表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/123

第107話 男友達

 その週は、ずっと聖君は私のことを車で迎えに来てくれた。金曜は校門に、人だかりができるほど、集まってしまったが、蘭と菜摘がけちらしてくれた。

 

 お店はまだまだ、女の子たちがやってきていて、連日列を作っているらしい。それも、女の子とは言えないくらいの年代の女性も、多くやってくるということだった。

 週末はさらに、人が増えるかもっていうことで、手伝いに来れる人を呼んだらしいけど、しばらくは、予約制にでもするかって話も、聖君とお父さんがしたほど、大勢の人が来てしまったらしい。


 翌週、私は松葉杖がなくても、歩けるほど回復をして、聖君にはお迎えはもういいよって断った。聖君はその分早めに家に帰り、店の手伝いをしたらしい。

 キッチンに入っていても、

「バイトの男の子はいないんですか?」

と客に聞かれ、朱実ちゃんや、お母さんが、聖君を呼んでしまうので、聖君はキッチンとホールを行ったりきたりで、大変だったんだと嘆いていた。


 これがいつまで続くんだろうか。聖君、大丈夫なのかな~。心配。

 でも、お店に顔を出しに行くほど、足が回復をしてるわけではなく、私はメールで聖君とやりとりをするだけで、聖君を元気付けに行くことも、お店の手伝いをしに行くこともできずにいた。


>ごめんね。足が治っていたら、駆けつけたのに。

 そうメールを送ると、

>朱実ちゃんも、多めにシフト入れてくれてるし、杏樹や、他にも手伝いに来てくれる人がいるから、ほんと、大丈夫だよ。

>ほんと?


>うん。サークルの人までが、手伝いに来てくれてるから。

>木暮さんとか?

>いやいや、男じゃなくって、女の人ね。男が来ても、図体ばかり大きくて、あまり役に立ちそうにないし。


 え?女の人?

>副部長さんとか?

>うん。菊田さんも来てくれるし、麦ちゃんもこの前の土日、昼間からずっと手伝ってくれた。ランチをおごるくらいで、お給料を払うわけでもないのに、ほんと助かるよね。

 えええ~!麦さんも?


