第19話 嬉しい言葉
花ちゃんも私も頑張って、平泳ぎもマスターしていっていた。コーチは最近、べた褒め。あの冷たかったコーチと同一人物とは思えないほどだ。
小松さんと根本さんは、目標が達成できたからと言って、スクールをやめてしまった。
そして夏休み寸前、クラス編成があり、コーチが変ってしまうかと危ぶまれたが、クラス編成があってもやっぱり、森山コーチになり、花ちゃんはすごく喜んでいた。
夏休みには、特別なサマースクールというのもあって、私はそれに申しこみをしなかったが、花ちゃんは、コーチがサマースクールも、コーチをすることになると言っていたので、張り切って申し込みをしていた。
ギリギリまで花ちゃんは、私を誘っていたが、
「夏休み、火曜日のスクールは行くけど、ごめんね。聖君にも会いたいし、サマースクールはやめておく」
と断った。
「え?聖君に会えるの?」
花ちゃんと、申し込みをする前の日、電話でそんな話をした。
「菜摘が海に行こうって言ってるんだ」
「菜摘ちゃんが海に行くと、聖君も来るの?」
「え?いや、あの…。4人で行くと思うんだ。菜摘の彼が、聖君の親友で」
「わ~~。すご~~い!ダブルデートになるじゃない!」
「うん」
「そうか~~。なんだ、いいな~~。好きな人と夏休みに会えて、海に行けるなんて」
花ちゃんは、ため息混じりにそう言った。
「花ちゃんも、コーチに夏休み、いっぱい会えるじゃない」
「そうか、そうだけど。海とか、行ってみたいよ。一緒に」
「……、行けたらいいのにね」
「うん。そんな日が来たらいいな」
「そうだよね。なんかわかる、その気持ち」
「え?本当?」
花ちゃんの声は、いきなり高くなった。
「片思いって、切ないよね。あの笑顔を自分に向けてもらえたらいいな…とか、メールをしあうような仲になれたらいいな…とか、一緒に写真を撮って、それを待ち受けにしたいな…とか、いろいろとそんなこと思っちゃうよね」
「桃ちゃん!一緒!私もそんなこといっぱい考えてるの」
「やっぱり?」
「うん。コーチと二人でどこかに行けたらいいな~~とか…」
「うん、わかる。それ」
「桃ちゃんもそんなこと思う?」
「うん。私なんて、なんていうか、暗いっていうか」
「え?」
「見てるだけでいいって思いながらも、笑顔が自分に向けられていないのを悲しんだり、そうだ。もうね、地球の裏側まで行く勢いで、落ち込んだりしてたよ」
「なんで落ち込んだの?」
「聖君がいつも、菜摘や蘭と楽しそうに笑ってて、その笑顔が自分には向けられてないって、思った時にね」
「わかるな~~。それ」
花ちゃんは、電話の向こうで、思い切りうなづいてるようだった。
「片思いって切ないよね」
花ちゃんは、ふうってまたため息をついて、
「でも、思いを告げることもままならないんだ」
と、そんなことを言った。
「告白しないの?花ちゃん」
「できないよ~~」
「いいの?花ちゃん」
「いいも何も…。コーチが私と付き合ってくれるわけないって、わかってるし」
「そんなのわかんないよ」
「だって、コーチ、5歳も上だよ?彼女だっているかもしれないし」
「いないかもしれないし」
「だけど、こんな私のことなんて」
「わかんないよ~~。何が起きるかなんて」
「奇跡でも起こらない限り、無理だよ」
「その奇跡が起きちゃうかもしれないじゃない」
ほんと、そうだ。私なんて、その奇跡が起きちゃったんだから。
「……。どうしよう。でもね、もし告白したら、スクール来れなくなる」
「なんで?」
「ふられちゃったら、辛いもの」
「うまくいくかもしれないじゃない?」
「そんなふうに、前向きに思えないよ。桃ちゃんみたいに」
「私?違うよ、私も思い切り、後ろ向き」
「桃ちゃんはどうするの?」
「え?何が?」
「告白するの?聖君に。もし、桃ちゃんが頑張るなら、私も」
「ええっ?!」
「な、何?桃ちゃん、どうしたの?」
花ちゃん、もしや、何か勘違いしてる?
