだら、父さんが、これから俺が大きくなって、血がつながってないこととか知ってショックを受けても、その時には一緒に乗り越えていこうってそんなふうに書いてあったんだ」

「一緒に、乗り越える?」


「それ、なんか嬉しかったんだ。ああ、父さんはいつも、ちゃんと俺のこと見ててくれるし、俺一人じゃないんだなってそう思ってさ。だから、辛かったけど、でも、なんか乗り越えられた」

「そうだったんだ」

「うん。だから、桃子ちゃんとおじさんも、ちゃんと乗り越えていけるだろうなって思ったんだよね」

「それで、あんなふうに言ってくれたの?」

「うん。あ、菜摘もさ、俺と兄妹だって知って、すんごいショックを受けてたけど、ちゃんとご両親がついててあげて、乗り越えられたしね」

「うん」


「あの時、これから先、もし菜摘が何かで悩んでいたら、今度は俺が相談に乗ったりする時がくるかもしれないって、そんなこと菜摘のお父さんに話したんだよね」

「え?」

「ほら、うちに菜摘のご両親が来た時あったでしょ?」

「あ、うん」

「俺、葉一のことで、菜摘から相談受けたりしたんだけど、あの時、そんな日が来るかもしれないって言ってたその日が、本当に来たんだなって、ちょっと感動したりしたんだよね」

「そうだったの?」


 聖君は少し黙り込んで、ちょこっと咳払いをした。そして、

「桃子ちゃん」

「え?」

「沖縄に行くって断言してくれたんだね」

と、ちょっと照れている感じで話し出した。

「うん…」

 なんか、急に恥ずかしくなってきた。

「そっか…」

「いいのかな」

「え?何が?」

「私、沖縄に行っちゃっても」

「へ?」

 聖君が少し、変な声で聞き返してきた。


「あ、ごめん。また、私、変なこと言ってるよね」

「うん。思い切り変」

「ごめん」

「……。なんかさ、桃子ちゃんさ」

「え?」

「もしも俺が、プロポーズなんかした日には」

「プロポーズ~~?!」

「もしもの話」

「あ…、うん」

 び、びっくりした~~~。


「絶対に、私でいいの?とか言って、すぐにはうんって言ってくれそうにないよね」

「……」

 み、見抜いている。それ、本当に私、言いそうだ。

「あ、そうだ。こういうの、どう?」

「え?どんなの?」

「桃子ちゃんから、プロポーズしてくるの」

「へえっ?!」

 今度は私が、変な声を出してしまった。だって、突拍子もないこと言ってくるから。

「それで、俺が、こんな俺でもいいの?こんな俺じゃ悪いからって、断ったら」

「や、やだよ、そんなの。だいたい、こんな俺でいいの?なんて、聖君言わないもの」


「もし、言ったら?」

「聖君じゃなきゃ嫌だとか、聖君だからいいんだとか、そういうこと言ってる…と思う」

「そう?」

「う、うん」

「それ、同じ心境。今」

「え?」

「沖縄に行くの、私でいいの?って聞いたけど、桃子ちゃんじゃなきゃ意味ないし、桃子ちゃんじゃきゃ俺嫌だし、ってそんなこと思ってるけど。そういう気持ち、わかるよね?」

「う…うん」


 そうか。逆の立場になってみたら、わかった。俺でいいの?なんて言われたくない。そんなの決まってるじゃん。聖君がいいに決まってるじゃん、って思うもの。

 そうか。同じなんだ。


「そうだ。夕飯の時にね、お父さんが言ってた」

「え?なんて?」

「聖君は、釣りのセンスがあるって。だから、また一緒に行きたいって」

「まじで?そっか~~。俺も、そう思ってたところなんだよね~~」

「ほんと?お父さん、息子がいたら、あんな感じで釣りに一緒に行ったのかなとか、あんな息子がいたらいいよなとか、飲んでいたせいもあるけど、そんなこと言ってたよ」

「そうなんだ。良かった。じゃ、息子になっちゃおう」

「え?!」

「あ、婿養子とかってのは、難しいかもしれないけど。でも、桃子ちゃんと結婚したら、息子でしょ?俺」

「……」

 わ~~。なんか、そういうこと平気で言われると、なんて答えていいのか…。


「あれ?なんでそこで、黙っちゃうの?」

「な、なんて言っていいか」

「嫌なの?」

「嫌じゃない」

「じゃ、どう?」

 どうって言われても…。ええ~~?

「ああ、やべ!携帯の電池もう、なくなる。切れちゃうや」

「え?」

 え?!こ、こんな中途半端なところで?


「じゃね、桃子ちゃん、おやすみ」

「お、おやすみ」

 それで、切っちゃうの…?あ…。プツって切っちゃった。聖君。

 今、なんか、すごいことを言ってたし、聞いてたし、でも私、何も返事してないし…。いいの?こんなに中途半端で。

 私は、聖君にメールを送った。このへんてこな、中途半端なままの会話じゃ嫌だったから、もし、今、携帯の電源が切れ、聖君がメールをすぐに見ないとしても、それでも、送っておきたかった。


>聖君、嫌じゃないよ。それから、私でいいの?なんてもう聞かない。だって、私の本音は、ずっと聖君の隣にいたいってことだもん。それが叶ったら、すごく嬉しい。

 そう書いて、送信を押した。聖君からは、30分しても、1時間しても戻ってこなかったけど、でも、気持ちは素直に伝えたんだから…と思い、私はお風呂に入り、そのまま眠りについた。


 朝、起きてすぐに、携帯を見た。どんな返事が来ているか、ドキドキしながら。だけど、メールはどこからも来ていなかった。

 あ、あれ?まだ読んでない?それとも…。

 ああ!また、変なこと考えて、暗くなるところだ。もう、やめよう!

