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第116話 プロポーズ

「夕飯食べていくでしょ?聖君」

「え?あ、はい」

 母の言葉に、聖君は一瞬びっくりしてから、うなづいた。

「あ、じゃ一回家に電話していいっすか?店、大丈夫か聞きたいので」

「そうだな。ご両親も心配してるかもしれないし」

 父がそう言った。

「はい、じゃ、ちょっと電話してきます」


 聖君は、リビングから廊下に出て、電話をしていた。小声だったけど、部屋が静かだったから、聖君の声は聞こえてきた。

「うん、俺。うん。店は?混んでない?」

 お店のこと、ちゃんと気にしてるんだな。

 

「うん、話したよ。え?ああ、大丈夫だよ。今度会って、これからのこと話し合いたいって」

 父は、釣りの雑誌をめくりながらも、聖君の声に耳を傾けているようだ。母はというと、もうキッチンで夕飯の準備に取り掛かっていた。

「うん、夕飯もご馳走になっていくから、遅くなるかも。うん、わかってるよ」

 誰と話してるのかな。お母さん?お父さん?


「じゃ、母さんにも遅くなるって言っておいて」

 ああ、お父さんと話してたんだ。

 聖君は携帯を片手に、リビングに戻ってきた。

「夕飯、食べていけそうかい?」

 父が聞くと、聖君は、

「はい。店、父さんが今日はずっと手伝えるから、平気だって言ってました」

と、答えた。


「そうか。じゃあ、ゆっくりしていったらいい。今後のことを、聖君と話したいしな」

「え?はい」

 聖君はちょっと、緊張をしているようだ。でも、横に座っている私を見て、優しく聞いてきた。

「桃子ちゃんは、気分もう大丈夫?ご飯食べれるの?」

 あ、ちゃんと私のことも、気にかけてくれてた。

「匂いが駄目なんだ。多分、サラダとか、それくらいしか食べられないと思う」


 私がそう答えると、父が話しかけてきた。

「つわりか。そういえば、お母さんも桃子を妊娠していたとき、つわりがつらそうだったな」

「そうだったの?」

「まあ、お母さんに聞けば、いい対処方法もわかるかもしれないな」

「うん」

 母は、キッチンで夕飯の準備をしていて、こっちの話はまったく聞こえていないようだった。


「まずは、産婦人科に行って、ちゃんと調べてもらうことだな」

 父が私と聖君に向かって、まじめに話しだした。

「はい」

 聖君は姿勢をただし、聞いていた。


「それから、高校に報告をしないとならないな」

「はい」

「ねえ、お父さん」

 さっきまでキッチンにいた母が、いつの間にかリビングに来ていて、聖君も私も驚いた。


「校長にじかに話してみようかと思うんだけど」

「ああ、確か校長は、お母さんが通っていた頃、担任だったんだっけ?」

「そうよ」

「え?!そうなの?お母さんが私の行ってる高校の卒業生なのは知ってたけど、そうだったの?」


「そうよ。それにね、お父さん、つまり桃子のおじいちゃんは、美術を教えていたこともあるのよ」

「うちの高校で?」

「たったの3年だったけどね。すぐにやめて、絵の教室を自分で持って、教え始めたから」

「…知らなかった」


「でも、今の校長とは同時期に、働いてたし、顔見知りよ」

「そうなんだ」

「おじいちゃんも引き連れて、校長に話をしに行こうかしらね」

「え?そ、そんな、おおごとにしちゃうんですか?」

 さすがの聖君も、顔をひきつらせた。


「そうだな、それがいいかもしれないな」

 父が母の提案に賛成したので、ますます私も聖君も驚いてしまった。

「じゃ、さっそく、おじいちゃんに電話して、明日にでも話してくるわ」

「お、おじいちゃんに?」

 おじちゃんに妊娠したこと、話しちゃうの?