「あ、あのね。さっきの話」
「え?」
「地球の裏側まで落ち込んだ話」
「え!まさか、もうふられてるとか?」
「そうじゃなくって。去年の夏の話なの。海で会って、片思いしてて、その頃、いつも暗くて落ち込んでて」
「うん。それで?」
「今は、付き合ってるの」
「誰と誰が?」
一瞬間をおいて、花ちゃんが聞いてきた。
「私と、聖君」
「え。え~~~~~っ?!」
花ちゃんは、思い切り驚いていた。
「あれ?私言ってなかったかな」
「聞いてない!好きな人ってだけで。かっこよくって、好きな人がいてって言うから、てっきり、片思いなのかと」
「付き合ってるんだ。去年の秋から」
「え~~~?そんなに前から?」
「うん」
「こ、告白したの?」
「ううん、してないけど、好きなのがばれちゃって」
「それで?」
「それで、聖君、付き合おうって」
「向こうからそう言ってきたの?」
「う、うん、確か、そうだったかな?」
「え~~~~!!!!!すごい!!!!思いが通じたの?」
「うん。…かな?」
「会わせてよ、今度。そのかっこいい彼氏に!」
「え?うん」
「でも、羨ましい。好きな人に好きになってもらえるって、どんな気持ち?」
「し、信じられないよ。なんだかいまだに、片思いしてるような気持ち」
「そうなんだ。そんなに桃ちゃん、聖君が好きなんだね」
「うん」
そんな話になり、私はサマースクールに行くのをやめた。そして、花ちゃんと二人で、一回プールに泳ぎに行こうかって話をして、聖君にそれをメールしたら、
>二人っきりじゃ駄目。俺も行きます!
と、返事がきちゃったんだ。
それで、夏休みに入ってすぐ、聖君と、一人身になり寂しい基樹君、そして私と花ちゃんとで、プールに行くことになった。
海へは、8月の頭の花火の日、葉君、菜摘、聖君、そして私の4人で行く。そこに基樹君はさすがに、やるせなくて参加できないと言ってたし、花ちゃんとプールに行くのは、基樹君もちょっとは気分があがるかもしれないし、ちょうどよかったかもしれない。
いつも行く市営プールの前で、待ち合わせをした。
私は、ちょっとだけ、遅れてしまった。というのも、菜摘に言われた、女らしさをどうアピールしようかと、家で悩んでいたからだ。だけど、どうにもならなくって、ただ、いつもより色のつくリップにして、髪を下げていった。
プールの入り口付近に、何人かの女の子がいた。その横に、もうすでに花ちゃんがいて、ちょっと離れたところに、聖君と基樹君の姿もあった。
私が、てけてけ走っていくと、まず、花ちゃんが気がついて、
「桃ちゃん!」
と、声をかけてきた。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「ううん、大丈夫だけど、聖君と基樹君って、もしかすると、あそこにいる二人かな?」
花ちゃんは、聖君たちを指差した。その時、聖君も気がついたらしく、
「あ!桃子ちゃん!」
と、こっちを向いて手を振った。
「やっぱり?」
花ちゃんは、一気に顔を赤らめて、
「すごい!かっこいい!芸能人なみ!今、手を振ったのが聖君でしょ?さっきから、めっちゃくちゃかっこいい人がいるって思ってたんだ。まさか、まさか、あれが聖君だったりしてって思ってたら、そうだったんだ~~~!すご~~~い」
花ちゃんは、一気にそう言って、飛び跳ねた。聖君と基樹君はその時、もうすでに私の横に来てて、花ちゃんの言ってることは、すべて聞かれていた。
「聖君、かっこいいって!芸能人なみだって!」
基樹君はそう言って、聖君の腕をつついた。
「うっせ~よ!」
聖君は、いつもの口調でそう言うと、足で基樹君の足をけろうとしていたが、基樹君はひょいって、どいてしまった。
