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第14話 大接近

 市営プールに着き、別れてロッカールームに行った。私は、今日買ったばかりの水着に着替えた。どっちが前で後ろかわからないこの体型を、カバーしてくれるような、胸に少しフリルのある水着だ。これなら、まだ、胸のぺたんこがわからない。

 鏡を見て、変じゃないかをチェックして、それから、プールに向かった。


 プールサイドにはもう、聖君がいて、ストレッチをしていた。

「あ、桃子ちゃんも、準備運動しておいた方がいいよ」

と、優しく言ってくれた。

「うん」

 ああ。この聖君の優しさの何十分の1でもいいから、コーチが優しければ…。なんて思いながら、私もストレッチをした。


「じゃ、早速。練習しますか?」

と、聖君は、プールに入った。私は、

「少しだけ、聖君が泳いでいるのを見たいな」

と言ってみた。

「駄目だよ、そんなこと言って。結局泳ぐのやめるなんてのは」

「言わないよ。お手本に見たいだけ」

「しょうがないな~~」

 

 聖君はそう言うと、くるりと後ろを向き、プールの壁を足で蹴って、す~~っと水の中に静かに潜って行った。それから、15メートルも潜っていただろうか。体が浮かんできて、それからものすごく、華麗に水しぶきをあげることもなく、クロールを泳ぎ出した。

 わ~~~~~~。こんなに、上手だったの?私は、本当に聖君の泳ぎに、見惚れてしまった。


 聖君は、向こう側にタッチすると、クルリとまた反対を向き、今度は平泳ぎで泳ぎ出した。これもまた、すごい奇麗な泳ぎで、すいすいと泳いでくる。そしてあっという間に、私の目の前まで来てしまった。

 聖君は、前髪を手でかきあげると、

「泳いできたよ。見てた?」

と聞いてきた。


「見惚れてた」

と、本当のことを言うと、

「見惚れてた?何それ~~~」

と、ちょっと呆れた顔で笑った。

「だって、本当にすんごい上手なんだもん。泳ぐの」

「そりゃまあ、0歳くらいから泳いでるから」

「え?」


「そのくらいから、ずっと海行ってるからさ」

 ああ。そっか。あんなに近いんだもんね。

「なんだ。そんなに上手なら、聖君がコーチになってもいいんだね」

と、ぼそってつぶやくと、

「それ!すんごいいいアイデア!なるよ、俺。専属コーチ!」

と、思い切り聖君は、声をあげてそう言った。


「じょ、冗談だよ。聖君はだって、勉強があるじゃない」

「あ、そっか…。でも、たまにだったら、教えてあげられるよ?」

「うん」

 でも、私のみっともないところも、見せないといけないんだもんな。それは嫌かも…。


「はい!桃子ちゃんも水の中に入って!」

と聖君に言われて、そっと水の中に入った。

「じゃ、顔をつけてみる?」

「え?」

「潜ってみようよ。そうだな、いっせいのせで、一緒に。そんで、水の中でじゃんけんしよう」

「ええ?」

「行くよ。じゃ、せえの!」


 そう言われて、慌てて息を吸い込み潜ると、聖君がまん前で手を出して、じゃんけんってやってるのが、見えた。

 ぽい!って手を出す時にはもう、苦しくなって顔をあげると、

「桃子ちゃん、じゃんけん終わってないよ、まだ」

と、聖君も顔をあげて、そう言ってきた。


「ごめん、だって、苦しくって」

と言うと、

「じゃ、じゃけん、ぽんのポンの時に潜ろう」

と言い出した。そしてすぐに、

「じゃんけん」

と、言ってきて、水に潜ってしまった。私も慌てて、水に潜り、グーを出した。聖君は、パーだった。


「勝った!」

と、顔をあげてから、聖君が喜んだ。

「勝者は、どうしようかな。敗者から何かしてもらおうかな」

「え?そんなの聞いてないよ」

 いきなり、じゃんけんしようって言い出したくせに。


「うん。じゃ、もう一回、水の中でじゃんけんね。でね」

 聖君はそう言ってから、近づいてきて、耳元でささやいた。

「今度、勝った人は、負けた人にキスができるってのどう?」

「ええ~~~っ?!!!!」

 私は、驚いたのと、呆れたのとで、思わず、大きな声を出した。


「し~~。そんなに驚かないでよ。キスって言っても、ほっぺね、ほっぺ」

と、聖君は少し慌てて、小声でそう言った。

「う、うん」

 ほっぺでも恥ずかしい。私が勝ったら私がするの?!


