第7話
外は肌寒かった。昼間でも薄暗い路地裏は電灯が少なく、この時間になるとかなり暗い。
人気はまったくなかった。
正志の肩に担がれた三上由香里は体を必死で動かして抵抗し、なんとか地面に着地した。
「なんてことするの」
由香里は正志の頬を張る。
正志は悪びれもなくうすら笑っている。
「彼女から離れろ」
『ゴールデンドーン』のドアから走り出てきた富島聡は正志の肩をつかむ。
正志は振り向きざまに富島の顔面を殴る。
富島は地面に倒れる。
「やめて」
由香里が叫ぶ。
背後にいた武志が富島の胸ぐらをつかんで起こし、みぞおちを殴ってから投げ飛ばす。
富島はゴミ袋を集めた電信柱のそばに仰向けに倒れ、動かなくなる。
「あの人、堅気よ。死んじゃうでしょ」
正志が由香里の頬を張る。
「なにするのよ」
だが正志は答えない。
由香里はふと正志の背後に人影を見いだす。女性のようだった。
薄暗い電灯に照らされて女性の顔があらわになる。
由香里は驚愕した。自分そっくりの顔した女が正志の後ろにいるのだ。
もしかして、これって、あたしのドッペルゲンガーかしら。
バーで『ドッペルマディーニ』をいっぱい飲んだし......。
ユカリは殺気に満ちていた。
目の前にいる女――由香里が自分の本体で自分が彼女の分身であることをユカリは動物的本能で知っていた。
自分の本体を守らなくてはならない。
そしてまた自分と由香里の間にいる武志が由香里を傷つけようとしていることも直感的に知っていた。
ユカリは正志の肩を軽くたたく。
正志は振り向き、ユカリを見て仰天した様子だ。
正志は首を左右に振り、由香里とユカリを見くらべる。
ユカリは右手で正志の胸ぐらをつかみ、正志の全身を軽々と持ち上げる。
正志は足をばたばたさせながら、わめきちらす。
ユカリは地面に正志を投げ捨てる。
「おまえ化け物か」
振り向くと武志がポケットから折りたたみナイフを出し、ブレードを開く。
武志がナイフで襲いかかると、ユカリは素早く武志の手首をつかみ、武志を投げ飛ばす。
ユカリは地面に倒れた武志に見せつけるようにナイフのブレードを粘土細工のように両手でつぶして捨てる。
正志と武志がほぼ同時に立ち上がる。
ユカリが二人をにらみつけると、二人ともおびえて路地裏を走り去る。
「あなた、だれなの」
由香里がユカリに言う。
ユカリはなにも答えず、電信柱の近くで気を失っている富島に近づく。
この男は敵ではない。獲物だ。ユカリは動物的直感でそう思う。
ユカリは仰向きに倒れた富島の両足を引き、道路の中央まで移動させる。
屈みこみ、富島のベルトをはずし、スボンを膝まで下げる。
「なにするつもり?」
由香里が側に近づく。
ユカリは無言のまま、富島のパンツを膝まで下げる。
由香里は「きゃっ」と叫んで両手で目を覆う。
(つづく)