第29話 可愛い彼
聖君が翌日メールで、
>母さんも父さんも、泊まりに来るの楽しみにしてるって。
と、送ってきた。早速聞いてくれたようだ。3人が伊豆から帰り、2~3日たって落ち着いたら、ひまわりと泊まりに行くことになった。
あ~~~。ドキドキだ。今から心臓バクバクだ。
心臓がバクバクなのは、私だけじゃなかった。告白を決意した花ちゃんも、ドキドキしてて、8月の最後の週に、コーチに告白するとメールがきた。
うまくいくかな。いくといいな。そんな思いで、花ちゃんからのメールを読んだ。
>告白なんてしたことないから、どうしていいかわからないよ。
>面と向かって言えるかな。
>桃ちゃん、その時一緒にいてね。
そんなメールが次々にやってくる。
>私はいないほうがいいかも。二人っきりで話したほうがいいよ、絶対。
そう送ると、
>ええ~~~!ついててくれないの?
と、返信が即行きた。
>受付あたりで、待ってる。花ちゃんはラウンジにでもコーチを呼んで、告白するといいよ。
>一人で?
>もちろん。
しばらくメールがこなかったが、
>わかった。でも、帰りは一緒に帰ってね。待っててね。
という返事がきた。
>もちろん!
やっぱり、二人っきりの方がいいよね。花ちゃんの心細さもわかるけど、でも、やっぱり二人っきりにさせてあげたいなって、そんなふうに思う。
花ちゃんのことも、他人事ながら、ドキドキする。でも、それよりも先に、聖君の家に泊まる日がやってくる。ひまわりは、ウキウキワクワク。海の準備をまだ、3日も先なのに始めていた。
私は、海よりも、夜、パジャマを着るの?それとも、Tシャツと短パン?それとも?と、そんなことで頭を悩ませたりしていた。
そして、聖君の家に泊まる日がやってきた。
江ノ島の駅に、朝9時、ひまわりと着いた。改札口にはすでに、聖君が待っていて、
「おはよ!」
と元気に笑顔で、迎えてくれた。聖君の隣には、杏樹ちゃんもいた。
「桃子ちゃん!おはようございます!あ、ひまわりちゃんですか~~?!」
テンションが思い切り、高かった。
「杏樹ちゃん~~?!」
ひまわりも、負けず劣らずのテンションの高さ。
「きゃ~~~~!」
と、意味もなく、二人でぴょんぴょん跳ねていた。
「あはは!やっぱり、二人ともいきなり気が合ってる。絶対に仲良くなるって、思ってたんだよね」
聖君が、そう言うと、
「ひまわりちゃんと桃子ちゃんの荷物持つよ。一回家に行って、荷物置いてから海に行こう。俺と杏樹はもう、服の下に水着着てるんだ」
と、二人分の荷物をひょいと持ってしまった。
杏樹ちゃんとひまわりは、二人できゃっきゃしながら、歩いていた。その後ろを私の歩く速度に合わせて聖君が歩いていた。
「楽しそうだな、あの二人」
「うん」
二人分の荷物を軽々と持ち、日に焼けている聖君が、なんだかやたらとたくましく見えた。特にひまわりや杏樹ちゃんと並ぶと、聖君はすごいお兄さんのように見える。
そんな聖君に、人見知りをしている私がいる。ちょっと会わないでいるだけで、聖君は大人になっていってる気がする。だから、なんとなく口数が少なくなってしまった。
「母さん、すんげえ張り切ってるから」
「え?」
いきなりそんなことを言われて、びっくりしていると、
「驚かないでね。ほんと、あの人、桃子ちゃんに関しては、なんか特別な思い入れがあってさ」
「え?」
何?なんだろうか…。すごく気になる。
れいんどろっぷすに着いた。ドアを開けると、いきなり聖君のお母さんが、
「桃子ちゃん、いらっしゃい!」
と、出迎えてくれた。
「おはようございます」
私が言うと、ひまわりも恥ずかしそうに挨拶をした。
「はじめまして。ひまわりちゃんよね」
「はい」
めずらしく、ひまわりは緊張していた。聖君のお父さんもいて、
「やあ、はじめまして」
と、ひまわりに言うと、さらに、ひまわりは緊張して、
「わ。聖君のお父さん、若い」
