第17話 友達の恋
すっかり私は、花ちゃんとヒガちゃんと打ち解けて、仲良くなった。聖君にも仲のいい子ができたよってメールしたら、良かったねって返事をくれた。
私は、花ちゃんが描いた聖君と、私のツーショットの絵を写メールで聖君に送った。聖君は、
>桃子ちゃん、似てるじゃん。俺はこんなに可愛くないけど。
って、メールを返してきた。
>聖君も、すごく可愛いよ。
と、送ると、
>まじで~~?どの辺が?可愛いなんて言われたことないよ!
と、送ってきた。
>イルカ抱いて寝ちゃうところ。寝相が悪いところ。照れて、頭をぼりって掻くところ。く~~って足をバタバタして喜ぶところ。美味しいものを食べた時に、目を細めて旨いっていうところ。時々真っ赤になるところ。それに、顔文字のメールも、笑顔も、すねた顔も、にやけた顔まで可愛いけど。
こんなこと書いて送ったら、どうするかなと思いながらも、えいって送信してしまった。案の定、10分立っても、20分立っても、返信は来なかった。携帯の向こうで、また、足をジタバタしてるのか、真っ赤になって照れているのか、それとも、呆れているのか…。
30分立ってから、ようやく返信が来た。
>桃子ちゃんってば、俺に夢中なんだから!(>▽<)
っていうメールだった。あれれ?そんな返事か~~。照れます、俺!とかそういうのが返ってくるかと思った。
そして、またすぐに、
>もしかして、どんな俺も可愛くて、いじらしくて、愛しくなってる?
と、またもや、あれれ?っていうメールが来た。
>うん、まさに、そのとおり!
と、メールを送ってみると、
>なんだ、一緒だね!俺も、どんな桃子ちゃんも可愛くて、いじらしくて、大好きだよ^^
という返事。
わ~~~~~~!!!嬉しすぎるメールだ~~~!嬉しすぎて、どうしていいかわからなくて、その場で私はピョンピョン飛び跳ねてしまった。
「桃子!何騒いでるの!」
一階から、母がそう怒鳴ってきた。でも、興奮さめやらず、私はベッドにうつぶせになり、嬉しい~~と、枕を抱きしめ、足をジタバタしていた。
あ、そっか。聖君がたまに、く~~~って足をジタバタしてるのって、こういうことなのか。いてもたってもいられなくなるくらい、嬉しくなっちゃう。
じゃあ、じっとなんてしていられなくなるくらい、聖君はいつも、喜んでいたのかな。っていうか、そんなことを私が言っちゃっていたのかな…。
しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてきて、私は返信した。
>めちゃくちゃ、嬉しかった。思わず聖君みたいに、私もジタバタして喜んじゃった。
>え?ほんと?俺もさっき、桃子ちゃんのメールが来てから、嬉しいやら恥ずかしいやらで、30分もジタバタしてたよ。
あ~~。やっぱり、そうだったんだ。でも勉強の邪魔してるよね、これって。
>ごめんね、勉強の邪魔になるね。もう私もお風呂入って寝るね。おやすみなさい。
そう送ると、聖君は、
>うん、おやすみ。俺とデートしてる夢でも見てね。あ、それも、いちゃついてるデートね!
と、送ってきた。いちゃついてる~~?もう、どんなデートなの、それってって思ったけど、
>わかった。そうする。
と、送ってみた。
>もう、桃子ちゃんてば!エッチ!