「じゃんけん」

 私が恥ずかしがってるのなんてかまわず、聖君はじゃんけんって言うと、潜ってしまった。私も潜って、チョキを出した。聖君は、パーを出した。

「負けた~~、ちぇ~~」

 聖君はすぐに顔をあげ、そう言った。ちぇ~~って、何?それより、私がするの?


「しょうがないな。どこがいい?ほっぺでもいいし、なんなら、口でも」

「ほっぺ!」

 聖君が最後まで言う前に、私がそう言うと、

「それも、水の中でね」

と、聖君が言った。


「ええ?」

 私が驚くと、

「だって、こんなに人がいるのに、ほっぺとはいえ、キスはやばいでしょう?」

 だったら、そんなのやめればいいのに…とも思ったけど、すでに聖君は潜る体勢になっていて、思い切り息を吸い込み、バシャンと先に潜ってしまった。

 私も、息を吸い込み、潜ると、聖君は私のすぐそばまできて、ほっぺたを近づけてきた。


 あ~~~~~。恥ずかしい~~~~~。う~~~~。

 私はちょっと、抵抗したけど、目をつむり、えいって聖君のほっぺたに口をくっつけた。そして、すぐに水から顔を出した。でも、聖君はまだ、潜っていて、静かに顔を水から出してきた。そして、前髪をあげ、顔の水を手で拭うと、

「キス、されちゃった」

と、わざと恥ずかしそうにそう言った。


「も、もう~~~。自分から、言ったくせに~~~」

 私は、顔が真っ赤になってたと思う。何しろ、思い切り顔が熱かった。

「あはは!でも、顔を水につけるの、抵抗なくなったでしょ?」

 聖君は、笑いながらそう言ってきた。

「え?」

 あ、そういえば、そういうのも忘れてたかも…。そうか。ふざけてたけど、ちゃんと私が潜れるように、してくれてたんだ。


「じゃあ、今度はバタ足ね」

と言うと、聖君は私のまん前に来て、少ししゃがんだ。

「俺の両手の上に、桃子ちゃんの両手を乗せて」

と、聖君は両手を私の方に差し出した。

「え?…こう?」

「違う違う。手をつなぐんじゃなくって、もっと俺の肩の方まで、手を持ってきてよ」

「ええ?」


「あ、それより、俺の肩を掴んじゃって」

「え?」

「肩に手を乗せてくれる?」

 聖君はそう言うと、私の方に、しゃがみながら近づいてきた。わわわわ。大接近だ。恥ずかしい!


 でも、聖君は真剣な目をしていた。し、下心とか、ないよね?わ~~、私何を考えてるの。聖君は、泳ぎを教えてくれようとしてるんだよ?なんて、頭の中でグルグル考えながら、躊躇しながら、肩に手を乗せた。

「じゃ、そのまま腕を伸ばして、バタ足してみて」

「こう?」

 

 私がバタ足をし出すと、聖君はしゃがみこんだまま、後ろへと歩き出した。

「顔はつけられる?」

「え?」

「顔つけた方が、体沈まないよ?」

「うん」

 思い切って、顔をつけてバタ足をしてみた。聖君が、すごく注意しながら、後ろに向かって歩いているのがわかった。人にぶつからないようにしながら、ゆっくりと、進んでいる。