と驚いていた。
「早く、お兄ちゃん、海に行こうよ」
「ああ、そっか。じゃ、荷物リビングにでも置いて行こうか。それか、ここでもう、水着になっちゃう?上にTシャツかパーカーでも羽織れば、大丈夫だと思うけど?」
聖君にそう言われ、私とひまわりは2階のお客さんの間に通され、そこで水着になった。荷物は聖君が二人分、持って2階にあがり、置いていってくれた。
「お姉ちゃん、聖君のお母さんもお父さんも、奇麗だし、かっこいいね。特にお父さん、若いし、うちのお父さんと段違いだよね」
「うん。あ、でもそれは、お父さんには言わない方がいいと思うよ」
「うん。すねちゃうもんね」
「そうそう」
そんな話をしながら水着になり、ひまわりは短パンとTシャツを着て、私もTシャツと、膝丈のパンツを履いた。
下に下りていくと、杏樹ちゃんが、待ってましたって顔で、
「海、行こう!」
と言ってきた。腕には、でかい浮き輪も持っていた。
「わ~~。大きな浮き輪」
ひまわりはそれを見て、はしゃいでいた。
「これで遊ぼうね。あと、お兄ちゃん、ビーチボール持って行ってね」
「はいはい」
聖君は、ビーチボールを抱え、他にもゴザや、アイスボックスを持っていた。
「ビーチボール持つね」
と言うと、
「あ、サンキュー」
と聖君は、笑った。アイスボックスには、ジュースやコーラが入ってるんだろうな。
「じゃ、聖、ひまわりちゃんのこと、ちゃんと見てあげるのよ」
聖君のお母さんがそう言った。
「あとで、俺も行くからさ!」
聖君のお父さんがそう言った。…え?お父さんも来るの?
「ああ、なるべく早くに頼むね」
聖君はそう言って、行ってきますとお店を出た。
「お父さん、来るの?」
海に行く道を歩きながら聞いてみると、
「うん、俺だけじゃ、杏樹のお守りきついもん」
と、聖君はちょっと苦笑いをした。確かに。それに今日はひまわりまでがいるし。
「俺、桃子ちゃんだけで精一杯だしさ」
「え?私?!」
「あはは」
もう~~。でも、確かにそうかも。私が1番、お守りをするのが大変かも。
海岸に着くと、すでに人がいっぱいいた。海の家で、パラソルを借りた聖君は、パラソルを立てるとその下にゴザを敷き、アイスボックスを置いた。
「いっぱい飲むものは入っているから、いつでも勝手に開けて飲んでいいよ」
聖君がそう言ってるそばから、杏樹ちゃんは聖君の腕をひっぱって、
「お兄ちゃん、泳ぎに行こうよ」
と言っていた。
「私、荷物番してるから、行ってきていいよ」
と言うと、聖君が、
「でも、それが1番危ない…」
と言って、心配そうな顔をした。
「大丈夫、何かあったら、呼ぶから」
「わかった。変なやつに声かけられたら、すぐにこっちに来るんだよ」
「うん」
「じゃ、ひまわりちゃんも行こうか」
聖君は、杏樹ちゃんとひまわりを連れて、歩き出した。ひまわりは杏樹ちゃんときゃっきゃと喜びながら、聖君のあとをついて行った。
ビーチパラソルの下で、のんびりと聖君たちを見ていた。杏樹ちゃんは、上手に泳いでいる。ひまわりは大きな浮き輪をしていた。その周りを聖君は泳いで、たまに杏樹ちゃんが、聖君の背中に抱きついてみたりしていた。
「いいな~~。妹って」
ぼそってつぶやくと、後ろから、
「そう?桃子ちゃんだって、聖に甘えてみたらいいじゃん。聖、めちゃくちゃ、喜んじゃうと思うけどな」
と、いう声がした。
「わあ!!」
私はびっくりして後ろを向くと、聖君のお父さんがそこに立っていた。
「桃子ちゃん、荷物番?行ってきていいよ。荷物見てるから」
「あ、いいです。聖君、さすがに3人は見てられないと思うし」
「あれ?桃子ちゃんも泳げるようになったんじゃ」
「海ではまだ、なかなか泳げなくって」
「プールとは違う?」
「はい」
「そっか~~」
聖君のお父さんは、ゴザに座ると、
「あ~~あ。ほんと、杏樹は甘えん坊だね」
と、聖君と杏樹を見てそう言った。
