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第28話 みんなのお気に入り

 聖君は、私の家まで送ってくれた。遠いし、悪いから江ノ島の駅まででいいと言ったんだけど、俺が送っていきたいからって一歩も譲らなかった。

「桃子ちゃんとまだ、一緒にいたいんだけど、桃子ちゃんは違うの?」

 なんて言われてしまい、

「一緒にいたい」

と本音を言うと、

「でしょ?」

と、にっこり笑われてしまった。


 家に着くと、母が玄関を開け、

「遅くなってすみませんでした」

と聖君は丁寧に挨拶をして、その場を去ろうとしたが、

「あがっていかない?お茶入れるわよ」

とこれまた、強引に言われ、あがるはめになった。


 リビングに行くと、ひまわりと幹男君がいた。

「あ!聖君だ!」

 ひまわりがいち早く反応して、立ち上がり喜んだ。幹男君は、後ろを向いて、ゆっくりと立ち上がった。そして、

「はじめまして。桃ちゃんの従兄弟の幹男といいます」

と丁寧に聖君に挨拶をした。顔も、かなり真剣だった。

 聖君も、ちょっと緊張して、

「こんばんは」

と、お辞儀をした。


「ひまわりの勉強の邪魔になるわね。聖君、ダイニングに来たら?お夕飯はもう、済ませたんだっけ?」

 母がそう言って、ダイニングの椅子に聖君を座らせた。

「はい」

「え~~~!私もそっちに行きたい!」

 ひまわりがリビングからそう叫んだ。

「あんたは、幹男君に勉強見てもらってるんでしょ?」

 母がそう言ったが、ひまわりはまだ口を尖がらせ、

「え~~~~。聖君と話がしたかったのに」

と、不機嫌な顔をした。


「いいよ、ひまわりちゃん。一回休憩しよう」

 幹男君にそう言われ、ひまわりは喜んでダイニングに来た。それも、聖君の隣の席にさっさと座ってしまった。あ~~、取られた…。

 私は聖君に冷たいお茶を入れ、母はメロンを切っていた。

「幹男君もこっちに来て、メロン食べない?」

 母に言われ、

「はい。いただきます」

と、幹男君もダイニングに移ってきた。


「君が噂の、聖君か~~」

「え?」

 幹男君の言葉に、聖君が少し、固まった。ああ、幹男君、変なこと言わないでよ。

「ひまわりちゃんも、おばさんもすごく気に入ってるようだから、一回会ってみたいと思ってたんだよね。気に入るのもうなづける。君、すごくもてるでしょ?」

「いえ、別に」

 聖君は、めずらしく、ちょっとぶっきらぼうだった。


「そう?けっこうかっこいいのに」

「けっこう~?幹男ちゃん、間違ってる。けっこうじゃなくて、すんごくかっこいいの間違いでしょ」

 ひまわりが間髪いれずに、そう言った。

「幹男君からしてみたら、大事な桃子を取られたんだから、そりゃ、いいふうには見えないわよねえ」

 母がまた余計なことを言った。なんだ、その大事な桃子って。


 聖君は少し、表情を変えた。そして、

「大事なって?」

と、母に聞いた。

「妹みたいなもんだよ。そんな、おっかない目で見ないでくれる?聖君」

 幹男君が笑いながら、聖君にそう言った。

「妹?」

 聖君がそう聞くと、

「そう。小さい頃から、桃ちゃんがいじめられたりしてると、助けてたんだ。ね?桃ちゃん」

「うん」

「そうなんすか」

 聖君はあまり、浮かない顔をしてそう答えた。


「今でも、桃ちゃんが悩んでいたり、悲しがっていたら話を聞くし、なぐさめたりするよ」

 幹男君はそう言ったあとに、

「でも、あれかな。泣かせるようなやつは昔もだけど、俺、許せないかな」

と言って、少しだけ聖君を冷ややかな目で見た。聖君は何かぴんときたようで、

「ああ…。でも、もう大丈夫っす。桃子ちゃんには俺がついてるから」

と、聖君も負けないくらい、冷ややかな顔でそう答えた。


「あははは。何を言ってるのかな?沖縄に行こうとしてる人間が。離れていくくせにどうやって、桃ちゃんについててあげるつもり?」

 幹男君は嫌みたっぷりにそう言った。聖君は少しだけ眉をひそめた。

「もう、幹男君やめてちょうだい。喧嘩になっちゃうわよ。だいたい、1年やそこら離れて駄目になるくらいなら、それだけってことだし、離れててもくっつくカップルはくっつくものよ」

 母が二人の間に入って、そう言った。


「……」

 聖君は、無言だった。黙って、まだ幹男君とにらみ合っていた。

「や~~だ。別れるなんて!」

 ひまわりがそう言った。

「聖君みたいな、お兄さん欲しいもん。お姉ちゃんと結婚までしてくれなくちゃ、嫌だ」

 げ!ひまわり。そんなこと聖君の前で!