 ぶわ!苦しくなって顔をあげると、聖君はにっこりと笑って、

「バタ足、ちゃんとできてたよ」

と、言ってくれた。

 ああ。やばい。その笑顔がものすごく、優しくて素敵で、胸がきゅんってなる。


 そのあとも、聖君は、

「もう一回、顔つけてバタ足してみて」

と言ってきた。私は、また息を吸い込み、聖君の肩に掴まって、顔を水につけた。聖君の肩は意外にも厚くて、胸板もけっこうあって、たくましかった。前に筋肉あるよって言ってたけど、本当だ。


 顔をつけると、胸が良く見えて、なんだか、それも照れてしまった。それから足元を見ると、あれ?さっきまで、聖君はしゃがんでいたのに、今は立って歩いてる。それも、ちょっとつま先立ちにも見える。

 私は慌てて顔をあげると、聖君の肩に置いていた手が、するって外れてしまい、そのうえ、立とうとしたら、まったく足が底につかなくって、思い切り慌ててしまった。


「聖君!」

 私は目の前にいた聖君に、思い切り抱きついて、肩に手を回した。聖君は、

「大丈夫だよ。慌てないでも。俺は足がついてるから」

と、そう言うと、片手を私の背中に回し、片手はちょっと水をかきながら、プールサイドまで、歩き出した。それも、時々、底を蹴って、泳いだりもしている。すごい余裕だ。


 っていうか、私もそんなのん気なことで、感心している場合じゃなかった。私、今、思いっきり聖君に抱きついてる。わ~~~~~~~~~~~っ!わ~~~~~~~~~っ!わ~~~~~~~~っ!

 肌に思い切り、触れちゃってるよ。

 ものすごく恥ずかしい。でも、手を離したら、そのまま溺れてしまう。聖君にこうやって、くっついてるしかなくって、その間中私の胸が、ドキドキ高鳴って、体中が心臓になっちゃったみたいになってて。


 プールの端まで来ると、聖君は、

「もう、足つくよ」

と、微笑んでそう言った。あ!そうか、ここはもう、足がつくのか!

「ご、ごめん」

 私は慌てて、聖君から離れた。顔から火が出そうになった。いつまで、聖君に抱きついてるんだ、私は!


「いいよ、へへ…。役得」

 聖君は、照れくさそうな、でも嬉しそうな、そんな顔をしてそう言った。それからも、しばらくにやにやとにやついていた。

 もしや、わざと、足のつかないところに行った?もしや、これって、計画通りだったとか?もしや、もしや、思い切り、下心があった?


「少しあがって、休む?」

と、聖君は、まだにやけた顔のままそう言ってきた。

「うん」

 二人で、プールから出て、バスタオルを置いたベンチに行き、座った。

「あ~~~。やばい」

 聖君が、ちょっと下を向きながらそう言った。

「え?」

 聖君の顔を見ると、まだ、にやけてて、

「プールっていいね。また、来ようね」

と、こっちを向いて、そう言った。


「聖君、さっきからね」

「え?」

「顔、にやけてる」

「まじ?」

「うん」

 なんだか、全部計画通りだったのかもと思ったら、悔しくもなって、わざとそんな意地悪なことを言ってみた。


「俺、にやけ顔?ずっと?」

「うん。ずっと」

「わ~~~~!やっべ~~。でも、どうにも、顔がしまらない。嬉しくて、駄目だ。にやけててもかんべんして」

と、笑いながらそう言った。なんだ。意地悪で言ってみたのに、まったく聖君、動揺してないじゃない。


「また、来ようね」

 聖君は、また、そう言ってきた。それから、

「ちょっと、泳いできてもいい?」

と言うので、私はうんってうなづいた。

 聖君の泳ぐ姿を目で追った。すうって本当に、流れるように泳いでいく。水に抵抗がまったくない。水に愛されちゃってるんじゃないかと思うくらい、華麗に泳いでいく。海で見た聖君の泳ぎとは、また違っていた。


「はあ…」

 そんな姿に思わず、ため息が出た。それから、プールからあがり、髪をかきあげる。水もしたたるいい男ってのは、ぜ~~ったい聖君のことを言うんだ。周りの男の人より断然、かっこいい。