「おじいちゃんはいつでも、桃子の味方よ。だから、大丈夫」

 母は私の不安を感じ取ったようだ。あ、そっか。また、顔に出てたのか。

「それにね、若い頃すごくかっこよくてもててたから、今の校長もおじいちゃんにあこがれてた一人だったのよ」

「ええ?何それ?!」

 私も驚いたが、聖君のほうが驚いて声をあげた。


「校長はその頃独身で、23歳か、24歳くらいだったと思うわ。おじいちゃんは25歳くらいだったって言ってたから」

「まだ、おじいちゃんも結婚していなかったの?」

「おばあちゃんとお付き合いはしていたみたいだけど、結婚はまだだったみたいね」

「そ、それで?」

 聖君が先を知りたがり、身を乗り出して聞いた。


「校長はそうとう入れこんでたみたいよ。お母さんが入学したときに、おじいちゃんも入学式に行ったの。そりゃもう、喜んじゃって。お母さん、実はいっぱいひいきされてたのよね」

「ええ?」

 これまた、びっくりだ。

「まあ、他の子にはわからないようにだけどね。勉強も放課後、教えてくれたり、家庭訪問なんて、わざわざ、おじいちゃんが家にいる時間をねらって来て、1時間くらいいたしね」


「校長って確かいまだに、独身」

「そうでしょ?そうなのよね~」

「じゃ、桃子ちゃんが、自分が好きだった人の孫だって知ってるんですか?」

 聖君が聞いた。

「知ってるも何も、入学式の時、おじいちゃんも行ったわよね?」

「う、うん」


 そうだ。来てた。

「桃子は知らないだろうけど、帰りに校長室に寄って、校長とお話もしていたのよ。桃子のことを頼みますって」

「し、知らなかった、それ」

「校長だしね。桃子に直接話しかけたりしていないだろうけど、ちゃんと学校生活は見ていたんじゃないかしらね」


「じゃ、おじいちゃんが校長に会いに行ったら」

「そうね。どういう処置をするかはわからないけれど、話はまじめに聞いてくれると思うわよ」

「桃子ちゃんも一緒に行くの?」

 聖君が私に聞いた。

「私?!」

 思わず、声が裏返ってしまった。

「桃子はいかないほうがいいかもしれないな。まずは、お母さんとおじいちゃんに行ってもらおう」

 父は穏やかにそう言った。


 それにしても、そんないきさつがあったとは知らなかった。それ、おばあちゃんは知っているのかな。

「じゃ、おじいちゃんに明日行くことを電話するわね。桃子も体調が良かったら、一緒に行きましょうね」

「うん」


「明日日曜だし、病院やっていないし、産婦人科に行くのは月曜日になるわね」

 母にそう言われ、一気に緊張してきた。

「あ、俺、夏休みだし、ついていきます」

「え?産婦人科に?」

「はい。桃子ちゃん、具合悪くなっても大変だし、車も出しますよ」

「そう、助かるわ」

 母がそう言うと、電話をかけにダイニングに向かった。


「桃子、聖君」

 父がまた、穏やかな顔で、

「安心して、落ち着いていていいからね。特に桃子は、何よりも体のことを考えなさい。ストレスはお腹の子によくないからね」

と言ってくれた。

「うん」

 私はうなづいた。本当に父が、賛成してくれて嬉しい。


「桃子、おじいちゃん、明日は絵の教室があるけど、午前中は空いてるそうよ」

 母が電話を切ってリビングに来ながら、そう私に言った。

「うん、わかった」

「ただ、車の運転どうしようかしらね」

 母がちょっと考え込んだ。

「あれ?どうかしたんですか?」

 聖君が聞いた。

「実はコンタクトを今日なくしちゃって。メガネも古くて、度があわないのよね。普通に生活する分なら、どうにかなるんだけど、運転はね~~」


「あ。それでメガネだったんすね。じゃあ、俺、車出しましょうか?」

 聖君が言ってくれた。

「大丈夫だよ、聖君。僕が出すから」

 父がそう言ってから、

「あ、ちょっと待ってくれ。今、スケジュールを見てくるから」

と、寝室に行ってしまった。


「接待か何か、入ってるんじゃないのかしらね」