すぐに、聖君からメールがきた。あ~、もう~~。聖君はたまにこうやって、からかってくるんだ。たまにじゃないな。最近すぐに、こうやって、からかってくる。
でも、そんな聖君も大好きで、どんな聖君も大好きで、メールがくるだけでもすんごく嬉しい。
私は、ベッドに寝転がったまま、メールを読み返した。めちゃくちゃ嬉しくて、また、足をジタバタして喜んで、それから、全部を保存して、それから、携帯電話を抱きしめた。
はあ…。これ、聖君からメールが来るようになって、ずっとやってる気がする。
翌日、花ちゃんが帰り一緒に帰ろうと誘ってきた。ヒガちゃんは、同好会があるらしい。マンガ同好会に入ってて、週に一回、活動があるんだとか言ってたっけ。
「いいよ、帰ろう」
菜摘も確か、クラスの子と帰るって言ってたから、ちょうどよかった。
「桃ちゃん、火曜日っていつも、即行で帰ってるけど、何かあるの?」
「スイミングスクールに行ってるの。一回家に帰ってから、水着とか持って出てるんだ」
「スイミング?すごいね。じゃ、泳ぎ得意なの?」
「全然!泳げないから通ってるの」
「そうなの?」
駅の近くまで着いたけど、そのまままだ話していたくて、近くの公園に行った。そこで、ベンチに座り、二人で話を始めた。
「どうして、スイミング始めたの?水泳の授業選択しちゃったとか?」
「ううん。聖君が、海が好きで、一緒に泳げるようになれたらいいなって思って」
と言うと、
「すご~~い。桃ちゃんって前向きなんだ」
と驚かれた。
「そ、そんなことないけど」
私は、いつもマイナス思考だから、前向きなんて言われてしまい、首を思い切り横に振った。
「泳げるようになった?」
「クロールはね。でも、平泳ぎがまだ」
「平泳ぎ、私も下手なの。私、水泳選択しちゃったんだ。だけど、平泳ぎ、苦手で…。平泳ぎだけでも、習えるかな?」
「うん。わかんないけど、無料体験できるよ。来てみる?」
「え?スクールの?わ、行ってみたい」
花ちゃんは、そう言うと、早速携帯で、体験の申し込みをした。そして、来週の火曜、一緒に行くことになった。
そしてその、火曜日がやってきた。花ちゃんとスクールの前で待ち合わせをして、一緒に受付に行った。受付の人が、私のクラスに参加できるよう、配慮してくれ、一緒のクラスで受けられるようになった。
花ちゃんは喜んでいたけど、私は、森山コーチではたして、大丈夫だろうかと一抹の不安があったものの、やる前から脅すようなことも言いたくないので、頑張ろうねって花ちゃんと、励ましあうことにした。
着替えをしてプールサイドに行くと、すでに森山コーチが立って待っていた。
「椎野さん、こんばんは。それから、今日体験を受ける、鈴木さんですね?」
無表情でそうコーチが言うと、花ちゃんはかなり緊張した様子で、
「はい!鈴木です。よろしくお願いします」
と、頭を下げた。
「このクラスは、初心者が集まってるクラスではありますが、進みが早く、今、平泳ぎの練習に入っていますが、このクラスで大丈夫ですか?」
森山コーチの「進みが早く」と言う言葉に、私はちょっと嬉しくなった。
「はい。私、クロールはできるんですけど、平泳ぎがなかなかうまく泳げないので、平泳ぎを教えてもらいたかったんです」
「ああ。じゃ、ちょうどいいかもしれないですね」
根本さんと、小松さんも来て、準備体操をみんなで始めた。それから、プールに入ると、
「では、一回鈴木さんがどれだけ泳げるか見たいので、平泳ぎで泳いでもらえますか?」
コーチはまた、無表情でそう言った。
「はい」
花ちゃんは緊張したまま、平泳ぎを泳ぎ出した。どうやら、苦手と言うのは本当らしく、なかなか前に進まないうちに、顔をあげて立ってしまった。
いや、花ちゃんのことをあれこれ言える立場じゃなくて、私も平泳ぎでなかなか前に進まないんだけど。
コーチは、花ちゃんの方にやってきて一言、
「全然なってないですね」
とそうクールに言った。
「は?」
花ちゃんは、顔をこわばらせた。
「できてないですね。いちからやらないと駄目ですよ」
コーチは、無表情のうえに、言い方もいつもけっこうきつい。花ちゃんはみるみるうちに、暗い表情になっていった。
「では、小松さん、根本さん、椎野さん、先週の復習です。平泳ぎで、顔をつけ、息継ぎをしながら、泳いでみてください」