「こんにちは。俺、植田基樹っていいます。どうも!」
基樹君は、明るく花ちゃんにそう挨拶をした。
「こんにちは。鈴木花恵です」
花ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにぺこってお辞儀をした。
「あ、俺は、榎本聖です」
聖君も、ぺこってお辞儀をしながら、そう言うと、花ちゃんは、思い切り聖君の顔を見てから、
「桃ちゃん、すご~~い!かっこいい彼氏で、羨ましい!」
と、私の腕を掴んで揺さぶった。
「えっと…」
聖君は、頭をボリって掻いて、困っていた。
「プール、入らない?入場券買うんでしょ?」
基樹君がそう言い出し、みんなで中に入り、ロッカールームの前で別れた。
ロッカールームで、着替えてる間も花ちゃんは、きゃ~きゃ~言っていた。
「あんなにかっこいいなんて~~」
花ちゃんの想像をはるかに、超えてしまったらしい。
「あんなにかっこいいと、もてるでしょ?」
「うん、でも学校では硬派なんだ」
「硬派?」
「女の子ともあまり、話さないみたい」
「へ~~、あ、でもわかる気がする。さっきの、うっせ~よって言ってたあの感じ、なんだか、そんな感じだった」
「そう?」
「あんなにかっこよかったら、桃ちゃんが海で一目惚れするのわかる気がする~~」
花ちゃんは、プールの方に行ってもまだそんな話をしていた。
「あ、桃子ちゃん、ここ!ここ!」
聖君と基樹君は、もうすでに、ベンチに座っていた。
「桃子ちゃん、泳げるようになったんだって?楽しみだな、見るの」
基樹君にそう言われ、私はなぜかものすごい緊張してきてしまった。
「そ、そんなに上手に泳げないよ」
「でも、すごい進歩だよ!桃子ちゃん、頑張ったから」
と、聖君はにっこりと笑いながら、そう言ってくれた。
「今日、二人で来るはずだったんでしょ?」
基樹君が、アキレス腱を伸ばしたり、屈伸をしたりしながら聞いてきた。わあ、泳ぐ気満々だ。
「うん、でも、聖君が駄目だって」
「あはは!ナンパなんかされたら、やばいからでしょ?」
基樹君は、そう言うと、聖君の背中をたたいていた。
「いって~~よ。お前、いちいちうるさい」
「まあ、心配だよな~~。こんなに可愛いんじゃさ。それに、桃子ちゃんってどっか、すきがあるから」
基樹君に言われてしまった。それ、前にも誰かに言われた気がする。
「……、桃子ちゃんの場合、自覚がないから、その辺で危ない」
聖君がちょっと小さい声で、ぼそっと言った。
「ま、いっか。俺も気晴らしに泳ぎに来れてよかったよ。さ、思いっきり泳いで来よう。聖は?」
「ああ。泳ぐ。桃子ちゃんたちも行く?」
「うん」
私と花ちゃん、聖君も準備運動を始めた。基樹君はさっき、みんなよりも早くにストレッチをしていたから、さっさとプールに入って、泳ぎ出していた。
基樹君も上手だったけど、泳ぎ方が思い切り力強くて、聖君とは対照的だった。
「さて、俺らもプール入ろうか?」
聖君にそう言われて、花ちゃんも私もそろそろとプールに入った。
「じゃ、25メートル、平泳ぎで泳いでみる?」
「え?平泳ぎ?」
「そ、できるようになったんでしょ?桃子ちゃん」
「う、うん」
私と花ちゃんは、そろって、平泳ぎで泳ぎ出した。その横をすい~~すい~~と、聖君が、泳いで行く。そしてちょっと行くと、立ち止まり、私たちを待っていた。
私は、どうにかこうにか、頑張って泳いでいたが、花ちゃんの方がどんどん進んじゃって、追いつけなくなっていた。花ちゃんはあっという間に、聖君のところに行き、そのまま、前へと進んでいった。
私は、聖君のいるところのちょっと手前で、力尽きそうになり、足をつこうとしたが届かず、慌てていると、聖君がすい~~って泳いできて、
「つかまっていいよ」
