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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

織姫と彦星の気分

作者: 結人

日付が変わって、今日は七夕。


ベランダに出ると、夜風が肌を撫でる。街の灯りが遠くに滲んで、空にはぽつぽつと星が瞬いていた。


「王子様、今どこで何をしているんだろう…」


ぽつりと呟いたその瞬間、流れ星がひとつ、夜空を横切った。


「また王子様と会えますように」


私は、願いを込めて三回つぶやいた。


この流れ星を見ているのが、私とあなただけだったらいいのに。そんな恥ずかしいことを考えてしまい、顔がたこさんみたいに赤くなるのを感じた。私は部屋の中に戻り、布団に飛び込んだ。


中学生の頃、初めて彼を見た瞬間から、私の世界は変わった。彼はまるで絵本の中から抜け出してきた王子様だった。優しくて、頭が良くて、誰にでも平等に接する。でも、私には少しだけ特別に見えた気がした。


それから私は、彼に似合う女の子になるために努力した。髪を染めて、メイクを覚えて、服のセンスも磨いた。SNSで彼の好みを探って、投稿もそれに合わせた。


「きっと、あの頃の私より何倍も可愛くなってるはず」


鏡の中の自分に微笑みかける。


しかも、今日は王子様に会える気がするの。彼のことを考えながら眠りにつく。彼の腕に包まれたような幸せな夜だった。





七夕の朝、私は早く目が覚めた。小学生の遠足の時と同じようなワクワクを感じていることに気づいた。


鏡の前で髪を巻き、メイクを丁寧に仕上げる。服は昨日の夜に何度も選び直した、お気に入りのワンピース。彼が好きそうな、淡いブルーの花柄。


「今日は、きっと運命の日になる」


スマホを手に取り、彼の友達のSNSをチェックすると昨日、彼と遊びに行っていた写真が投稿されていた。私に連絡してくれたっていいのに、、、ちょっと嫉妬してしまった。そして私の町では毎年七夕の日には、七夕祭りが開かれ、彼は決まって駅前のカフェに立ち寄る。


私はそのカフェの近くで、偶然を装って待つことにした。


昼過ぎ、カフェの扉が開く。


彼だった。


変わらない笑顔。少し大人びた雰囲気。でも、私にはすぐにわかった。あの頃と同じ、私の王子様。


「…久しぶり」


声をかけると、彼は一瞬、動きを止めた。


「……え?」


彼の目が、私をじっと見つめる。まるで、何かを確かめるように。


「ああ……えっと……」


彼は目を逸らし、少し後ずさった。きっと私の変わり様に驚いているんだわ。


「中学の時、同じクラスだった…覚えてない?」


「……ああ、うん。覚えてるよ。たしか……」


彼の声は曖昧だった。言葉が出ないくらい可愛くなれてることに私は嬉しくなった。


「偶然だね。今日、ここに来るって知らなかったんだけど…」


「……そうなんだ」


彼は周囲を見回し、スマホを取り出して時間を確認する。


「ごめん、ちょっと急いでて」


「少しだけでも話せたら嬉しいなって…」


「いや、ほんとに急いでるから。じゃあ」


彼は私の言葉を遮るようにして、足早にカフェを出ていった。


その背中は、まるで何かから逃げるようだった。


私はその場に立ち尽くした。


偶然じゃない。全部、計画していたのに。


「どうして…?」


スマホを握りしめる。彼の後ろ姿が遠ざかっていく。


「逃げないでよ…今日は七夕なのに…」





夜が更けて、街は静まり返っていた。


私は、彼の家の前に立っていた。


何度も通った道。何度も見た玄関。何度も、彼が帰ってくるのを待った場所。


今日は違う。今日は、願いが叶う日。


ポケットの中で、スマホが震える。画面には、彼の友人の投稿。彼が家に戻ったことを知らせる写真。背景に見覚えのある玄関が写っていた。


「やっぱり、運命だよね」


私は、そっと門を開けた。


玄関の灯りがついている。彼がいる。確かに、そこに。


ドアの前で、深呼吸をする。手には、七夕の短冊。そこには、震える文字でこう書かれていた。


「王子様と、ずっと一緒にいられますように」


チャイムを押す指が、少しだけ震えた。


しばらくして、ドアが開いた。


彼がいた。


その瞬間、彼の顔が強張った。


「……なんで、ここに……?」


「会いたかったの。今日、七夕だから。願いが叶う日だから」


「やめてくれ。もう、やめてくれよ」


彼の声は、震えていた。目は私を見ていない。後ずさりしながら、スマホを握りしめていた。


「どうして逃げるの?私、ずっと努力してきたのに。あなたのために、全部変えたのに」


「お願いだから、帰ってくれ。警察呼ぶよ」


その言葉に、胸がざわついた。


「警察?どうして?私、ただ会いに来ただけなのに。好きな人に会いに来るのって、普通でしょ?」


彼は玄関の奥へと逃げようとした。


私は、短冊を握りしめたまま、彼の名前を呼んだ。


「ねえ、お願い。逃げないで。今日は七夕だよ。願いが叶う日だよ」


彼が振り返ったその瞬間、私の手から短冊が落ちた。


そして、ポケットの中にあった冷たいものを取り出し、力いっぱい彼に背中に向けて突き刺した。


彼は一瞬止まり、腹部からは彼の美しい液体が流れた。床につくのももったいない。


「やっと結ばれたね、私だけの王子様♡」

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