第8話:謎の影の正体。忍び寄る危機と決意の瞬間
夜の帳が王宮を包み込む頃、私は一人、長い廊下を歩いていた。
月明かりが大理石の床に淡く反射し、静寂を一層際立たせる。
いつもならリリアの目が気になり、自由に歩き回ることなどできなかった。
しかし、今日は少しの間だけでも、束の間の安らぎを求めたかった。
そんな思いが、私の足をこの場所へと向かわせたのだ。
しかし、その夜は静けさとは裏腹に、何かが違っていた。
背後から漂う不穏な気配に、私は思わず立ち止まる。
心臓が激しく鼓動し、冷たい汗が背中を伝う。
振り返ると、そこには見知らぬ男の姿があった。
彼は闇に溶け込むように静かに立ち、しかしどこか哀しげな目を私に向けていた。
「お嬢様……」
彼の声は低く、しかしどこか懐かしさを帯びていた。
その響きに、私は不意に過去の記憶の欠片を思い出しそうになる。
「あなたは……?」
恐怖と戸惑いが入り混じる声で問いかけると、男はゆっくりと一歩、また一歩と近づいてきた。
「レオン様の影武者、クロードだ」
その言葉は私の胸に重く落ちた。
「影武者? どうして私を狙うの?」
私は恐怖で声が震えた。
クロードの顔に、一瞬の険しさが走った。
「これは王宮の闇だ。権力争いの一環として、あなたの影響力を排除するよう命じられた」
彼の言葉は冷たく、容赦なかった。
「あなたはその命令に従っているの?」
問いかける私に、クロードは短く答えた。
「俺は忠誠のために動いている。しかし、この状況に疑問を感じ始めている」
彼の瞳に、葛藤の色が見えた。
私は胸の中で小さく息をついた。
「逃げるわけにはいかない」
私の決意が静かに燃え上がる。
リリア、そしてレオンのために。
私自身のために。
闇の中で交わされた言葉は、まるで嵐の前の静けさのようだった。
それからの日々は、緊張の連続だった。
リリアはいつもよりさらに私を守ろうとし、私はその想いに応えながらも、心の奥底で何かが壊れていくのを感じていた。
王宮の壁の向こうで、静かに蠢く陰謀。
それに立ち向かうため、私は強くならなければならなかった。