第8話
神戸空港からタクシーで自宅のタワマンに戻ってくると、もうすぐ夜八時だった。
今井俊美はエレベーターで三十二階に上る。
玄関ドアを開け、寝室に急ぐ。
ベッドにハンドバッグを投げ捨て、着替えをすませるためクローゼットを開ける。
ふと背後に人の気配を感じる。
振り向くと......全裸の男が立っている。
俊美の悲鳴は男が口をふさいだので半分かき消された。
男は俊美を抱え上げ、ベッドに投げ捨てる。
俊美は男の顔を覚えていた。
午前中、東京の結婚相談所で面会した男――富島聡だ。
男は仰向けに倒れた俊美の上に覆いかぶさる。
夢ともうつつともつかない朦朧とした意識の中で、激しいピストン運動のリズムが悪魔的な快楽をともないながら体全身を苛んでいた。
富島聡は徐々に意識が戻ってきた。
仰向けに倒れた自分の上に女がまたがっている。
女も自分も下半身裸で、体の一部を接合したまま猛烈に腰を動かしている。
やがて性的快楽の絶頂に達すると、女の体は徐々に透明になり、夜のとばりに溶け込んでいく。
いまが夜中であること、ここが『ゴールデンドーン』の外にある路地裏であること、自分が地面に寝かされていることを、富島は少しずつ理解した。
「富島さん、だいじょうぶ」
三上由香里が近づいてくる。
富島は上半身を起こし、伸びをする。
「一体、ぼくはいままでなにをしてたんだ」
「犯されてたのよ。あたしのドッペルゲンガーに」
「なんだって?」
「富島さん、あたしのドッペルゲンガーで童貞を捨てたの」
「……」
「そんなことより、早くパンツ履いてよ。あんたいまフルチンよ」
富島は起き上がり、道に落ちているパンツとスボンを履いた。
トミシマは獣のオスと化していた。
ベッドの上で激しく交尾する獣のオスとメス。
トミシマの下には半裸の俊美があえいでいる。
厚化粧には涙の後が見える。
最初、俊美は激しく抵抗した。
だが力づくでトミシマは俊美を思い通りにした。
頬を数回張ると俊美は泣き出したがあまり抵抗しなくなっていった。
トミシマは服をはぎとるように俊美を裸にしていった。
屹立した男の肉棒で女の体を貫いたあたりから、俊美の悲鳴や罵詈雑言は、いつしかメスの享楽的なあえぎに変わっていた。
俊美はすでに二回は果てている。
トミシマは激しく腰を動かす。
射精の解放感が全身を包むと、自分の体が透明になっていくのを感じる。
俊美が上半身を起こす。
「あなた、どうしたの」
俊美が言う。
「あなた、消えちゃうの」
やがてトミシマの意識は曖昧になり、自分が消滅していく感覚だけが最後に残る......。
(つづく)