 う、なんか不安だ。いや、大丈夫、こんなことで、不安になったりしたら、また、聖君に呆れられちゃう。


 次の週には、朝も母に車で送ってもらわなくても、全然大丈夫になるくらいまで、回復した。

 駅で菜摘と待ち合わせをして、学校に行くようになり、またもや、穂高さんと鉢合わせをするはめになった。


「あ、桃子ちゃん、もう足治ったの?」

 わ、話しかけてきた。菜摘は、私と穂高さんの間に入ってくれて、

「もう治ったから、大丈夫ですよ。心配しなくても」

と代わりに答えてくれた。


「そんなに警戒しないでくれないかな。別にどうこうしようなんて、もう思ってないんだからさ」

「じゃ、どういうつもりで、桃子に話しかけてくるんですか?先週まで、私一人だったときには、話しかけてこなかったじゃないですか?」

「どうしてって、そりゃ…」

 穂高さんは黙り込んだ。


「友達だからかな」

 そう穂高さんはしばらく、黙ったあと、ぽつりと言った。

「友達?」

 菜摘が驚いて、聞き返した。

「うん。駄目かな?友達なら別に、話してもいいと思わない?君もいるでしょ?男の友達」


「いないですよ」

「え?あ、そうか。女子校だもんね。でも俺はいるよ、大学にも」

「じゃ、その人たちと仲良くしたらいいじゃないですか」

 菜摘は同じ方向に歩いていく穂高さんに、ちょっときつめの感じで話をしていた。


「菜摘ちゃんだっけ?君、桃子ちゃんの何?」

「友達です」

「でも、なんか今はまるで、ボデイガードみたいだね」

「そうですよ、桃子のこと守ってるんです。兄貴からも頼まれてるし」


「ふうん、彼氏の代わりをしてるわけだ」

 穂高さんは、意地悪そうにそう言った。

「でも、桃子ちゃんが誰かと仲良くなるのを、君が邪魔したり、間に入るのは、やりすぎだって、俺は思うけどね」

「え?」


 菜摘の顔がひきつった。

「もっと、自由にさせてあげたら?誰と友達になるかは、本人が決めたらいいことだ」

 それを聞き、ますます菜摘の顔が、ひきつった。

「私、男の人って苦手だし、友達にもあまり、なりたくないし」

 私は、穂高さんにそう言った。


「え?苦手なの?でも彼氏いるよね」

「聖君は特別だから。だから、ごめんなさい」

 私は早口でそう言うと、その場をさっさと離れ、別のドアから電車に乗った。


「桃子、よく言った」

 菜摘が小声で、私に言った。

「なんか、頭にきちゃって」

「え?」

「いつ私、穂高さんと友達になったんだろうって思っちゃって。ずいぶんと勝手なこと言われちゃったから、頭にきた」


「そうか、桃子でも頭にくるのか」

「だって、菜摘のこともあんなふうに言うし」

「そうか、桃子は人のことになると、強くなるんだっけね。兄貴がそう言ってたっけ」

「うん」


 学校に行く間も、なんだか釈然としなかった。そりゃ、私が誰と仲良くなろうが、私の勝手だし、私が決めることだ。でも、そういうことはちゃんと、私の意志でもう決めている。

 たとえば、私はなんと言われようとも、いまだに桐太とは仲がいい。会うことは減ったけど、たまにメールでやりとりもしている。


 店に行ったとき、聖君とこんな会話をしたとか、捻挫のこともメールした。聖君が車で来てくれてるってメールしたら、すげえよかったじゃんって、一緒に喜んでくれた。

 桐太とは、友達でずっといると思うし、それは誰が決めるのでもなく、私が決めることだ。


 そして、なんだかんだ言いながらも、菜摘も聖君も、そんな私の気持ちは無視したりしない。ちゃんと尊重してくれる。

 なんだか、ますます腹がたってきた。何も知らないくせに~~って感じだ。


 帰り、なんだか、蘭と菜摘と学食に寄るのが習慣づいてしまい、その日も3人でお茶をしてから帰った。

 お茶を飲みながら、私は朝の出来事を蘭に話し、頭にきたってことも二人に話をした。

「そうだよね。兄貴のことだって勝手に、決めつけて、桃子ちゃんは遊ばれてるとか言っちゃってたしさ」

 菜摘も、口を尖らせそう言った。

「桃子にも、変に親しげに話しかけるんだよね。なんなの、あれ」


「桃子がおとなしいだけの子に見えるんだよ、きっと」

 蘭がそう言った。

「え?」

「自分の思い通りになりそうに見えるんじゃないの」

「なんでそう思うの?」

 菜摘が聞いた。


「彼のお姉さん、大人しくって、つい彼の言うこときいちゃうような、そんな人なんだよね。それで、なんでも言うとおりになるって、前の彼氏に思われてたらしくって、そういうところが嫌になって別れたらしいんだ」

「桃子みたいな感じなの?」

 また菜摘が聞いた。


「うん、なんとなく似てるかな。自分の意見や、言いたいことがなかなか言えなくて、蘭ちゃんが羨ましいって言われたことがあるんだよね」

「ふうん」

「でもさ、そんな自分の思い通りにしたいだけの男なんて、別れて正解だと思わない?」

 蘭はちょっと興奮して、そう言った。


「彼も言ってた。姉貴は別れてよかったって。見てて、彼氏のいいように扱われ、振り回されてたから、さっさと別れたらいいのにって思ってたし、助言もしてたみたい」

「蘭の彼は違うんだ」

「そりゃそうだよ。もしそんな男なら、私と付き合ってないって」

 蘭がそう言って、笑った。


「兄貴は、桃子のことそんなふうには、思ってないよねえ」

「うん」

 私はうなづいた。

「それに聖君はいつも、私が何を思ってるか、本音を聞いてくれるから」

「兄貴が?」


「うん。本音言うまで、しつこく聞いてくるくらいだから」

「へ~。そうなんだ」

 蘭がちょっと驚いていた。

「聖君、何か押し付けたりしたこともないし」

「なんだか、そのままの桃子が好きって、そんな感じだもんね」

 菜摘に言われた。

「うん」

 私はうなづいた。


「あ」

「え?」

 私が、思い出して、つい声に出したら、二人とも、聞き返してきた。

「でも、私が高校卒業したら、こうしてねって、この前、言われたんだっけ」


「何?何をしてねって言ったの?兄貴」

「れいんどろっぷすに来てね、うちに来てねって」

「え?一緒に住むってこと?」

「うん、もう俺、決めたって断言までしてた」


「ひゃ~~~。プロポーズ?」

 蘭が驚いた。

「違う!結婚してってわけじゃなくって、ただ」

「うん」

「あれ?」


「え?」

 私が首をかしげたら、二人がまた聞き返してきた。

「あれれ?まさか結婚して、一緒に住もうって言ったんじゃないとは思うんだけど」

 私がそんなことを言うと、二人して、目を丸くして驚いた。

「何それ!もしかしたら、兄貴、プロポーズのつもりだったらどうするのよ、桃子」

「え?」

「なんて答えたの?そのとき」

 

