第4話:ヒロインの部屋に呼ばれて、知らなかった“監視”と“秘密の日記”を見てしまった
リリアの部屋――
そう呼ばれる場所に足を踏み入れたのは、これで三度目になる。
「ここは、わたしの“聖域”なんです。アリシア様がいつでも安心して来られる場所」
淡い紫色の壁紙に囲まれた空間は、繊細なレースのカーテンが揺れ、まるで童話の中の少女の部屋のようだった。
けれど、その見た目とは裏腹に、空気はどこか張り詰めている。
「さあ、こちらへどうぞ」
リリアは小さな机の前にアリシアを誘い込んだ。
その机の上には、厚い革表紙の日記が置かれている。
「これ、何ですか?」
「アリシア様のことばかりを書いている、わたしの日記です」
リリアの笑顔はいつも通り優しいけれど、その瞳の奥には底知れぬ情熱が燃えていた。
「読んでみますか?」
戸惑いながらもページをめくる。
そこには、アリシアの日常の些細な動作、言葉、表情が細かく記されていた。
「……これ、毎日ですか?」
「はい。アリシア様の一挙一動を見逃したくありませんから」
その言葉に、背筋がぞくりとした。
「それに……」
リリアが立ち上がり、部屋の隅にある大きな鏡の前へと歩み寄る。
「ここに、小さな穴が開いています。そこからアリシア様の動きを見ています」
「……監視?」
問い返す私に、リリアは首をかしげながらも満面の笑みを返す。
「そうです。アリシア様が安全かどうか、誰かに危害が加えられたりしないか、わたしが守るためです」
この言葉をどう受け止めればいいのか分からなかった。
しかし、その瞬間、扉の外からかすかな声が聞こえた。
「アリシア様、レオン様が……」
慌てて振り返ると、侍女のエリスが顔を覗かせた。
「王子様が、外でお待ちです。お呼びですよ」
リリアは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに柔らかな笑みを取り戻す。
「行ってらっしゃい、アリシア様。お帰りはわたしが必ずお迎えしますから」
部屋を出る足が重かった。
“守る”という言葉の裏に、強い独占欲と疑念が渦巻いているのを、肌で感じたからだ。
私は、この世界のシナリオが完全に狂っていることを、改めて思い知らされた。