「仲いいですよね。聖君、すごく杏樹ちゃんのこと可愛がってて。優しいお兄ちゃんですよね」
私も二人のことを見てそう言うと、聖君のお父さんは私の方を見て、
「聖、桃子ちゃんにも優しいんじゃないの?」
と聞いてきた。
「あ、はい。すごく優しいです」
「やっぱり?なんか目に入れても痛くないくらい、桃子ちゃん、可愛いみたいだもんね」
「え?」
聖君のお父さんにそう言われて、私は思いっきり真っ赤になってしまった。
聖君と杏樹ちゃんがこっちを見て、お父さんがいるのに気づき、杏樹ちゃんは思い切り、手を振った。隣でお父さんも、思い切り手を振りかえした。
「あ~~あ、可愛いね、杏樹は」
聖君のお父さんは、目じりが下がり、嬉しそうに杏樹ちゃんと聖君を見ていた。
「聖君って、お父さんのこと大好きなんですね」
私がそう言うと、聖君のお父さんはちょっとびっくりして、
「え?聖、そう言ってた?」
と聞いてきた。
「はい」
「そっか~~。そんなこと桃子ちゃんに言ってるんだ」
「お父さんと血がつながってなくっても、自分のことを丸ごと愛してくれるから、コンプレックスが消えたんだって言ってました」
「へ~~。そんなこと言ってた?あいつ」
「はい」
「あはは。それでもしかして、桃子ちゃんのことも、まるごと愛しちゃってるから、コンプレックスなんて持つことないよ、な~~んて言ってたりして?」
「え?なんで、わかったんですか?」
私がびっくりしてそう聞くと、
「うそ。まじで、そんなことあいつ、言ってた?ひゃ~~、そりゃ、すげえ」
と、逆に驚かれてしまった。
「ふうん。聖、そうとう本気だね」
「え?」
「っていうか、もう見つけちゃったってことか」
「え?」
「桃子ちゃんはあいつの、どこが好き?」
「わ、私ですか?えっと」
これは、素直に言った方がいいよね。聖君だって、うちで、ちゃんと言ってくれたもん。全部って。
「全部です」
かなり、恥ずかしくって小さな声でそう言った。でも、お父さんはちゃんと聞こえてたみたいで、
「そっか~~。全部か」
と、優しい目で私を見ながら、微笑んだ。
聖君たちが戻ってきた。
「あっち~~」
聖君はそう言うと、アイスボックスを開け、
「ひまわりちゃんは、何を飲む?」
と聞いた。
「えっと~~、あ、スポーツドリンクがいいな」
「私は炭酸のがいい」
杏樹ちゃんはそう言うと、しゃがみこんでる聖君の背中に抱きついた。
「ファンタでいい?コーラは駄目、俺のだから」
「しょうがないな。ファンタにしといてあげる」
ああ、隣で見てても、本当に羨ましいくらいの仲の良さ。ひまわりもそれを見て、羨ましそうにしていた。
「聖、少し休んだら、桃子ちゃんと泳いでこいよ」
「うん。父さんは?泳いできていいよ?」
「俺?そうだな、じゃ、桃子ちゃんと一緒に泳いで…」
「何バカなこと言ってんだよ!一人でだよ、一人で泳いでこいよな!」
聖君は、お父さんにそう言い放った。
「なんだよ。冗談で言ったのに」
とぶつくさ言って、聖君のお父さんは歩き出した。
「私も泳ぐ」
と杏樹ちゃんがついていった。
「ひまわりちゃんは行かないの?」
聖君が聞くと、
「ちょっと休む」
と、ひまわりはスポーツドリンクをまだ、飲んでいた。
聖君のお父さんと杏樹ちゃんは、仲良く沖の方まで泳ぎ出した。
「杏樹ちゃんも泳ぐの上手だね」
と私が言うと、
「そりゃ、0歳の時から海で泳いでるからね」
と、言われてしまった。すごい兄妹だな~。
「ひまわりちゃんも彼氏、連れてくればよかったのに」
聖君がいきなり、ひまわりにそう言った。
「別れちゃったもん」
ひまわりにそう言われ、私がびっくりしてしまった。
「え?いつの間に?」
「夏休み入ってすぐ」
知らなかった。
「ふっちゃったの?ひまわりちゃん」
聖君がそう聞くと、
「うん。だって、なんだか、一緒にいても、楽しくないんだもん」
と、ひまわりが答えた。楽しくないって、そんな理由で?