 聖君は、今度はひまわりのことをちょっと驚いた顔で見た。


「そうよね~~。私も簡単に別れて欲しくないわ。聖君みたいな息子が欲しいもの」

「……」

 聖君は、目を丸くして今度は母を見た。言葉は出ないようだった。ああ、呆れてるかもしれない。

「ひまわりちゃんもおばさんも、聖君が困ってるよ。そういうのは、まだまだ先のことだし、だいたい沖縄に行って、別れちゃうかもしれないんだし、そんなこと今言われても、聖君、困っちゃうよな?」

 幹男君の口調は、聖君に助け舟を出したわけではなく、まだまだ嫌みたっぷりだった。


「あ、いや…。別に困ってないです。だた、驚いただけで」

 聖君がそう言った。それから、

「あ~~、なんかそんだけ、俺、気に入ってもらえて光栄です」

と頭をぼりって掻いた。あ、今、照れてる?

「幹男君はすぐに、遠距離だと駄目になるって言うのよね。でも、たった1年だし、高校卒業したら沖縄に桃子も行っちゃえばいいのよ。ねえ?あっちにだって、お料理の学校くらいあるでしょ?」

 母があっけらかんとそう言うと、ますます、聖君は目を丸くして、

「え?あ、はい。あると思います」

と、かなり驚きながらそう答えた。


「だから、おばさん、そういうのは本人どおしが」

「幹男君、黙っててね」

 幹男君が話そうとすると、母が黙らせてしまった。幹男君はやれやれって顔で、母を見た。

「問題は、お父さんなの。反対すると思うけど、でも、行っちゃったもの勝ちよ。娘が幸せになるのを親は1番に願ってるんだから、ちゃんと最後には祝福だってしてくれると思うわよ」

「え?」

 私の方が驚いた。祝福?

「おばさん!まるで、それじゃ、結婚…」

と、幹男君が言いかけた時、いきなり聖君がぶってふきだした。そして大声をあげて、笑い出してしまった。


 私も母も、幹男君も目が点になり、どうして聖君が笑っているのかわからなかった。ひまわりだけは、一緒に嬉しそうにしていた。

「ひ、聖君?」

 母が、聞いた。

「そりゃ、笑うよな~~。呆れちゃって、笑うしかないよな~~?」

 幹男君も、苦笑いをしてそう言った。


「あ…。腹いて…。おばさん、最高」

 聖君は、まだ笑っていた。母は、黙って聖君を見ていた。私も、どうして笑ったんだかわからず、幹男君の言うように、本当に呆れてしまったのかって、ドキドキした。

「聖君、そんな笑うようなこと私言ったかしら?」

 母がちょっと、顔をしかめてそう言った。

「すみません。ただ、俺、おばさんってすごいなって思っちゃって」

「え?」

「すごい強力な味方がいてくれて、嬉しいなって。これなら、おじさんに反対されても、大丈夫だろうなってまじで、思っちゃって」


「え?」

「え?!」

 私も、母も同時に聞いた。幹男君も、何を言い出してるんだって顔をした。

「私も味方だよ。いつだって、応援しちゃう」

 ひまわりがそう言うと、

「サンキュー、ひまわりちゃん。すげえ助っ人だ。100人力かも」

と、目を細めて笑った。ひまわりはすごく、嬉しそうな顔をした。


「桃子ちゃんが沖縄に来ること、おばさんはまったく、反対しないんですか?」

 聖君は、少し真面目な顔になって、母にそう聞いた。

「もちろん。反対する理由がないわ」

「……そっか」

 聖君は、少し嬉しそうに笑って、下を向いた。


「俺、沖縄に行くのも自分の勝手だし、それなのに桃子ちゃんのこと沖縄に呼んじゃったら、桃子ちゃんの家族、反対するだろうなって思ってたんです」

「え?」

「大事な娘なのに、そんな遠くに行かせられないだろうなって」

「そうね、お父さんはそう思うかもね」

 母にそう言われて、もっと聖君は真剣な表情になった。


「でもね、私だってうちを飛び出して、旦那について大阪に行っちゃったしね。それもまだ、結婚もしてなかったけど」

「え?」

「旦那が転勤になって、1年遠距離恋愛をしてたの。でもそれが嫌になって、大阪に私が押しかけて行っちゃった」

「だけど、おばさん。その時にはもう、おばさんもおじさんも働いていたわけで、大学生になる聖君とは分けが違う」


 幹男君がそう言うと、

「そう?でも、逆に沖縄や地方から、東京の大学に来る子だっているじゃない。あなただってそうよ。人のこと言えないわよ?それで、地方から来てる女の子と恋に落ちて、そのまま同棲したりして、なんていうこともありえるじゃない?幹男君だって、そういうこと十分ありえることだから、人のこと言えないわよ」