 それから、部屋を出て顔を洗いに行くと、ほっぺたが紫色になっていた。

「わ。昨日叩かれたところだ~~」

 今日は何も用事もなかったし、良かった。


 ダイニングに行くと、父がもう朝ごはんを食べていて、

「おはよう」

と、挨拶をすると私の顔を見て、さっと青ざめてしまった。横にいた母も、

「あら!紫色になってるわ」

と、ちょっと驚いていた。父は、まだ青ざめた顔をしていて、

「桃子。まだ痛むのか?」

と、よっぽど自分の方が痛がってるんじゃないかという表情で聞いてきた。


「痛くはないよ。見た目はこんなだけど」

「そうか。でも、昨日は痛かっただろう。すまなかったな」

 父は、本当に重苦しく、辛そうにそう言った。

「うん。痛かった。あ、でも、お父さんの手も痛かったんじゃない?」

 父は、自分の手のひらを見て、それから、

「痛かったよ。本当にすまなかった。もうけして手はあげないから」

と、そう言ってくれた。


 朝ごはんを食べ、自分の部屋に戻った。夏休みの宿題や、勉強もしなくっちゃなと、机に向かおうとした時、

「メールだよ」

という、聖君の声がした。あ。聖君からのメールだ!

>桃子ちゃん。今、メール見た!!!!!すげえ、嬉しい!朝から、俺、大変!

 た、大変?嬉しくて…かな?

>今日からまた、塾だ。これから家を出るんだ。

>勉強、頑張ってね。

>うん!!!!(><)


 今日のメールも、可愛いな~~。

 私も、机に向かい、勉強を始めた。でも、時々また、メールを読み返した。

 ああ、良かった。ただ、朝までメールを見ていなかっただけだったんだ。ほっとしながら、聖君のことを思い、なかなか勉強がはかどらないでいた。


 そして、あっという間に夏休みが過ぎていった。

 最後の週になり、宿題もまだ、終わってなくて、慌てふためいている日々の中、花ちゃんがコーチに、告白する日がやってきた。


 花ちゃんは、スクールに行く時から、緊張しまくり。その気持ちが手にとるようにわかる。

 スクールで会うのも、今日が最後なんだな。花ちゃんが時々小さく、ため息をつく。その気持ちもわかってしまう。

 そして時間が来て、コーチが、

「お疲れ様でした。よく皆さん頑張りました。来週からはコーチが変りますが、これからも、頑張ってください」

と、挨拶をした。花ちゃんは私の横で、今にも泣き出しそうだった。


 着替えが済み、私たちは受付に行った。ちょっと遅くに行ったからか、他のスクール生はもういなくて、受付には、コーチが受付の係りの人と二人で、何かを話していた。

「あ。お疲れ様でした」

 コーチがこちらに気がつき、笑って挨拶をしてきた。

「あの…」

 花ちゃんは、真っ赤になりながら、

「今、時間大丈夫ですか?もし、良かったら、あの…。お、お礼がしたいんですが」

 花ちゃんは、今日、コーチに渡すプレゼントも用意していた。


「はい。ここでは、駄目ですか?」

 コーチがそう言うと、

「はい。できれば、ラウンジで」

と、花ちゃんは、小さい声でそう言った。

「わかりました」

 コーチが席を立った。私は小さくガッツポーズを作った。心の中では、花ちゃん、頑張れ!とエールを送っていた。


 コーチが、階段を上り出した。そのあとを、花ちゃんがついていくと、いきなりコーチが思い切り振り返り、

「あれ?椎野さんは?何か受付で用事でもあるんですか?」

と、聞いてきた。

「いえ、私はその…。あ、大変。ちょっと急ぎの用事を思い出しました。コーチ、今までありがとうございました。ここで、失礼します」

と言って、私は慌てて、ドアを開け外に出た。


 なんとなく、

「え?桃ちゃん?」

と、小さい花ちゃんの声が聞こえたような気もしたが、私は振り返らず、そのまま階段を下りていった。そして、階段を下りた先の、駐車場で、花ちゃんを待っていることにした。


 長くかかるかな。花ちゃん、ちゃんと話せるかな。告白できるかな。うまくいくかな…。

 そんなことが頭をよぎり、ドキドキしていると、突然、スイミングスクールの入り口が開き、花ちゃんではなく、コーチが階段を駆け下りてきた。

「あ、あれ?」

 どうしてコーチ?後ろから、花ちゃんが来る様子もない。

「椎野さん!」

「は?」

「良かった。まだ、いた」

「は?」

 

 コーチは息が上がっていた。走ってきたようだった。花ちゃんと2階にいってから、まだ、1~2分しか経ってないんじゃないのか。なのに、なんで、ここにコーチがいるんだろう。

「椎野さんに、話があります」

「え?あの、花ちゃんは?」

「はい。プレゼントをもらいました」

「え?それだけ?」

「お世話になったと、お礼も言ってくれて」

「それだけですか?!」

 こ、告白は~~~?ちょっと待って。なんで、コーチが私に話…?花ちゃんは?どうしたの?!


 

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