「あはは。正直なんだね、ひまわりちゃんは」
聖君が笑った。
「聖君みたいな彼だったら、絶対に私ふらないんだけどな」
と、ひまわりが言った。
「わからないよ?俺みたいなの、つまらないってひまわりちゃんは思うかも」
「ええ~?まさか~~!」
「どんな男の人が好み?」
聖君がひまわりに聞いた。
「かっこよくて、優しくて、大人で、頼もしくて、一緒にいて楽しくて」
「わあ。すごいハードル高い。理想が高いね、ひまわりちゃん」
聖君が、わざと目を丸くしてそう言った。
「そうでしょ?そんなの聖君くらいしかいないよね、ね?お姉ちゃん」
う、確かにそうかも。こんだけ素敵な人がそばにいたら、他の人なんてかすんじゃうかもね。
「え?俺?あはは!それは俺の本当の姿を知らないから」
「え~~。本当の姿って、どんななの?」
「けっこう情けないし、てんで頼りにならないし、子供だし、黙って静かにしてる時も多いし」
「え?いつも楽しく話して、笑ってて、すんごい頼りになって、かっこいいのに」
ひまわりが驚いて、信じられないって顔をした。
「ね?お姉ちゃんもそう思うでしょ?そういうところが好きになったんでしょ?」
「私?!」
いきなりそう言われて、びっくりすると、
「桃子ちゃんは、素の俺のこと知ってるよ。そんなにかっこよくもないし、駄目駄目なところもね。ね?」
聖君は私を見て、そう言ってきた。
「うん…」
と答えてから、あれ、うんって言ってよかったのかな?と思い、
「あ、駄目駄目とか思ってないよ。でも、弱さだったり、そういうところを見せてくれるのは嬉しいなって思うけど」
と付け加えた。
「ふうん。私、嫌だな。弱いところ見えたら、がっかりしちゃう」
ひまわりはそんなことを言った。
「ひまわりちゃんの彼、メールくれた?」
「くれたけど、男のくせに絵文字や顔文字ばっかりでうざかったんだ」
え?
「あはは。それ、うざいんだ。大変だ。俺なんて、めちゃうざいやつになっちゃう」
聖君は笑った。
「え?そんなメールしないでしょ?聖君は」
「普段はね。友達や杏樹とかには、絶対にしないけど、桃子ちゃんにはそんなのばっかり」
「え?!」
ひまわりはすごく驚いていた。
「うん。聖君のメール、可愛いんだもん」
「ええ~~?なんか、聖君のイメージが崩れる~~」
ひまわりは隣で、そうわめいた。
杏樹ちゃんと聖君のお父さんが、戻ってきた。
「桃子ちゃん、泳ぎに行こうか?」
聖君がそう言って、立ち上がった。
「うん。あ、浮き輪持っていっていい?」
と聞くと、
「え?まだ浮き輪つけて泳ぐ気?」
と、聖君に言われてしまった。
「ええ?」
呆れてるの?
「うそうそ、いいよ。持っていこう」
聖君はすぐに笑って、浮き輪を持って歩き出した。
「私も泳ぎに…」
と、ひまわりが言いかけると、聖君が、
「ごめん!今は桃子ちゃんと二人で、泳がせて」
とひまわりに向かって、謝って、それから私の手を取ってまた、歩き出した。
「ひまわりちゃん、二人にさせてあげようよ。聖、桃子ちゃんと最近会えてなかったから、そうとう寂しかったみたいだし」
という声が、後ろからした。聖君のお父さんだ。
「よけいなこと言うなよな!」
聖君が振り返って、お父さんに向かってそう言った。
「ああ、はいはい。わかったから、早く泳ぎにいっといで」
お父さんはちょっと笑うのをこらえながら、そう言った。
「ああ~~。父さんいっつも、よけいなことしゃべるんだよね」
沖で私がつけてる浮き輪に、聖君もつかまりプカプカ浮かびながら、聖君がそう言いだした。
「さっきも、二人でいる時、変なこと言ってなかった?」
「お父さん?そういえば、聖君は目に入れても痛くないくらい、可愛いと思ってるよって」
「父さんが俺のこと?」
「ううん」
「ああ、俺が?」
「うん」
「杏樹のこと?」
「ううん、私のこと」
「げ~~~!そんなこと言ってた?!」
「うん」
私は聖君の反応が見たくて、お父さんとの会話を暴露した。
「もう、ほんと、よけいなことばっか」
と聖君が言うので、
「でも、嬉しかったよ?」
と私が言うと、聖君は、ちらっと私の方を見て、
「まあさ、本当のことだけなんだどね」
と、ぽつりと言った。