 母は、幹男君にそう言い放った。幹男君は何も言えなくなってしまった。


「桃子は私たちの大事な娘。でも、桃子には桃子の人生がある。それを縛る権利なんか、親の私たちにはない。もし、ちゃらんぽらんで、どうしようもないような男にひっかかっちゃたなら、目を覚ましなさいくらい言うけど、聖君じゃね、反対するところないしね」

 母の言う言葉に、ひまわりはうなづいたが、幹男君は顔をしかめた。


「おばさん、気に入ったからって、そこまで聖君を信用してもいいかどうか」

「信用?」

 幹男君の言葉に、母が聞き返すと、

「そうです」

と、幹男君は答えた。聖君は黙って、二人の会話を聞き、私はなんて言ったらいいかわからず、ずっと黙っていた。


「ふふふ。私人を見る目はあるわよ。話してたらわかるわ。聖君の誠実さとか、どんだけ桃子を思ってくれてるかとか」

「え?」

 聖君も、幹男君も同時に聞き返した。

「この前はお父さんも車で送ってくれた。聖君のご家族までが、桃子を大事に思ってくれてるのもわかる」

「……」

「桃子の変化を見ててもわかる。私だって桃子の母を何年もしてるんだから。わかった?幹男君」

「はい。すみません、俺、生意気言ってました」

 幹男君が、うつむき加減で、そう母に言った。


 聖君は黙って、私の方をちらっと見た。それから、

「やっぱ、おばさん、すげ~」

と、嬉しそうにつぶやいた。

「え?そう?」

 母は、嬉しそうに聞き返した。

「はい。まじで、すごい。桃子ちゃんって一見弱そうに見えて、実はすごく強いんですけど、おばさんの血、確実に引き継いでますよね」

 聖君がそう言うと、

「あら~~!あははは。桃子、強い?」

と、母は笑いながら聞いた。


 私はもう、そういう聖君の言葉に驚かなかった。前にもそう言われたっけ。どこが強いのかはわからないけど、もしかすると、本当にそうなのかもしれない、なんて思っていた。

「はい、強いです。スイミングスクールだってそうだし、俺が、どっぷり落ち込んでる時も、励ましてくれたり、元気付けてくれたり…。俺、そういう桃子ちゃんの強さに、何度も助けられてます」

 そ、そんな。そこまで言われるとさすがに、恥ずかしくなってくる。


「お姉ちゃんってね、人のことだと強くなるんだよね?」

と、ひまわりが言った。

「自分がいじめられてる時には、黙って我慢しちゃって、あとで泣いてたりするんだ。だけど、私がいじめられてた時、相手につっかかっていって、いつものお姉ちゃんじゃなくって驚いたことがあるよ」