「え?」

 母の言う言葉に、聖君が聞き返した。

「日曜でも、接待ゴルフとか、工場に行かなきゃならないとか、いろいろと予定が入ることがあるのよ」

「忙しいんですね」


「支店長にもなると、下をこき使って、自分はどっしりと構えてるもんだと思ってたんだけどね。そうはいかないみたいよね」

「支店長なんすか?」

「そう。横浜支店長。ここから、みなとみらいまで通ってるし、通勤時間もかかるのよね」

「へえ、そうなんすか」


「あ~~、駄目だな。明日は○○会社の、セレモニーがあって、招待されているんだ」

 父がスケジュール帳を見ながら、リビングに戻ってきた。

「支店長じきじきに行かなくちゃならないわけ?」

「そりゃあな。なにしろ社長に招待されているからね」

「じゃあ、タクシーでも拾っていくわ。近いし」

「俺、車出せますよ。昼ごろまでに店に行ければ、大丈夫ですから」


「でも、江ノ島から車で来て、またお昼には戻るんでしょう?大変よ」

「じゃあ、泊まっていくか?聖君」

 父がそう提案した。

「え?いいんすか?」

 聖君がちょっと、嬉しそうに聞いた。


「そうね。じゃ、泊まっていく?そうしたら、ちょっと早めに家を出ることもできるわね」

「はい。あ、じゃ、またちょっと電話してきます。あ、メールでもいいかな」

 聖君は携帯をポケットから出して、メールを打ち出した。

「あ、いけない。話に夢中になっちゃった。夕飯の準備、途中だったわ。桃子はサラダだけでいいの?」

「うん、それだけでいい」


 母はまた、キッチンに向かった。聖君はメールを送信して、また父と話を始めた。

 仕事のことや、大学のこと、そのうちに釣りの話をし始め、二人の世界で盛り上がりだした。

「あの、ちょっと部屋で休んできてもいい?」

 私は少し、気持ちが悪くなっていた。多分、キッチンからの匂いだ。


「え?ああ、うん。大丈夫?俺ついていこうか?」

 聖君が心配そうに聞いてきた。

「大丈夫。ちょっと横になってくるね」

「うん、ご飯できたら呼ぶね?」

「うん」


 私は自分の部屋に行いき、ベッドに横になった。ふう~~~。息が漏れた。かなり気持ちが悪くなっていた。

 あの、ご飯を炊く匂いも、お味噌汁の匂いも、くさくて駄目だ。むっとしてしまう。


 それにしても、いきなりの展開だというのに、母も父も、そして聖君までもが、なんだかいつもどおりで、何もなかったかのように穏やかに、時間が流れている。

 違うのは、こうやって、私の気分が悪いことくらいだ。


 つわりっていつまで続くのかな。

 母と祖父が校長に会いに行ったところで、何かが変わるというのだろうか。

 産婦人科に行くの、ちょっと怖いな。


 ああ、いろんな思いが交差する。駄目だ。頭がくらくらしてきた。

 私はタオルケットを肩まで、ひっぱりあげ、しっかりと眠りにつくことにした。

 聖君と結婚、一緒に暮らす。それが嬉しいことだけど、いまだに信じられない。


 それに嬉しいことばかりが、これから、起こるわけじゃないんだろうな。きっと、大変なことのほうが多いんだろう。

 だけど、聖君や家族がいる。それに菜摘も、葉君や桐太も。

 そう思うと心強くて、私は知らない間にぐっすりと眠りについていた。


「…こちゃん」

 ん?誰の声?それに、誰かが私の顔をなでてる。優しい手だ。

 あ、聖君の手だ。

「桃子ちゃん」

 ああ、聖君の声。


 私が目を開けると、聖君はベッドの前に座っていて、優しく私を見ていた。

「目、覚めた?」

「うん」

 聖君が私の手をとって、

「気分はどう?」

と聞いてきた。


「うん、今は大丈夫」

「じゃ、ご飯は食べられる?」

「ううん。匂いが無理かも。サラダくらいなら食べられそうだけど、匂いかいだだけでも、駄目なんだ」

「匂い?」

「ご飯や、味噌汁の…」


「じゃ、サラダここに持ってこようか?お母さんも、食べられるものだけ食べたらいいって言ってた」