 コーチは思い切り、逆三角形だった。肩がいかつくて、すごい筋肉だったけど、それよりも聖君くらいの、筋肉がちょうどいい。


 すらっと伸びた足も腕も、すべてがしなやかで、かっこいい。

 私は、目の前まで歩いてくる聖君をずっと、眺めていて、こんなにかっこいい人いないよってずっと、思っていた。

「桃子ちゃん?」

 目の前に来て、聖君が私に声をかけてきた。

「あ…」

 私は、夢から覚めたみたいな感覚になった。


「どうしたの?ぼ~ってしてた。疲れた?」

「ううん。なんか、夢心地になってただけ」

「え?なんで?なんで?」

「なんでもない。ふわふわ夢を見てたみたいになって、今、目が覚めた感じだっただけ」


「桃子ちゃんってば」

「え?」

 聖君が少し、上目遣いで私を見て、それから、

「俺に抱きついてた時のことでも、思い出してたんじゃないの?やらしい~~~」

と、わざと、声のトーンを落として、そう言ってきた。

「ち、違うよ!何言ってんの?」

 私が思い切り、慌てると、あはははって聖君は笑って、

「うそうそ、冗談。でも、なんで夢見てたみたいになったの?あ、少し泳げたから?」

と聞いてきた。


「泳げてはいないよ。だって、聖君にずっと掴まってただけだし」

「だけど、顔をつけられたし、バタ足もできてたし、できなかったことが、できるようになってるじゃん」

 聖君は、隣に座って、タオルで顔を拭きながらそう言った。

「あ、そうだよね」

 そう言って、聖君を見ると、髪をかきあげて、ふうってため息をして、タオルを首にひっかけた。


 それ。その髪をかきあげる仕草が、なんだか、色っぽさすらある。思わず、見惚れてぼ~~ってしていると、また聖君は私も見て、

「あ、またどっか別の世界にいってる」

と言ってきた。


「え?別の世界?」

「さっきもだよ。心ここにあらずって顔してた。どこ行ってるの?ちゃんとここにいてくんないと、俺困っちゃうんだけど」

「ごめん」

 そんな顔してるの?でも、聖君に見惚れちゃってるのにな。

「どこ行ってるの?」

「え?」



「心ここにあらず。桃子ちゃんの心はさ、どこへ行ってたの?」

「ど、どこにも。ここにいたよ」

「嘘だよ。ふわふわどっかへ行ってたよ?なんか、すんげえ気になる」

「え?」

「……」

 聖君は、私をじっと見た。また、心を探ろうとしてるみたいだ。


「えっと」

「あ、白状する気になった?」

「え?」

「隠し事はなしね」

 また~~~。もう~~~。私は、少し黙って、しばらく下を向いていた、何しろ、どう言っていいものかわからなくって。


「何?」

 聖君は、耳を傾けて、聞いてきた。

「聖君を見てただけ」

「……。そうやって誤魔化して…。で、本当は?」

「だから、本当に見惚れてただけ」

「見惚れて?」

「そう」

「俺に?」

「うん」


「……俺に?」

 聖君は、また聞いてきた。

「だって、聖君の泳ぎ、すごく奇麗で」

「ああ。泳ぎか…。なんだ、びっくりした」

「え?」

「俺に、また惚れちゃったのかと思った。はは!なんてね」

「あ!そうかも!」

「え?!」


 ああ。また思わず、恥ずかしいこと言ってしまったかな。

「それ、まじ?」

 聖君は、ちょっと目を丸くして聞いてきた。

「うん」

「あ。ああ、そっか。どっかでその心ここにあらずの顔見たことあるって思ったら、あれだ、文化祭で俺が、ステージで歌ってた時、同じ顔してたっけ」

「見惚れてた時でしょ?」


「ああ。そっか…」

「うん」

 私は顔を真っ赤にさせて、うなづいていたと思う。

「でも、コーチだって、泳ぐのうまいでしょ?」

「泳ぐの見たことないから」

「あ、そっか」

「うん」


「でも、コーチなんて、筋肉質の体してるんじゃないの?」