「い、いつのこと?」

「私が、小学1年の頃」

「そうだったっけ?」

 私の記憶の中にはすっかりないことだったけど、ひまわりは覚えてたんだな。


「くすくす。そうか~~。聖君はそんなふうに桃子を見ててくれたんだ」

「はい」

 母に言われて、聖君はうなづいた。

「幹男君、やっぱり大丈夫みたいよ。桃子には聖君がついてるから」

「え?」

 母の言う言葉に、幹男君は少し動揺した。

「それも、守ってあげるだけじゃなく、聖君といると、桃子は強くなるみたいだから。守ってあげる側になれるみたい」

「……」

 幹男君は黙り込んだ。そして、私を見た。


 それから、聖君の方を幹男君は向くと、

「桃ちゃんのどこが好きなの?そういう強いところ?」

と聞いた。

「いえ、どこがってないです。全部好きだし」

 聖君は、まっすぐに幹男君を見ながらそう答えた。

「え?」

 幹男君もだったけど、母も思わず、驚いて聞き返していた。


「全部です」

 もう一回聖君は言うと、ボリって頭を掻いて、少し顔を赤らめた。

「全部?」

 幹男君は、ちょっと疑い深そうに聞いた。

「じゃあ、お姉ちゃんは聖君のどこが好きなの?」

 ひまわりは、どうやら、こういうことを聞いて楽しんでるようだ。

「私?」

「そう、桃子」

 母も、興味津々の顔で、乗り出してきた。


「私も、全部…」

と言うと、幹男君がまた、疑い深そうな顔をして、

「あのさ、桃ちゃん。でも、聖君だって情けないところもあれば、付き合っていくうちに嫌なところも見えて来るんだよ?」

と、言ってきた。

「でも…弱い聖君でも、どんな聖君でも、私は好きでいると思う」

と、ちょっと照れながらそう言うと、幹男君は目を丸くした。


「すご~~い、ラブラブ~~~。素敵~。もう結婚も出来るね!私のお兄ちゃんになっちゃうね!」

 ひまわりは、そう言って思い切り喜んだ。

「ひまわり、そんな…」

 さすがに私は、気が引けてしまい、聖君の顔をうかがいながら、ひまわりに何か言おうとすると、

「俺も、ひまわりちゃんみたいな、妹できたら嬉しいよ」

と、聖君はにっこりと、微笑んだ。


「あ~~~、その笑顔がさわやかすぎる!絶対、その辺のアイドルより、かっこいい~~」

 ひまわりの喜び方は、尋常じゃない。

「ひまわり!」

 母がひまわりに、注意しようとしたが、聖君が、

「あはは。サンキュー」

と、笑ったので、母は黙ってしまった。母の隣で、幹男君も黙っていた。


「俺、そろそろ帰ります。すみませんでした。遅くまであがりこんでて」

と言って、聖君は席を立った。

「こちらこそ、引きとめちゃってごめんなさいね」

 母もそう言って、立ち上がった。

 聖君がダイニングを出て、廊下を歩き出すと、幹男君は立ち上がることもなく、

「また、そのうち会おうね、聖君。なんか長い付き合いになりそうだし」

と、そう言って、ダイニングの席から手を振った。

「ああ、はい」

 聖君も後ろを振り返って、答えた。


 玄関に、母とひまわりと私が、見送りに行った。

「聖君、勉強頑張ってね」

 母がそう言うと、

「はい、頑張ります」

と、聖君は答えた。ひまわりは、

「また遊びに来てね」

と言ったが、

「ひまわり、聖君は勉強があるんだから、そうそう遊びには来れないわよ」

と、母が言い、あからさまにひまわりはがっかりした。


「ひまわりちゃん、俺の家のカフェに桃子ちゃんと遊びにおいでよ」

と、その様子を見て、聖君が提案した。

「え?いいの?」

 ひまわりの目が、いきなり輝きだした。

「いいよ。母さんも大歓迎すると思うよ」

「え~~!嬉しい」

「そうだ。妹いるんだけど、年近いし、仲良くなると思うよ」

「杏樹ちゃんだっけ?」

 母が聞くと、

「はい、そうです」

と、聖君は笑って答えた。


「嬉しい。夏休みの間に行ってもいい?お母さん」

「いいわよ。桃子が遊びに行く時、連れて行ってもらったら」

「わ~~い。江ノ島だし、どうせなら、海も行きたい」

「ひまわり、それはねえ、いくらなんでも」

 母が、ひまわりにそう言おうとすると、

「いいっすよ。俺連れて行っても」

と、聖君がさらっと言ってのけた。


「でも、聖君だって勉強が」

「数時間なら大丈夫ですよ。もしかすると杏樹も、くっついてくるかもしれないけど」

「わあい!」

 ひまわりはものすごく喜んで、

「あ~~。どうせなら、泊まりたいな」

とまで言い出した。


「はあ?!」

 私も母も、いい加減呆れてしまっていると、

「だって、旅行にも行けないんだよ?お母さんもお父さんも仕事忙しくて、せっかくの夏休みのなのに」

と、ひまわりが寂しそうに言った。う、確かにそうだけど。

「うちの母と父に、相談してみます。一応、部屋も一部屋空いてるから、桃子ちゃんとひまわりちゃん、泊まれるとは思うけど」


「え?!」

 私の方が仰天すると、

「うちのじいちゃんやばあちゃんが来た時、泊まれるようになってる部屋があって。しばらく使ってないから、物がけっこう置いてあるけど、片付けたら泊まれるよ」