と、優しくそう言ってくれた。
私は、聖君の肩に手を回した。聖君は私の背中に片手を回し、もう片方で水をかき、プールの端まで、すいすいと泳いでいった。
「はい、到着。お疲れ様」
と、聖君は笑って私に言うと、私は聖君から離れた。
「う、羨ましい~」
その光景を先に泳いでいった花ちゃんは見ていたようで、私のそばに来ると、耳元でそうつぶやいた。
聖君はもう、すいすいと華麗に泳いでいってしまってて、逆側のプールの端で、基樹君と合流していた。
「わ~~。聖君の泳ぎって、奇麗!」
花ちゃんも驚いていた。
「それに、桃ちゃんを抱えたまま泳いでいるのは、なんか、こっちがドキドキした~~」
花ちゃんは、興奮していた。
「いいな~。あんなの、私もコーチにしてもらいたいよ」
あ、そっか。自分の姿と、重ねていたのか。
「聖君って、桃ちゃんに優しいんだね」
プールから出て、ベンチに歩いていきながら、花ちゃんがそう言ってきた。
「うん、めちゃくちゃ、優しいよ」
と、私が言うと、
「かっこよくって、優しいなんて、完璧じゃない!」
と、花ちゃんは鼻を膨らませながら、ベンチに座った。
それから、二人で、聖君と基樹君の泳いだり、ふざけあってる姿を見ていた。
「男の子同士って、あんななんだね」
「うん。女子校だから、わからないよね」
そんな話をしながら。
すると、背後からいきなり、声がしてきた。
「ね?二人できてるの?」
その声に、二人してものすごく驚いてしまった。振り返ると、中学生かもしれないくらいの男の子が、二人でいた。
「一緒に、泳がない?」
中学生にナンパされてるの?もしかして…。
「えっと、私たち、一緒に来てる人がいて」
「また~~。そんなこと言って。いいじゃん、ちょっとだけ、一緒に泳ごうよ」
…。し、しつこい。
「本当に、彼氏と桃ちゃんは来てるんだよ」
と、花ちゃんもそう言ったが、二人はにやにやしてるだけだった。
と、そこへ、
「おい!」
と、聖君の声。二人の男の子はびっくりして、私たちの後ろを見た。
「何してんの?この子達、俺らの連れだけど。勝手にしゃべりかけないでくれる?」
聖君の声は、低くて、かなりの迫力。わ~~。こんな声も出すんだ。
「あ、す、すみません」
二人はすごすごと、去っていった。
「桃子ちゃん!」
聖君は、その低い声のトーンのまま、私の名前を呼んだ。
「ご、ごめん」
聖君の顔が見れず、下を向いたまま謝った。
「ああいうのが、来た時には、すぐに俺を呼んで!ね?」
「うん。わかった」
「でも、わかったでしょ?桃子ちゃんと花ちゃんだけだったら、ああいうのが声をかけてくるの。だから、二人で海だの、プールだの行ったら大変なの」
「だけど、今のどう見ても中学生」
花ちゃんが、そう言うと、聖君はちょっと花ちゃんを睨みつけ、
「関係ない!中学生だろうがなんだろうが、ナンパはナンパ!」
と、怖い声でそう言った。花ちゃんはそれを聞き、顔をこわばらせ、
「ご、ごめんなさい」
と謝っていた。
それからは、ずっと聖君は、私にくっついていて、泳ぐ時も、すぐそばにいた。プールからあがり、ロッカールームで着替えてると、花ちゃんは、そんな聖君にびっくりしていた。
「大事にされてるんだね?」
「え?」
「聖君、桃ちゃんのことすごく大事みたい」
「そ、そう見えた?」
私は、嬉しくなった。
「それに、やきもちやきなんだ。羨ましいな~~、ほんと」
花ちゃんはそう言うと、ため息をつき、
「私もそんなふうに、思われてみたいよ~~」
と、嘆いていた。
プールのあと、4人でお茶をしたけど、聖君は例のごとく、基樹君とばかりふざけていた。花ちゃんは、そんな二人を見ながら、笑ったり、私に、
「いつもこんななの?」
と、小声で話しかけてきた。