「うん、じゃあそうする」

「じゃ、持ってくるよ。待っててね」

「うん」

 聖君はそう言うと、すぐに一階に下りていった。

 ああ、なんであんなに優しいんだろう。


「桃子ちゃん、これ、持ってきた」

 聖君がテーブルを持って、部屋に入ってきた。

「ありがとう」

 聖君はベッドの横にテーブルを置き、また一階に下りていった。


「桃子、サラダだけでいいの?」

 母が2階にあがってきて、部屋に入ってきた。手にはサラダの入っているお皿を持っていた。

「うん、いい」

 母は、それをテーブルに置くと、一階に下りていった。


 あれ?聖君はもう、来ないのかな。なんだか、ちょっと寂しくなった。すると、またトントンと2階にあがる足音がした。

「俺もここで食っていいって」

 聖君がにっこりと笑いながら、お盆を持って現れた。お盆の上には、サラダとおかずが乗っていた。

「ご飯は?」

「ああ、いいよ、桃子ちゃん、匂い駄目なんでしょう?」


「でも、それだけじゃ」

「大丈夫。それより揚げ物の匂いは、大丈夫?」

「え?うん」

「じゃ、これ、食べる?」


「う~~ん、やめとく。聖君、全部食べて」

「わかった」

 聖君はテーブルの前に座った。私もそのまん前に座った。

「いただきま~~す」

 聖君が元気にそう言うと、一口カツをばくって口に入れ、

「うまい」

と目を細めた。


 本当にいっつも、美味しそうに食べるよな~~。

「いただきます」

 私も、フォークを持って、サラダを食べだした。

「ちょっとの間はつらいね、桃子ちゃん」

「え?」

「つわり」

「うん」


「さっき、お母さんに聞いたらね、4ヶ月くらいになったら、もうつわりも終わるって。多分、今、2ヶ月目だから、あと2ヶ月の我慢だってさ」

「そうなんだ」

「それと、4ヶ月過ぎた頃から、安定期になるそうだから、それまではあまり無理せず、休めるならゆっくりしたほうがいいってさ」


「9月までは、無理しないほうがいいってことだよね?」

「そうだね。学校も休んでいたほうがいいかもね」

「学校…。でも、その頃はもう、やめてるかも」

「それはわかんないよ。お母さんとおじいさんが行ってみてからじゃないと」

「え?」

「わかんないって。何が起きるかなんて、まじで、わかんないから」


「…」

 私は聖君の顔を、じっと見つめた。

「ほら、俺が行ってた高校でもさ、妊娠した先輩、退学になるんじゃないかって思われてたんだ。だけど、親御さんや、周りの人が相当頑張ったらしい」

「頑張った?」

「署名運動とかもしたらしいし」

「署名?」


「いざとなったら、桃子ちゃんもそういうのやってみる?」

「む、無理だ~」

「はは…。でもさ、ほんと何が起きるかわかんないんだから、こうなるって決め付けないでもいいと思うよ?」

「うん」


 聖君はにこりと笑うと、サラダをばくばくと食べだした。

 私はしばらく、聖君を見ていた。日焼けした顔、さらさらな髪。すうっと通った鼻筋と、涼しげな目。相変わらず、かっこいい。


 だけど、出会ったときよりも、確実に男っぽくなってる。のど仏が前よりも目立つ。それに、ひげ。前よりもちょっと濃くなったかな。

「何?」

「え?」

「俺のこと、じっと見てたけど、あ、やっぱり匂い駄目だった?」

「ううん」


「じゃ、俺に見惚れてた?」

「うん」

「え?まじで?」

「うん」

「あはは。もう桃子ちゃんってば」

 あ、その笑顔はめちゃ可愛い。笑うと目がくしゃってなる。それに口元からこぼれる、白い歯がまぶしい。


 聖君が今度は私をじっと見た。

「な、なあに?」

「うん」

 まだじっと見ている。

「何?何かついてるとか?」

「違うよ。可愛いなって見惚れてただけ」


「ま、またまた~~」

「さっきの寝顔も可愛かったけどさ」

「え?」

「しばらく見てたんだ」

「うそ」