そうコーチに言われ、順番に泳ぎ出した。私が最後だったので、待っている間に花ちゃんが横に来て、
「なんか、怖いコーチだね。思い切り傷ついちゃった」
と、ぼそって言った。ああ、やっぱりか。
「でもね、口は悪いけど、そんなに冷たいおっかない人じゃないんだよ。真面目なだけだから」
と、コーチのフォローをしたけど、そう言ってるそばから、
「そこ!私語は謹んで!椎野さんの順番ですよ。鈴木さん、話しかけないようにしてください」
と、コーチは怖い声で注意をしてきた。
「すみません」
花ちゃんは、下を向きながら、こわごわそう謝っていた。そのうえ、体も萎縮しちゃってるのか、初めよりもさらに、固まっているように見えた。
私が泳ぐとコーチは、
「椎野さん、だいぶ足のけり方がうまくなりました。あとは手ですね」
と、無表情のまま褒めてくれて、そのあと、手の動きを教えてくれた。
「じゃ、鈴木さん、足の動かし方、腕の動かし方、ちょっとやってみましょうか」
コーチは花ちゃんのそばに行き、丁寧に説明した。それから、花ちゃんの泳ぎをもう一回見て、どこが駄目なのか、どう変えていったらいいのかを、これまた丁寧に説明していた。
そして、花ちゃんの脚の動きがちゃんとできてくると、
「あ!それです。今のちゃんとできていました。その感覚を忘れないでください」
と、褒めていた。
花ちゃんはそう言われ、そうとう嬉しかったのか、にっこりと微笑んで、うなづいていた。
それから、コーチはまた、順番に私たちに指導をしてくれて、最後にもう一回、平泳ぎを一人ずつ泳がされた。
花ちゃんは、初めよりもずっと進むようになっていて、25メートルまで行くと、コーチから、
「鈴木さん、すごくよくなりましたよ!」
と、めずらしく明るい声で、褒められていた。
「ありがとうございます」
花ちゃんは、嬉しそうにそう答えた。
時間が来て、みんなで挨拶をして、それからロッカールームに行こうとすると、コーチが花ちゃんを引き止めて、
「もし入会することになったら、多分、僕のクラスに入ると思います。今日もかなりの上達ぶりでしたし、きっとすぐに、上手に泳げるようになりますよ」
と、花ちゃんに言っていた。
「はい。ありがとうございます。きっと、コーチの指導の仕方が素晴らしいからですよね」
え?さっきまで、怖いって言ってたのに?
「ああ…。そう言ってもらえると嬉しいですが、本人の努力が1番ですから、今日も鈴木さんの努力の結果が出たんだと思いますよ」
コーチはめずらしく、笑みを浮かべてそう花ちゃんに話していた。
ちょっと…。私がコーチのクラスで教えてもらった最初の日と、えらい違わない?この態度。まあ、いいけど。それだけ、花ちゃん頑張ってて、それをコーチが認めたってことだろうけど。
花ちゃんは、ロッカールームに行くと、
「私、申し込むよ。森山コーチなら、どんどん上達できそう」
と、私に話してきた。
「そうだね。今日だけでも、すごく上達していたもんね」
「うん!」
花ちゃんは嬉しそうだった。そして、着替えて受付に行き、早速申し込みをしていた。
それから、花ちゃんと一緒にスイミングスクールに通うことになった。コーチは相変わらず、きびしくてきついことを言ったりもするけど、ある時、帰りに着替えも終えて、受付に行くとコーチがいて、
「お疲れ様でした」
とけっこう、機嫌よく話しかけてきた。
「ありがとうございました」
私と花ちゃんが挨拶をすると、
「二人とも、すごく頑張ってくれるから、教え甲斐がありますよ。椎野さんはどんどん、目標に近づいていますね。楽しみですね」
と、にっこりと微笑んでそう言った。
「ありがとうございます」
と、私も喜んで答えると、隣で花ちゃんが、
「うわ!」
と、何か驚いていた。
「は?」
コーチがどうして驚いたのか、花ちゃんの驚いたのに反応すると、
「ごめんなさい。森山コーチがそんなふうに笑うところを、初めて見たもので。コーチも笑うんですね」
と、花ちゃんがそう言った。
ああ。私も前に思ったことあったっけ。ただ、コーチに直接それを、言ったことはなかったけど。
「あははは。僕も笑いますけど、そうですか。普段そんなにおっかない顔していますか?」
