第1話:悪役令嬢に転生したら、シナリオがおかしいわ
目を覚ますと、そこは“知っているけれど初めて見る”部屋だった。
高級なレースのカーテン、白く磨かれた大理石の床、窓の外にはバラ園が広がる……。
(……って、え?)
見覚えがある。画面越しに見ていたこの光景。
これは乙女ゲーム《ロゼ・ド・リュミエール》の舞台、王立ミゼリア学園――。
そして、鏡に映った金髪巻き髪の少女。紫のドレス。鋭く吊り上がった目元。
「……私、悪役令嬢アリシア・ベルシュタインに転生してる……!?」
自分が何者かわかった瞬間、背筋が凍った。
このゲーム、アリシアはヒロインをいじめ抜いて、最後には断罪イベントで晒し者にされる悲惨な悪役だ。
冤罪とか更生とか、そういう展開は一切ない。見せしめとして断罪されるタイプの、本当に救いのない“悪役令嬢”だった。
(やばいやばいやばい!!)
私は即座に決意した。
断罪イベントなんて絶対回避する。ヒロインには一切関わらない。むしろ友達になって、いい人ポジションを確保して生き延びてみせる!
──と、決めたはずだったのだが。
「アリシア様、今日もご一緒にお茶会をしていただけませんか?」
そう言ってきたのは、ヒロイン――リリア・ハートフィリア本人だった。
透き通るような銀髪。あどけない笑顔。ゲーム内では天使と称される、癒し系ヒロイン。
だが、その瞳の奥に、言い知れぬ“執着”の色が見えたのは、私の気のせいだろうか?
「え、あ……もちろん。いいけれど……」
笑顔で答えたその日から、毎日、リリアは私のそばに現れるようになった。
廊下で、教室で、食堂で。
なぜか、彼女は私の“予定”をすべて把握している。
そして、ある日。男爵令嬢と少し雑談をしていた私に、リリアはこう言った。
「アリシア様、最近あの令嬢とよく話されていますよね? ……ご趣味が変わられたんですか?」
笑顔で。声も柔らかく。でも、手に持った紅茶のカップは、ギリ……と音を立てて割れていた。
(……えっ?)
どうやら、これはただの“転生もの”ではなさそうだ。