「私も、一緒にいたいって」

「うわ!うわわわ!」

 蘭が大きな口をあけて、驚いたあとに、

「それはもう、プロポーズだって」

と、目を輝かせた。


「……」

 私は目が点になっていた。それからそのときの会話を、必死に思い出そうとしたけど、頭は真っ白になり、働こうとしない。

「ま、兄貴は前から桃子と結婚する気満々だったし、今さらプロポーズしたってわけでもないかもしれないからさ」

 菜摘はそう言うと、私の肩をぽんぽんとたたいた。


 私が真っ白になって、放心状態なのを察して、そう言ってくれたようだ。蘭だけは、

「ひゃ~~、すごい。ひゃ~~、もう結婚の話、しちゃうんだ。わ~~~」

と一人で、さわいでいた。


 蘭と菜摘と、一緒に駅まで帰った。そして別れた後、一人で家まで歩いていると、後ろから肩をぽんとたたかれた。

 まさか、また穂高さん?と思いながら、振り向くと、桐太だった。


「あれ?どうしたの~~?」

「今日は店の定休日。で、家に帰ったんだけど、ひさびさ桃子に会いたくなってさ」

とにっこりと笑い、横に並び歩き出した。

「制服で、寄れないんだよね?」

「うん」


「じゃ、着替えてからどこか行くか、桃子の家に寄らせてもらうか」

「うち、いいよ。お母さんいるだろうけど」

「お母さん、俺のこと嫌がる?」

「ううん、そんなことないよ、きっと」

 そう言うと、桐太はほっとした。


「足、もう大丈夫なのか?」

「うん、このとおり。まだ走ったり、運動は無理だけどね」

「聖、毎日車で迎えに行ってたんだよな、えらいよな」

「うん」


「店も忙しかっただろうにさ、あ、そういえば、何?あの女」

「え?誰?」

「麦とか、粟とかいう名前の」

「麦さん?」

「あ、麦であってた?」


「お店に手伝いに来てくれてるって、聖君言ってたけど、何かあった?」

「そこの公園のベンチに座んない?やっぱ、お母さんがいるところで、話ずらいや」

「え?うん」

 公園のベンチに二人で座った。今にも雨が降り出しそうだったけど、どうにか持ちこたえそうな天気だ。


「土曜の夜、店閉めてから急いで、ご飯食いに行ったんだよ」

「れいんどろっぷすに?」

「うん。閉まるちょっと前でさ、お客もまばらだったわけ」

「うん」

「それで、聖が俺のところに来て、注文聞いたりして、客も減ったし、横でご飯一緒に食べちゃえばって、お母さんが聖の分と、あの女の分も、カウンターに運んできて」

「うん」


「俺が聖に話しかけてるのに、横からやたらと首はつっこんでくるし、話を一気に変えるしさ」

「麦さんが?」

「聖も、ちょっと困ってた。でも、そういうのも気がついてなかったみたい」

「そうなんだ」


「だけど、店を手伝いに来てくれてるからか、聖もさ、いつもみたいな、つっけんどんな言い方もしないし、そっけなくもしないしさ、見ててなんだか、腹がたってきたっていうか」

「誰に?聖君に?」

「両方だよ。あの女もそれをいいことに、聖にやたらとかまいに来てて、最後には駅まで送って~~なんて、甘えててさ」


 え?そうなの?甘える女の子、嫌いなんじゃなかったっけ?