それから私の顔のすぐそばで、私のことを見ながら、
「すげ~~、可愛いって思ってるもん、俺」
と、聖君はつぶやいた。カ~~~~ッ!!!思い切り顔が熱くなった。
「でもさ、俺、もしひまわりちゃんと付き合ってたら、即行ふられてたね」
と聖君は言うと、あははって笑って、
「桃子ちゃんで良かったよ」
と言ってきた。
聖君は浜辺の方を見た。すると、杏樹ちゃんが手を振っていた。
「お~~~~!」
と聖君も振りかえした。
「杏樹ちゃんと仲が良くて、羨ましいなって思ってたの」
「へ?」
いきなり、私がそう言うと、くるりと私の方を向き、聖君が聞き返した。
「それを見て、聖君のお父さんが、桃子ちゃんも聖に甘えちゃえばいいのにって」
「父さんが?」
「うん。きっと、聖、喜ぶよって」
私はそう言ったら、聖君がどんな反応をするのか、怖かったけど見てみたかった。
「俺に桃子ちゃんが甘えたら?」
「杏樹ちゃんみたいに」
「……。って、どんなふうに?」
「え、だから、その…。さっきも、泳ぎながら背中に乗ってたり、アイスボックス開けてた時にも、後ろから抱き付いてたり」
「うわ!そういうの?!」
聖君が、目を丸くした。え?私、とんでもないこと言ってる?もしかして。
「そういうのは、ちょっと…」
聖君の目線が下がった。わ~~~~。呆れてる?私、大胆な発言したの?それとも、ただ単に、嫌がってる?
「やばいかな」
聖君は小声でそう言った。
「ご、ごめん、私」
なんて言っていいかわからず、謝ると、
「う、嬉しいと思うけど、でも…」
聖君は、ぼそってまだ下を向きながら、そう言うと、しばらく間をあけてから、
「俺、セーブ出来なくなりそうだから…」
と、ぽつりとどこを見るわけでもなく、宙を見てそうつぶやいた。
「セーブ?」
「この前みたいに、押し倒してみたり…とか」
「!!!」
そうか。そういうこと…。わ~~~。きゃ~~~。そうだよね。私やっぱり、そうとうな大胆発言をしたんだ!だいたい、あんなふうに抱きついたら、私の方が心臓が持たないじゃない。今だって、目の前に聖君の顔があって、ドキドキしてるのに。
「でも、そう思ってくれて、嬉しいよ」
と、聖君は頭を掻きながら、そう言った。あ、照れてるんだ。
聖君と、浜辺に戻った。ひまわりが、
「お姉ちゃん、聖君のこと独り占めしてずるい!」
と、ほっぺを膨らませて怒っていた。
「え?」
そ、そうは言っても…。
「それに、ここから、見てたけど、いちゃつきすぎ!目の毒!」
「え~~?いちゃついてないよ、全然」
と、思い切り首を横に振ったけど、
「仲いいことは、いいことだよ、うん。だけど、このあっつい日にそんなにアツアツだと、さらに気温が高く感じるよな」
聖君のお父さんまでが、そんなことを言い出した。
「うっせ~~。父さんだって、いっつも母さんとべたべたしてるくせに」
と、聖君が、ぼそってつぶやくと、
「そうか。俺らもいちゃついてるか。あはは、仲いいことはいいことだって。なあ?」
と、聖君の肩に手を回しながら、そうお父さんは言った。聖君はその手を払いのけ、
「暑いって。ベタベタすんなよ」
と、嫌がった。
「わ、聖君もお父さんの前だと、そんななんだ」
ひまわりが少し、驚いていた。
「こっちのほうが、いつものお兄ちゃんだよ。クールっていうか、硬派っていうか」
と杏樹ちゃんが言うと、
「え~~?そうなの?うちではいつも、笑ってて、楽しくて優しかったから、びっくり!」
と、ひまわりは驚いた。
「ひまわりちゃん、それはね、桃子ちゃんの前だからだよ」
と、聖君のお父さんが、少しにやけながらそう言った。
「うっせ~。また、よけいなこと言い出すなよ」
と、聖君が釘を刺すと、
「あっはっは。いいじゃんか。ま、どっちのお前も俺にとっちゃ、可愛いけどね。ね?桃子ちゃん。桃子ちゃんも、どっちの聖も可愛いでしょ?」
と、いきなり私にお父さんがふってきた。
「え?はい!」
思わず、そう答えると、聖君がちらりと私のことを見て、頭をボリって掻いていた。あ、また照れてるんだ…。
やっぱり、可愛いな~~。うん。私も、どんな聖君も可愛いって思うよ。目に入れても、痛くないくらいだ…。