「うん。すごい逆三角形で、肩とかいかついよ。腹筋は割れてるかも」

「割れてるの?うわ…。俺、そこまで腹筋ないや。ちょっと、頑張ろうかな」

「いいよ。そんなのしなくても。あまり筋肉質って嫌だし」

「そうなの?」

「うん、聖君くらいがちょうどいい」


「えっと。そのちょうどいいってのは、喜んでいいのかな?」

「もちろん。さっきだって、聖君は手も足もすらって長くって、しなやかな体してて、すごく奇麗だなって見惚れてたんだもん」

「え?!!!」

 聖君は、ちょっと引き気味になった。わ!変なこと言っちゃった?私…。

「そ、そ、それは、なんだか」

 ああ。聖君が、困ってる。


「思い切り照れくさい。わ~~~。やば。俺、顔から火出てない?」

「え?」

「顔が熱い。っていうか、そんなこと考えながら、ベンチにいたの?」

「う、うん」

 私の方も顔から火が出そうだ。

「……。そうなんだ。そんなに好きなんだ」

「え?」


 な、何が?

「俺のこと」

 聖君は、また顔をにやけさせながら、そうつぶやいた。

「え?」

「まいったな」

と、今度は、頭をボリって掻いた。


「……うん。そんなの、はじめっから聖君も知ってたよね?」

「う…、うん、まあ」

 聖君は、また、にやけながら、頭を掻いた。そして、

「あ~~~~。なんだ、俺、まったく心配しなくてもいいんじゃん」

と、笑った。

「え?何が?」

「桃子ちゃんのそばに、男がいても、心変わりしたらどうしようかなんてさ」


「そ、そんなこと心配してたの?絶対にない。さっきだって、他の男の人なんて、比べ物にならないわってずっと、思ってたし」

「へ?」

「聖君くらい、かっこいい人なんて、絶対にいないって思ってたし」

「……、桃子ちゃん!もう、いいです。俺、それ以上言われたら、まじ、燃え尽きちゃうから」

「え?」

「顔からどころか、全身から火が出そうな勢いで、恥ずかしい」

「ごめんなさい」

「いや、いいんだけど。ほんとは、すごく嬉しいんだけど」


 聖君は、本当ににやけていた。

「やば~~。今日はもう、顔戻らないよ。ずっと、このしまりのない顔だよ。これでも、かっこいいの?」

「うん!」

「あ、そう…」

 聖君は、そう言うと、また、思い切りにやついた。


「俺もさ…。桃子ちゃんのこと考えると、勉強手につかなくなるから、なるべく考えないようにしてるんだ」

「え?」

「ごめんね。それで、メールもあまりできない。電話なんてとんでもない。声聞いたら、ずっとしゃべってるだろうし、メールしたら、もっとしたくなって、ずっと桃子ちゃんのことばかり考えて、絶対勉強手につかなくなるってわかってるから、ひかえてる」

 そうだったの…?


「寂しい思い、させたよね?」

「ううん」

「ていうかさ、俺も寂しいって思うこと、いっぱいあるから」

「え?」

「会いたくなったりしてるし」

「本当に?」

「本当に。だけど、やっぱり、勉強もしないと、まじやばいなって思うからさ」

「うん」


「あ~~~。でも、今日は来てよかった。ほっとしたし」

「え?何が?」

「桃子ちゃんが、俺にすごい惚れてるってわかって」

「え~~?そんなの、前からだよ?」

「うん。そうなんだけど、そうなんだけどね…」

「聖君以外の人なんて、本当に目に入らないのに」

 ぼそってそう言うと、また、聖君は、頭をぼりって掻いてから、隣で足をばたつかせた。

「く~~~~!」

って言いながら。

「?」

 顔を見ると、思い切り、にやけていた。


「あ、嬉しすぎます。俺!」

 思い切り、喜んでいるみたいだった。面白いな、聖君のリアクションって…。なんて思いながらも、そんな聖君もめっちゃ可愛いなって思ってる私だった。


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