「あ~~~。うざかった。あの女」

 あの女呼ばわりなんだな、桐太ってば。

「桃子も、腹が立たない?」

「うん、ちょっとね」


「朱実は知ってる?」

「うん、お店でバイトしてる人」

「あいつはさっぱりしてて、俺は気に入ってるんだ」

「へえ」

「聖には彼女がいるって知って、すっきりぱっきり、あきらめたらしいしさ。でもれいんどろっぷすにいるのは、店が気に入ってるからだって言ってたし、それは本当のことみたいだし」


「桐太君が気に入るの、めずらしくない?」

「俺?そうかな。ああいうさっぱりした男らしい女は、俺好きだよ。あ、桃子もだけど」

「私が?男らしい?」

「そりゃ、そうだろ、じゃなきゃ、俺のことグーで殴らないだろ?」

「う…」

 それはもう、忘れたい過去だったりするんだけど。


「いつもはいじいじ暗いよ、私」

「そう?それ、自分で思ってるほどじゃないと思うよ。桃子、いさぎよいところあるじゃん、けっこう」

「私が?」

 どこがだ?


「そのへんは、聖も気づいてるだろ?ただ、たまに自信をなくすところがあるからさ、その辺だよな」

「私のこと?」

「そう」

「うん、だよね。それは自分でも自覚してる」

「自覚してるんだ」


「うん。もっと自信を持たないとって、思ってはいるんだけど」

「ま、いっか。あんまり自分に自信持ちすぎて、勘違いする女より、ましだよ」

「それ、誰?」

「だから、麦とか粟とかいう女」

「麦さんだよ」

「どっちでもいいよ、米でも、ひえでもいいや」

「……」


「自信があるのは羨ましいよ」

「あの女のことが?」

「うん」

「でもさ、聖が選んだのは、桃子だろ?」

「え?うん」


「じゃ、いいんだよ、あんな穀物、羨ましがらなくても」

「穀物?」

「麦って穀物じゃなかったっけ?あ、だったら、桃子は果物か」

「……」

 なんだ、そりゃあ、だったら桐太は、って、まあいいか。


「朱実さんみたいに、彼女がいてすっぱりあきらめる人と、麦さんみたいに、まったく気にせず、聖君のこと好きでいる人との差って何かな?」

「しつこいかどうかだろ?」

「もし私だったらね」

「うん」


「しつこそう。でも、そばにも寄れず、遠くからうじうじと見てると思う」

「片思いだったらだろ?そうじゃないんだから、どうどうとしていたら?」

「う、そうか」

「ま、そういうところが、聖に言わせると、可愛いところなのかもしれないけどさ」

「え?」

「聖と桃子の話になると、絶対にのろけになるんだ。それもあいつは自覚してない。のろけ話をしてるって、自覚がないからな」


「そうなの?」

 のろけたりするの?聖君が?

「俺が桃子のことを認めてて、二人の味方だって言ったからかもしれないけどさ。ほんと、平気でのろけるよ、あいつ」

「そうなんだ。もっとシャイで、そんなことあまり人には言わないのかなって思ってた」


「ああ、シャイはシャイ。のろけてることに気がつくと、めちゃ照れてる。面白いよな、あれ」

「へ~~、そうなんだ」

「ああ、そうそう。言ったあとに頭を掻くしぐさ、あれ、照れてるんだろ?」

「そう、そうなの」

「よく、桃子の話を盛り上がってしたあとに、やってるよ。たまに、下向いて、にやけてるときもある」


「そう、よくにやけてて。え?桐太君の前でも、にやけるの?」

「下向いてね。隠してるつもりらしいけど、丸わかりだね」

「そうなんだ~~」

 なんだか、笑ってしまった。


「あ、やべ、雨じゃない?今、ぽつりときたよ」

「傘、持ってるの?」

「持ってない、桃子は?」

「折りたたみ、あるけど」

「じゃ、それさして帰りなね。俺、このまま駅まで走っていくから」


「うちに来ないの?傘貸すよ」

「いいや。こっからなら、駅の方が近いし。引き止めて悪かったな」

「ううん、話せてよかったよ」

「じゃ、足が完全に治ったら、俺のバイト先にも顔出しに来いよな」

「うん、ありがとう、行くね」


「じゃあな!あんな穀物に負けるなよ」

「え?うん」

 桐太はそう言ってから、走って駅のほうに行ってしまった。

 負けるなよって言われても、どうしていいんだか…。


 私は傘をさし、歩き出した。

 麦さんは、やっぱりまだ、聖君が好きなんだよね。だから、接近してるんだよね。それも自信があるんだよね。


 自信、どうしたら持てるかな。私は聖君の彼女なんです!って、思いっきり大きな声で叫べるくらいになりたいな。

 とぼとぼと歩きながら、そんなことを考えていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