「うん、初めからこんなだったよ」
「ふうん。学校でもこんななのかな?これじゃ、女の子は話しかけられないよね」
その言葉が基樹君に聞こえたらしく、
「ああ、ごめん、二人でふざけてばっかで。花ちゃんは、彼、いないの?」
と、今度は花ちゃんに話しかけてきた。
「いたら、きっとここにいないと思う」
花ちゃんがそう言うと、
「確かに!俺だって、彼女がいたらここにいない」
と、大笑いをしたあとに、ため息をついた。あ、傷心の身だっけね。基樹君は…。
そのあとも、基樹君は、花ちゃんにいろいろと話しかけ、花ちゃんはそれに答えていた。それを、横から聖君は黙って見ていた。
「聖君は、女の子とあまり話さないの?」
花ちゃんがいきなり聞くと、
「え?」
と、いきなりだったからか、聖君は、びっくりしていた。
「そう、こいつ、学校でもこうだから。女の子とどう話していいか、わかんないところもあるよな?お前の場合」
「え?俺?」
「気のあう子って、どっか男っぽかったり、同じ趣味を持ってるとか、そんな子でしょ?」
「そうかな。そういえば、何話していいかわかんないかな」
「でも、桃ちゃんとは付き合ってるんでしょ?」
花ちゃんがそう聞くと、
「え?うん」
と、聖君はちょっと、困ったようにそう答えた。
「じゃ桃ちゃんとは、何を話しているの?」
花ちゃんがそう聞くと、さらに聖君は困ってしまった。
「何って言われても、なんだろう?何でもないようなこと、話してるよね?」
聖君は、いきなり私にふってきたから、私もびっくりしてしまった。
「え?うん」
私が、そう答えると、
「なんだか、この二人は、不思議なカップルなんだよ」
と、基樹君がそう言った。
「だいたい、聖が、桃子ちゃんみたいなタイプと付き合うのが、いまだに俺、不思議」
「そう?なんで?」
「まったく違うじゃん。アウトドア派と、インドア派。動と、静。なんつうか、まったく反対って感じがする」
基樹君の言葉に、私はズキッてしていた。
「桃子ちゃんが静だから、俺、桃子ちゃんといる時、静かでいられる。癒されるし、安心するし」
「え?」
基樹君が、聖君の言葉に聞き返した。
「俺、基樹といると、はしゃいでるけど、静かな時も多いよ。ね?桃子ちゃん」
「え?うん」
「桃子ちゃんといると、落ち着けるんだ」
「それ、好きでいるのと、違うんじゃないの?」
花ちゃんが、いきなりそう言った。
「え?なんで?」
聖君は驚いて、聞き返した。
「だって、好きならドキドキしたりして、安心したり、癒されたりってするかな?」
なんだか、花ちゃんの言うことも的を得てる気がする。
「そうかな?それは人それぞれなんじゃないの?俺は、桃子ちゃんといると、自然体でいられて、ありのままの俺でいられるから、心地いいんだ。だから、ずっと一緒にいたいってそう思ってるけど?」
え……?
聖君の今の言葉に1番驚いたのは、私かもしれない。
「そっか~~。なんだ。やっぱりラブラブなんだ」
花ちゃんはそう言うと、まいったって顔をした。
「あ~~。今の耳に痛い」
基樹君は、そう言って、うなだれた。
「基樹にも現れるよ。ま、元気出せって」
と、聖君は、基樹君の背中をばんばんとたたき、励ましていた。
私はといえば、聖君の、
「ずっと一緒にいたいってそう思ってるけど」
っていう言葉が、ずっと頭の中で繰り返していて、泣きそうになっていた。それを我慢していると、聖君が私の顔を見て、口だけ動かした。
「泣きそうになってる?それ、嬉し泣き?」
聖君の口元は、そう動いていた。私が小さくうなづくと、聖君は、すごく優しい目で私を見て、そのあと、にやけながら、下を向いていた。ああ、きっと、今、聖君、照れてる。そして思い切り、にやけてるよね…。