「だって、可愛かったんだもん」

「……」

 思い切り私は顔が熱くなった。

「あ、真っ赤だ。あはは」

 また笑われた。


「可愛いよね。どうして、そんなに可愛いのかな…」

「へ?」

 また聖君は、驚くようなことを言ってくる。

「まつげ長いよね。くるんって上向いてるけど、そういうのって何かしてるの?」

「う、ううん。私は何も」

「ふうん」

 まだ聖君は、じっと私を見ている。


「鼻も可愛いんだよね」

「は、鼻?」

「うん。あと、口も」

「え?口も?」

「うん」


 か~~~~。真っ赤なんてもんじゃないかもしれない。恥ずかしくなって、思わずうつむくと、

「赤ちゃん、俺と桃子ちゃんのどっちに似るかな?」

と聖君が言い出した。

「え?」

 また顔をあげ、聖君を見ると、思い切りにやけていた。


「男の子と、女の子、どっちがいい?」

「う~んと、まだ、わからない」

「そっか~~。俺はどっちでもいいや」

「私は…」

「うん?」


「まだ実感がわかない」

「え?赤ちゃんのこと?」

「それは、その…、気持ちも悪いし、なんとなく実感がわくんだけど」

「じゃ、何?」

「聖君との結婚」


「え?あ!!そうじゃん!」

「え?」

 いきなり聖君が大声を出したから、私はびっくりしてしまった。

 な、何?


「俺、プロポーズしてないよね?」

 聖君はそう言うと、お箸を置き、正座をした。

 え?!プロポーズ?!

 私は、またびっくりしたが、聖君がまじめな顔をしているので、慌てて正座をした。


「桃子ちゃん」

「はい」

「俺と結婚…」

「……」

 聖君は途中で黙り込むと、ちょっと上を向き、考え込み、

「結婚してくださいっていうのも変か」

と、つぶやいた。


「え…?」

「だってさ、結婚するんだもんね」

「あ、うん…」

「じゃあ、えっと」

 聖君は今度、下を向き頭をぼりって掻いて、

「結婚…」

と、言いかけ、また止まってしまった。

「う~~ん、なんて言ったらいいのかな」

 聖君が悩みだした。私は、とにかく恥ずかしくて、もう、何も言わなくてもいいのにって、内心思っていた。


「あ…」

 聖君はどうやら、思いついたようで、また私のことをじっと見て、

「俺と結婚しようね?桃子ちゃん」

と言ってきた。

「……」

 うわ。照れる!

「あ、あれ?変?」

「ううん」

 か~~~。顔がまた熱くなる。聖君もみるみるうちに、真っ赤になった。


「今の変だね?でも、なんて言ったらいいのかな」

「だ、大丈夫。なんて言われてもまだ、きっと実感わかないから」

「へ?」

「聖君のお嫁さんになるなんて、夢でも見てるみたいで…。きっとあと数ヶ月したら、実感わくかな」

「は?何をのんきなこと言ってるの、桃子ちゃん。そんな先までとっておくつもり?」


「何を?」

「籍を入れるのだよ。もう、お腹には赤ちゃんいるし、式は挙げられないにしても、早めに籍は入れなくっちゃ。でしょ?」

 そうか。そうなのか。わ~~~。じゃ、私、もうすぐ聖君のお嫁さん?!

 ボボボ!さらに顔が熱くなった。


「…首まで真っ赤だよ」

「わ、わかってる」

 私はあまりにもほてるから、手で顔をあおいだ。

「あ、あつ~~」

と言いながら。そうしたら聖君が、けらけら笑い出した。


 聖君のお嫁さんになるんだ。心の中でそうつぶやくと、じわじわと嬉しさがこみ上げて来た。なんだか、半分夢の中での出来事か、妄想してるだけじゃないのかって、そんなふわふわしたものもあったのが、現実に起きることなんだって、徐々にそう思えてきた。


 聖君を見ると、くすくすと笑いながら、またお箸を持って、食べだした。そして、ちらって私を見ると、また、

「桃子ちゃん、可愛いよね」

って、目を細めて嬉しそうにそう言った。 

 


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