と、聖君が微笑んだ。隣でひまわりがわ~~いと喜んでいたが、

「わ、悪いって。片付けさせるのもお母さんに悪いし…」

と、私は聖君に断ろうとした。だが、

「う~~ん、どうかな」

と聖君は、顔をかしげて、

「母さん、めっちゃ喜びそうな気がするんだけどな」

と、そんなことを言い出した。


「本当にいいのかしら。でももし、そうしてくれると、ありがたいわ。本当に旅行にも行けないし」

と母も、すっかり泊まる方向で考え出していた。

「お、お母さん」

 私がおろおろしていると、

「じゃ、聞いてみます。聞いたら桃子ちゃんに連絡します」

と聖君は母にそう言って、ぺこってお辞儀をすると、

「お邪魔しました」

と玄関を出て行った。


「気をつけてね」

 母がそう言い、

「聖君、またね~~」

とひまわりが手を振り、それに答えるように聖君は振り返ると、にっこりと笑い、また歩き出した。

 私はというと、まだおろおろしてて、結局何も言えず、聖君の後姿だけを見送っていた。


 と、泊まる?聖君の家に?それも、ひまわりと?!なんでこんなことに…。嬉しいような、とんでもないような、ドキドキするような、わけのわからない気持ちになりながら、私はしばらく聖君の背中を見送っていた。 

「後姿も、かっこいいわね~~」

と言う、母とひまわりのため息とともに、私もため息をついていた。


 聖君の後姿が見えなくなり、3人で家に入り、リビングに行くと、幹男君がテレビを観ていた。

「ひまわりちゃん、勉強は?」

「あ、そうだった」

 幹男君に言われ、慌てて、ひまわりはソファーに座った。幹男君はテレビを消して、

「桃ちゃん、ひまわりちゃんやおばさんが、聖君のことを気に入るのも、うなづけるって思ったよ」

と、言い出した。


「え?」

「しゃくだけど、あいつ、男友達多くない?」

「うん。というか、男友達ばかりだし、学校でも男子にめちゃ人気がある」

と、私が言うと、

「やっぱりね。男が惚れちゃうようなやつだよね」

と、にっこりと笑ってそう言った。それを横で聞いていたひまわりが、

「え?やばくない?それって」

と、幹男君に言った。

「変な意味じゃないよ。なんていうの、男から見てもいい男っていうか、性格がね、気持ちいいやつだよなって思ったんだよね。いつか酒でも飲み交わして、じっくりと話がしてみたいって思ったよ」


 幹男君の言った言葉に、私はものすごく驚いて、一瞬言葉を失った。でも、

「ああ、そっか。だから、あんなに聖君は、人気者なんだ」

と、なんだか、納得してしまった。

「さて、ひまわりちゃん、勉強に集中ね!そうしないと、俺がおばさんに怒られるから」

 幹男君がそう言うと、それを聞いてた母が、

「そうそう。きびしく教えてあげてちょうだい」

と、後ろから笑いながらそう言った。


 母にも、ひまわりにも、それにあんなに嫌みたっぷりに話をしてた幹男君にまで気に入られた聖君は、すごいなって本気で私は思った。これならうちの父も、聖君のこと、思い切り気に入っちゃう日が来るかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は聖君にメールを送った。

>送ってくれてありがとう。遅くまで引き止めてごめんね。

 すると、すぐに返信が来た。

>こちらこそ、お邪魔しちゃって。でも、お母さんと話が出来て、良かったよ。

 そうか。良かった、そう思ってくれて。


>幹男君がね、聖君とはいつか酒でも飲み交わしてみたいって。

と、そう送ると、

>え?まじで?俺、嫌われてそうだったけど。

と、返事をくれた。ああ、やっぱり、そう思うよね。

>なんだか、聖君のこと気に入っちゃったみたい。男から見てもいい男で、気持ちのいいやつだねって。

>まじで~~~?きゃ、俺どうしよう!

>いや、そういうことじゃなくって…。もう、聖君は~~。


>うそうそ。そう思ってもらえて嬉しいよ。最後に長い付き合いになるだろうからって言われた時、あ、なんか俺のこと認めてくれたかなって、そんな気はしてたんだ。

>うん。聖君はすごいね!みんな、聖君が好きになっちゃうね!

>あはは。でもきっと、それは桃子ちゃんのおかげだよ。

>なんで?

>桃子ちゃんが、俺のこと認めてくれてて、そういうのがみんなに伝わるから。

 ……。ああ、こういうところまで、大好きだな。


>今日はありがとう、聖君。勉強頑張ってね。

>うん。おやすみ、桃子ちゃん。

 聖君からのメールが来なくなり、すぐにシャワーを浴びた。幹男君まで気に入ってしまうなんて、すごいなと思いつつ、体を洗っていて、ふと胸に目がいき、あ~~、このぺったんこの胸、聖君にばれちゃったんだっけ!と思い出し、しばらく私は、ブルーになっていた。

 このままでいいよと言ってくれて嬉しい。でも、やっぱりもうちょっと、もうちょっと、女らしい体型になりたいよ…と、また部屋の窓から夜空を見上げ、私は星にお願いをしていた。

 

 



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