と、コーチは声をあげて、笑った。
「す、すみません。ちょっとクールな印象だったから、びっくりして」
花ちゃんは慌てて、そうコーチに言うと、顔を真っ赤にさせていた。
「それじゃ、失礼します」
「はい、気をつけて。さようなら」
コーチにそう言われ、私と花ちゃんは、スクールをあとにした。
帰り道、花ちゃんはしばらく、コーチに悪いことしたかなって、気にしていたけど、
「でも、あんなふうに笑ってたし、コーチは別に気にしていないと思うよ」
と、私が言うと、しばらく花ちゃんは黙り込んだ。
そして、そのあと花ちゃんが、口にした言葉に私は、驚きのあまり声が出なくなった。
「桃ちゃん、私、森山コーチのことが好きになっちゃったみたい」
「……???!!!」
「桃ちゃん、恋って突然なんだね」
「????」
「森山コーチ、私の好みとはまったく逆だったのに、あの笑顔で今日、恋に落ちたみたい」
「は~~~~?」
やっと、私の声が出た。
花ちゃんは、真っ赤になっていた。ああ、本気なんだ。私の方がその花ちゃんの、真っ赤な顔や、恥ずかしそうに話す姿に、ドキドキしてしまっていた。本当に、恋って、突然やってくるんだね。
「桃ちゃん、私、身近で好きになる人って初めてなんだ。いろいろと、これから相談に乗ってくれる?」
花ちゃんのその言葉に、私は思い切り、
「いいよ!いくらでも乗るよ。応援もする!」
と力強く言った。花ちゃんは、嬉しそうに、
「ありがとう」
と微笑んだ。
夜、11時近くに聖君からメールが来た。
>スイミング、どうだった?
火曜日は必ず、こうやってメールをくれる。私が落ち込んでいないかとか、そういうのも気にしてくれてるみたいだけど、どうやら、コーチにまた、手取り足取り指導されてないかが、気になるようだ。
>平泳ぎの練習して、だいぶ泳げるようになったの。
>へえ、すごいね。今度、またプール行こうよ。桃子ちゃんの泳ぐ姿、見てみたい。
>そんな、お見せできるほどのものじゃ、ないと思うよ。
>あはは。そうなの?でも、行こうね。7月に入ったら行こうよ。俺も泳ぎたいし。
>うん!
>そういえば、一緒にスクール行ってる友達はどう?
>花ちゃんも上達してるよ。それに今日びっくりすることが、起きた。
>何?
でも、これ、言っていいのかな?う~~ん。だけど、聖君は、直接花ちゃんを知ってるわけじゃないしな…。
>森山コーチの笑顔を今日見て、花ちゃん、コーチに恋しちゃったんだって。
>え~~~~~?!!!!
あ、聖君が、すごく驚いてる。
>それ、桃子ちゃん、応援して協力しないと!
え?そうなんだ。聖君、そんなふうに思ってくれるんだ。
>それで、コーチと花ちゃんがくっつけば、俺、一安心だ。
え?一安心?
>どうして?
私は、聖君に聞いてみた。
>だって、そうしたらもう、桃子ちゃんにちょっかいだしてこなくなるじゃん。
ちょっかい~~?誤解だ~~~!
>ちょっかいなんて、出されてないよ。コーチは、私のこと、小学生だと思ってたんだし。
>まじ?
……。もう、どんな勘違いをしてるの、聖君は。
>まじです。小学6年の根本さんって子の、友達と思ってたんだって。お友達と一緒に入会たのかと思ってたらしい。高校生だって知ってたら、足持ったりしなかったって、あとで言ってた。
>ずいぶんと失敬なやつだな!プンスカ!
プンスカ~~?面白いな~~。聖君。
>だけど、この体型とこの背じゃ、しょうがないよ。間違えられたって。
そう送ると、しばらく返事がなかった。返答に困っているんだろうか。5分位してようやく、返事が来た。
>花ちゃんの恋、うまくいくといいね。
あれれ?なんか、話をそらされてる?まあ、いいか。
>うん。これからまだ、勉強?頑張ってね。
>うん!頑張る(><)
あ~~。もう、可愛いな~~。聖君。
それにしても、聖君ももしかして、私って小学生なみの体型してるって思ってる?水着姿にがっかりしてたりしない?
…。でもな~、出会いの時からもう、水着姿を見られていたんだもん。今さらかな…。
それにそんなこと、聞けないよね…。
花ちゃんの恋がうまくいくことを祈りつつ、私がもう少し女らしい体型になりますように、そんなことを雨が今にも降り出しそうで、星も月も出ていない夜空に向かい、私は祈っていた。